運命分岐点〈白〉
I
終着点は鼓舞した。
意味は分からない。
ただ鼓舞した。
ライバルの出現的な何かではなく
単なる鼓舞だ。
そして終着点は目的を忘れた。
殆ど風前の灯し火状態の記憶がキレイさっぱり無くなった。
そんなこんなで彼は鼻歌を奏で出した。
先程出会ったあの不気味な少女の事も・・・
それは疑問に思ったらしく忘れてはいなかった。
・・・うん。気分がいいので何かしよう。
終着点は笑顔とは言えないとんでもない顔で路地裏を歩いた。
途中、クズ(ゴミ)を蹴り飛ばしたような気もしたが、彼は至って上機嫌だった。
にしても
彼は久しぶりの人ごみの中で発した言葉だった。
「——————めんどくせーな・・・全員肉塊にすれば・・・なんてな・・・。」
笑えない冗談を吐きながら再び路地裏へと戻った。
しかし彼のテンションは収まらなかった。
が、
このテンションもいつかおさらばするものである。
それは不愉快な音で訪れた。
悲鳴。
水の滴る音。
遠吠え。
更に聞こえるのは咀嚼音。
彼は苛立った。
今更ながらこの男、沸点がとてつもなく低いのだ。
また鈍感である。
なので恐怖を感じない。
そして好奇心の塊だ。
勿論のごとく走った。
そして着いた。
そこには、毛むくじゃらで、獣のような奴と、
先程絶命したと思われる白いカッターシャツの奴がいた。
・・・気持ち悪い。
彼はそう発した。
すると獣がこちらを振り向く。
————威嚇か何かだろう。
歯をガチガチと鳴らしながらこちらを見続けている。
—————俺を見るな。
獣は立ち上がり、ノソノソと近づいてきた。
—————目障りなんだよ。
獣は『フン!』と鼻息を荒げ、身を構えた。
—————俺に・・・。
コンクリートの道路が振動し、同時に獣が突っ込んできた。
「・・・・・寄ってくんじゃねーよ!」
終着点の怒号と共に、周りは氷ついた。
これは物理的にである。
つまり
このジメジメとした日に、
ツンドラレベル・・・いや、絶対零度ともいえる程に気温が、この一部だけ下がった。
そして・・・・
氷はバキバキと音を立てながら宙に浮いていく。
「——————目障りなんだ。消えろ。」
終着点が腕を振ると、獣の腹に穴が開いた。
獣は状況がつかめず、ただ茫然としていた。
が、尋常ならざる痛みに気づき、声にならない声で悲鳴を響かせた。
「・・・うるさい。」
終着点は近場にあった・・・『血のついたナイフ』で獣の首を切り落とした。
首はごろり・・・と落ち、
残った体も、動く気配を見せず倒れた。
「——————。」
終着点はふと、転がっている白のカッターシャツを着ている死体の近くにより、持ち物を物色した。
・・・学生証らしきものが見つかった。
血で汚れているが、まぁ読めるには読めた。
「く・・・うぜん・・・・ネクロ?変な名前・・・。」
学生証についた血が、滴り落ち、終着点はそれをキャッチし、舐めた。
「・・・な———!」
花の香。だが造られた花の香。
その感覚が鼻を通った。
すると突然目の前に、あの黒コートの女性が見えた。
しかしそれは一瞬だけで、
そして振り返るとあの死体はどこかに消えてしまっていた。
そして・・・あの獣も人の姿になっていた。
数えると死体の数は2。
終着点は死体を並べ、捨てられていたライターで、火をつけ、燃やした。
そして彼は立ち去ろうとした。
「ちょっと君。少しいいかな?」
突然声を掛けられ、振り向くとそこには青いカッターシャツを着た。有名な方だった。
簡単な話。
警察。
つまり・・・俗に言う連行だ。
III
そんな訳で色々と質問されるうちに署までご同行。
何て言う事態に発展した。
ここで疑問になるのは何故、終着点は捕まったのか。
反抗しなかったのか。
その答えにはYESと答えよう。
正直に言えば彼は沸点が低く
更に『飽き』も早い。
故に抵抗せず、こうして捕まっているのだ。
で、
結局身を証明するものを持っていなかった俺は
質問攻めにあった。
そもそも証明する身もない俺は、どうすることも出来なかった。
———名前は?
———年は?
———家族は?
何も答えられない。
というか
だんだん苛立ってきた。
何で俺は・・・
そう考える内にどうやら相手が根負けしたのか
「仕方ない。『そっちの方はなんとかするから』君は少しの間、ここで生活しなさい。」
そう言われ、俺は部屋を貸された。
貸されたというか入れられたの方が正しい。
独房とは言わないが、一種の監禁生活だ。
何日かぐらいだろう・・・
そう思った終着点は、部屋にむやみやたらと置かれている本を手に取った。
そして読書にふけた。
すぐ終わるかと思われた監禁生活は、結局一か月もかかってしまった。
が、
終着点にとっては結構早かった。
彼がこれまで過ごした意味のない17年よりも
充実した一か月となったからだ。
その頃には
『終着点』という名前も忘れていた。
VI
7月14日。
照りつける日差しの中
そこには赤髪で、清潔感の溢れる青年が立っていた。
元終着点である。
今日、彼はようやく外に出られた。
彼はガラリと・・・変わったように見えるが、
実際は普通に新しい服を着ただけだった。
今日、彼はここを出る。
そして、新しい家族の元へと行くのだ。
あの時、あの警察官が言った
『そっちの方は何とかするから』
はこの事だった。
彼は溜息をつき、トボトボと歩いた。
そもそも流れに流れた彼が
安息の地を手に入れたわけだ。
拒むことはなかった。
ただただコンクリートの上を歩く。
人ごみの中、ただ前に進んだ。
「・・・熱いな。」
彼はそう言い大通りを歩いた。
「暑いですか———まぁ確かに・・・貴方にとっては暑いですねぇ。」
唐突に声が聞こえた。
彼は振り返った。
そこには誰もいなかった。
だが、
あの声を聴いた覚えがある。
確か・・・あの。
「・・・グブッ!」
突然、口に違和感を感じ、吐き出す。
出てきたのは
血。
と、同時に体じゅうに痛みが生じ始めた。
血管が浮き出、
今にも全身から血が噴き出しそうな状態だった。
彼は急いで路地裏に隠れた。
「ハァ————。ゴフッ!・・・クソ、何なんだよ・・・。」
彼は体を抑えながら呻いていた。
骨はメシメシと鳴り、
血管は次々と破裂していった。
吐血も絶えず、
ついには目から血があふれ出していた。
自分の血が、周りに広がる。
苦しい・・・!
彼はそれ以外考えられなくなっていた。
遠くなる気。
出そうとしても出せない『力』
彼はひたすらに暴れた。
だが、何も変わらなかった。
ただ死に向かうだけ、
この連鎖は・・・止まらなかった。
立ち上がる力すらも無くなった彼は
動くことも止めた。
諦めた。
生きることを
彼はこうして死んだ。
死ぬはずだった。
ビチャビチャと
足音が聞こえた。
すると、彼の出血は止まった。
彼は倒れたままだった。
そして
運命は消えた。
Ⅴ
彼は目覚めた。
そして起き上がった。
彼は何があったのかを忘れた。
そして
彼は足を進めた。
一心不乱に走りながら。
そこは、古い木造の一軒家だった。
そこには一人の老婆がいた。
「————初めまして。」
彼は丁寧な言葉遣いだった。
「————私の願いを聞いてくれるかい?」
老婆は悲しそうな顔をしてこちらに向かってきた。
そして彼の耳元でボソボソと呟いた。
「————はい。」
彼は返事をした。
老婆は嬉しそうな顔をして彼を抱きしめた。
「—————ありがとうね。ところで・・・名前は?」
「—————俺には・・・名前がありません。」
彼はとても素直になっていた。
老婆は笑い、
そして彼の手を握った。
「—————なら、名前をあげるよ・・・『シラユキ』。白幸というのはどうだい?」
老婆は微笑みながら彼を見つめた。
「—————とても、いい名前です。」
そうかい。
そう言って老婆は彼、白を連れて家に帰った。
老婆の願い。
一つは———
孫として扱ってもいいかということ。
もう一つは————
『消えた孫を探してほしい』
名前は—————
喰喘 黒
そして白幸は要求を呑み、
喰喘 白幸
という名前が付いた。
運命の糸は、逆転した。




