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彼は先月のように怒らなくなった。どうやら次になくなったのは怒りだったようだ。あんなに毎日どす黒かった炎が嘘みたいに消えてしまった。彼の死が一歩近ずいてしまったのが目に見えてわかり辛かった。
診断がついて体には何も問題がなかったので彼は退院した。
「残り三カ月しかないしさ、いつまで喜びが残ってるかわかんないから俺死ぬ気で遊ぶわ、本当に死ぬんだけどね」
「うん、遊ぼ!」
うまく笑顔を作れた自信はなかったけど、私の今できる一番可愛い笑顔を意識して頷いた。
それからは毎日のように遊んだ、遊園地にも動物園にも行った。意味もなくあてもなく歩いたりもした。私にとってもそれはすごい幸せで、彼ももちろん悲しみの水色は常に含んでいたけど、喜びのオレンジと、少しずつ濃くなっていく桃色が途方もなくうれしかった。
遅く後十日ほどで、次の感情がなくなる日彼は急にかしこまって言った。
「俺さ、後どんだけ加藤さんのこと好きでいられるかわかんないけど、大好きです。普通に考えたら最悪なセリフだけどさ、最低でも後、10日は絶対大好き
本当こんなセリフしか言えないのが悲しい、一生好きってレベルで好きなんだけど、俺にはそんな資格ないからさ。」
「私にとっては最高のセリフだよ、ありがとう、嬉しい、私もずっと君のこと好きでした。」
彼はその返事を聞いて少し困ったような顔をした。多分それは残り短い間しか一緒にいられないからだったんだろう。
それから十日間は必死で求めあった。後何度言えるかわかんない好きを何度も言いあい。好きと伝わるように気持ちを込めて何度もふれあった。
初めてしたキスはお互い泣いてしまって、少ししょっぱかった。
私は次に無くなるのが愛以外だったらいいのにと何度も思った、悲しみが次なくなりますように、と。
そして10日がたち次の感情がなくなった。