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8.依頼

8話目です。

よろしくお願いします。

「随分と派手に暴れられましたね」

 現地にやって来たセマと共にコリエスは魔動機どうしが戦った現場へと来ていた。そして、彼女に乞われる形で、スームも来ている。そして何故か、リューズもついて来た。

「テンプさんについていなくていいのかよ」

「テンプさんはボルトたちが車で治療院まで送るって。それに、あんたがノーティアのお姫様に籠絡されないように見張ってないとね」

 意味が解らん、とリューズは放っておくことにして、スームは真剣に話しあっているセマとコリエスに目を移した。

「では、狙いはコリエス様では無いのですね?」

「はい。かの者たちは初めからテンプさん……コープスに所属しておられる方ですが、彼女を狙っていましたわ。私の護衛が割り込んで距離を取ることができましたので、スームさんから頂いた魔道具で二人は退治したのですが……」

「残る一人が、魔動機に乗って襲ってきた、と」

 片腕を無くした作業用魔動機と、一見して無傷に見えるが、両手のマニピュレータが完全に壊れている戦闘用魔動機が並んでいるのを見て、セマは目を細めた。

「結局、犯人の中で生き残ったのは一人、ですか」

「スームさんが尋問しましたが、何も語りません。所持品はいくばくかの金銭のみで、身元を証明する物は見つかりませんでしたわ」

「スームさんが、ですか?」

 不思議に思ったセマが、ふと後ろにいたスームを振り返った。

「あれは俺たちを狙ってきた。だから兵士が来る前に俺が尋問したんだ」

「これは我が国で発生した事件です。そういう事は、我が国の兵士に任せていただきたいのですが?」

 セマが、やや不機嫌を顔に浮かべた。

「セマ様。事件をこの程度の被害で押えたのはスームさん達コープスの活躍に寄るものです」

「事件の流れはわかりました。ですがここはアナトニエ王国が統治する地です。我が国の法に依って物事は進められねばなりません。それに、コープスを庇っている場合ですか?」

 釣り目気味のコリエスに対して、セマはどちらかと言うとたれ目で顔つきは優しい。だが、濃い瑠璃色の目は力強く、見つめられたコリエスは目を逸らした。

「貴女に何かあれば、我が国にとっても問題になるのです。どうか、今後の行動は充分注意していただきたいと思います。そうですね。護衛が一人ではいけません。追加の護衛を呼び寄せるなり雇うなりしてください。そうしていただきませんと、我が国としては危険を理由に帰国を促す事になります」

 それは実質、「面倒見きれないから帰れ」という宣告に等しい。

「う……わかりました」

 コリエスをやり込めたセマは、改めてスームに向き直った。

 だが、先に口を開いたのはスームの方だ。

「機体はノーティア王国の一般的な機体だな」

 何度見てもやっぱり塗装が下手だな、と考えながら機体を見ていたスームは、セマの反応など気にせずに話を続けた。

「ケヴトロでも不正規戦を仕掛けてきた阿呆がいた。そいつらも同じ機体だったな」

 セマの視線が、再びコリエスへと向いた。

 今度は疑いと敵意を含んだ顔だ。

「わ、わたくし共ノーティア王国は、そのような事は致しません! わたくしたちはしっかりと真正面からスームさんを引き抜きに来たのですから、そのような真似をする必要がありません!」

 実に堂々とした宣言である。流通の視察というのが名目だと公言してしまっているのだが、もう慣れたのか、護衛のアルバートは真顔を貫いていた。

「……まあ、今はそれはおいておきます」

「良いのか。アナトニエはずいぶん大らかだな」

「コリエス様は、入国当時から色々とありましたので……」

 ため息を一つ。セマはすぐに話題を切り替えた。

「それで、スームさんの見立てとしてはケヴトロ帝国内で襲撃してきた者たちと同一だ、とおっしゃられるのですね?」

「正確には、同じ所から来た、だな。ケヴトロの時の連中は全員殺した。今の時点で唯一生きているのが、ここで捕まえた奴だけだな」

「ころ……」

 セマは目を見開いていた。

 戦争からは離れている国とはいえ、そして非正規の兵士とはいえ、戦闘員が殺されたことに為政者側にいる王女がこんなに動揺していいのか、とスームは眉を顰めた。

「俺の診たてだと、ケヴトロからの工作員だな。狙いは俺たちが持っている魔動機データか、俺自身ってところか」

「狙われている割には、随分と落ち着いておられますね」

「今まで戦場で遊び続けて、慌てて良い結果になった事が無い」

「遊び……?」

 聞き間違いかと思ったが、セマの反応を無視してスームは続けた。

「これは俺たちの問題だ。だから対応した。それに文句を言われてもな。逆にだな」

 スームはセマに人差し指を突き付けた。

「兵士が来るのが遅い。他国の工作員がこれだけ堂々と暴れているのに、事が終わってからゾロゾロ来やがって。初動が遅い」

「うぅ……」

 突然始まった説教に、セマは反論もできずに黙り込んだ。

 スームが言うのも尤もで、危機管理としては勝手に広がった市場とは言え、国境を越えて商売をしている商人や、国内あちこちの町や村からの買い出し客など、雑多な人々が出入りする環境と言うのは、潜入する側にしてみれば楽な事この上無い。

 大声を出すわけでは無いが、スームは淡々と事実を並べて話す。流石にセマが涙目になりつつあるのをみて、リューズが止めようとしたが、セマが言葉を放つ方が早かった。

「ですから!」

「ん?」

「ですから、我がアナトニエはコープスに依頼をしたいのです!」

 絶叫に近い声を上げて、セマは兵士たちの耳目を集めた。

「……はあ?」


☆★☆


「我が故郷ながら、随分とのんびりした対応をしやがる」

 蚤の市での騒動の翌日、基地にやってきたクロックはスーム達からの説明を聞いて、黄色いモヒカンを揺らして首を振った。

 敵の身柄も含めて、後の始末を全てセマとアナトニエの兵に押し付けたスームは、ボルト達も含めて、警戒しながら交代で休み、一夜を過ごした。テンプも治療院から戻ってきており、警戒には加わらずに自室で休んでいる。

 そして、翌朝になってクロックがやって来たので、とりあえずは情報交換という形になった。

「結局よぉ、あいつ等はなんなんだ?」

 ボルトがバケットサンドを乱暴に食いちぎりながら、誰に向けたわけでもなく質問を口した。

 しばらくテンプが腕を動かせないので、朝食を作ったのが弟ナットだという事が残念だったらしく、やや不機嫌である。

「乗ってたのはノーティアの機体。中身はケヴトロの奴かも。後はだんまり。どう対応するんだ? 寄ってきた奴を片っ端から潰していくにしても、キリが無いぜ」

「んなこたぁ判ってる。だが、仮に襲ってきているのがケヴトロにいる盗賊なり裏の仕事を請け負う連中ならまだしも、もし()()()()()()()()が敵だったらどうする? 国を相手に戦うつもりか?」

 流石に物量の差が明らかな相手に、高々十人の傭兵団が真正面から戦いを挑むのは無謀だ。局所的には勝てても、あっという間に押し返されて簡単に潰されるのがオチだ、とクロックは語った。

 当然、この場にいた全員がそれくらいの事は解る。クロックにしても、確認のために吐いた言葉でしかなかった。

 だが、この場にはそれが理解できなかった者がいた。

「国を相手に魔動機で戦争か……いいかも知れないな」

 独り言のように呟いたスームに、全員の視線が集まる。

 それに気づいたスームは、肩を竦めた。

「まあ、ヒントを抱えた敵が来てから考える、で良いだろ? 狙われるのは慣れてる。どうしても面倒なら、俺が消えれば……」

「それは駄目!」

「却下だな」

 リューズとクロックが同時にスームの案を却下し、他のメンバーも笑顔で頷いている。

「……まったく、図太い仲間たちだな。感謝するべきだろうね」

「おう。たっぷり感謝しておけ。で、だ。その感謝の気持ちを表すために、お前も依頼を確認するための登城に付き合え」

「はあ?」

 突然の命令に、思わずスームが声を上げた。

「そういう偉いさんとの打ち合わせは、クロックの仕事だろう。よしんば補佐がいるにしても、行くならテンプさん……そういう事か」

 テンプは怪我をしているので、記録係としても不適格。ボルトやナット、リューズは受注や団の運用に関してはわからない部分が多い。結局、テンプの代わりができるのはスームしかいない。

「それにな、スーム。今回の件ではお前が中心人物だ。セマ王女との話をするにも、そのコリエスとかいうノーティアの王族と話をするにも、事情を知っているお前が同席した方が何かとスムースだ」

「わかったよ。仕方ない」

「登城と言っても、別に王様に会うわけじゃあ無い。セマ王女は出てくるかもしれんが、基本的には実務の担当者から仕事の話を聞いて、受けるならそのまま打ち合わせってだけだ」

「わかってる。それはわかってるよ」

 立ち上がったスームは、ピッチャーからオレンジジュースをカップへ注ぎ、一気に飲み干した。

「ただ……別に仕事を押し付けたいわけじゃあ無いが、もう一人くらいは連れていくべきだと思う」

「何か気になる事でもあるのか?」

「あの姫さんたち。特にコリエスは危ない。戦争・戦闘と言うものに対して変な憧れのような物を持っているくせに、経験が無くて臆病で、不釣り合いに権力を持っている。おまけに情報に対する防御が甘く、腹芸がまるでできない」

 ノーティア王国の機体が使われた事を理由に首を突っ込んでくる可能性は大いにあり、その場合に余計なトラブルが発生する可能性が高い、とスームは真剣に危惧していた。

「セマにしても……と言うより、アナトニエ王国そのものだな。今回の件を王国がどう受け止めるかによって、俺たちの味方にも敵にもなるだろうな。今のところは雇いたいと言ってきている以上、概ね味方だと考えていいだろうが、城詰めの連中全部がそうだという保証はない」

 唯でさえ、戦争と無縁で来た国家である。王族なり重鎮なりの中に、“危険に成り得るものを徹底的に排除する”やり方で従来の平和路線を保とうと考える者が一定以上いる可能性は高い、とスームは説明した。

「それってどういう意味? コープスが狙われているから、コープスを追い出せば良いって言いだす人がいるって事?」

「かもしれない、ってだけだが。発言力がどの程度かは別として、勢力として存在する可能性は高いな」

「なにそれ。そんな事してたら、国が丸裸じゃない」

 リューズがプリプリと頬を膨らませて文句を言っているのに対し、スームはため息交じりに首を振った。

「俺もその意見には大賛成だが、世の中には狙われる理由が無ければ戦いに巻き込まれない、と大真面目に考える奴もいるって事だ」

「そういう連中は、セマ王女に対応してもらうとしよう。わしも政治に首を突っ込みたいわけじゃねぇしな」

 クロックが話を打ち切り、まずは登城のために城へ申請を出す事になった。呼ばれていると言っても、いつでも来て良いというわけでも無い。セマを始めとした担当官吏との調整が必要になる。

 クロックは各国で請負契約を交わす際に、城や領主の館に何度も出入りしているために慣れているのだが、緊急の依頼でもない限り、短くても三日は待たされるのが普通だった。一国の首都にある王城ともなれば、一週間程調整にかかってもおかしくは無い。


 通常はそうなのだが。朝の打ち合わせ後に城へと向かったクロックは、すぐに帰ってくると、ガレージでいつものように魔動機を弄っていたスームの所へ向かった。

「スーム。午後すぐに城に来いって事だから、そのつもりでな」

「今日かよ」

「わしも驚いたよ。受付で申請の順番を待っていた所にセマ王女が直々に『何時からなら大丈夫ですか』ときた。余程急ぎらしいな」

 苦笑いを浮かべたクロックは、同行予定のリューズにも声をかけてくる、と言ってガレージを出て行った。

 クロックとスーム、そしてリューズが城へ行き、セマ達の依頼について話を聞く事になる。

「さてさて、どんな依頼やら」

 そんな事を呟きながら、スームは愛機であるイーヴィルキャリアの前にたち、不敵な笑みを浮かべていた。

「どう動く事になるにしても、お前に乗って戦える場所ができるなら良いよな。折角だから、依頼に合わせて新しい装備を考えるとしよう」


☆★☆


 アナトニエ王国の王都ルフシ。そのほぼ中央にある王城の一階は、城と言うよりも役場のような雰囲気だった。貴族たちの他にも商人や村落の代表者、職人たちの組合から来た者など、雑多な人物が受付に列を成し、それぞれ用事がある人物と会議室のような場所へ連れだって移動したり、何かの受け渡しを済ませたりしている。

「失礼ですが、傭兵団コープスの方々ではありませんか?」

 警備をしている一人の騎士が、鎧を揺らして近づき、クロックへと声をかけた。

「確かに、わしはコープスの代表クロックです」

「では、列に並ぶ必要はありません。セマ殿下から、すぐに会議室へご案内するように仰せつかっております。こちらへどうぞ」

「しかし、よくわしの事がわかりましたな」

 クロックの質問に、騎士は思わず吹き出して、慌てて口を押えて「失礼しました」と一礼した。

「黄色いモヒカンという髪型の御仁を他に存じませんので……」

「ブフッ……」

 リューズも吹き出し、スームはかろうじて我慢できた。


「一日の内に何度もご足労いただきまして、申し訳ありませんでした」

 騎士が開いた扉から会議室に入るなり、クロックの顔を見たセマが口を開いた。

「いやいや、気にせんでください。むしろ優先して対応いただいて恐縮です」

「そう言っていただけると……それに、コープスの皆さんへの依頼も、早いに越したことはありませんので」

 会議のために長方形の大きなテーブルがあり、二十脚程の椅子がぐるりとテーブルを囲むように置かれている。これと言った調度品が無い部屋で、部屋の奥にある小さなテーブルの上に、いくつかの羊皮紙と筆記具が置かれているのが見える。

 セマに促されて着席したスームは、室内にいるメンバーを見回した。

 三人並んで座ったスーム達の対面には、セマが座り、その両脇に二人ずつの文官と思しき男女が並んで座り、資料の整理や書き取りの準備を行っていた。

 そして、スームの右手側にコリエスが座り、その斜め後ろに騎士アルバートが立っている。コリエスの表情は緊張しており、手元の羊皮紙に小さく何かを書きこんでいた。

「では、改めて。傭兵団コープスの皆様に依頼したい件につきまして、ご説明させていただきます」

 どうやら、進行もセマが行うらしい。

 彼女が話し始めた瞬間から、書記役らしい文官が、羊皮紙にさらさらと書きつけ始めた。議事録を作るのが専門の人物なのだろうか、その筆致は滑らかで、迷うことが無い。

「単刀直入に申しまして、今、我が国はケヴトロ帝国から攻撃を受ける可能性を考えております」

「なんと! そのような事が!」

 セマはずばりと重大ごとを言ったつもりだったが、コープスの面々の反応が意外と薄い事に戸惑った。ちなみに、大げさに反応しているのはコリエスである。

「……意外と冷静ですのね」

「失礼ながら、可能性という意味では今さら言う事でもありませんからな。ケヴトロ帝国の仕事を先日まで請け負っておりましたが、かの国は周辺国へ対する侵略によって今の形を作り上げてきておりますからな。アナトニエ王国だけが、いつまでもその対象外であるというのは、いささか都合が良過ぎる考えでしょうな」

「今さら言っても仕方ない事だけどな。んで、その可能性があると明言するからには、何かしらの兆候を掴んでいるわけだろう? 昨日の事か?」

 スームの言葉遣いに文官たちが顔をしかめて見せたが、当の本人は素知らぬ顔を決めこんだ。

 ちなみに、リューズは特に思うところも無いようで、「そうなんだ」と素直に話を聞いている。

「昨日の件とは別です。と言うのも、変化が見られたのがケヴトロ帝国との国境付近での変化なのです」

 目で合図したセマへ、隣にいた文官が資料と思しき書類を渡すと、一部をクロックへと差し出した。

「国境を警備する兵士たちが記録した物の写しです。ここ二週間ほど、ケヴトロ側に頻繁に戦闘用魔動機の姿が見えています。以前までも時折こういった報告はありましたが、これだけの日数継続して、というのは異例です」

 クロックは、書類に目を通し終わるとスームへと渡す。さっと目を通したスームは、顔を上げずに目だけをセマへと向けた。

「単に国境警備の方法を変更しただけ、かも知れないな。実際、俺たちは襲撃を受けた以外は、手続き上は以前と同様に国境を通過できた」

「その判断をするためには、アナトニエ王国は戦争に関する資料も経験を持った人材も不足しています。それで、コープスの方々に国境の様子を分析していただき、同時に兵士たちへそのノウハウを教えて頂きたいのです」

 そして、とセマは続けようとしたが、コリエスが立ち上がった。

「それはわたくしから直接依頼しますわ!」

「……では、どうぞ」

 セマに促されたコリエスは、コープスの面々……というより、スームに向かって言い放った。

「アナトニエに滞在している間、わたくしの護衛を依頼させていただきますわ!」

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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