Epilogue
※前話と同時投稿です。ご注意ください。
「……おかしな話だぞ。お前たちも変だと思わないか?」
「何回目よ、それ。いい加減諦めなさい」
純白の礼服を着せられ、七五三以来じゃないかと思うほどにぴっちりと髪型を固められたスームは、控えの間にある豪奢な椅子に掛けて呟いた。
同室に居て、着慣れないドレスで窮屈そうにしているリューズは、その言葉に呆れの声をかける。
戦後、あれよあれよという間に処理が進む中、基本的にセマが狙った通りの流れとなった。
ノーティアの新たな王にはコリエスの父であるツァーナベルト公爵が納まり、アナトニエでは王の新たな妃としてテンプが嫁いだ。
ヴォーリア連邦ではハイアッゴが駆けずり回って新たな体制作りに勤しみ、ケヴトロ帝国でも新たな皇帝による体制作りがほぼ完了し、マイコスを筆頭にした兵士たちが中心となって戦後復興に乗り出している。
そんな中、領土は小さいがスームを王とした新たな国が誕生し、各国の援助によって小さいが彼の居城まで建築が始まっている。
ケヴトロ帝国領から割譲された土地に元々あった町を首都として、貧しく衰えていた町もゆっくりと再建が進んでいた。
「もう二週間も魔動機に触って無いんだが……」
「いい加減になさいませ。これから妻を迎えるという時に、覇気が無さすぎますわ」
コリエスはドレスに慣れているので、ゆったりと紅茶を楽しんでいる。
「そうですね。雑務は人に任せるにしても、民衆の前ではもう少し堂々としていただかないと」
コリエスと並んでカップを持ち上げたセマも、スームへ微笑みを向ける。
「セマ……俺は最初から最後まで、お前の手のひらの上で踊らされていたみたいで居心地が悪いんだが」
「それでも、貴方しか出来ない役割でした。観念してください」
セマはアナトニエから始めて離れ、貧しいながらも新しい領土で活き活きと活動を始めていた。帝国時代には無かった新しい菓子店などがオープンしているのだが、これはセマの手によるものらしい。
「あ、あの……みなさん、旦那様にそのような言葉遣いは……」
一人、リューズたちよりも一回り若い少女が、所在なさげに小さくなって座っている。色白で細身の体つきなせいか、余計にか弱く見える少女だった。
「あら、エカテリーナさん。女性こそ強くあらねばいけませんわ。そうある事で、殿方は安心して仕事に集中できるのです」
「そうよ。どうせ一段落したらスームはまた魔動機に没頭して、競技会に向けて碌に帰ってこなくなるんだから。今のうちにしっかり釘を刺しておかないと」
コリエスやリューズが鼻息荒くして“四人目の妻”へと忠告するのを、スームはうんざりしながら聞いていた。
エカテリーナはヴォーリア連邦が寄越した花嫁だ。
喜色満面に紹介して来たハイアッゴを殴っておくべきだった、とスームは後悔している。
「あのな、エカテリーナ。政略結婚なんてナンセンスだと思わないか? セマみたいに腹黒い奴なら別だが、嫌なら嫌と言っていいんだぞ? ちゃんと国に送ってやるから」
失礼ですね、とセマは言葉だけ不満を述べて聞き流した。
「いいえ。スーム様はわたしのいたヴォーリア連邦でも英雄です。様々な魔動機や装備を開発し、アナトニエ王国を一気に歴史の表舞台に押し上げた傑物として……その、わたしもあこがれておりましたし……」
最後はか細い声になっていたが、赤く染まった顔を見ては、スームもなんとも言いようが無かった。無理やり突き返してしまっては、彼女に恥をかかせる事にもなる。
どうしてこうなったのか、と何度目かの脳内反省会をやっていると、ノックをして控室に数人が入ってきた。コープスのメンバーだ。
「よう、スーム。ずいぶんと……ぷぷっ……キマってるじゃねぇか」
「ちょっと兄さん、失礼だよ。スームさん、ご結婚おめでとうございます」
ボルトとナットの兄弟を見て、スームは立ちあがって迎えた。二人とも今はスームの国家の一員として、戦後復興に努力している。
「ありがとう……と言いたいが……」
「なんだ、まだ納得してないのか!」
バシン、と音を立てて背中を叩いたクロックは、シャキッとしろと笑う。
彼も今は家族と共にスームのいる町へと移り住み、家臣団の筆頭として各国から志望して集まった兵たちや文官たちを纏め、指揮する作業に従事していた。
「さあ、王よ。新しい国の門出だぞ? しっかりと国民に顔を見せて、ばっちり挨拶を決めて来い!」
「王様たちも来てたぜ。もちろん、テンプさんもな」
「晴れの舞台、見守っていますからね」
コープスの仲間たちに言われては、スームも頷くしかなかった。
「はぁ……わかった。もう逃げられないしな。できるだけの事はやるさ」
「よし! 気持ちは決まったわね!」
「ちょっとリューズさん。もう少しエレガントに歩けませんの?」
リューズに手を引かれて忙しなく部屋を出るスームを、セマやコリエス、エカテリーナが追う。
彼らが向かうのは、特設で作られた式場だ。そこには多くの来賓が、結婚式の開始を今か今かと待ちわびている。
「クロック、ギアやラチェットはどうした?」
「ラチェットは仕事。ギアは“晴れの舞台は苦手”だそうだ」
「さあ、僕たちも行きましょう。二人の分まで、スームさん達……違った。王様と王妃様の晴れ舞台を見ておかないと」
二人の会話に、ナットが割って入り、二人の背中を押す。
「やれやれ……」
ぐいぐいと押されながら、クロックはため息を吐いた。
「スームと出会って五年。魔動機造りの天才だとは思っていたが、まさか国まで作る事になるとは。人生は何が起きるかわからんものだ。おまけに一度に四人も嫁をもらうとは」
言いながら、クロックは今からもまだまだ忙しい日々が続きそうな予感を覚えていた。
会場の方から大きな拍手の音が聞こえ、人々が英雄を迎える声が響き渡る。
クロックは滲む視界を堪えながら、親友の晴れ舞台へと向かった。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
『メカファン世界の遊び方』はこれにて一旦お終いです。
何かの機会が有れば、スーム達の活躍をまた書きたいと思います。
1月からは、また別のお話を投稿する予定としております。
活動報告や別の掲載作『よみがえる殺戮者』、あるいはツイッターにて、
開始の告知をさせていただきますので、
よろしければそちらもお願いいたします。
約40万文字弱のお話でしたが、たくさんの評価をいただきまして、
誠にありがとうございました。
感想やレビュー等もいただきまして、幸せな執筆活動でございました。
ではまた、他作等今後とも、よろしくお願い申し上げます。