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70.最後のあがき

70話目です。

よろしくお願いします。

「君が来たのか」

「あくまで付き添いさ。こっちがアナトニエ王国軍のトップ。こっちがヴォーリア連邦軍のトップ」

 紹介を受けたカタリオとハイアッゴは、軍人らしくそれぞれの敬礼を見せ、ケヴトロ帝国軍の将としてマイコスも敬礼で応えた。


 数日かけて移動可能な部隊を全て終結させ、帝都を完全に包囲したアナトニエとヴォーリアの軍勢は、あっさりと白旗が上がった事で戦闘とまで至る事は無かった。

 対してケヴトロ帝国側としても、もはや籠城すら難しい状況であり、籠城した所で援軍などどこからも来ない事に気づいていた。

 クーデター同然の形で皇帝が交代した直後、マイコスは全ての軍人に対して武装解除と戦闘の終了を命じた。


「……我がアナトニエ王国より、貴国へと新たな枠組みの提案をお持ちしました」

「そうですか。いずれにせよ我々は敗者です。受け入れざるを得ないでしょう。……私には特に権限がありませんので、皇帝にお会いいただけますか」

「もちろんです」

 頷いたカタリオは、ふと頭に浮かんだ質問を口にする。


「皇帝陛下は強固な主戦論をお持ちであったかと思いますが……よくこのような降伏状態を許されましたね?」

「……皇帝は交代いたしました。お会いいただくのは、新しい皇帝です」

 全員が黙り込んだ。

 唯一、スームだけが口を開く。


「死んだのか」

「……ああ」

 短く答えたマイコスに、それ以上の追及は無かった。

 カタリオにしてもハイアッゴにしても、正式な国の代表であれば問題無い。その交代劇に自国が関わっていない以上、二人とも触れる事は無かった。


 そして、新たに皇帝として担ぎ上げられた青年と形ばかりの会談を行い、ケヴトロ帝国は正式に“降伏”を申し入れた。

 カタリオもハイアッゴも進駐軍の長としてこれを受諾し、帰国後正式な書面を取り交わす準備に入る事を約束した。

 こうして、延々と続いていた戦争は一室に集まった数人による話し合いで終結を見た。


「まだノーティアの方が片付いていないとはいえ……ようやく終わったか」

 控えの部屋として用意された一室で、ハイアッゴは呟いた。

 カタリオやスーム。そして接待役としてマイコスが同室にいる。

「思えば、俺も先代もその前の軍人も、生まれた頃から戦争をやってたわけだ。戦争の無い世界なんて、誰も経験していないんだからな。今後どうなるか……」


 ハイアッゴの言葉に、スームはふと昔を思い出した。戦争の無い世界を、彼だけは日本で経験している。多くの問題もあったし、日本の外には戦争があった。

 だが、目の前で人が死んでいく事も、自らが人を殺すことも、当然ながらこの世界に来てから経験した事だ。

 それが、終わる。


「どうとでもなるさ」

 自分に言い聞かせる意味も込めて、スームはソファに座って背伸びをする。

「また別の問題なり騒乱なりも出てくるだろうが……仕事が有って飯が食えて、それなりに楽しみがあれば、大した問題は起きない」

「随分と楽観的だが……。それは各国が考える事だな」


「そうですねぇ」

 スームの隣でソファに座り、ぼんやりと紅茶を傾けていたカタリオも同意した。だが、次の言葉でハイアッゴは固まる。

「戦争が終わり、軍の縮小が始まったら余った軍人たちをどこにやるか考えないといけませんが、それもこれも王様たちに任せてしまえばいいんですからね」


 ハイアッゴは汗をかき始めた。

 カタリオは完全に王族任せにしてしまうつもりらしく、最悪でも文官が忙しくなるだけだろう、などと笑っているが、ハイアッゴはもっと密接に王や政治に近い位置にいる。

 軍の再編という話になれば、自分が一番多忙になるのは当然だ。だが、単に馘首クビすれば良いというものでも無い。


 曲がりなりにも戦闘訓練を受けた連中が食い詰めれば、行きつく先は野盗の類。下手をすれば公的機関でも押えるのが難しい犯罪組織になる可能性もある。

 だが、戦争が終わればそれだけ景気は悪くなる。青天井の予算で買い込む軍が無くなれば、物が余るし人も余るのだ。

「カタリオ殿……例の競技会の件で、我が国からも人的な協力を提供したいと思うのだが……」


 今のうちにある程度の席を確保しておきたい一心で、ハイアッゴは提案を出したが、カタリオは微笑みと共に首を横に振った。

「申し訳ありませんけれど、それに僕が関わる事は無いと思うんで、直接スームさんかセマ王女に掛け合ってください」

 僕はそういう面倒事は向いてません、とコロコロ笑い、用意された茶菓子に手を伸ばす。


「セマ王女、か……」

 できれば相対したくないと思いながら、ハイアッゴはスームを見た。

「残念だが、俺も無理だな。今回の件で技術的な協力はするが、国同士の話し合いに俺が首を突っ込みすぎるのは不味い」

 ハイアッゴは、一度帰国して準備をしてから、セマと話をする必要があると覚悟を決めた。代役を出す形になるかも知れないが、可能性は薄い。今回の件がハイアッゴ主導で動いているからだ。


 その後、いくつかの書面を取り交わしてからスーム達は一度帝都を後にする。一部の連絡人員とその警護のための戦力を置いておくが、形として占領の状態にはしない。

 敵地占領のノウハウが無いアナトニエと、それだけの人員を割けないヴォーリアが、互いに打ち合わせしてからの結果だ。

 ケヴトロ帝国の新たな皇帝と、その下で軍を押えるために奔走しているマイコスが、一から十まで従順であった事も大きい。


 帝都を出て、アナトニエ軍本体と合流したスームは、そこでボルトに出会った。

「……なんでここにいる?」

「連絡に来たんだよ。手伝え」

 スームは肩をすくめた。

「カタリオから聞いた。ノーティアにちょっかいかけるだけの任務だろう?」


 手伝いの必要なんてないだろう、と首を傾げたスームに、ボルトは苦々しい顔を向けた。

「……この期に及んで、ノーティアは徹底抗戦を選んだ。セマ王女の依頼で王都を包囲して降伏勧告する事になった。戦力が大いに越した事は無い」

 バシッと音を立てて顔を押えたスームはうめき声を洩らした。

「ノーティアは何を考えてるんだ?」


「知るかよ。それより、もう作戦は動いてるからさっさと来い」

 何なら引っ張っていくぞ、と冗談を飛ばすボルトに、スームは笑って答えた。

「やめてくれ。あんな速度で振り回されたら、舌を噛んじまう」


☆★☆


「何を考えているのでしょうか……」

 アナトニエの王都はすっかりと落ち着きを取り戻していた。

 多くの兵士たちが街中を回って状況を確認したり、すでに危機は去ったという情報を伝えていった事が大きい。

 また、戦闘が町の出入り口と王城前に集中した事も有り、民衆への被害が少なかった事も、良い影響になった。


 城内はバタバタとしていたが、そこでコリエスはセマと共に休憩を取っていた。

 セマが事態収拾で走り回っていたので、コリエスが声をかけて休むように伝えたのだ。そこに、ノーティアの抗戦に関する情報が入った。

「進退窮まったのでしょう。敗戦が確定すれば、誰かが責任を取らねばなりません。せめて国内のアナトニエ軍を押し返せば、敗戦とはならないと考えたのではありませんか?」


「馬鹿な事を……」

 侵攻をしているとはいえ、アナトニエ王国側としてはケヴトロ帝国に対するスタンスと同様、占領をするつもりは無い。

 素直にアナトニエからの魔動機競技会への枠組みに関して同意なりの返事さえ出せば戦う必要すらないのだが。


「あまり人の事は言えません」

 カップを置いたセマは、幾分さっぱりした表情に見えた。

「もし、コープスやストラトーといった強力な傭兵団が国内にいなければ、現状を知らぬままに滅亡したのはアナトニエの方だったでしょう。それも、軍事力を背景にした強制労働などで民衆を抑圧する形で、です」


 これから先の事を考えるとまだまだ疲れる事もあるけれど、最悪の未来予想図は避けられた、とセマは微笑む。

「コリエス!」

 バン、と音を立てて乱暴にドアが開くと、そこにはリューズが立っていた。

 城内を走って来たのだろう。肩で息をしている彼女は、大きな胸を揺らしながらゼェゼェと熱い息を吐いた。


「リューズさん。城内を走りまわるのはやめてください」

「それよりも、ノーティアが抵抗してるって本当?」

 セマはどこから聞いたのか、と顔を顰めたが、リューズは気にも留めずにコリエスの前に来た。

「イーヴィルキャリア、貸して?」


 突然の要請に、ぽかんと口を開けていたコリエスだったが、意味が理解できた途端に「断固拒否します!」とそっぽを向いた。

「あれはわたくしの機体ですわ。大体、リューズさんは機体の扱いが乱暴すぎるのです。一連の戦闘で二機も大破させておいて、貸してくれは無いでしょう?」

「大丈夫だってば。多分これが最後の戦闘になるし……」


「駄目です」

 バッサリと却下したのは、セマだった。

「まだ情勢は不安定なのです。残党がいないとも限らない現状、王都から戦力が減るような真似は看過できません」

 自分の戦力では無いと知りつつ、個人的な武勇でも信頼がおけるリューズが王都から離れる事は避けたい、とセマは語る。


「お願いするしかありませんが、どうか出ていくのは思いとどまっていただけませんか?」

「……わかりました」

 王女に頭を下げられてしまっては、リューズもゴリ押しはできなかった。

 勧められてコリエスの隣に座ったリューズの前に、侍女が手際よく用意した紅茶が置かれた。


「リューズさんには、他にご協力いただきたい事があります。コリエスさんにもお願いしたい事です」

「なんですの?」

 周囲を見回し、侍女たちを下がらせたセマは、声を潜めて言った。

「父がどうもテンプさんの事を気に入ったみたいで……協力してもらえませんか?」


 コリエスとリューズは顔を見合わせた。

 戦闘とはまるで関係の無い話題であり、王の態度からそうだろう事は二人とも察してはいる。

 しかし、彼女たちは不思議だった。

「そういう事は、娘としては普通不快に感じるものではありませんか?」

「まさか。小さい子供では無いのです。それに父も長く独り身でしたから、ようやくその気になってくれて嬉しいくらいですよ」


 明るく笑うセマに、リューズ達は「それなら良いけど」と応じる事にした。

「それで、わたくしたちにどうしろと?」

「テンプさんの反応を確認していただいて、問題なさそうなら食事にご招待したいのです。父は無理やり召し上げるような事はしないでしょうから、お話をする機会を作れれば」

 そのくらいなら、とリューズ達は請け負った。


 現在、テンプは王都の治療院へ転院して治療中だが、そろそろ退院しても大丈夫だと言われている。

 がっちりと包帯を巻かれた痛々しい姿で、杖があっても歩行はゆっくりという状態ではあるが。

「上手い具合に、テンプさんが弟でも産んでくださったら、私が王を継がずに済むのです」


 それが狙いか、とリューズ達は納得半分、呆れ半分の表情で再び顔を見合わせた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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