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65.城下の戦闘

65話目です。

よろしくお願いします。

 城外戦闘での戦闘は、一撃を加えた後の王の呼びかけで王都警備部隊が降伏すると言う形で始まった。

 攻撃側である王が率いる正規軍は、初戦で数を減らすどころか、増やす形で次の戦いへと向かう。

 王城の奪還だ。


 対して、騎士が率いる造反軍側は、正面の門に数機のグランドランナーを並べて、完全な籠城戦の構えで敵を迎える。

「無駄弾を撃つな! 敵はこちらに向かってくるしか無いのだ。しっかりと狙い打て!」

 まず集中的にフライングアーモンドを狙い、正規軍側が撃墜されるのを避けるために飛行機体の投入を控えると、今度は射程内に見えた魔動機を一揆ずつ的確に狙撃していく。


 ここまでは、キパルス王子の側近である騎士の判断は正しいと言えた。

 王が率いている事で正規軍の士気は高く、相対的に性能の高い新型機も多い。だが、所詮王は魔動機戦闘の素人だ。人型魔動機を使った旧時代の戦闘は机上で学んだものの、新型が混じる市街戦については全く知識が無い。

 建物の陰に部隊を隠し、逐次攻撃を仕掛けては退く、という動きを繰り返していた。


「狙い通りだ。向こうは攻めあぐねている」

 部下からの戦況連絡を受けて、騎士は頷いた。

「このまま時間を稼げ。いや、砲撃の回数は減らして良い。砲弾も限りがあるからな」

「はっ!」


 籠城戦になり、造反軍から離脱する者は減った。

 歩兵を城の周囲に配置して、敵の歩兵による攻撃を警戒した事による副次的な効果だったが、その分、兵士達の空気は張りつめている。

「このまま、良い知らせが来るのを待てるなら良いのだが……」


 今の時点では、国境からの連絡は無い。

 大軍であればある程、移動に時間がかかるのは自明の理である以上、適度に打って出て、多少なりの戦果を上げなければ士気が戦闘に差し支えるレベルにまで下がるかも知れない。

「……一部の兵を出して、敵の前線部隊をひと叩きするか?」

 自らへの質問。それは籠城作戦が初手から上手く行っている事による自信の表れでもあった。


 それは、油断とも言いかえられる。

「敵はこちらに対して有効な策を持っていないらしいな。人型魔動機を十機。一時的にで良いから前に出せ。新型機で援護しながら突撃。一撃してすぐに戻るように」

 騎士が命じると、兵士たちはすぐに動き出した。


 王城の門から正面は高い塀に囲まれた広場があり、普段は馬車や魔動機で動く車が行きかうロータリーのような役目を果たしている。

 そこは今、王城前にいるグランドランナー以外は何もない。

 その先にある大通りには人が居らず、通り沿いの建物から、時折人型魔動機やグランドランナーが顔を出しては、威嚇するかのように城門に向かって散発的な砲撃を繰り返していた。


 遠慮がちな攻撃は城門前のグランドランナーに集中し、建物に当てないようにと気を遣っている事がありありと分かる。

 衝撃こそあれ、グランドランナーの装甲は貫通を許さず、造反側の防御態勢は些かも崩れていなかった。

 上空からの監視も不可能になった事で、正規軍側の動きはかなり鈍い。


 軽い地響きと共に、十機の魔動機が防壁を築くグランドランナーの背後に待機した。

「敵が顔を見せたら新型機は砲を斉射。その後人型はすぐに突撃せよ!」

 直後、正規軍の人型魔動機が顔を見せ、グランドランナーの砲撃で頭部を吹き飛ばされて倒れた。

 回収しようとしたのか、別に出てきた魔動機も胴体部に砲弾を受けて擱座する。


「今だ!」

 騎士は号令と同時に自らの機体の腕を振り上げる。

 ガンガンと音を立てて、場所を譲ったグランドランナーの間を、人型魔動機が駆け抜けて行った。

 見れば、正規軍側は慌てて対応に出てきたが、それらは先にグランドランナーの砲撃が始末していく。


「ふん。素人め」

 正規軍に加担しているのは、戦闘に不慣れな留守部隊だ。

 新型を含めて、戦闘経験が豊富な人員は主にケヴトロ帝国侵攻を担うカタリオの部下に回されている。

 造反側の部下は、買収や地位の保証に応じたり、血縁や実家の力関係などで引き抜けらた、ある程度経験がある者が多い。どちらかと言えば、指揮をする少数の騎士の方が、不慣れだった。


 その騎士たちには、主に城内の警備と侵入者の対応を任せている。

 どう転ぼうと、騎士たちとその部下の兵士達だけであれば、口止めも容易い。

「戦いに勝利した時、最上位の者が俺であれば……そうだな、王女を娶って王になるのも悪くない」

 優位が見えてくると、そこまで考える余裕が出てくる。


 だが、夢想は轟音にかき消された。

「何事だ!」

 急ぎハッチを開いて身を乗り出した騎士は、守備に並んでいるグランドランナーの目の前に、巨大な馬上槍が突き刺さっているのを目にした。

 石畳を粉々に砕いてそびえ立つランスに、騎士は思考がしばし思考が止まった。


 直後、突撃していた人型魔動機の方でも轟音が響く。

 音に意識を取り戻した騎士が視線を向けると、十機いたはずの味方機が瞬時に七機にまで撃ち減らされていた。


「な、何が起きた!」

 と、騎士が部下に確認を求めたのと同時だった。

 視界の先、残る機体の眼前に一体の異形の魔動機が降り立つ。


 昆虫のような三対の細い脚を持ち、スレンダーなボディに付いた両腕の先は、先ほどグランドランナーの前に突きたった物と同じ形状のランスになっている。

 背中には左右に二本と三本のスピアを背負っていた。左右の数が違うのは、先ほど撃ちこんだ分、一本減っているのだろう


「なんだ……あれは……」

 虫の身体に人の上半身が乗っているようなフォルムは、騎士や他の兵士達を慄かせるに充分な異質さを放っていた。

 同様に硬直していたのだろう。突然目の前に現れた機体を前に停止していた魔動機の一体が、ランスに貫かれた。


 そして、乱戦が始まる。

 一対六ながら、味方の攻撃は悉く躱され、敵のランスは的確に味方機を貫く。

 あっさりとさらに三機も倒された所で、一人の兵士が騎士の機体へと駆け寄った。

「あれは、傭兵団コープスの機体です!」

 機体の名はホッパー&ビー。捕縛されたハニカムという内通者がのっていた機体だ。


 聞けば、以前に王都へ侵入された際にコープスの基地で戦闘に参加したのを、記録に参加した際に確認し、機体も見たことがあると言う。

「コープスの……だが、ハニカムという女はケヴトロの連中が回収したはずだ。誰がのっているのだ!」

 情報を寄越した兵士に、味方のグランドランナーを指差した騎士は叫んだ。

「とにかく、あの機体を狙って砲撃しろ!」


「しかし、味方にあたる可能性があります!」

「構わん! こちらに向かってくる前に何としても止めろ!」

 噛み殺さんばかりの形相で命じられ、弾かれたように走り始めた兵士に悪態を吐く。

「命令に疑問を差し挟むとはな。兵士も善し悪しだ」


 騎士は、昨夜であった素直な兵士を思い出した。

 その視線の先では、グランドランナーが味方ごと砲撃の的にし始めている。

「許せよ。これも戦場の事だ。我々は勝利せねばならん。その為には犠牲も出る」

 勝手な話だとは分かっているが、兵を率いる騎士が犠牲になるわけにはいかない。兵士は戦って死ぬ。当然のことだと納得するしかない、と彼は信じている。


 もちろん、それは彼を含む戦場に於いて命令を下す側の勝手な思想に過ぎない。

「馬鹿な……」

 砲撃は周囲の家屋も傷つけ、石畳を砕いて掘り返す。

 その土埃が収まった時、味方の人型魔動機が倒れている中、ホッパー&ビーの姿は見えない。


「どこだ、どこにいる!」

 建物の陰に隠れたのか、と先ほど敵の魔動機が姿を見せた角を注視するが、機体の影は見えない。

「上だ!」

 誰かの叫び声が聞こえた騎士が見上げると、そこには空高く舞い上がり、二階建ての建物の屋上へと着地したホッパー&ビーの姿が見えた。


「なんという跳躍力だ……」

 信じられない、と騎士が呟く。

 だが、呆けてばかりもいられない。造反側は初めて明確な損耗を出し、尚且つ敵に増援が出現した。

 ここで持ちこたえられなければ、全ては水泡に帰す。


 騎士はまだ、諦めてはいない。

「確かに運動性能は高いようだ。だが、狙撃は不正確。もしくは乗り手の腕が射撃に向いていないのだろう」

 ちらり、と視線をグランドランナーの前に落ちているランスに向ける。

「恐らくは新型機を狙ったはずだが、この距離で外している。そして、それ以外に遠距離攻撃武器を持たないようだな」


 勝てる、と騎士は踏んだ。

 新型機による砲撃でダメージを与えるか足止めをすれば、細い機体は騎士が乗る人型魔動機が持つ大剣型の攻撃には耐えられないだろう。

「私が出る! 十機程後に続け!」

 ハッチを閉じた騎士は、機体の腕を振り、屋上のホッパー&ビーへ向けて砲撃するように指示を出した。


「降りて来い。その時がお前の最後だ」

 おそらくは、王が率いる軍の頼みの綱はあの機体であろう、と騎士は踏んだ。

「であれば、あれを撃退すれば我が方の勝利は近い!」


☆★☆


『……リューズさん……』

「うるさい、何も言わないで! 手伝わなくても良いからね!」

 通信機から聞こえたナットの呟きに、リューズは不機嫌に返した。

 傍から見れば華麗に飛翔して回避したかのように見えていたが、リューズからすれば急な砲撃に泡を食って、飛んで逃げたに過ぎない。


「ぐぬぬ……まさかこの距離で、この大きさの射撃武器で外すとは……!」

 彼女の頭の中で組み立てた計画では、籠城している敵の壁役になっているグランドランナーをランス狙撃で一台串刺しにして敵の動きを牽制し、その間に人型魔動機を近接戦闘で倒す予定だった。

 ところが、最初の狙撃を見事に外してしまった。


 そんな一連の動きを、スーム達の回収の為に、王城前の戦場を迂回するように飛行していたナットにしっかり目撃された。

「そ、そうよ。慣れない機体だから! いつものハードパンチャーならこんな事無いわよ!」

『ハンドガンの命中率……』

「五月蠅いって言ってるでしょ! こっちは良いから、早くスーム達を回収してきて!」


 見られているのも嫌だが、それ以上にスーム達から脱出の連絡が来ないのがリューズには気になっていた。

「何かトラブルかも。お願い」

『了解です。少し城に接近してみますので、注意を引くために派手にお願いします』


 グランドランナーの砲撃を複数回受ければ別だが、ナットが乗る飛行機体ドラウプニルの防御性能があれば、通常の砲撃なら問題は無い。

 リューズに特異な近接戦闘で存分にやって欲しい、というナットの気遣いだった。

「任せなさい!」

 通じているのかどうかわからない返答をして、リューズは通信を終えた。


 見れば、眼下のグランドランナーの砲塔がこちらを向いている。

「やばっ!」

 ホッパー&ビーの装甲は薄い。試した事は無いが、直撃は避けた方が良いだろうと判断したリューズは、ためらうことなく飛び降りる事を選択した。


「ああもう、面倒くさい!」

 ややぎこちなく、六脚を動かすペダルを操っているのだが、ほぼ未経験の機体を僅かな時間で操作方法を確認し、実戦で動かせるセンスはスームすら超える部分がある。

「これなら外さない!」

 力強い跳躍で向かった先は、敵グランドランナーの真上だ。


 金属がぶつかり、ひしゃげる激しい音を響かせて、ホッパー&ビーの右腕がグランドランナーを貫く。

「次っ!」

 素早く周囲を見回し、一番反応が早かった機体に向かってがしゃがしゃと乱暴に足を動かして近づき、ランスを叩きこむ。


「さあ、次は……あっ!」

 グランドランナーを叩き潰す事を最優先にしていたリューズは、人型魔動機が数体、猛然と近づいてくるのを発見した。

「良いわね。やってやろうじゃない!」

 グランドランナーを飛び越え、城の前庭部分に飛び降りる。

 周囲には敵機ばかりだが、そのせいで同士討ちを避ける為に砲撃が使えなくなっている。


 真正面にやってきた魔動機が、大きな両手剣の形をした武器を振りかぶる。

 リューズの目は、それをしっかりと捉えていた。慣れない機体でも、彼女の反応速度に影響は無い。

 数的に不利な近接戦闘が開始される。

 しかし、それはリューズにとって望むべき状況だった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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