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55.戦場の狂気

55話目です。

よろしくお願いします。


※今回、いただいたご意見を元に地の文と台詞に行間を入れております。

 その他、読み易い、読み難い等ご意見あられましたら、お気軽にどうぞ。

 スームが機首を返してホワイト・ホエールに対峙しようとすると、敵地上部隊からも散発的な攻撃が届いた。

 だが、対人型魔動機の武装など、飛行するノーマッドに当たるものでは無い。


「お飾りのエフェクトみたいなもんだな。余程運が悪くなきゃ、当たらない」


 自分が謎の世界間転移に巻き込まれた、かなり運の悪い部類の人間だと言う事は、完全に忘れている。

 いや、剣を取って生身で戦えという世界で無かったあたり、ある種の幸運であったかも知れない。


「あんたらには悪いが、下がうるさいとアレとは戦えない。先に潰させてもらう」


 ノーマッドはガクンと機首を下げ、狂ったような弾幕を張るホワイト・ホエールの下をくぐる。

 機体の速度は位置エネルギーも手伝って、最高速に近い。

 そして、そのまま地上部隊へ突っ込む。


「……っしゃあ!」


 飛行形態の機体から、にょっきりと両腕だけが伸び、チャクラムが敵機を斬り裂いていく。

 再び味方ごと砲撃してくるホワイト・ホエールに注意しつつ、機体を左右に振りながら円を描くように地上部隊を外側から文字通り刈り取って行った。

チャクラムで斬り裂かれなくとも、単に高速で飛行するノーマッドの機体と接触しただけで、ケヴトロ帝国の魔動機は大破と言って良い程のダメージを負う。

 それだけ、装甲を含めた機体強度に差があるのだ。


「脆い雑魚は下がっていろ! ……くそっ!」


 ホワイト・ホエールは、苦手なはずの真下方向にも、機体を傾ける事で対応して砲撃してきた。

 悪態を吐きながら、機体を再び戦場から離したスームは、ホワイト・ホエールの指揮官が“慣れている”事に気付いた。


「ひょっとしたら、あのオッサンかもな」


 ケヴトロ帝国首都の基地内で出会った人物を思い出す。

 無事に生き残って終戦を迎えれば、今度はもっとリラックスして話をする機会もあるだろう。

 だが、スームとしてはあれほど仲間思いの人物がやるような攻撃だとは思えない。


「別人か。誰かに命令されている、か」


 考えても仕方が無い。

 とにかく、ホワイト・ホエールはどんな犠牲も厭わずにスームが駆るノーマッドを撃墜しにかかっている。

 弾丸の雨を潜り抜けたスームは、地上部隊がほぼ壊滅状態にある事を視界の端に捉えながら、今度はホワイト・ホエールの上へと向かった。


「上空対策もできている、か! やる!」


 ホイールのように縦回転しながら、不規則に動いてノーマッドに真上を取らせないように動くホワイト・ホエールは、それぞれの砲塔から順次弾幕を張ってスームの接近を許さない。

 今の時点で接近されれば、ホワイト・ホエールに成す術がない事を知っているのだ。


「だが、今回は事故に見せかける必要も無い。思い切りやらせてもらう!」


 かと言って真正面から突っ込んで、分裂して飛来する全ての砲弾を避けられる程、スームも人間離れはしていない。

 狙いを定められないように左右に揺れながら、攻撃の機会を窺う。


「キリが無い。弾薬はまだ充分あるだろうし、動きからして、以前のような策は通用しないだろうな……」


 あまり時間もかけていられない、とスームは考え、あるスイッチを押した。


「仕方ない。こっちも弾薬をケチってるわけにもいかんしな。ハイスコアの為だ。派手にやるか!」


 人型へと変形したノーマッドは、放り捨てるように一つのブロックを投げ捨てる。

 砲弾の一つにいぬかれたブロックは、そのまま小さな粒子を周囲に撒き散らし、キラキラとした煙幕を張った。

 完全にノーマッドを見失ったのだろう。一瞬にして砲撃が止まった。


「ふふん。今度はこっちからだ」


 ノーマッドの右手には、ハンドガンタイプの銃器が握られている。

 通常の人型魔動機のハンドガンでは、ホワイト・ホエールの装甲を撃ち抜く程の威力は無いが、スームが作ったこれは、砲身も弾丸も一味違う。


「前回、ホワイト・ホエールのような相手に対応できる武装が乏しい事に気付いたからな。悪いが、実験させてもらう」


 横にスライドするように、煙幕の端から姿を見せたノーマッドは、すぐに射撃を開始した。

 魔動機の砲弾としては軽い、空気が抜けるような音がして、ハンドガンからはカプセルのような砲弾がいくつも射出される。


 着弾。


 貫通も爆発もしないカプセル型の砲弾は、見えていたいくつかの砲塔の根元へぶつかると、割れて液体をまき散らした。

 べったりと砲身を動かす可動部分に貼りついた液体は、あっという間に固まった。


「セメント弾だ。これで砲塔はまともに動かないだろう?」


 挑発するようにホワイト・ホエールの上空をぐるりと回って見せると、ホワイト・ホエールは対応して砲撃しようとするが、角度を付けられず明後日の方向へ撃ったりして、まともに狙う事が出来なくなっていた。


「よし。後はガス抜きして墜落させるか……ん?」


 水平の姿勢にもどったホワイト・ホエールの上部に、何故か生身で出てきた人物がいるのを見て、スームは目を見張った。

 その人物は、杖に支えられるようにして、なんとか立っているという様子だ。


「なんだ?」


 注意しながら機体を近づけていくと、杖をついているのはまだ若い男だった。

 不格好な拳銃を乱射し、何かをわめきながらノーマッドへと攻撃をしていた。

 軽い弾丸は風に流され、ノーマッドへは一発たりとも命中していないし、当たったとしても大したダメージにはならない。かすり傷が付くかどうかだ。

 だが、その様子は鬼気を孕み、追い詰められた怒りの表情は、スームの額に汗を零した。


「見覚えは無い、が。どこかの戦場で恨みを買っていてもおかしくは無いからな」


 あちこちの戦場で勝ってきたという事は、それだけ遺恨を作ってきた事と同じだということを、スームも傭兵をやっている中で身に染みてわかっていた。

 以前も、父を殺されたと言う青年に襲われた事すらある。


 そして、今回もその時の同じように対応する。


「俺の方に恨みは無いが、お前の恨みを晴らしてやるには、俺はまだ生きていたいんでね。恨むな、とは言わんよ。それで気が済むなら、いつまででも俺を恨んでいればいい。それで満足ならな」


 スームはノーマッドが持つハンドガンの弾倉を交換した。セメント弾とは違う、通常弾だ。


「じゃあな。オッサンに会ったら、お前の名前を知っているか、聞いてみるさ」


 ノーマッドが引き金を引くと、杖の男は上半身を爆散させて、下半身は力なく倒れる。

 そしてそのまま、下半身と杖がなだらかなカーブを描くホワイト・ホエールの上部を転げ落ち、赤い土が目立つ大地へと落ちて行った。


 さらに弾種を変えて、ニードルガンで機体のガスバルーン部分に穴を開けられたホワイト・ホエールは、ゆっくりと高度を落として行った。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


次には薬の影響も抜けているかと思うので、分量を増やせるかと思います。

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