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54.騒乱

※活動報告に書きましたが、体調を崩して扁桃腺炎でダウンしておりました。

 お待たせして申し訳ありません。


54話目です。

よろしくお願いします。

 反乱騎士たちの襲撃を辛くも逃れたセマたち三人は、予定していた裏通路へと逃げ込んだ。

 しばらく走り、距離が取れたと思われるところで、一度立ち止まり、揃って呼吸を整える。セマとテンプに至っては、肺をひっくり返さんばかりに全身で荒い呼吸をしているが、コリエスはまだ多少余裕があった。これも訓練の成果なのかもしれない。

「お父様を……迎えに……行かなくては……」

 息も絶え絶えのまま、セマは言葉を絞り出す。

 この場にあって、セマはやはり王を助けるべきだと考えた。セマが生き残れば辛うじて国としての体裁は保てるが、王が死ねば、国は一度瓦解したも同然となる。

「……王はどこに?」

 コリエスの問いに、セマが説明したのは、今いるテラス近くから見て斜め上あたりに位置する王の執務室だ。通常の執務をそこで行っているので、騒動があっても一度はそこへ立てこもり、護衛もそこに集まってくるはずだと言う。

「でも、このまま向かっても私たちだけじゃ戦力にはならないわ」

 テンプは、年長じゃとして冷静に言葉を選んだ。それはセマさえ生きていれば王国としては問題が無いという立場に立っての発言でもある。セマはそれを無礼だとは思わなかった。むしろ、緊張するこの場面にありながら、はっきりと意見を言える、良い人だと思った。

「いえ。今の王権を持っているのはお父様です。私を見失った以上は、積極的に王が狙われるでしょう……万一、病床に伏せた事にされて、傀儡の宰相でも送り込まれれば厄介です」

「それなら、わたくしが一人で機体を取りに行きますわ」

 戦力的に言えば、まとまって行動した方が明らかに有利だ。だが、コリエスは一時的にでも速い段階で戦力が王の元へ集まった方が良いと判断した。

「それに、これを使ってもらった方が分かりやすいですもの」

「これは……」

 コリエスがセマへ手渡したのは、ノーティア王城でスームを呼ぶのに使った発煙筒だ。

「これで場所を教えてくださいな。使い方は、テンプさんが知っているわ」

 セマが顔を向けると、テンプは頷いた。

「……良いのですね?」

「もちろん。それより、わたくしが行く迄は、ちゃんと無事でいなくちゃ駄目ですのよ?」

 迷うことなく駆け出したコリエスを見送り、セマは肩を落とした。

「同じ位の相手だと……いえ、正直に言って、私の方がずっと優秀だと思っていましたけれど、いつの間にか、彼女は随分強くなっていたのですね」

「そうですか?」

 テンプは乱れたセマの衣服を整えながら、クスリと笑った。

「普通のお姫様なら、こんな状況で父親にすがろうとはしても、“助けよう”とは考えませんよ。怯えて座り込む方がほとんどではないでしょうか」

 では、行きましょう、とテンプは言う。

「彼女は最善を尽くす子です。このままだと、私たちの方が遅れちゃいます」

「そうですね……行きましょう!」

 再び、セマ達は駆け出した。


 裏通路上では、事情をしらぬ使用人たちが突然殺気立った顔で現れたセマ王女に驚いていたが、彼らにはただ逃げるように伝え、わき目もふらずに走った。

 そうして、一分と経たずに目的の部屋までたどり着く。そこは王の執務室の隣の部屋だ。そっと中を窺い、誰もいない事を確認すると、二人は息をひそめて室内へと入り込んだ。

「無礼者!」

 と、叫び声は隣の執務室から聞こえた。

 遅れたか、と慌てて向かおうとするセマをテンプが止める。

「何故止めるのです!」

「今無造作に飛び出しては、中の護衛が苦労するだけです。落ち着いてください」

 テンプに諭され、セマは赤くなる頬を押えた。

「執務室へはどう行かれるおつもりだったのですか? そこから中の様子を見ましょう」

「こ、ここに隠し通路があります。使用人や騎士たちも知らないのですよ」

 以前はごく一部の護衛の為の通路だったが、いつしか使われなくなり、万一の時の為に王族が使う専用の通路となっていた。

 調度品として据え付られている食器棚の下部、そこを開くといくつかの小さなソーサーが置いてあるだけで、他は何もない。食器を取り出し、二枚ある棚板を外すと、背板には指を入れる穴があるのが見えた。

「それ、私が持っておきますね」

「あ、ありがとう」

 発煙筒をセマから受け取り、後ろでテンプが見ていると、不意に背板が倒れて、セマが小さな悲鳴を上げて倒れた。

「セマ様?」

 恥ずかしいだろうとは思いつつも声をかけたテンプは、そのまま引きずられるようにセマの身体が棚の中へと吸い込まれていくのに気付き、慌てて発煙筒をスカートの腰へ差し込み、セマの身体へとしがみついた。

「……ネズミは二人だったか」

 抵抗虚しく引き摺り出された二人は、騎士たちに剣を突き付けられ部屋の隅へと追いやられた。

 そこには、先に追い詰められていたらしい国王の姿もあった。

「君は……」

「……コープスのテンプと申します。申し訳ございません。私がいながら、このような……」

「彼女のせいではありません。ここへ来たのは、私の依頼によるものです」

「そうか、それは、申し訳ない事をした……娘と、息子が迷惑をかける」

 息子? と両手を上げた状態で見回したテンプは、執務室内を見回した。

王の執務室としては質素で小ぶりな室内。筋肉質な分、寒がりな王の為に設えられた小さな暖炉には控えめに火が入っており、換気の為に一つだけ、窓が小さく開いている。

 そんな部屋をさらに狭くしている男くさい連中二十名程の中に、王子の顔が見えた事で納得した。

 どうやら、今回の反乱に彼も乗ったらしい。

 同時に、セマも彼の存在に気付いた。

「お兄様。貴方という人は……どこまで恥を重ねれば気が済むのですか!」

「お前には言われたくはない! 傭兵団などと近しくして国政を危険な戦争へと差し向けたのはお前だろう!」

「貴方には、国を守ろうと言う意識は無いのですか!」

「国を守るためだけならば、何も打って出る必要はあるまい! 現に、今の戦力で充分に帝国もノーティアも撃退できているでは無いか!」

「そうやって」

 兄妹の言い争いに口を挟んだのは、父親である国王だった。

「“今”しか見えていないから、この国はここまで追い詰められたのだ。それを反省しなければならぬと、この旧弊たる頭しか持たぬ、余すら気づいたと言うに……」

 如何にも悲しげな声が、余計に憐れまれたと思えたのか、王子は激高した。

「ふざけるな! 俺には何ら機会を与えず、セマばかりに良い舞台を渡しておいて……!」

 その怒声の合間に、テンプは聞きなれた音を聞いた。

 視線を走らせると、騎士たちは兄妹の言い争いを笑ったり狼狽えたりしながら聞いていて、こちらへ注視している者はほとんどいない。

 死ぬかもしれない、と早鐘のように脈打つ心臓を押えながら、小さく「信じてるわよ、コリエス」と呟いた。

 直後、テンプは駆け出した。セマと王に向かって。

 同時に、腰に差していた発煙筒を暖炉へと投げる。

「伏せて!」

 二人を押し倒すようにして覆いかぶさるが、当然、テンプのサイズでは限界がある。

 何人かが不格好が銃を抜き、何人かが剣を持って向かってくる光景と同時に、暖炉から爆発的に煙が上がるのが見えた。

「なんだ、この煙は!」

 慌てる王子が逃げ出そうとし、周囲の騎士が混乱する中、巨大な一枚岩のような金属が窓から突き刺さる。イーヴィルキャリアのカイトシールドだ。

 開いた窓の大きさの割に、出てくる煙が多すぎるため、四階までよじ登り、慌てて差し込んだらしい。

「セマ様! テンプさん!」

 機体の上半身を無理やり部屋に覗き込ませたコリエスは、もうもうと立ち込める煙の中から姿を表したセマと王の姿に、一瞬だけ安堵の顔を見せたが、王に背負われ、気を失っているらしいテンプの姿を見て絶句した。その足元からは赤い物が滴っている。

「……どうやら、余を庇って被弾したらしい」

「……っく! とにかくこちらへ! 脱出いたしますわ!」

 狭いコクピットへ無理やり全員を詰め込んだイーヴィルキャリアは、これまでやった事が無いような動きで壁を這って降りると、全速力で王城を後にした。

お読みいただきましてありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。


※扁桃腺炎は薬のお蔭で何とか収まりました。

 薬の影響でボンヤリするため、数日短めになるかも知れませんが、

 ご了承ください。

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