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52.王女の護衛

52話目です。

よろしくお願いします。

 最初の攻撃はアナトニエ王国側からだった。

 早暁、いくつかの飛行船型魔動機フライング・アーモンドが監視する国境エリアに、戦車型魔動機のグランドランナーが横並びに三列、息を合わせて乗りこんで行く。

 慌てて反撃に出てきたケヴトロ帝国側だが、最初のグループはあっという間に打ち倒されたものの、その残骸を盾にして防御態勢を作った傭兵ソーマートースの機体が、激しい砲撃でグランドランナーの足止めに成功。膠着状態へと陥る。


「ちょっとまずい事になってきました」

 部下からの状況報告を受けたカタリオは、スーム達コープスのメンバーがいる天幕へとやって来た。

 コープスも今回の作戦の為に二分されている。スームとリューズはケヴトロ帝国側。クロックとボルトナット兄弟はノーティア王国側のアナトニエ王国軍にいる。

 コリエスはテンプの護衛も兼ねて、王都にある基地で留守番だ。

 ちなみに、ヴォーリア連邦側の間諜だとされたラチェットは、クロックと共にいる。

「流石と言うべきか、ソーマートースは残骸を利用して防御主体の格好に持って行きましたね」

 傭兵団がいなければ、ケヴトロ帝国の正規兵だけならばとっくに突破が出来ていただろう、とカタリオは考えていた。

 だが、実際は最初のひと当てで思ったような結果が出せず、逆にフライングアーモンドを狙撃で二機落とされて敵の射程外まで引かせたため、戦場の状況はかなり遠くからしか確認できない。

 そして、そのままケヴトロ機で作られたバリケードを使って、ソーマートース率いる傭兵団からの攻撃で、グランドランナーも大破はしていないものの、履帯などの弱い部分に被弾した数機が戦線から離脱していた。

 現状は、睨み合いに近い状況だ。

「向こうも長期化したくない筈だがな」

「考えられるのは二つです」

 そう言いながら、カタリオは誰にも断りを入れる事無く適当な椅子を引いてきてスームと向かい合うように座った。

「一つは、長期戦の経験が無い我々を精神的・体力的に追い詰めるために長引かせようとしている。もう一つは、強力な援軍が到着するまでの時間稼ぎをしているか、です」

 両方の可能性もありますが、とカタリオは言う。

「それで、どうするつもりなんだ」

 スームは自分から「手伝う」とは言わなかった。

 あくまで作戦行動の主体はアナトニエ王国軍であり、目の前にいる軽そうな雰囲気の男が全軍の指揮権を持っている。彼が考えて、彼が依頼をする。そうしなければアナトニエ王国軍が勝ったとは言えない。

「負けはしませんがね。このままだと勝てません。なので、さっそく用意した兵器を使おうかと」

「あれは大型兵器が出てきた時の為じゃなかったか?」

「その時はまた使えば良いわけですし」

 それに、とカタリオはニコニコと笑っていた。

「一つお願いしたい事があるんですが」

「ずいぶんと早い出番だな。だが、俺たちが膠着状態を打破したら、それはセマの狙いから外れないか?」

「この戦線は我々だけでやりますよ。まだやれることは多いですし、大した被害も出ていません。使っていない仕掛けも有りますしね。スームさんにお願いするような状況ではありません。やっていただきたいのは、偵察です」

「偵察? またか?」

 訝しむスームにカタリオは頷いた。

「そうです。例えば……偵察飛行中に偶然遭遇したケヴトロ帝国の特別機があったとして、偶々遭遇戦になったとすれば、それは我々のあずかり知らぬところであり、この国境での戦いとは無関係……という言い訳はどうです?」

 要するに、もしケヴトロ帝国軍が何かの兵器を待っているとしたら、偵察して見つかるだろうから、落としてくれという訳だ。

「ずいぶんと、大胆に頼ってくれるな」

「昨日もお話しましたが、貴方方……いや、スームさんは最高戦力の一人ですからね」

「私は?」

 スームと共に天幕内で待機していたリューズは、スームがやたらと持ち上げられている事が不満らしい。恋人と言っても、同じ傭兵としてのライバル心が無くなるわけでもないようだ。

「えーっと……ここに残っていただいて、敵の防御を突き破る際にご協力をお願いしたいのです。何しろ、地上近接戦闘においてハードパンチャーほど強い魔動機は無く、リューズさんほどうまく使いこなせる人はいませんから」

「なるほど。私はここぞという時の為に温存されているわけね!」

 ふふん、と上機嫌になったリューズは、「機体を見てくる」と言って天幕を出て行った。

「お前……」

「僕は事実しか言っておりません」

 涼しい顔をしているカタリオに、スームはそうじゃない、と首を振る。

「あれだけ舞い上がった状態で、実際に出番が無かったら相当怒り狂うと思うぞ」

「彼女程の力が必要無い、とでも言えば大丈夫では?」

「だとすれば、もっと違う言い方をするべきだったな」

 スームから見て、リューズは完全に“出番待ち”に入ったように見えた。

「敵の防御を突き破る時、呼ばれなかったら自分で判断して乱入するかもな」

 もし適当にあしらうつもりなら、「危機の時に駆け付けていただくために」とでも言っておくべきだったな、とスームは笑い、立ち上がった。

「まあ、そっちはどうにかあいつの活躍の場を用意してやってくれ。お前の言う通り、あれは近接戦闘ならピカイチだからな。俺は俺の仕事をする。広い国土を探すんだ。見逃しても文句は言うなよ?」

「そこは心配していませんよ。ノーマッドの速度。それにスームさんなら、もし新しい魔動機や先日のような大型魔動機が建造されたとして、どういうルートで国境へ来るか程度、予測できるでしょうから」

「褒め殺しは止せよ。だが、出番を用意して貰った事は感謝する」

 片手を軽く振りながら、スームは足取り軽く出て行った。彼にしても、じりじりと出番を待っているのは性に合わなかったのだ。

 ある意味、お似合いのカップルだ、とカタリオは評した。


☆★☆


 作戦が始まった頃、当然ながらセマ王女は王都にて待機している。

 どちらかの国境で戦闘が始まれば、戦況に合わせて応援や物資を遅れねばならないし、その為には最高責任者が王都にいる方が都合が良い。もちろん、王族の安全の為でもある。

「そういう意味で、コリエスさんが王都に残っているのは心強いというものです」

「素直に喜べませんわ。試験に失敗して居残りなんですもの」

 セマに呼び出され、護衛も兼ねてイーヴィルキャリアと共に城を訪れていたコリエスは、同じく呼ばれたテンプと共に、セマのお茶の相手をしていた。

 護衛と称して体よく話し相手を呼んだ形になっている。コリエスは当然慣れているが、テンプは初めて触れる豪華なカップや、ソファなどの見るからに高そうな調度品に緊張してほぼ無口になっている。

 喉が渇くのか、震える手で紅茶を延々と飲んでいるテンプに、セマは優しく笑いかけた。

「そんなに緊張しないでください。そうです、お腹は減っていませんか? 良ければ食事を用意させましょうか」

「い、いえそんな……」

「そうですわね。食堂やテンプさんの食事も美味しいけれど、久しぶりに王宮の食事も食べたいわ」

 断ろうとしたテンプを遮り、コリエスがセマの申し出を受けた。見習い程度の扱いとはいえ、一応は一般的な市民層の給料よりはかなりの高給を得ているコリエスだったが、まず周辺環境にそう言った高級店が存在しない。

 城の近くにまで行けばあるのだが、毎日の訓練で疲れ果てていると、着飾ってそこまで足を延ばそうとは思えなかった。

「では、用意させますわね。昼食ですから、軽めで良いでしょう」

 侍女に申し付けたセマは、「少し時間をください」とテンプに断りを入れた。ただ、昼食を振る舞う予定はしていたので、厨房で大慌てという事は無い。

「それで、わたくしやテンプさんまで呼びつけた理由は何かしら? まさか、本当に護衛を依頼したいわけではないでしょう?」

 コリエスの指摘に、セマは眉を顰め、声量をぐっと押えて言葉を紡ぐ。

「実際に護衛の依頼です。事実、貴方方が持っている武器は預かっていませんし、私も下手ながら一応こんなものを持っています」

 ドレスの裾を上げると、健康的に引き締まったふくらはぎに、拳銃が固定されていた。他の騎士などが持っているような大きな物では無く、スームに依頼して作製した、セマの細く小さな手でも楽に扱える小型拳銃だ。

 セマが言う通り、コリエスもテンプも、スームが作成して渡した拳銃を身に着けている。テンプは以前のスパイ侵入の際にも見せた通り、それなりにだが射撃の訓練を受けている。

 そして、コリエスも同様に魔動機操縦の他に体術や拳銃射撃も少しずつ訓練項目に入れていた。

「何かあるのですか?」

「何も無ければ良いのですが……実は、ハニカムさんの件で調査を進めているうちに、国内の不穏分子の存在が明らかになってきたのです」

 そう言った内偵に関するエキスパートが存在しないので、ハニカムやラプタート子爵など、ケヴトロ帝国の影響を受けている人物がどの程度いるのか、調査は遅々として進まなかった。

 そして、セマの部下が失敗した。

「私が極秘裏に内部調査を進めている事が、部下の一人から漏れてしまったようです」

 俄かに一部の下級貴族に動きが出てきた。

 軍に関わる者もいたのだが、見つけたからと言って捕まえてしまっては、残りを逃がしてしまいかねない。王と相談しつつ対応を考えているうちに、セマ自身を狙う一団が存在するらしい事がわかった。

暗殺計画に誘われた一人の貴族が寝返り、密かに王へと通報した事で発覚した。そこで、セマは一つ良い機会がある、と思いついた。

 王の反対を押えて、彼女は自らを囮にする事にした。

「というわけで、予定通りならそろそろ始まる頃ですね」

 セマが言うや否や、転がり込むように一人の若い貴族が部屋へと入って来る。ドアを開けたところで膝をついた彼は、息苦しそうに肩を上下させていた。

 素早く銃を抜いたテンプが銃口を向けるが、セマは慌てて「味方だ」と止める。

「彼は向こうに協力する振りをして情報をくれていた人物で……」

「殿下、すぐに避難を!」

 セマが立ち上がりながら言うのを遮り、若者は叫んだ。

「予定以上に城内の騎士が協力しているようです。すぐにここへ敵が雪崩れ込んで……」

 言葉は最後まで続かなかった。

 背後から突き通された剣が、若者の胸を貫いたのだ。

「ふん、ネズミめ!」

 ぞろぞろと十名程の鎧を着た者たちが姿を見せた。

 倒れ伏した死体を蹴り飛ばす様は、騎士の姿に似つかわしくない程にやさぐれている。

「……セマ様、説明が遅かった事を恨みますわよ」

「生き伸びる事が出来たら、いくらでも恨み言を聞いてあげます」

「私、事務担当なのに……」

 剣を抜いた騎士たちに対して、三人の女性は拳銃を手に取り、安全装置を解除した。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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