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40.邂逅

40話目です。

よろしくお願いします。

 不格好ではあったが、ボルト・ナット兄弟の新型は強かった。

 ようやく安定して合体できるようになり、それなりに速度や高度がある状況でもドッキングが出来るようになった所で、習熟も兼ねてコリエスの訓練に付き合う事になった。


 結果だけ言えば、コリエスは手も足も出なかった。


「んぎぎぎ……」

 合体後でもミョルニルとドラウプニルの兵装は全て使える。さらにマニピュレータがある為、別の砲を使う事も可能なのだ。

 地上から上空から、模擬専用の弾とはいえ、機銃や砲で弾幕を作られると、コリエスでは手も足も出ない。イーヴィルキャリアは巨大なカイトシールドがあるので、なんとかそれで耐え凌ぐのが精いっぱいだった。

 反撃しようにも、背面に背負ったジェットスラスターと下半身の各所にあるプロペラによる不規則な飛行コースを捉える事が出来ず、訓練場に使っている荒野の外へと模擬弾が虚しく飛んで行く。

「ま、真下なら!」

 シールドを掲げながら、膝をついた状態でホバー移動を開始する。デザイン上、銃口は全て正面から情報を向く機構になっている。真下に行けば、そこまでの俯瞰は取れないと踏んだのだ。

『甘いな!』

 通信機からボルトの声が聞こえた瞬間、シールドをずらして相手の機体を確認したコリエスは、その状況に驚いた。

 合体機が、うつぶせの状態で浮いていたのだ。

「うそ……」

 急いでバックパックを開いて砲撃で対応しようとしたが、間に合わなかった。

 シールドをずらしていたのが災いして、コクピット周りを思い切り弾が叩く。その衝撃で、コリエスは耳鳴りに襲われ、目を回してしまった。

 ぐらりと揺れたイーヴィルキャリアが横倒しになり、訓練は一時中断となる。


「……正直に申しまして、気持ち悪い動きですね」

 不規則な動きから分離した二機の新型機を見ていたセマは、パラソルの陰に入ったまま、クロックに呟いた。

「そうですなぁ……ですが、実戦であれに砲弾を当てるのは至難の業でしょうな。それこそ、グランドランナーあたりをずらりと並べて、弾幕を張るしかないでしょう」

「そして、狙おうとしても分かれて高速飛行すれば、すぐに射程外、ですか」

 ドローンのように飛ぶドラウプニルは速度が遅い。だが安定性は非常に高く、ジェット戦闘機型のミョルニルからワイヤーで引っ張られてもしっかり浮遊した体制を確保できる。また、垂直上昇の速度は速いので、Y軸で言えば射程距離からの離脱は素早い。

「しかしわかりません。スームさんは我が軍に対して人型魔動機からは外れた三種の魔動機を開発し、譲渡されました。ですが、コープスには可変型の魔動機など人型を中心とした協力な魔動機を作られました……やはり、まだアナトニエ王国に対して構えるところがあられるのですね」

 セマはあえてはっきりと口に出した。

 雇われているからと言って、全ての情報を差し出すわけが無いのはセマも承知の上だったが、スーム本人では無くその周囲の反応を確かめておきたかったのだ。

 クロックはモヒカンの横を掻きながら苦笑いしていた。

「あー……それはですね」

 セマが想像した通りの反応だ。彼女はここから、少しだけ強引に押して、結果として多用の技術提供でも引き出せれば御の字だと考えている。

 だが、想定以上にクロックは正直だった。

「わしらが使っている機体は、軍隊には向きませんからな」

「……どういう事でしょう?」

「たとえば、コリエスが乗っている機体ですが」

 セマの質問に、クロックはイーヴィルキャリアを指差した。

 ヨロヨロと出てくるコリエスの元に、ナットが駆け寄って行くのが見える。

「あれのホバー機構だけでも使いこなすのは至難の業です。まして、今ボルトやナットが操っている機体も、その操作の煩雑さはフライングアーモンドの比ではありませんぞ」

 自分でも、かなり練習しないと無理でしょうな、とクロックは語った。既存の戦闘用魔動機に慣れていると、むしろ難しいかも知れない、とまで付けた。

「確かに、我が国の兵士の練度は低いとは思いますが、それも訓練次第で……」

「他にも理由は有りますよ」

 まずは製造コストについて。

 通常、本体と武器でそれぞれ一つ。大きくても二つの魔動機関を使う一般的な戦闘用魔動機に対して、コープスの機体は複数の魔動機関を使う。それだけでも費用は跳ね上がるが、複数の魔動機関を同期させて稼働するのに技術が必要になるうえ、それ以外の材料にも供給が不安定な魔物のパーツを使うなど、整備性にまで絡む問題もある。

「壊れた時に、捨てて新しい物を作るか、また違う形に作り替えるか、というのがコープスの機体における基本コンセプトでして……。同じものを大量に生産しなければならない軍用機体としては不向きなのです」

「なるほど」

 戦術的にも、違いがある。

 スームはあくまで“軍隊”として機能するための魔動機を作った。役割分担をし、数を揃えやすく、数を揃えて運用するための機体を。

 対して、コープスの為の機体は、それぞれが個人で様々な状況に対応する事を目的としている。近接格闘専門のハードパンチャーでも、一応は拳銃型の兵装を持っているし、投擲型の武器もある。

「言うなれば、我々は一人一人が独立した部隊なのですよ。少人数で何でもこなす必要がありますからね。器用貧乏と言ってしまえばそれまでですが」

「つまり、スームさんは敢えて技術を隠したのではなく、私どもに不要な部分だから伝えなかった、と」

「はっきり口にはしませんが、そういう事でしょうな。ご不満でしょうが、わしも同意見です。強くても使いこなせない魔動機が少数ある状態と、多少性能が劣るにしても新兵でも操作しやすい魔動機が大量にあるのとで、軍隊としてどちらが健全か……聡明な殿下ならば、ご理解いただけるかと思いますが?」

 クロックの説明を聞いて、セマは一つの疑問を持った。

「……では、例えば我が国が高度な魔動機を操る少数精鋭の部隊を作りたい、という相談を持ちかけたとしたら?」

「受けるでしょうな、あいつなら」

 鼻から大きく息を吐いたクロックは、太い腕を組み、難しい顔をする。

「あいつがやりたいのは、あくまで魔動機での戦闘を楽しむ事で、色々な魔動機が発展して、尚且つその中でも自分が作った機体が活躍する事ですからな」

 困った物です、と首を振ったクロックだが、直後には笑みを見せた。

「最も、そんな部分に惚れ込んで組むようになったわしが言えた事ではありませんが」

「なるほど……」

 一言だけ呟き、セマはじっと考え込んだ。


☆★☆


 一般の兵が詰め込まれているらしい建物を無視して、スームとリューズの二人は少し立派な作りに見える建物の様子を窺っていた。周囲をそっと歩き回っていう間に、二人組で歩いてる巡回を発見して、身を潜めている。

 そして、そのすぐ近くに二階建ての建物を見つけた。屋上には見張り台があり、ケヴトロ帝国の国旗がかかげられている。

「……司令部、かな」

 深夜にも関わらず、建物の一部の部屋からは明かりが漏れている。

「どうする?」

 見上げてくるリューズの顔をみて、スームはすぐに結論を出した。

「行ってみるか。時間はまだある」

 巡回が通り過ぎるのを待って、裏口から入り込む。

 施錠はされておらず、長い廊下は薄暗いが、多少の明かりはあった。

 スームが先を歩き、リューズはその後ろから背後を気にしつつ付いていく。

 ふと、一つの部屋の前でスームの足が止まった。ドアの向こうから物音が聞こえたからだ。

 扉に耳を当ててみると、がさがさと何かを漁るような音が聞こえる。しかも、扉の鍵は壊されているらしい。

 リューズに合図を出したスームは、銃を構えてそっと扉を開くと、物音を建てないように中へと入り込み、リューズが続いて入って来たのを確認して、扉を閉めた。

 大きなデスクの後ろにある棚から、次々に書類を出しては目を通している男性の背中に向けて、銃を向けて声をかけた。

「何を探している?」

 男の動きがぴたりと止まり、ゆっくりと振り向いた。

 銃を向けられている事に気づいても、あまり慌てた様子は無い。

「……軍の関係者では無いな。侵入者とは……軍の警備体制もいい加減だな」

「質問に答えて貰おう」

「新型機の資料を探していたんだよ」

 ため息を吐いて、両手を上にあげた男は、ケヴトロ帝国の軍服を来た五十がらみの男性だった。

「別の国からのスパイか?」

「いいや」

 苦笑した男は首を振る。

「紛うかたなきケヴトロ帝国軍人だよ。一応は将なんぞという肩書をもっている。君の方は、どう見ても軍人じゃないな。ヴォーリア連邦かノーティア王国か。アナトニエじゃあないだろう」

 スームは男の質問を無視した。

「で、その軍人が自分の所を漁って、何を探していた?」

「新型機の情報。できれば、設計図を見つけたかった」

 影も形も見当たらないがね、と男は肩を竦めた。

「新型機?」

「大きな円盤型の、空飛ぶ魔動機だよ。諜報部がとある傭兵団から盗んできた設計図を基にしたらしいから、それを探していた」

「それを見つけてどうする? どこか別の軍にでも売りつける気か?」

「いや、処分する」

 きっぱりと言い切った男に、スームはいぶかしむ目を向ける。

「なんでそんな真似をする?」

「簡単な話だ。この国の皇帝は頭がおかしいからだよ。玩具が手に入れば、それを試してみないと我慢が出来ない。先日も珍しい魔動機の残骸を拾ってきたものだから、さっさと修復して実戦配備しろ、と命令が出ている」

 兵士を使う身としては、無意味な出兵は避けたい、と男は言う。

「今日の昼間、俺の同僚がその新型に乗ってノーティアへと向かった。戦略的に意味の無い、たんなる嫌がらせのような作戦の為に」

「……名は?」

「マイコス。あの大きなおもちゃの試験をさせられた、しがない軍人だ」

 あれは強力だが、だからと言ってそれを誇示するために戦うのは変だ、と歯を食いしばる。

「陰湿な抵抗だが、量産されればさらに戦線は広がり、兵士に負担がかかる。ケヴトロ帝国はすでに限界にきているが、それを皇帝は省みない」

「なるほどな」

 スームはマイコスと言うケヴトロの将の言葉を信じた。その上で、提案をする。

「じゃあマイコス。俺が代わりにその新型を使えなくしてやろう。その代わり、その鹵獲した魔動機の保管場所を教えてくれ」

「簡単に言うがな。お前にそれができるのか?」

「簡単さ」

 スームは拳銃をくるりと回した。

「なにしろ、俺が作った機体だからな」

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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