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35.見ている

35話目です。

よろしくお願いします。

 海沿いを飛行するノーマッドは、ノーティア王国の町を全て避け、アナトニエ王国へと向かう。

 馬車で何日もかかる日程でも、ノーマッドの推進力があれば一日とかからない。快適な空の旅とまでは行かないが、盗賊などを気にする事も無く、景色を楽しむ程度の余裕はある。

 どれほど快適化と言うと、スームの後ろ、床の上でリューズが丸くなって毛布に包まり、くぅくぅと眠っていられる程だ。

「スームさん」

 飛行方向を固定したまま、リューズの寝息に眠気を誘発されつつぼんやりシートに座っていたスームに、コリエスが声をかけた。

「わたくしの我が儘に付き合っていただいて、ありがとうございました」

「コープスの仕事でもある。気にするな」

「それで……わたくしは合格でしょうか?」

 不安げに覗き込んでくるコリエスに、スームは笑顔で返した。

「ああ、いいんじゃないか? あとは、お前自身の手で人を殺す経験をして、それでも続ける気があれば、だな」

「人を……」

 今回の作戦で、コリエス自身は手を汚していない。

 会計官を射殺したのはスームで、フルカは用済みになった所で敵の魔動機の上へ落下死させられたが、それもスームがやった。

 フルカが暴れたり、兵士などがもっと早い段階で雪崩れ込んで来るような事があれば、コリエスも銃を撃って戦う事になっていただろうが、幸か不幸か、その機会は訪れなかった。

「わかりましたわ。その時にはきっと、活躍してみせますわ」

 ところで、とコリエスは話を続ける。

「一つ、疑問に思っていた事がありますの」

「なんだ?」

「ハニカムさんの事ですが……わたくしが知る限り、傭兵も軍人も裏切り者には厳しい制裁が待っている物です。特に内通者や工作員等は、情報を搾り取られ後、処分されるのが常です」

 コリエスは、ノーティア王国軍に出入りして訓練していた事も有り、そういった事情は知っていた。彼女が直接目にした事は無いが、ノーティア王国軍内でも少なからずケヴトロ帝国との内通で処断された者もいる。

 コープス基地に潜入してきたターズたち工作員も、実際にスームやクロックによる尋問を受け、最期にはハニカムの手で始末された事をコリエスも聞いていた。

「わたくしが彼女を殺して欲しいと願っている訳ではありませんが、どうしてハニカムさんを許されたのですか?」

 研修を受ける身としては、黙って従うべきかと考えていたのだが、どうしても疑問が晴れなかったコリエスは、余人に聞かれない今、思い切って質問を口にした。

「まず、前提条件を間違えている」

 スームはあくびをして、目を擦った。水筒を出して、ぬるい水を呷る。

「俺はハニカムを“許す”と言った覚えは無いぞ」

「えっ……?」

「選択肢を二つ提示しただけだ。俺が、リューズや仲間たちを危険に陥れるような真似をした奴を自由にするわけが無いだろう?」

 あっはは、とスームは笑う。

「これはクロックとテンプ、そしてリューズも分かっている事だ。ハニカムの仮面を、リューズがノーティアの城に置いて来ただろう?」

「そういえば……」

 発煙筒の煙を吸い込んだ時に、リューズは溜まらず仮面を投げ捨てたが、その後も拾い上げようとはしなかった。その前に、なぜリューズはハニカムの仮面を持ってきていたのか。

「あれは、リューズさんの顔を隠すためじゃ……」

「それもある。だが、わざと置いて来たのも理由がある」

 今はまだ秘密だ、とスームは言った。

「もう二時間もすれば、アナトニエに着く。お前も少し休んでおくと良い」

 それ以上は何も言うつもりがないのか、スームは口を閉ざした。


☆★☆


 同じような会話が、コープスの基地内でも行われていた。

「それで、結局ハニカムをどうするつもりなの?」

 事務所内に他の人物がいない事を見計らい、テンプはクロックにコーヒーを渡しながら尋ねた。

「ん……テンプには、どこまで話していたかな?」

「ハニカムは表向き軽い罰則と武器の没収で済ませたように見せて、後から始末をつける……って所まで。スームが関わっているって事も聞いたわ」

「ちょっと違うな」

 熱いコーヒーの香りを吸い込み、クロックは唇を尖らせてふぅふぅと吹き覚ました。

「スームが関わっている、じゃない。スームが考えた、だ。わしは許可して、協力した」

 三分の一程を飲み、カップを置いたクロックは背もたれに身体を預けた。

 筋肉質の重い身体を受け止め、ソファが悲鳴を上げる。

「基地を襲撃した連中がいただろう」

「ええ。あの時は肝を冷やしたわよ」

「その割には、随分冷静にハニカムを捕縛したようだがな。やっぱり年の功が……」

 睨みつけられて、クロックはそれ以上は言わなかった。

「ケヴトロからの工作員だったんでしょ? ハニカムとは別口だって聞いたけど。たしか、ハニカムはコープスの内偵。あの連中はアナトニエの貴族につながりを作ってた、と」

「その通り。だが、連中がどの貴族と繋がっているかまではわからなかった。だから、ハニカムを使って城内の調査をさせる事にしたんだ。ハニカムなら、ケヴトロ帝国に連絡を入れて連中の引き継ぎもできるんじゃないか、と思ってな」

「まさか、情報が得られたら……」

「これ以上は、秘密だ。多少余所余所しくするのは構わんが、ハニカムはあれで工作員の端くれだ。一応の監視は付けているが、どうなるかわからないからな」

 真剣な目で、テンプはクロックを見つめている。

「ハニカムを、殺すのね?」

「スームの想定通りになるなら、ハニカムはわしらが手を下す必要は無いが……結果はそうなるな」

 じっと見つめられているクロックは、ため息をついた。

「そんな目で見ないでくれ。これもコープスを守る為だ。それに、わしもそうだが、リューズを傷つけられそうになったスームの怒りは、相当なものだった。正直、「すぐにケヴトロに乗り込む」と言い出しても不思議じゃなかった」

 実際にリューズを撃ったアナトニエの将軍は、スームの手で始末された。クロックも顔をしかめるような拷問を受けて、これと言った背後関係がない事を入念に聞き出されたあげく、惨たらしい死を迎えたのだ。

「意外と無茶な事を言うのね。それだけ、リューズは大切にされてるって事かな?」

「笑い事じゃない。わしは、スームがやるならあながち無茶とも言えないと思っている」

 それも冗談だろう、と笑いかけたテンプだったが、クロックが額に汗をにじませている事に気付いた。

「この世界の軍隊は歪だ。ほんの数十年前までは、貴族や兵士が槍や剣を持って戦っていたのが、あっという間に人型の戦闘用魔動機による戦いに変化した。わしらのような少数で、それぞれが何でもやるような部隊なら、それでも良かったかも知れん。だが……」

 テーブルへ置いていたコーヒーカップを掴み、一口啜る。

「本来ならば、魔動機を人の形にする必要は無い。その方が頑丈だし、構造も単純で量産にも適している。ところが、世界の誰もが戦闘用の魔動機は人型である事に拘った。詰まらん話だが、わしはその疑問を持ってから、普通の傭兵団がひどくつまらない物に見えるようになってな。挙句、当時所属していたソーマートースの団長と喧嘩して抜けた」

「大分昔に、聞いたことがある。その直後、フラフラしている時にスームと出会ったんでしょ?」

 その通りだ、とクロックは剃りあげたモヒカンの横をぺちりと叩いた。

「あいつが考案し、作り上げる魔動機は楽しいものばかりだった。わしの鬱屈を晴らし、さらに先を行って驚かせてくれた。新たな傭兵団を立ち上げた頃は楽しかったし、安定して仕事が入るようになって、結構な金も入るようになった今でも、本心から楽しいと言える」

「それだけ、コープスを大切にしているって事ね。素晴らしい雇い主で、嬉しいわ」

 茶化すようにテンプが言うと、クロックは顔を赤らめた。柄に無い事を言った、と反省しているらしい。

「しかし、不安はある」

 残ったコーヒーを空にして、クロックは暗い顔でつぶやいた。

「スームは、今の所わしが理解できる範囲でやってくれているが……そろそろ、あいつにとって、この傭兵団も窮屈になって来たんじゃないか、なんて思うようになってきてな」

「クロック……」

「本来なら、あれだけの能力があれば小さな傭兵団なんぞに収まっているような奴じゃないんだ。この国の軍と魔動機の運用が気に入らないのと、自由が好きだからなんて言っているが、アナトニエが始めた、車両や飛行体による軍備が一般化したら……。それ以前にも、人型以外の魔動機の有用性を、わしらが証明してしまった。ケヴトロ帝国がやったように、他の国もそういう変化を受け入れる土壌ができつつあるかも知れない」

 辛気臭い話になった、とクロックは立ち上がった。

「もし、スームが抜けると言い出したら、どうするの?」

 テンプの言葉に、クロックは歯を見せて笑った。

「決まってる。ありがとうと言って握手をするさ」

 引き留めたくても、それを言うのは我が儘が過ぎる、とクロックは事務所を出て行った。


☆★☆


 城内の会議室を利用して、コープスの整備担当であるアールは慣れない講師役をやっていた。命のハニカムに手伝わせているが、新型機については自らも勉強中な部分があり、まだ二日目の今日は、講義を受ける整備兵からの質問に答えていく事に終始していた。

 アールにも答えられない部分があり、別に講義を希望する内容も拾い上げる事ができたので、次からはもう少しまともな講義ができるだろう。

 整備兵たちが退室し、慣れない仕事に体よりも精神的に疲れた顔をして書類を纏めていたアールの所へ、ハニカムがやって来た。

「おじさん。大丈夫?」

「ああ。軍でも後輩に指導はしていた。人数が増えたと思えば良い。それより、お前の方はどうだ。()()は果たせそうか?」

「ここじゃなんだから、お城を出ましょう。もう夕方だから、帰りに食事に寄りましょう」

 ハニカムのあっけらかんとした態度に、アールは眉を顰めた。

「お前は、反省するべき立場だという事をわかっていないのか」

「今は監視も無いじゃない。それに、話しておかなくちゃいけない事もあるし」

 ハニカムに腕を引かれ会議室を後にする際、アールは室内の隅にある壁の一部へとちらりと視線を向けた。


 騒がしい食堂を選んだハニカムは、アールと共に奥の席をに座った。ハニカムが奥に座り、店全体を見渡せる位置取りをすると、その向かいにアールが座った。

 適当な料理を注文し、先に持ってこさせたビールを三分の一程へらして、ハニカムは改めて口を開いた。

「ケヴトロ帝国と繋がっている貴族が分かったわ」

「本当か!」

「おちついて、伯父さん」

 腰を浮かせて驚いたアールは、ハニカムに窘められて座りなおした。

 店員が料理を運んで来た。二人の間に、肉と根菜を煮込んだものと魚のオイル煮が置かれると、ハニカムは魚を一切れ口に放り込み、ビールを飲んだ。

「大分出入りが厳しくなったけど、商人として出入りしている連絡員とは話が付いた。そこから、礼のターズたちがやりとりしていた城内の連中が知れたのよ。さしあたって、城内貴族との繋ぎはできそうだから、おじさんには話しておこうと思って」

「おれには、だと? そういう情報が入ったら、スームかクロックに報告する事になっているだろうが」

 肉を噛みながら聞いていたアールは、ハニカムの言葉に引っかかった。命を助けて貰う代わりに、工作員として得た情報をコープスの為に役立てる。そういう約束になっていた。

「伯父さん、このままコープスに居ても、どうせ碌なことにならないわ。連絡員には話を付けておいたから、一緒に逃げましょう」

「お前は……はあ……」

 ため息をついたアールがハニカムを睨みつける。

「逃げると言ってるが、どこへ行くつもりだ? まさか、ケヴトロ帝国へ戻るつもりか?」

「他にどこに行くのよ。あたしはちゃんとケヴトロ帝国軍人の身分があるし、情報を持ち帰った功績もあるから、軍に戻れば出世も待ってる。伯父さんを養うくらいはできるわ」

 懸命に話しているハニカムを、アールは黙って見ていた。

 笑顔を浮かべてはいるが、早口で話す姿には余裕が無い。

「商人の出入りはかなり制限されているけれど、それでも抜け道はいくらでもあるわ。それに、ケヴトロへの協力者になっている貴族から、多少は協力が得られるわ」

「……わかった」

 アールは重々しい動きながら、しっかりと頷いた。

「だが、その貴族や連絡員とやらを、おれは信用できない。明日か明後日、講義の後にその貴族に合わせろ。それと、連絡員の商人の名前も聞いておこう」

「……言わなくちゃ、駄目?」

「おれの命を預ける人物だ。知らない相手を信用する程、気楽な性格はしとらん」

 二人は睨み合っていたが、結局ハニカムが折れた。

「そう、仕方ないか……。念のため言っておくけど、これは秘密よ?」

「ああ。わかっている」

「貴族の方は、手配するからその時に。連絡員だけれど、アナトニエに本店、ケヴトロ帝国にいくつかの支店がある大店“エンクル商会”よ」

「……その商会そのものが、ケヴトロ帝国の協力者か」

 アールは呆れていた。

「そうね。実際に所属している人間が調査に動くことは無いけれど、身分を貸してもらったり、隠れ家を提供して貰ったり、何かと協力はしてくれるわ」

「それだけ大きな商会なら、早々疑われる事も無い、か」

 しかも商会の所属としてはアナトニエ王国側となる。城にも出入りしているだろう。


 小一時間ほど食事をした後、しばらく飲んでから帰ると言ったアールを置いて、ハニカムは先に基地へと帰っていった。

 そして、空いた席に座った人物がいる。ボルトだ。

「……アールのおっさんよ。俺としちゃあ何年も共に戦った奴を、まして女をどうこうするってのは、気が乗らねぇ」

「ああ。そうだろうよ……」

 強い酒を呷ったアールは、今にも泣きそうな顔をしていた。

「だが、俺は聞いちまった。ハニカムの言葉を」

 アールが講義をしていた部屋からずっと、ボルトは二人を監視していたのだ。アールは“信用回復の為”と聞かされていたが、実際は違うと分かっていた。

 ハニカムがケヴトロ帝国とのつながりを明らかにした時点で、その情報をハニカムが喋らずとも手に入れるため。スームはその為に監視を付けた。

「情けない……。おれは戦場に出る事は無かったが、兵士たちはお互いを信頼し、国の為と言いながらも、実際は家族や仲間の為に戦っていた。それを裏切れば、どうなるかは軍で見てきただろうに……」

「スームはまだ帰ってきてねぇよ」

 ボルトは、残っていた肉をつまんで口に放り込むと、席を立った。

「あいつが帰ってくる前に、ハニカムがクロックに報告するのを期待してるぜ」

 長い間、アールは立つ事が出来なかった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


【お知らせ】

明日は『呼び出された殺戮者』の続編『よみがえる殺戮者』を同時2話公開の為、本作『メカファン世界の遊び方』はお休みとさせていただきます。

また、今後はメカファンは毎日更新から隔日更新へと変更いたします。書けたら連日更新しますが。

メカファンのみお読みの方には大変申し訳ありませんが、何卒ご理解・ご了承のほど、よろしくお願い申し上げます。(井戸)

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