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30.新入り

30話目です。

よろしくお願いします。

 コープスとストラトーの戦力は、無事に王都へと帰投した。

 クロックとスームによるケヴトロ帝国からの侵攻再撃退とノーティアの侵攻に対する防衛の成功は、即日でアナトニエ王城から発表された。人々は歓喜し、城下は再び戦勝に沸いた。


 そんな中、傭兵団は休暇である。

 クロックは前回の休暇が中途半端に終わった事もあり、アナトニエ王国との契約を終了させ、完全に仕事を無くした状態で一ヶ月の休暇とした。

 ハニカムについては所属がはっきりするまで“泳がせる”事にして、スームとリューズ、そしてテンプが基地に残り、他のメンバーはそれぞれの休暇を満喫していた。

 そして、コリエスも基地にいる。

 彼女の扱いについて、コープスは王城へ報告をしなかった。契約解除のあと、一度だけ基地を訪ねてきたセマはコリエスと顔を合わせたが、敢えて話しかける事をせず、コリエスはその事に一礼をした。

 そして、休暇が始まって三週間が経った。

「あー……」

 スームは疲労の極みで、ガレージの前にデッキチェアを出してぐったりと倒れていた。いつものフライトジャケットも脱ぎ、シャツ一枚でガレージが作る影の下にいる。

「ダレすぎだろ」

 テンプが作ったらしい、冷たいジュースを持って来たボルトが、スームの横に座った。

「仕方ないだろ。基地に帰ってからこっち、リューズの買い物に付き合った後、ずっと魔動機の作成に没頭してたんだ。昨夜は久しぶりに三時間以上寝たんだ……」

 寝たという割には、黒々としたクマがくっきりと残っている。

「んで、その間に並行してコリエスの訓練か」

「相手はリューズがやってくれてるけどな。クロックが入団テストを俺に押し付けたから、見ないわけにもいかない」

 受け取ったジュースを半分程一気に飲み干したスームは、基地の敷地内で格闘戦を行うイーヴィルキャリアとハードパンチャーの二機へと視線を戻した。

 流石に近接戦闘は随一のセンスを持つリューズだ。操るハードパンチャーは、魔動機というのが信じられない程に上半身を機敏に動かし、右に左にと相手を翻弄している。

 コリエスが操るイーヴィルキャリアは、なんとか盾を巡らせて防いではいるが、時折クリーンヒットを貰っている。

 スームの傍らに置かれた通信機から、「ひゃああ」とか「あきゃ」とかの悲鳴が聞こえてくる。もちろんリューズの声ではない。

「一方的だが……悪くないな」

「ああ、なんだかんだで魔動機の扱いは悪くない。好きこそものの上手なれって事かもな」

「何だそれ?」

「気にするな」

 実際、一方的に攻撃を受けてはいるものの、イーヴィルキャリアのメイン兵装であるカイトシールドは使いこなせている。

 時折、シールドバッシュを試みているあたり、近接戦闘で緊張して動けなくなるような柔な神経はしていないらしい。突然の出来事には弱いが、覚悟を決めて立ち向かうならば動けるというタイプかも知れない。

 最も、近接戦のエキスパートであるリューズが相手で、尚且つその為に作られた機体だ。早々反撃が成功するわけも無い。

「あちゃ、やられたか」

 通信機から甲高い悲鳴が響き、イーヴィルキャリアは仰向けに倒れた。

 地響きと共に舞い上がった土埃が落ち着いた所で良く見ると、機体にはこれと言ったダメージは無いようだ。

「シールドで自分の視界も塞いじまったところで、足を引っかけられて転がされたな。あんなに魔動機を動かせる奴はスームの他に見た事が無ぇ」

「これで射撃のセンスがもうちょっとあればな……。コリエス、聞こえるか?」

 通信機のマイクスイッチを入れたスームは、イーヴィルキャリアへ呼びかけた。

『背中が痛い。目の前がぐるぐる回りますわ~……』

「そのまましばらくじっとしてろ」

 スイッチを切り替え、今度はハードパンチャーと繋ぐ。

『スーム。こんな感じで良い?』

「充分だ。どうだった?」

『ん。えっとね……』

 こほん、と小さく咳払いをしたリューズは、ぺらぺらと喋り出した。

『攻撃はちゃんと見えてるみたい。しっかりガードもできてたし。でも、攻撃に迷いがあるかな。どこを狙ってパンチを出すとか、どの武器を使うとか、そういう所でもたつく癖があるみたい。あとは……』

「ちょっと待て」

 回線を開いて聞いていたのだろう、イーヴィルキャリアの開戦から、さめざめと泣いている声が聞こえてきた。

「コリエス、聞いたな?」

『はい……』

「とりあえず研修な。実戦をこなして様子を見る。最終的にはクロックが決めるが……俺の審査は終了だ」

『ということは……』

「コリエスをコープスの一員として認める。イーヴィルキャリアをお前の専用機として調整するから、明日からしばらくは操縦訓練だ」

 甲高い声で大喜びするコリエスの様子が、耳をつんざく。

 たまらずスームはプチンと通信を切った。

「というわけだ」

「俺は文句ないぞ。それより、俺たちを呼んだ理由を教えてくれ。休暇中にわざわざ呼んだんだ。コリエス嬢の入団祝いってわけでも無いんだろう?」

「当然だ」

 残ったジュースを飲んだスームは、ふらりと立ち上がった。

「ガレージに来てみろ。お前たちの機体が完成したぞ」

「化け物か、お前は……」

 想像していなかった早さで齎された機体完成の報告に、ボルトは不安を覚えた。


☆★☆


 戦力の拡充計画も一旦終了し、戦線の緊張が多少なり緩和した事で王城内は表面的には落ち着きを取り戻していた。

 だが、落ち着かない者も存在する。キパルス王子その人だ。

 待てど暮らせどスーム捕縛の報は届かず、妹であるセマ王女の人望は一層強固なものとなっていた。

 最早、王国軍への影響力は、王よりもセマの方が強いのではないかと噂される程に。

 呼び出され、王子に怒鳴りつけられて彼を鎮めるのに苦労した老子爵は、私邸に密かに滞在させているケヴトロ帝国の工作員であるターズたちに苦情を言う事になる。

 

「という訳でね、あまり良い状況ではない。このまま王子が暴走して失脚でもすれば、俺たちがやって来た準備が全部パアだ」

「知らないわよ、そんな事」

「知らないは無いだろう。あの時の約束を果たしてもらいたい。そろそろ限界だ」

 ハニカムが休暇を満喫し、ふらりと立ち寄ったカフェで、隣のテーブルに背中合わせに座ったのはターズだった。

 視線は合わせず、他の客が出す喧騒の中に掻き消えるような声で話している。

「時期を待てないのは、工作員として失格じゃないの?」

「俺もそれはわかっている。だが、そうも言っていられない事情があるんだ」

「スームは基地に籠りきり。毎日魔動機を触って、他にも何人かが基地に入り浸ってるわ。とてもじゃないけど、手が出せる状況なんて作れないわよ」

 温かい紅茶を傾け、香りを頼むように微笑みで苛立ちを隠したハニカム。

 対して、昼からビールを傾けているターズは、酔った振りをしている。

「多少無理な状況でも良い。場所も問わない」

 それだけ時間が無い、とターズは言う。

 ある程度の傀儡にできる可能性がある王子を優位につけ、セマを軍の指導的立場から外す。これができなければ、ケヴトロ帝国はリスクが高すぎて次の作戦行動に出られない、とターズは饒舌だった。

 王子だけでなく、本国からも急かされているのだろう。

「……わかった。褒章でもなんでも良いから、スームを名指しで王城へ呼び出すように王子を動かして。他のメンバーが付いて行かないようにするから」

「俺たちがコープスの基地に入る形でもいいんだが」

「やめて」

 少し声が大きくなってしまった。

 誰の視線も自分を見ていない事を素早く確認し、ハニカムは言葉を続けた。

「基地のセキュリティは、あなた達が思っているよりずっと強固よ。手引きがあったとしても、危険極まりないの。それに、それをやったらあたしの立場も怪しくなるもの。嫌よ」

 強い否定を受け手、ターズは基地への侵入を諦めた。

「わかった。それじゃ、早いうちに召喚状が出るようにする」

「そのまま捕縛するのじゃ駄目なの?」

「城内の兵士は多くが王女派だ。あまりおおっぴらにしたくない。どこかの部屋に閉じ込めて、始末をつける」

「そう。その辺りは任せるわ」

 金を払い、立ち上がったハニカムは一度もターズを見る事無く去って行った。

 ターズの方は、逆にハニカムの後ろ姿を見ていた。その目は、睨みつけるように険しい。


☆★☆


「お前は……そういう事を軽々しく許可できるわけがなかろう」

「家臣たちの間で交わされている、私やお兄様の話を、お父様もご存じでしょう? これは私にとっても迷惑な話なのです。深窓の令嬢を気取るのも嫌ですけれど、国政に追われてあくせくと働く王などになる気は毛頭ありません」

 王である父親に向かって、「王など嫌だ」とハッキリ言ってのけたセマに、国王ヴァシリウスは顔を覆った。自分の若い頃に比べてかなり才気だった所のある娘ではあったが、まさかそこまで父親の肩書を毛嫌いしていたとは思わなかった。

「そこまで言う事はないだろう……」

「きちんと伝えておかなくては。周囲に担ぎ上げられて不本意なまま王位を押し付けられるのは嫌ですから」

「余の時は、父の命で弟と懸命に競った物だがな……」

 誰に似たのやら、と王は眉間を押えた。思えば亡き王妃は高位貴族の令嬢には珍しい程、質素で贅沢を好まぬ人であった。短い間の家族ではあったが、影響は確かにあったのだろう。

「……良かろう。キパルスには余から伝える事としよう。だが、城を出て何をするかについては、まず余に相談するように。事業を行うのに、金も人手もいるだろう。父親として、余にもできる事があるのだ。あまり一人だけで何もかもをやろうとするものでは無い」

「お父様……ありがとうございます。それでは、まとまり次第ご相談に伺います」

「ああ、できればお前にはキパルスの補佐をして欲しかったが、やりたい事があるのなら、無理強いもできぬよ。……ところで、一つ気になる事があるのだが」

 王の執務室、ソファに座って向かい合った王は、娘の前で居心地が悪そうに座りなおした。彼にしては珍しい態度である。

「なんでしょうか?」

「その……しばしばコープスの基地に顔を出しているようだが、もしかして、傭兵とそういう付き合いをしているのか、あるいは気になる男でもいるのではないかと思ってな……」

「なっ……」

 セマは想定外の話題に、何故か恥ずかしくなって顔を赤らめた。王女の義務としての婚姻について教育を受けた事はあっても、親子でこういった会話をしたのは初めてだった。

「こうなった以上、他国の王族との婚姻などできようはずもない。交戦しなかったヴォーリア連邦もケヴトロ帝国と交戦中である事には変わりないからな。国内の貴族を見繕ってと思ったのだが……本気で城を出るという事であれば、その男に多少の地位を与えて認めなくも無い、と思わなくも無い、気がしないでもないのだが……」

 何とも歯切れの悪い王であったが、セマにとっては中年男がもじもじとしている姿が何とも気恥ずかしく、それが自分の父親である事に言いようの無い違和感を感じた。

「止めてください、お父様。私がコープスの基地へ行っているのは仕事の為ですし、お付き合いしているどころか、気になる男性もいません。彼らはプロですから、そういう目で見るのは失礼です」

「そ、そうか……お前の年齢を考えると複雑だが、まあ、そういう事なら良いのだ。スームという男を引き込む話をしていたのでな。逆に引き込まれたのではないかと気が気で……」

「お父様!」

 テーブルを叩いたセマの姿を見て、王は「しまった」という顔をした。気付かぬうちに、完全に怒らせてしまったらしい。

「とにかく、また顔を出しますから、お兄様へのお話、よろしくお願いしますね!」

 プリプリと怒って、大股で執務室を出ていた娘を、王は声も出せずに見送った。

「陛下。セマ殿下はお年頃なのです。もう少しお話の仕方にお気を付けなさいませんと……」

 一人の女性秘書が、そっと紅茶のお代わりを置きながら注意すると、王は天井を仰いだ。

「女親が居らぬと、こういう所で苦労する。考え物だな」

「セマ殿下はご自分の考えをしっかり持っておられる方です。あまりご心配なされずとも、悪い事にはなりませんよ」

「そうだな。セマは、な」

 キパルス王子を呼ぶよう、秘書に申し付けた王はすぐに考え直して、謁見の間へと呼ぶようにと変更した。

「王子の方には、王としての姿を見せておかねば、な」


☆★☆


 イーヴィルキャリアとハードパンチャーをガレージへ格納し、代わりに姿を見せたのは二機の新型魔動機だった。

「何だ、こりゃ?」

「二機とも、全然形が違いますね」

 太陽の下に初めて引き出された二機は、両方とも黒をベースとした塗装を施されていたのだが、その形状は全く違う。

 一機はジェット戦闘機そのものの見た目をしている。大型のスラスターを薄い機体の後部に四つ持ち、機体全体が流線型をしている。

 もう一機は、ノーマッドの形状に近い。機体を支える脚部はホッパー&ビーのような六本足で、機体をぐるりと囲むように六つのプロペラが装備されている。機体の中央にコクピットがあるのがわかる。

 テンプの手伝いをしていたナットを呼び、兄弟二人の前で胸を張って「どうだ」と言わんばかりのスームは、二機をトレーラーに載せて郊外へ向かうと言った。

「両方とも飛行タイプだからな。広い場所に行かないと、試験もできない」

「わたくしも同行して良いですか!?」

「駄目」

 新型機の威容に興奮気味でねだってきたコリエスは、セマとの再開後に腰まで伸ばしていた赤い髪をボブカットにバッサリと切っていた。スームが作って渡した、目の色を隠すためのバイザーを付けっぱなしにしているので、知人に見られても早々見抜かれる事は無いだろう。

 バイザーのせいで表情が分かりにくいが、一言で却下されて、肩を落として落胆していた。

「リューズと一緒に休んでろ。体力が余っているなら、書類仕事をやってるテンプさんの手伝いでもして来い」

「はぁい……」

「というわけだ、リューズ。留守は頼んだ」

「うん。気を付けてね」

 さっさとトレーラーに乗り込んだスームを、リューズは笑顔で見送る。

機体の詳細について何も聞かされず、不安な顔をした兄弟がそれぞれの機体に乗ったまま敷地を出ていく様子は、まるで家畜が出荷されていくかのようだ。


 残った女性陣は、事務所に集まって経理関係の書類整理を手伝い、後は男たちが帰ってくる前に買い物をして、夕食を作らなくちゃいけないと言う話をしていた。

「あら、スームはいないの?」

 事務所に顔を出したのはハニカムだった。

「新型の調整で、ボルトたちと郊外に行ったみたいね。どうかしたの?」

「あたしの機体の件で話をしたかったんだけど……」

 テンプが尋ねると、ハニカムは腕を組んで考えた。

「夜には戻ると思うわよ。夕食を食べて行ったら?」

「そうね。じゃあ、ご一緒しようかしら」

「じゃあ座りなよ。今、みんなで献立を考えてたのよ」

 リューズに勧められてソファに座ったハニカム。その目の前には、コリエスが座っていた。

 思わず彼女の顔をじっと見ていたらしく、コリエスが落ち着かない様子で「何でしょう?」と聞いてきた。

「ああ、ごめんなさい。髪を切ったのね。似合うと思うわ」

「ありがとうございます。前髪がチクチクして落ち着かないものですから、魔動機に乗る時はこんなバイザーをしておりますわ」

 小さなポーチから取り出したバイザーを顔に着けて見せたコリエスは嬉しそうだ。彼女は言わなかったが、スームが作ったものでは無いかと想像がつく。

 だとすると、何かしら妙な機能が付いているのでは、と邪推してしまうのだが。

「いいわね。あたしも戦闘中は顔に傷がつかないように、マスクをしているの」

 首に提げたマスクを引き上げて、つるりとした白い仮面でコリエスと向かい合う。

「とても格好いいですわ!」

「でしょう? みんなこれの良さをわかってくれないのよ」

 仮面で向かい合う女性二人を、リューズとテンプは顔を引きつらせて見ていた。


 その直後、数人の男たちがコープスの基地へと侵入した。

 ケヴトロ帝国の工作員、ターズたちだ。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


※拙作『呼び出された殺戮者』の続編投稿開始に関しまして、

 昨日付の活動報告にてご連絡させていただきました。

 本作『メカファン世界の遊び方』についても変更があります、

 宜しければご確認をお願いいたします。

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