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18.戦果

18話目です。

よろしくお願いします。

 傭兵団ストラトーの団長、ミテーラはアナトニエ王国軍が撃ち始めた時点で、彼らの参戦に気付いた。

「何を考えてるんだろうね! 戦場の状況が見えていないのかい!」

 ミテーラも、過去に幾人もの部隊責任者を見てきたが、数が多ければ特段の作戦など必要無いと言い放つ者は少なくなかった。機体の性能などは度外視した発言だ。昔のように剣や槍、弓を持って当たる戦闘であれば、単純に兵力が同じであればそのまま戦力として数えられたかも知れない。

 弓の代わりに砲があり、人数が減って訓練を受けた兵士が戦うようになっただけ、むしろ魔動機に適性があるエリートが選抜されて戦うようになった時点で、魔動機戦闘に関わる軍人の地位は上がっているのは間違いないのだが、戦闘に関する意識が追い付いているかというと、話は別だ。

 魔法が戦争で左程使えず、人海戦術で戦っていた所に、突然魔動機という物が開発され、投入された歪な戦場では、人型に固執する上層部と以前の戦い方に固執する現場とが頭を切り替える事が出来ずにいる。

「少し早いけど、巻き込まれたくはないわね」

 巨体を誇るミテーラの機体から、ラッパのような大きな音が響いた。撤退の合図だ。

 すぐに背を向けるわけにもいかないが、流石にストラトーのパイロットたちは手慣れたもので、サーベルを大きく振り回したり、前方の敵にタックルをしてバランスを崩させるなどして隙を作り、順次離脱していく。

 いつの間にか戦線に参加していたスームが操るイーヴィルキャリアの姿も、ミテーラは確認していた。

 ストラトーの攻勢に対して側面から的確に援護をしてくれており、突入を控えて彼女たちの動きを邪魔しないように立ちまわっているあたり、慣れた物を感じた。

 そんなスームも、アナトニエの軍勢を発見したらしい。敵を挟んで真正面から当たる形になるのを避けたのか、いつの間にか戦場を離脱している。

「上手いものね。それに比べて……」

 バラバラと届くアナトニエの弾丸は、実の所ストラトーの機体にも少なからず当たっている。大したダメージにはならないが、部下たちも不愉快を通り越して怒っているだろう。

「これだから新兵は……!」

 吐き捨てるように呟き、ミテーラは機体の向きを変えないまま、味方を庇うようにして後退を始める。

 兵の誰もがろくな戦闘経験が無いアナトニエ王国軍。彼らは命令に従って、訓練で繰り返した通りに遠距離の間は砲を撃ち、近づいてから剣を振るう事だけを考えているのだろう。

 狂騒とも言っていい集団での興奮状態は、目の前の戦場を生き抜く事にしか考えが回らず、そのためには攻撃し続ける事しかできない、と考える。

「指揮官は……後方でのんびりと観戦しているだけ、ね。そんなに戦いたければ、自分たちだけでやれば良いわ」

 撤退完了前にミテーラが確認したところ、ケヴトロ帝国の魔動機は想定以上に頑丈で、予定よりも数を減らすことができていない。残存する機体は二十機を超えるかどうかというところか。

 対して、ストラトーの方は二十機のうち五機程沈黙しているが、それらも僚機に引きずられて戦場を離脱している。パイロットが無事かどうかは、まだ確認できていないが。

「しかし、クロック達はどうしたのかしら?」

 麦畑へ踏み込んだ所で、振り向いて速度を上げる。

 部下たちの機体もしっかりと予定のポイントへ向かって進んでいるのを確認してから、再び戦場を見た。

 ケヴトロ帝国軍二十数機と、アナトニエ王国軍百機がぶつかりあうのが見えた。アナトニエの軍が使うのは、ノーティアと同じく四角いフォルムの大剣なのだが、どうにも動きにぎこちなさを感じる。

「さあて、どうなるかしらね?」

 少し離れた所に、ストラトーの機体に守られて、セマ王女が送った督戦の人員がいる。ポジションは本人たちに任せていたので、今どこにいるのかまでは不明だが、この状況をしっかりと確認していて欲しいと思う。


☆★☆


「どういう事だ?」

 ストラトーの撤退とアナトニエ王国軍の参戦に合わせて、大きく迂回してクロック達がいる自陣へと帰ったスームを待っていたのは、リューズ重傷の知らせだった。

 すでにギアとアールが付き添い、彼女は王都の治療院へと送られたらしい。

「弾丸は脇腹を貫通していた。内臓も大丈夫だろう。死ぬ事は無いだろうが、しばらくは動けないだろうな」

 状況を知ったクロックにより素早く行われた応急処置が功を奏し、左程重篤では無い、と聞いて、スームは一度地面にどっかりと座った。

 クロックとスームの他、ここにはハニカムとラチェット、そしてボルトたち兄弟がいる。

 ストラトーのメンバーも順次戻り始めており、自分たちの被害状況の確認に奔走している。

「まず言っておくが、この件についてはリューズにも責任がある、とわしは考えておる」

「クロック!」

「まあ、聞け」

 声を上げたスームを、その前に座りながらクロックは話を続けた。

「あの時、味方だからと言って油断した事……いや、もっと言えばアナトニエ王国軍を味方だと信用しきって動いた事はリューズの失敗だ。もちろん、自らが後方で町を守ると嘯いておきながら、何を考えたのか状況も知らずに飛び込んでくる程に周りが見えていないイアディボにも文句はある」

「……リューズは、何をしようとしたんだ?」

「混戦になれば、敵中にいるお前が危険だと思ったんだよ、スーム」

 ラチェットが会話に加わる。

「俺が? でも、こんな状況は今まで何度もあっただろ?」

「違うんだ、今は状況が違う。スームと二人で交わした約束があるんだろう?」

 スームは、黙ったままラチェットを睨む。なぜ知ってるのか、という事と、その事だけでリューズが取り乱すという状況が今一つ飲み込めていないのだ。

「その件については、わしの責任が大きい、な」

 うなだれたクロックは、普段の力強さを失って、すっかり肩を落としている。

「異性との事でうわついた気持ちになって戦場で失敗する奴を、わしは今まで沢山見てきた。スームの方は、そんな事は無いと信じておったし、実際に生還して見せたが……」

 クロックに、ラチェットも同調する。

「俺も悪かった。少しからかっただけだったんだけど……リューズは、君との約束を本当に楽しみにしていたんだ」

「とにかく!」

 ラチェットは殊更大声を出して立ち上がる。

「今はまだ戦闘中だ。アナトニエの連中が敗走してきたら、ここで支える必要がある!」

 スームは、黙って立ち上がった。

「クロック、片が付いたら話がある」

「分かっている。わしもだ。ボルト、マッドジャイロはどうだ?」

「多少は飛べるが、機体を抱えて飛行するのは無理だな。偵察なら問題無い」

「そうか。念のため機体に待機してくれ」

「わかった」


 それぞれの機体へ戻っていく男たちを見送って、まだ座ったままのラチェットに、ハニカムが近づく。

「ラチェット、人の恋路に口出しするなんて、野暮な事するんじゃないわよ」

「まったくだね。俺らしくなかった、と反省しているよ。それに、女性たちに惑わされないように、俺も気を付けないとね」

 ヘラヘラと笑いながら見上げたラチェットを、ハニカムは真顔のまま見下ろした。

「貴方は大丈夫でしょう。どんな女と話していても、心が動いているように見えないもの」

「おっと、酷いな。僕は真剣に彼女たちと遊んでいるんだよ。それに、君だってそうじゃないかな、ハニカム」

 しばらく見下ろしていたハニカムは、黙って踵を返し、自分の機体へと戻った。


☆★☆


「こんなはずでは……」

 全く以て考えもしていなかった状況に、イアディボは呻いた。


 イアディボが戦場へと到着した時点で、すでに自軍は当初の指示通り、敵へと突貫を開始していた。

 敵は既に数を減らしており、無惨に破壊された機体が街道や脇の畑の中にゴロゴロと転がっている。トレーラーのドライバーなのか、コクピットから抜け出てきたパイロットなのか、生身の身体で横たわる人影もちらほら見えた。

 そこまで確認した時点で、イアディボは自軍の圧勝を確信していた。傭兵の機体が見当たらない事が引っかかったが、邪魔をされずに悠々と戦果を挙げられる舞台が整った事に狂喜した。

 このまま圧倒的な数の差を以て勝利すれば、王への報告はイアディボへの賞賛を羅列した物になるだろう。

 小柄なノーティア機を元にした機体であり、ケヴトロ帝国の機体よりも一回り小さいと言っても、数で押し込めば問題無い、というのがイアディボの“計算”であった。真正面からぶつかりあう戦闘で、寡兵が勝利するなど有りえない。


 だが、その夢は脆くも崩れていく。

 戦闘が始まって三十分程経ったが、ケヴトロ帝国軍機は一向に数が減らない。それどころか、アナトニエ王国軍の機体は次々と打ち倒されていく。

 ローカライズされたアナトニエ機は、性能としてはケヴトロの最新鋭機にかなり差を付けられている。機動性や魔力の効率化もあるが、何より装甲と武装に大きな隔たりがあった。

 イアディボは、目の前の戦いによって、その事を否応なく知る事となる。

 アナトニエ軍が打ち出す砲は、ケヴトロ軍の装甲を満足に貫通できず、剣は半ばまで食い込むも、肩や腕の装甲で受け止められてしまうと、大したダメージも与えられない。

 逆に、ケヴトロ軍が撃つ砲はいとも簡単にアナトニエの機体を貫き、メイスは装甲ごとコクピットを叩き潰す。

 腹部から血を流して倒れる機体が続出し、擱座した味方の機体が邪魔になって少数の相手に対して充分な圧力をかける事も出来ずにいる。これが人間同士の戦いなら、死体は無惨に踏みつぶされるだけだが、魔動機で魔動機を乗り越えるのは、機体性能的にも兵士達の技量的にも不可能だった。

 そうして詰みあがった味方の残骸に妨げられる形で、アナトニエ王国軍はケヴトロ軍が撤退していくのを呆然と見送る事になる。

 後方にいたため、イアディボの機体も彼自身も無傷だが、つまるところ後方の部隊は戦場に参加する事すら敵わなかったという事になる。

 波のように襲いかかり、敵の魔動機を一気呵成に打ち破るはずだったはずが、終わってみればケヴトロ軍は十五機以上がトレーラーを使って撤退し、アナトニエ側は三十機以上を損耗する結果となった。


 この状況を、地上の麦畑に立つストラトーの機体に同乗していた、セマが送った文官が確認し、さらには空から状況確認に来ていたマッドジャイロも確認した。


☆★☆


 戦いが終わり、傭兵達は足早に退却する。

 唯一、マッドジャイロだけがケヴトロ軍がしっかり国境を越えて撤退するまでを追い、ハードパンチャーを除くコープスの他の機体は、一度補給をしてから国境を目指す事になっている。もしケヴトロ帝国軍が撤退の途上で町を襲ったり、国境で何がしかの動きを見せた場合は、即時に対応するためだ。

 ストラトーの機体もトレーラーに載せて、十機程がコープスと同行する。


 国を守ると息巻いていた将軍は、追撃も追跡も命じる事ができなかった。トレーラーに追いつける機動性を持たなかった事もあるが、損害が大きすぎて隊をまとめ終わる前に、王城のセマから呼び出されたからだ。

 督戦した文官と、補足として証言したストラトーの隊員たちの話から、セマは全ての戦況を把握していた。


 王城へと戻り、機体から降りたイアディボは、会議室などでは無く、王への謁見の間へと誘導された。

 イアディボは、王とその傍らに立つセマの前に堂々とした姿で立ち、大げさな身振りで跪く。

 その姿を、部屋の隅に立ち並ぶ重臣たちは、厳しい視線で見つめていた。

「さて……余はセマからの報告は聞いておる」

 アナトニエの国王であるヴァシリウス・アナトニエは、まだ若い。年齢は四十に差し掛かろうという所で、殊更年寄りめいた話方をするのも、多少なり威厳を持たせようという本人の心がけに過ぎない。

 とはいえ、充分に鍛えられた体躯は、立派な玉座に収まってなお大きく見え、鋭く見下ろす目もあって、本人が思うよりも威圧感を放っている。

「イアディボ。お前を待つ間、つくづく余は愚王である、と考えておった。民を守る為の兵を揃え、魔動機を揃えた。いや、揃えたつもりであった。地理的にも外交的にも安定し、よもや他国が攻めてこようとは思わず、今の世の中にあって何ら役に立たぬガラクタを並べて、満足しておったに過ぎぬとは……」

 目頭を押さえて、王は痛切な表情を浮かべた。

「お父様……」

 セマが声をかけると、「大丈夫だ」と答えた。

「此度、二度も他国の侵入を許した事は、余の不徳と致すところである。すでに国境警備のための兵員は送っておるが、いつまでも傭兵に頼る訳にもいかぬ。急ぎ増員を送らねばなるまい。さらには、装備についても一新しなければならぬだろう。……犠牲となった者たちについては、遺体を回収し手厚く葬り、遺族には王宮が責任を以てその生活を支える事を約束しよう」

 さて、と王は目の前に平伏しているイアディボへと視線を落とした。

「イアディボよ。将として此度の戦について、お前の言を聞こう」

「はっ!」

 直言を許され、イアディボは顔を上げた。

「愚かにも王都の眼前まで迫りました敵兵に対し、傭兵どもは多少数を減らした程度でありましたが、援軍に駆け付けた我らがアナトニエ王国魔動機兵により、敵は逃げ帰りましてございます」

「ほう……」

 淀みなく言ってのけたイアディボに、王は唸った。

「して、敵はどれほど減らし、味方はどれほど損耗したのか」

「未だ戦場を確認しておりませぬゆえ、正確にはわかりませぬ。ただ、我が方が勝ちました事は、疑いの無い事実でございます」

「……では、敗残した敵は逃げたと言うが、その者達はどうなったのだ?」

「残念ながら、敵はトレーラーを使って移動しており、魔動機の足では追う事が叶いませぬ。ですが、敵はもはや敗残の身、ほどなく来た道を引き換えし、ケヴトロ帝国へと逃げ帰る事は間違いありません」

 イアディボの報告を受け、王は部屋の隅にいる人物を見た。王の視線を受けたその人物は記録係であり、台の上に広げた羊皮紙にしっかりと先ほどの証言を書きつけると、しっかりと一礼する。

「では、もう一つ聞こう」

 王はたっぷりと間を置いて、口を開く。

「傭兵団コープスの女性兵士が、お前に撃たれたという話が、余の元へ届いておる。我が国が運営する治療院にて治療を受け、その者は回復の途上であると言う。その治療院から、届いた物がある」

 セマが小さな布に包んだ弾丸を王へ手渡す。布にべったりと赤黒い血の跡を残したその弾丸は、多少バランスの悪い不格好な物だが、手作業で作られるそれは高価なもので、一般の兵士は拳銃そのものを持っていない。

「この弾は、その女性兵が撃たれた時の物のようだ。貫通し、服の中から見つかったと報告を受けておる」

 この時点で、イアディボはすっかり青くなっていた。

 だが、まだ不服を言うだけの元気はあった。

「へ、陛下。その女は我が軍の行動を邪魔したのです! ですから、私はこの国を守る為に仕方なく撃ったまででありまして……」

「なぜ、その兵士はお前を止めようとしたのだ?」

「う……」

 イアディボは答えに窮した。理由などわからないからだ。

 その時は邪魔な傭兵を排除しただけに過ぎなかったが、何故傭兵達がイアディボを止めて話をしようとしたかまでは聞こうともしなかった。

「答えぬ……か」

 イアディボ自身、撃ったと証言し、尚且つその理由が説明できない。

「お待ちください陛下! 傭兵が一人怪我をした程度の事、取るに足らぬ事ではございませぬか! 役立たずの連中が抜かす戯言と、陛下の臣が申します事、どちらが信用に足るか、聡明にあらせられる陛下であれば……」

「よかろう。では余の臣たる者の話を聞こうではないか……いや、正確には既に聞いておる」

「なんと……」

「イアディボ将軍」

 一歩だけ進み出たセマは、冷たい目でイアディボを見下ろし、言葉を紡ぐ。

「開戦からの動きは、一通り監視しておりました。傭兵達がどのような作戦を立てて動き、ミスをしながらも挽回し、どのようにしてケヴトロ帝国の軍を追い詰めていたのかも。そして、貴方が指揮する兵が、いかにして戦場で敗れたかを」

「や、敗れたですと……? 殿下は、我が軍が敗れたとおっしゃるのですか……!」

 先ほどまでは青ざめていたイアディボの顔は、今度は怒りで赤く染まっていた。

「五体程度の敵を撃ち減らすまでに、三十機以上の味方を減らした事を、勝利と定義するのであれば、私が間違っているのかも知れませんね」

「イアディボよ。貴様が正確な報告をして、傭兵の働きや戦果について正確な報告をするのであれば、余としてもまだ考える余地はあったが……なんとも、救えぬ奴よ」

 王が右手を上げると、数名の兵士がイアディボの両腕を取って無理やり立たせた。

「へ、陛下……」

「刑については、状況が詳しくわかり次第決める。それまで、牢の中で反省しておれ」

 喚き声を上げながら引き摺られていくイアディボの姿が謁見の間から消えると、王は傍らの娘へと話しかけた。

「セマ。ケヴトロ帝国軍の件だが……」

「道中の町に滞在する兵士には、余計な手出しをせず、通過した時点で連絡と民衆の避難解除を指示しております。また、国境へは近くの町から臨時で魔動機を向かわせる手配を」

「そうか……結局、今回は傭兵に助けられた。それに、ケヴトロ帝国の軍が多くなかった事も、であるな。此度の戦いは、余の目を覚まさせるに充分であった。取り急ぎ、国防の見直しをせねばならぬの」

「お父様。その件についてですが、私に提案がございます」

 ノーティアとの件も片付いていない状況に頭痛を覚え始めた王に、セマは微笑みを添えて提案した。

「此度の戦いにおいて、最も大きな戦果はコープスとストラトーという実力のある傭兵達と繋がりが出来た事です。多少の不幸はありましたが、その謝罪も含めて、この際ですから、かの傭兵達を全面的に頼る事にいたしましょう」

 その後、詳しく語られたセマの提案は王に受け入れられ、彼女をトップとしてアナトニエ王国軍は大きな改革を目指す事になった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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