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俺と僕  作者: tama
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奮闘

 その頃大河は地下へと続くこのアジトの最下層へと向かっていた。階段を下りる途中に何度か盗賊と出会ったが、難なく蹴散らした。

 二分ほど下りると、厳重にロックされた扉の前へとたどり着いた。

「鍵が掛かっているのか…。俺は『目の前の扉』を否定する。」

 すると扉が消え失せた。

 その奥には数人の盗賊と、その親玉が居た。

「だ、誰だてめぇ!?」

 一人の盗賊が言う。

「お前ら。もう諦めろ。雷神を呼び寄せる事なんて出来ねぇぞ?」

 大河は手に持つ剣を振る。

「なぁ…お前、なんでここまでこれたんだ…?」

 親玉が大きな椅子にどっかりと座り、手すりに肘をついて偉そうにそう言った。

「さぁな。お前こそ、なんでそこまで冷静なんだ?」

 大河は質問を質問で返した。親玉がにやりと笑う。

「あぁ。俺ぁこう見えても、内心あせってんだぜ?」

「そうか。言いたいことはそれだけか?」

「いいゃ、まだある。お前がここまでこれたってこたぁ、やはりあの仮面の女は裏切ったんだな。」

 左頬にある大きな刀傷を擦りながら言った。

「まぁそんだけお前が強いってことなんだろうが。」

 親玉はまるで焦っているような素振りは見せない。寧ろ余裕だった。

「雷神の降臨の仕方、知ってるか?」

 親玉がそう言った。大河は返事をせず、ただ親玉を見ていた。それを親玉は否と受け取り話を続ける。

「まぁ生け贄さえ居れば場所や時間は問わねぇってこった。」

 そう言って親玉は立ち上がった。大河は少し身構える。親玉は一歩ずつ前に進む。

「俺は『否定による俺への干渉』を否定する。」

 そう唱えた。

「あ?なんか言ったか?…ふん、まぁいい。ここまで来て正義のヒーローぶってんだろうが、それもここで終わりだ。」

 親玉はポケットから黄色く光る玉を取り出した。それは昼の太陽のような輝きをもっていた。

「なんだ…それは?」

 大河は親玉が何をしようとしているのかが分からなかった。

「我、ここに捧げる。生け贄たる生命を。そして参られよ――」

 大河はここで察した。早く――『否定』しなければ!!

「俺は『言葉』を――」

 しかし、遅かった。

「"雷神・トール"」

 すると周りの盗賊たちが心臓を押さえ、もがき苦しんだ。地に膝をつき、うめき声をあげた。

「くそっ――まさか、ここに呼び出すとはな。」

 アジト内でも分かるぐらいに外は雷鳴と激しい雨で荒れていた。そして大河の目の前に雷を伴った時空の歪みが出来た。

 バチバチと轟音をあげ、歪みから雷神トールが降臨した。

 トールは巨人のように大きく、20メートルはあろう天井まで頭が届いていた。

 腰巻きのような衣服を身に付けており、手にはハンマーを持っていた。

「かっかっか!!俺ぁあの仮面の女からトールを呼びだす為のアイテムを貰ってたんだよ!」

 親玉は愉快に笑う。

「それに、今こいつぁ、俺の言いなりだ!こいつの力で『アリア』共々壊滅して、この世界を支配してやる!!」

 親玉は行け!とトールに大河に攻撃するよう指示を出した。その指示にトールは従った。

 ハンマーを振り上げた。それは天井を破壊し、上の階層まで届くほどだった。

 アジト内がゴゴゴと音をたててうごめいた。

「俺は『力の差(パワーバランス)』を否定する。」と大河が言った。

 親玉はそれが聞こえていない。

「ブッ潰せぇぇぇええ!!」

 親玉が叫んだ。トールの瞳が光る。

「オオオオオオオ」

 トールがうめいた。

 そしてハンマーを降り下ろす。天井を破壊しながらも大河に接近していった。その振動でアジト内の振動に拍車をかける。


 あと数センチのところまで来た。


 親玉は勝ちを確信した。


 が。


 大河は腕一本で受け止めるのだった。


「…………」


「はぁぁあああああああ!?!?!!??」


 親玉は一瞬沈黙し、その後理解不能な状況に驚いた。"神の一撃"を素手で受け止めたからである。


「俺は別にこいつに恨みがあるわけじゃねぇ。俺が恨むのは、憎むのは、『お前ら』だ。」

 そう言って大河は親玉を睨む。

 トールは指示を受けなければ動くことができない。

 そして今は『力の差』の否定により、全世界の生物の力が均一された。しかし、その前に大河は、『否定による大河への干渉』を否定したため、《『力の差』の否定》を受けないのだ。

 大河は過去に空手と柔道をしていたことから、筋力があり、運動神経も良かった。現在大河は力だけで言えば、全生物最強となっている。

「さて、俺はお前らみたいな理不尽に悪事を働くやつがこの世で一番嫌いなんだ。

 お前らには、然るべき報いを与える。」

 大河は光のない、真っ黒な眼で親玉を睨む。

「ひっ……!」

 親玉は尻餅をついた。


 大河は一瞬にして親玉の前へと移動した。

 大河は『速度』を否定したのだ。そうすることで全生物の速度に対する認識が遅れたのだ。しかしこれも大河による干渉が無いため、一瞬にして親玉の前に移動したように見えた(・・・)のだ。


 大河は剣を振り上げた。

「死ね。」

 そして親玉の首に降り下ろそうとした……その時。

「待って!」


 ナデシコの声が聞こえた。

「……なんだ…?」

 大河が振り向くとそこにナデシコが立っていたのだ。

「その男を殺したら、『アリア』の情報が掴めない。そいつは、国に引き渡すべき。」

「ふん。知ったこっちゃねぇ。こいつは生かすべきではない。今、ここで、殺すべきだ。」

「駄目。そんなことをすれば……貴方と…戦わなければならない。」

「……。それは、"俺"が許しても"僕"が許さないだろうな。それだけは避けたい。」

「なら――」

「それでも。"俺"の憎しみは強すぎた。」

 ナデシコは唾を飲み込む。大河のこの人格と――過去に何があったか――分からなかった。

 大河は親玉を睨む。

「……っ!ま、まて……と、取り引きしよう!」

 親玉は生き延びようと、大河に提案を持ちかけた。

「トールは解放するし、この玉も引き渡す。だ、だから命だけは……」

「死ね。」

 大河は問答無用で振り上げた剣を降り下ろした。


 親玉の首に届こうとしたその時。


 キィン!


 金属のぶつかる音がした。


 ナデシコが刀で大河の剣を止めたのだ。


「なに……!?」


 大河は驚いた。それは、『速度』を否定している状況下で10メートルはあったであろう距離を一瞬で移動できたこと。そして、触れたものを『否定』する剣、ダインスレイフをナデシコの刀で受け止めることが出来たこと。更に言うと、『力の差』も否定されているのにも関わらず大河の一撃を受け止めれたこと。これらが大河を驚かせるものだった。

「驚いてる……ね。」とナデシコが言った。

「邪魔をするのか……?」

 大河が言う。

「仕方がない。」

 ナデシコも淡々と言った。

 二人は睨み合うが、それでも親玉を視界からははずさない。もし親玉が何かアクションを起こせばすぐさま対応出来るようにしていた。親玉もそれを察し、何も出来なかった。

「ひとつ聞いていいか?」と大河が言った。

「何故『否定』に干渉されないか……?」

「ああ。」

「それは、貴方のつけていた手錠と足枷が原因。」

「何?あれは魔法を使えなくするだけだろう?俺はアカリによってそれさえも『否定』した。今は手錠なんてついていない。」

 大河はアカリの力によって手錠と足枷を否定した。今はどちらもついておらず、万が一手錠と足枷に何か細工があったとしても今は効力外にあるはずだ。

 しかしナデシコは、大河の言葉に首を振る。

「あれはいつか現れるロードの力を封じ込めるために作られたもの。三大陸の科学者達を協力させて、研究を進めてきた。

 今は完全に封じ込めれない。……けど、少しなら出来る。」

「それは分かったが、今はついていない。それに、なぜそれがお前に否定の能力が効かないのか。」

「あの手錠と足枷は、"不死鳥・フェニックス"の眼から作られた原石で、出来ている。つまり、否定しても、再生する。その存在すらも。」

 つまり、フェニックスから作られた原石は、たとえフェニックスの存在を否定し、かき消したとしても再生するようになっている。

「貴方の腕には、眼に見えないけど魔法がかかっている。この魔法は、何千年という研究の成果。対になる魔法をかけた者に対してその能力を発揮する。」

「つまり、その魔法とやらが俺の能力の発動を妨げるんだな?でもそれは同じ魔法がかけられた者に対してだけ……つまり、三銃士。」

 大河がそう分析すると、ナデシコはうなずいた。

「限定三人……王様は、三銃士に託した。」

 なるほど。つまり、本当の敵となるのは『アリア』でも"あいつら"でもない。三銃士ってわけだ。

 大河はその皮肉な運命にニヤリと笑った。

「やるしかねぇようだな?」

 それでも大河は引き下がらなかった。

「俺は『魔道』を否定する。」

 大河がそう唱えると、ナデシコの刀、『撫子』が消え失せた。

「!?」

 ナデシコは一瞬取り乱す。自分への否定の干渉が無いにも関わらず、何故『撫子』が消えたのか。

 ナデシコは再び魔法を再構築し、『撫子』を出現させた。

 時間にして約二秒――その二秒がナデシコにとっては命取りだった。

 大河はもうすでに、背後に回っていた。

「……っ!しまっ――!!」

 大河がダインスレイフを降り下ろした――その時。


 ドクンッ!!


 大河の心臓に激しい痛みを襲った。

「ぐぁっ!!」

 大河は心臓を手で抑える。

 ナデシコは隙ありと魔法で撫子を強化した。

「ナデ…シコ…に……手を……出すな……。」

 大河のその声は、いつもの、スケベでどこか優しげな声。『僕』だった。


 何故なのか――ナデシコは大河に攻撃することが出来なかった。

 脳裏に浮かんだのは、生け贄を捕まえるためにわざと捕まると言ったあの時、必死になって止めてくれた姿。

 ナデシコは三銃士の中でも特に残酷な心の持ち主で有名だった。にもかかわらず、大河を殺すことに抵抗してしまっている。おかしい。何故――


 その時、親玉が魔法を唱えた。


 直径三十センチはあるであろう火の玉が心臓部分を貫いた。


「……かっ……」


 大河の体に風穴が空く。これほどかというほどの吐血。


「っ……タイガ!!」


 大河は二度目の死を向かえた。

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