これ以上人が傷つくのを見たくはない
残酷な表現があります。お読みになる際はおきをつけてください。
「ナデシコ可愛いね!僕、興奮してきたよ!」
「は?…し、しね。」
ナデシコは白いワンピースを着て試着室から出てきた。彼女はとても似合っていて、レディースコーナーの女性さえも魅了した。大河に褒められ、照れながらも暴言を吐く姿はどこかキュンとするものがあった。
大河はというと、試着を終えた。正直、ナデシコよりも美しい。体格もそこまでゴツゴツしていないので、少し厚着をすれば誤魔化せるのだ。スカートにニーソを履いてすねげを隠す。上は一回り大きいシャツにパーカーを羽織ってボディラインを隠す。最後にニット帽を被る。するとどこから見ても女性に見える。
『タイガ、その格好で一人称僕はやめてよ?ボクとキャラが被るじゃないか!』
大河の脳内に不意に話しかけるアカリ。
大河は声に出すわけにも行かないので、心のなかで分かったよ、言った。するとそれがアカリにも伝わったようで、納得したようだった。
(思ってること筒抜けなんじゃ…)
『当たり前じゃん。タイガが毎日女たちを見てオ○ってるのも知ってるよ?』
「ひ、人聞き悪いこというな!!やってないよ!!」
声を出してから状況に気づく大河。ナデシコはきょとんとした顔で大河を見ていた。
―――――――――――
大河とナデシコは町の外へ出歩く。時間は14時ほどだった。外を出歩く町人がほぼいない事からもうすぐ盗賊が来ることを知らせる。
「もうすぐ来るのかなぁ?」
「多分…。」
すると、道の先に集団が見えた。
盗賊だ。
「ぎゃははは!!あいつなかなか良かったよなぁ!?抵抗もせずにケツ振ってよぉ!」
「あー?抵抗しないんじゃもの足りねぇだろ!俺んとこなんか泣きわめいて…そりゃあ興奮したね!」
「でも顔がちょっと…なぁ?」
「ブスしかしないよな。」
「お?あそこ見ろよ。上玉が二人歩いてるぜ?」
「定員はあと二人だったから……ちょうどいい、あいつらを捕まえよう。」
盗賊たちは下品な話をしているうちに大河とナデシコを発見し、捕獲しようと試みた。
「おぉう、べっぴんさん。俺らと来てもらおうかぁ?」
(き、きたぁぁ……。)
大河は心底怯えていたが、わざと捕まる事が目的。おとなしくナデシコと大河は盗賊たちに捕まった。
――盗賊アジト――
「わーおっかねぇ。ナデシコホントにこれ大丈夫なの?」
大河とナデシコは牢屋に入れられた。他にも牢屋はあるが、誰も入っていなかった。
ナデシコは手錠を眺める。
「『撫子』。」
ナデシコがそう言うと、彼女の背丈と同じぐらいの刀身をもった日本刀が出現した。
「魔法は使える…。」
「じゃあそれでこっから出て、捕虜助けようぜ!」
大河はそう言ったが、首を振る。
「ここで暴れても…良いことはない。『アリア』が関わっているとしたら、相当の手練れが居る。……私と同じぐらいの…。」
大河は大体察していたが、念のため聞いた。
「な、なぁ、その『アリア』ってのが国に逆らっている組織なのか?」
「そう。恐らくここの盗賊もグル。……神を降臨させる事は、『アリア』の目的だから。」
つまり、アリアは神を降臨させることで、この世界を支配しようとしているわけだ。そこからの関連性を考えれば、盗賊がアリアと関わっている可能性がきわめて高い、というわけだ。
「ここは、待つ。好機が来れば……捕虜の場所を…聞く。助けれたら…攻める。」
三銃士と互角に戦えるほどの人物が居るから、捕虜達がいる状況で戦ってしまえば巻き込みかねないので、チャンスを待つという選択をしたのだ。
しばらくすると、盗賊達が牢屋の扉を開けた。
「おい、ついてこい。」
そう指示を出した。
盗賊についていくと、一つの部屋の扉の前にたどり着いた。
その中に入ると、大河とナデシコは絶句した。
辱しめを受けた女性が泣きながら地面に横たわっていた。犯されたのだ。
その隣で裸の盗賊が二人いた。女性は見るも無惨な姿だった。
「な、なんだよ…これ……。」
思わず大河は声を漏らした。そんな声を無視して、盗賊が言った。
「お前ら、その女を牢につれてけ。次は俺の番だからよ。」
「なかなかの上玉じゃねぇか!俺に一発ヤらせろ!」
「バカ野郎、お前はその女でしただろうが!帰れ!」
なんて糞野郎なんだ。思わず怒りが込み上げてくる大河。その女性の目に光はなく、絶望しきっていた。その人を見ると、大河は過去の事を思い出してしまう。
大切な人が、知らない人に犯されたあの日を。
その瞬間、心臓が痛くなった。
(はっ……はっ……ぐ…)
手が震える。それほど怒っているのだろう。大河は盗賊の姿を奴の姿に被せた。ふと、手に冷たい何かが触れた。
横を見ると、ナデシコが首を振って「落ち着け」と言うような眼差しで大河を見ていた。その目は確実に怒っていた。だが、彼女は怒ってはいけないと自分を必死に押さえつけているのだ。
目的は捕虜の場所を聞き出し、生きた状態で解放すること。ここで暴れてしまえば、『アリア』の刺客との戦闘になり、お互いただじゃすまなくなる。
盗賊は先程の女性を乱雑に牢へ連れていった。
大河とナデシコは二人の盗賊によって身体を押され、地面に手をついた。
「おい、お前はどっちにいくんだ?」
「右のワンピースだな。」
「じゃ、俺はニット帽か。」
下品に笑いながら迫ってくる。
大河は自分の危機よりも、怒る気持ちを押さえるのに必死だった。少しでも油断すれば、怒りの糸が途切れてしまう。
「あの女たちはどこ…?」
ナデシコが盗賊に聞いた。
「あ?なんだ?」
「そんなこと聞いてどうするんだ?」
と、盗賊が言う。そして言葉を続けた。
「まぁゆっくり楽しませてくれたら、教えてやんねぇことも……」
盗賊はナデシコの腕を手に取る。
「ねぇかな!!」
そう言って引っ張った。
「きゃっ!!」
ナデシコは抵抗し、盗賊の体から離れようとする。
「ナデシコ!!」と大河が叫ぶ。
「おいおい、てめぇも心配してる場合じゃねぇぞ?」
ともう一人の盗賊が大河の腕を掴んだ。
「くっ!放せっ!!」
大河は抵抗する。
一方ナデシコは、抵抗をやめた。それを見て大河は驚く。
「ナ、ナデシコ!なんでっ……!?」
「い、言うこと聞けば……捕虜を助けられる……だから…。」
そして、ナデシコの手を掴んでいた盗賊は、ナデシコの胸を触ろうと、手を近付けた。
「や、…やめろ……。」
大河はがくがくと震えながら言った。
あと数センチで、盗賊によってナデシコが汚される。
やめろ……やめろ……
大河は心のなかでしか抵抗出来なかった。
大河の手を掴む盗賊も襲おうとした。
大河はまたもやあの日を思い出す。
大切なものを失いすぎたあの日を。
心臓の鼓動が早まる。
「こいつ、元から手錠つけてやがったなぁ?さぞ、よく鳴いてくれるんだろうな?」
大河にむかって盗賊がそう言う。
大河は今、手錠によって力が使えない。
「はっ……はっ……」
タイガ……。
覚悟を決めなよ。
このままあの女を良いようにされていいの?
(嫌に……決まってる…。)
じゃあボクに任せなよ。こんな手錠くらい、どうとでもなる。
(それじゃあ作戦が……なんて、言ってる場合じゃねぇよな。)
そうさ。不都合があれば、君が『否定』すればいいんだからね。
(じゃあ任せるよ。アカリ。)
はいよ、マスター。
その時、大河の指輪が紅く、光輝いた。
「な、なんだ!?」
盗賊たちは手を止め、光を遮る。
「……っ!タ、タイガ……ダメッ……!!」
「ナデシコ、今すぐ助けるからな。」
大河の瞳が紅く、光った。
「僕は『僕』を否定する。」