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俺と僕  作者: tama
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初めてのおつかい!……的な?

 大河は朝が好きだ。

 この"グランドアース"の世界に季節という概念が存在するのかどうかはわからなかったが、春のようにポカポカと暖かい気候であったため、朝は適度に冷えて涼しいのだ。その冷えを噛み締めながらもベランダへ出る。時間的にいうと5時半といったところか。地球の時間の流れと"グランドアース"の時間の流れは同じである。

 大河は毎朝5時半に起きる。そしてベランダへ出て10分ほど外を眺めて心を落ち着かせるのが日課だった。いつもと違うのは景色。

 地球ではアパートの一室を借りて住んでいたためベランダへ出て外を眺めても交通の多い大道路やコンビニエンスストア、クリーニング屋など割りとごちゃごちゃしていていい景色とは言えなかった。朝焼けも向かいのビルで隠れてしまうので日の出を拝借することも出来ない。

 しかし今は違う。おおきな水溜まりのような池がポツポツと散らばっていて、その水を飲もうと草食の大人しい魔物が寄っている。花も咲き乱れ、正面を見ると海があり、その水面から白く輝く太陽が登ってくる。

「ふぅ……。」

 大河はそれを見てなごむ。そろそろ戻ろうかと思い、後ろをふりかえると、ナデシコが窓の内側に立っていた。

「どうしたの?ナデちゃん。」と大河は聞く。

「その呼び方……やめて。外、見に来た。でも、貴方が居た。」

「君も外に出れば良かったのに。」

 そう言って大河は笑った。それとは対照的にナデシコは真顔で言った。

「貴方と一緒の空気を、吸いたくなかった。」

「おぅ!?流石はSっけ溢れる無口女王だね!僕、興奮してきたよ!」

 大河がそう言うと、ナデシコは大河の顎を蹴り上げた。大河は宙に舞い、そのまま家の外へ落下。地面に埋まっていた。

「……。」

 ナデシコはやっと邪魔物が消えた、と言うようにベランダの柵に腕をかけ、ゆったりと外を眺めた。



 ――――――――――


「エウリア、行ってくる。」

 ナデシコはいつもの着物を来てエウリアにそう言った。

「依頼ですか?」

「うん。」

「あ、じゃあ、タイガさん連れていって下さい。」

 エウリアがそう言うとナデシコは心底嫌そうな顔をして口を開いた。

「な、なぜ……?」

「各大陸の国王様の話し合いで、依頼を受けた場合はタイガさんも連れていって経験を積ませろとのことです。」

 ナデシコは眉をひそめ、ソファに寝転がっている大河を見た。

 大河はその視線に気付き、「ん?何々?好きになったの?」等とほざいている。

「タイガ、行くぞ。」とナデシコが言った。

「え!?なにげに名前呼んだの始めて!?デレたの!?ねぇデレたの!!?」

 大河はナデシコによる蹴りを喰らった。

「ちょっ……て、手加減ぐらいして……じぬ……。」

 鼻血を垂らしながらかくっとうなだれた。



 大河は身支度をした。何かあったらと北の国王から渡された軽めの鎧を身に付けた。うっすら紅く光っていた。

「おお。まさかこんな鎧を着ることがあるなんて……」

 本気で自分カッケーと思う大河であった。


 玄関で待っていたナデシコに「待たせてごめん」と謝り、靴を履いた。ナデシコはそれを確認すると無言でドアを開き、外へ出た。

 外へ出ると、馬車があった。馬、と言うよりかは牛の方が相応しいのではないかと思われるほどのたくましい角を持った馬だった。

「『ワイバーン』……これが名前。」

「え?ワイバーンっていうの?ワイバーンって普通竜みたいなやつじゃないの?」

「それは貴方の勝手な妄想。実際はこんなの。」

「おいおいナデちゃん。さっきみたいにタイガって言ってみ?そしたら僕のこと好きに―――ぐはぁっ!!!」

 またもや大河は蹴り上げられた。その隙にナデシコは馬車に乗り、先に行ってしまった。

「ちょっ!待っ!!ナデちゃぁぁぁん!!」

 そんな二人の様子を陰ながら見ていたエウリアとライラ。

「だ、大丈夫でしょうか……?」

「うーん……どうだろ……。」

 二人はそのやり取りを見て心配するのであった。


 大河は無事に馬車へ乗ることが出来た。(戻って来たのだ。)

 ナデシコの受けた依頼は東の大陸の町、『フウライ町』を脅かす盗賊退治だ。その盗賊は町人から女子供を捕まえては下劣な事をし、男と見れば金を奪いサンドバック……等の悪事を働いている。

 大河は移動する途中、あることに気が付いた。

「な、なぁ。なんで手錠と足枷外さないの?」

「力、使うの……困る。」

 因みに、着替えや風呂はというと、手錠と足枷には魔法がかかっていて、人体以外の物体をすり抜ける様に出来ているのだ。そのお陰で外すことなく風呂や着替えを済ます事ができる。

「これ……歩きづらいんだよなぁ……おっとナデちゃん。俺が身動きとれないのを良いことに夜這いとかは……ぐほっ!!」

 ナデシコは大河の腹を肘で殴った。


 しばらくすると目的地に着いた。

『フウライ町』

 ここは風という資源に恵まれており、主に風力発電によって電気を蓄えている。更に、雷を司る神を祀っているとも言われ、年に一度、雷鳴のなりやまない災害が訪れるという。それは神がこの地に降臨したとされ、町人全員が拝むというそうだ。その雷の落雷によって死んだものはあの世で裕福な暮らしが出来るとも言われている。

 大河とナデシコは町の入り口をくぐって中へと入った。

 普通の町と同じ、町人は外へ出歩き、買い物等をしている。しかし、活気は微塵も感じられない。人々の顔は皆、絶望しきっていた。

 大河とナデシコは依頼主である町長の住む豪邸へと向かった。


「おお……来てくださりましたか……」

 町長は見た目六十歳ぐらいで、髪はもう薄く、盗賊に支配されているということもあり、痩せ細っていた。

「盗賊は……どこ…。」とナデシコは盗賊の居場所を聞く。

「盗賊どもは今町の外でございます。しかし、もうじき帰ってくるかと……。」

「盗賊は、どんなことをする?……おしえて…。」

「……盗賊はどうやら、この町の祀る神である『雷神・トール』様をこの地へ無理矢理降臨させようとしているのです。」

 町長は目を伏せ、身体を震わせながらそう言った。

「そ、それってけっこーやばいんじゃ……」と大河。

「そんなことをすれば雷神様の怒りを買い、この地に大災害をもたらしてしまう……。恐らくもうじき実行すると思われます。」

「盗賊は、具体的に、どんなことをする?…。」

「生け贄をこの町の住民から出しております。この町には雷神様を降臨させる書物が古来から伝わっておりまして、そのためには複数人の生け贄が必要とされているのです。それは生きていても、死体でもどちらでも構わないのです。盗賊どもは女性を狙い、辱しめを受けさせた上で殺害し、儀式の生け贄に捧げるつもりかと。」

「辱しめ……だと!?俺も混ぜ…ゲフンゲフン。最低な奴等だな!!」

 その直後、大河がナデシコに殴られたのは言うまでもない。

「その盗賊、『アリア』が関わっている…かも。」とナデシコが言うと町長が驚いた顔をし、「なんと!」と言った。

「生け贄は…まだ捕まえているの…?」とナデシコが聞いた。

「は、はい。町人の情報によりますと、あと二人は必要だと思われます。」

 町長がそう言うとナデシコは、決心したように瞳を光らせ、くたばっている大河の襟首を掴み、引きずりながら部屋を出た。

「ど、どこへ!?」と町長。

「任せて。今日で終わらせる。」

 ナデシコはそう言い残すと、部屋のドアを閉じた。




「なーなーナデちゃん、どーするんだ?」

 大河はナデシコの二歩後ろを歩きながら、そう問うた。

「呼び方…やめて。今から、服を買いにいく。」

「服?なんで?はっ……まさか僕とデートしたいんじゃっでぇぇええ!!?」

 ナデシコは振り向かずに後ろの大河を蹴る。

「くぅ~。鎧着てるからまだましだけどきっつい攻撃だなおい。」

 大河は立ち上がり、ナデシコの後を追う。


 ―――――――――――


 大河とナデシコは服屋に着き、レディースのコーナーへと向かった。

「冗談抜きでデートじゃん。ナデちゃん。」

 と大河がそう言うと、ナデシコはキッと大河を睨んだ。

「呼び方、ホントにやめて。」

「ご、ごめんて…。」

 フンと鼻を鳴らしてそっぽを向くナデシコ。

「これから、生け贄になる。」

「え!?」

 ナデシコの発言に驚く大河。

「生け贄になって、とらわれてる人、助ける。」

「ま、まじで?危なくない?」

 心底心配する大河。

「大丈夫。何とかする。その為に、この衣装じゃ、不自然。だから普通の服…買う。」

 大河は考えた。盗賊たちに辱しめを受けさせられるナデシコを。それを考えるだけで心臓が直接手で締め付けられるような感覚に陥った。

 五年前のあの日を彷彿とさせた。

「だっ、駄目だ!!」

 思わず叫んでしまった。

 その声にナデシコは驚く。大河もやってしまったと言うように周りを見回して口を開いた。

「ほ、ほら!ナデちゃ……ナデシコが辱しめを受けるの僕、耐えらんねぇしさ。」

 ナデシコは大河の言葉を聞く。

 予想外の言葉に驚きを隠せなかった。今まで三銃士として使命を全うしてきたナデシコからすれば、人に心配されることなど、ほとんだ無かったからだ。

「あ、えと、ナ、ナデシコの初めては僕が貰うから~。なんて…。」

 大河は場を和ませようと茶化した。

「…ふん。そんなに心配なら、来ればいい。」

 へ?と大河は間抜けな声をあげた。

「盗賊は……女を狙う。なら、女装して、私と…来ればいい。」

 じょ、女装ぅぅぅ!?


 かくして、大河とナデシコの初めての依頼が始まったのだった。

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