ハーレムキターーー!!……と、思いきや……?
「タイガさん!朝ごはんできたんで早く来てください!」
「……早く…来ないと…斬る。」
「ナ、ナデちゃん縁起でもないこと言わないでよぉ…」
「どうしてこうなった。」
大河の今いる場所はどの大陸にも属さない無法地帯であり、魔物がよく出現する危険地帯でもある。
沢山の水資源と温泉があるはずれの一軒家、『コロナ邸』に大河は居た。
大河は手錠と足枷をはめられ、歩きづらそうに食卓へと向かう。
彼を迎えるのは三人の美少女であり、三銃士である。
お馴染みのエウリア。東の大陸のナデシコ。そして西の大陸の三銃士である、銀に淡い青が混じったような色の髪をしたライラ。
何故三銃士が大河と居るのか。
それは遡ること二日前―――
ゾーラを倒した大河は、一段落ついたあと、国王に呼び出された。
「タイガよ。貴様は三大陸の国王で話し合った結果、三銃士の監視下でこれからこの世界で過ごしてもらう。」
「えっ…」
大河は目を見開く。
「まぁ、ゾーラをあそこまで圧倒的に倒したあげく、一度死んでから生き返るなどという訳のわからない力を使うものをほったらかしにしてはおけん。」
「ちょっ、ちょっとまて!俺の自由はどうなるんだ!?」
大河は必死に説得する。
彼は元々地球人だ。異世界人では無いため、監視などで拘束されてしまってはたまらない。
「まぁまて。今、この大陸には裏で悪事を働いておる組織がいてな。そやつらは急激に勢力を上げ、我らを襲おうとしているのじゃ。そこで、その組織を壊滅させるために協力してくれれば、いつか解放してやろう。」
「な、なんだよそれ!話が急すぎるよ!それにいつかってなんだよいつかって!」
「まぁまぁ。しかし、三銃士と共にひとつ屋根のしたで過ごすのじゃぞ?あんなことやこんなことしほうだいじゃ。」
「な、なに…ゴクリ。じゃ、じゃあセ○○○や4○が出来たりするのか!?」
大河は目をキラキラとさせ、鼻の穴を大きく開き、食いついた。
「もちろんじゃ!」
「しっゃああああ!!……って騙されるか!!どうせ僕じゃ押さえ付けられない程強い腕力もってんだろ!!三銃士って言われる程だもんな!」
大河は騙されないぞ、というように向きになって叫び散らした。
「ふふふ。まぁ普通はそう考えるかもしれんな。しかし、そうはならないぞタイガよ。何故なら、わらわから抵抗するなと命じておくからじゃ。」
大河は何!?と言うように驚いた顔をする。しかし、再び険しい顔に戻り反論した。
「ど、どうせそんなもの聞かないんだろ!しってるぞ!!」
子供のようにわめき散らす大河。
「ふむ。この国では国王の命令は絶対。反抗すれば……いくら三銃士といえども死刑に値する。」
国王は真剣な顔で言ったためか、大河もその言葉を鵜呑みにした。
「よ、よしわかった。そ、それならいいよ……。」
大河は諦めたように言った。
――――――――――
「エウリアー!その乳揉ませろやー!」
大河はエウリアの胸に両手を被せようとした。しかし……
「ちょっ!やめてくださいっ!」
額にデコピンされた。すると大河は三メートル程離れていた壁に頭を直撃させた。
「ぐはぁ!!」
「あわわ……す、すごい飛びましたね……」
ライラは言った。
(く、くっそーあんのガキ王が……話が違うじゃねぇか……)
何故デコピンだけでここまで吹き飛ぶのか。それは決してエウリアの力が強いからではない。原因は大河の手錠と足枷にある。それらは拘束された者の体重や身体能力を半分にまで押さえるというものだ。おまけに魔法や呪文、魔導も使えなくなるため、犯罪者などはこれに拘束されているのだ。それにより、男女の力の差が無くなるため、こうなる。
大河はふらふらになりながらも食卓へ戻る。
「「「いただきまーす。」」」
ナデシコ以外は元気よくそう言った。
それぞれが食事をとる。朝はサラダやハムエッグなどの低カロリーで胃に溜まりにくいものを食べる。
「ところでライラちゃん。」
大河は行儀悪く、フォークを持っている腕の肘を机につき、目をキリッとさせて言った。
「は、はい……なんでしょうか…?」
ライラはキョドりながらも返事をした。ライラは大河が苦手なのだ。何故ならば…
「ライラちゃんは何カップ?」
「ひぇっ!?」
ムッツリだからだ。
ライラはその質問に目を回し、顔を赤らめた。
そして隣の席に座っているエウリアがたまらず隣の大河をそこそこの力でビンタした。
「いってぇ!?」
大河はまたもや壁に頭を直撃させた。
「あ、貴方は何故そんなことを平気で…っ!」
エウリアも顔を赤くして言った。
「キモい……」とナデシコが言う。
「そんなこと言うなよナデちゃーん!」
「死ね。」
「ぐっはぁ!!」
ナデシコは本気でそう思っている。なんだこの不純な男は。死ねばいいのに。
しかし、国王から命令を受けているため、殺すことは出来ない。
ナデシコはフンと鼻で笑って自室へ帰っていった。
「ふふふ……まぁいいさ。僕はこのかわいい女の子の臭いが充満した家でハーレムを楽しむからね……ムフ…ムフフフ…。」
大河はゆらりと立ち上がり不敵に笑った。
「ひっ…!」とライラ。
「…きしょっ……」とエウリア。
二人はドン引きしながらもその耐え難い空間で何とか朝食を終えたのだった。
「ライラ。ちょっと城へ行かなければならないから留守番よろしくね。」
エウリアは比較的軽い鎧を身に纏いそう言った。
「えっ、わ、私も城へ戻らなければならないんですけど……。」
とライラが困ったように言う。
「そうなの?うーん……じゃあナデシコに…。」
「私も無理。」
何処からともなくナデシコが現れ、言った。
ナデシコは黒色を基調とした着物のような衣装を着ていた。
一見、防御力皆無の様に見えるが魔法による強化を施されているため、しっかりとした防具となっている。
「えー。じゃあ…」
エウリアの言葉と共に三人が大河を見た。
大河はソファにだらしなく寝転がっていた。
「ん?そんなに僕をみつめてどうし……はっ!まさか……好きになった!?」
「あほ、死ね。」
ナデシコが言葉でバッサリと斬った。
かくして、大河は留守番をすることとなった。
「ふぅ。」
相変わらずソファでだらしなく寝転がっていた。
目をつむり、眠りにつこうとしていた。
すると、何処からともなく声が聞こえる。
「おーい。起きろー」
大河はゆっくりと目を開く。
「誰だ?」
声の主は姿を現していない。
「右だよ、みーぎー。」
大河は指示通り右を見る。
すると深紅に光る鉱石を填めた指輪が宙に浮いていた。
「な、なんだこれ。」
大河は手に取る。
すると鉱石が紅く、光輝き、辺りを包んだ。
大河は目を閉じて光を遮った。しばらくして目を開くと、自分の膝の上に若干14歳ぐらいの少女が座っていた。
髪が紅い。瞳が紅い。まつげも、眉毛も紅い。
「わ。誰?」
大河は少しだけ驚き、冷静に誰かを問うた。
「ふっふー。ボクはお前の『個人能力』だよ。」
ニカっと笑いそう言った。八重歯がちらりと見え、とてもキュートに思えた。
「やば、ちょーかわいい。襲ってしまうかも……。」
「出来るもんならやってみな?」
彼女は得意気に言った。
「生憎だけど、僕には襲うほどの力が今ないんだ。」
残念そうに首を落とす大河。
「別に抵抗しなかったら関係ないじゃん?」
少女は覗き込むように見上げて言う。体をあからさまに密着させて誘惑する。しかし、若干14歳のその体型では誘惑できるほどの凹凸は無い。
だが大河はそれですら興奮してしまい、
「マジで!?ヒャッハー!!童貞捨てたるでー!!」
と手をワキワキさせながら目を光らせ少女を襲おうとした。
少女は抵抗しない。
大河の手が肌に触れようとしたとき、手が止まった。
「……。」
少女がニヤリと笑う。
「あれぇー?どぉしたのー?襲うんじゃないのー?童貞捨てるんじゃないのぉー?」
ニヤニヤと嫌みたらしくそう言う。大河は額に汗を垂らして言った。
「あ、えと…ほら、知り合いに起こられるかもだからさ……やめとく…。」
「ふぅん?」
「あ!えっと、それで、『個人能力』というのはなんなんだ?」
大河は真剣な顔に戻り言った。
「えとねー。『個人能力』っていうのは、魔導士もとい魔法使い全てが所持している指輪のことだよ。その一つ一つにそれぞれ異なる能力を秘めていて、その人のオリジナルの呪文が使えるんだよ。つまり、ボクはお前の個人能力。わかった?」
大河は大体を理解できたのでとりあえず分かったと返事をした。
「ちなみに、お前はなんて名前なんだ?」
「名前?ああ、能力なら『否定』だよ?」
「そうなのか。だからゾーラの時―――じゃなくて、名前だよ。なーまーえ。」
「そんなの無いよ。指輪に名前なんて普通無い。あるとするなら能力名で呼ぶ。」
少女は呆れたように言った。
「や、でもさ、何かと不便じゃん?お前、とかじゃなんかなぁ?」
と大河は困ったように言う。
「ボクは道具。喋ることなんてまずないし、こんな風に具現化するのもこれが最後。契約が終わればこの姿になる必要も無くなるから必然的に名前なんていらないんだよ。」
さらに呆れたように言う。
「契約なんかしたんか……いつのまに。」と大河が呟く。
「それでも寂しいなー。こんな美少女にもう二度と会えなくなるなんて。」
「それならさっき襲えばよかったのに。てか、いつまで続けんの?それ。」
「よし!じゃあ名前を決めよう!」
大河は少女の言葉を無視して言った。
「そうだなー。全体的に紅いから……葵。」
「赤は?」
思わず少女はつっこんでしまった。
「嘘だよ。んー…なににしようか…」
と大河が悩んでいると、少女が口を開いた。
「いや、名前なんて要らないから。ほんと、迷惑だからやめて。」
「嫌だ。つける。」
「はぁ!?なんで!?」
「だってお前、悲しそうじゃん。」
少女は唾を飲んだ。図星を突かれ、発言出来なかった。
「あ、アカリなんてどうだ?困っている人がいたらその人の助けになれる道しるべになる灯りのように……なんてな。へへっ。」
大河は親になった気分で恥ずかしさも混じり、照れ笑いした。
「……っ。」
アカリと名付けられた少女は言葉を失っていたが。
「……ぷっ…」
大笑いした。
「お、おい!そんなに変だった!?」
大河は自分のネーミングセンスに笑われたのだと思い、顔を赤らめそう言った。
「いや、くくっ…こんなマスターはじめてだなぁって…ふふっ。」
涙が出るほど笑った彼女はどこか嬉しそうだった。
「気に入ったよ。よろしくね、タイガ。」
アカリはそう言って大河に抱きついた。
「うおっ!」
突然の出来事にバランスを崩してしまい、アカリが押し倒したような状況になった。
「ただいまー。タイガさん、思ったより早く帰れた……」
「お、おかえり……」
そしてその状況を運悪く、エウリアに見られてしまった。
「こ、こ、こここ、の……ロリコーーーン!!!」
バッチィィィン!!
「ぐっはあああぁぁあぁ…!!!!」
大河は壁に叩きつけられたが、その壁も破壊され、空の彼方へ消えていった。(比喩表現)