キサラギの任務 5
「あっちゃ~。これはこれは、三銃士のエウリアさんではないですか。」
ザンギが手を合わせてそう言った。
「…!なぜ、貴方がここに…?」
サラキはミラを見て、ヒラキたちと同じような反応をした。
「そいつ、能力で自分の分身つくれるんだ!」
大河はそう言った。
「とにかく今は、早く片付けて二人の手当てをしましょう!特にヒラキは酷い傷です…。」
ヒラキは出血が止まらず、このままでは血が足りずに死に陥ってしまう。
一方大河は…
「あれ?…なんか僕、傷が塞がってるんだけど…。」
「え?…でも確かに傷はあったはず…。」
その疑問を罵るように、ザンギが口を開いた。
「先ほどから、私たちを軽はずみに見ているような発言……実に腹立たしいですね…ククッ…クク…ク…。」
ザンギの笑みが消えた。
「ミラ!!影を回収しろ!!!奴等に地獄を見せるんだ!!」
ザンギの叫びにミラは頷いた。
「え…!?影はもう居ないんじゃ…!?」
大河は目を見開いて、驚く。
「レーヴァテイン」
ミラがそう言うと、隣の地面に魔法陣が現れた。そしてそこからもう一人のミラが現れる。
「ミラは緊急用に、もう一人組織へ留守にしてもらっていたんだよ!クァクァクァッ!!」
そして二人のミラが合体する。
ミラを中心に、辺りは光に包まれた。
「うわっ――!」
「くっ…!?」
「っ…!」
光がやむと、そこにはミラと思われる美少女が立っていた。
彼女は黒子の衣装の面影はなく、ビキニのような黒色の布で、胸を隠し、下半身は短パンにニーソという、露出度の高い服装だった。髪は銀色に輝き、ツインテールに纏めている。
目は猫のようにつり上がり、気の強そうな感じがした。
「ふー。やっとまともに喋れるわ。」とミラは手でツインテールを鋤いながら言った。
「この人があの…?」
サラキとエウリアは信じられないと言うようにミラを見る。
「ふふ、あたしの影が世話になったわね。でも今度は簡単にはいかないよ。」
サラキやヒラキたちが戦ったミラは、ミラの半分の力を持った影の三分の一の近嵐かもっていなかった。つまり、二分の一×三分の一で六分の一の力だったと言うわけだ。
つまり今までの六倍以上の力を持っている。
「その前に…おいハゲ。さっきはこっちがまともに喋れないのを良いことにさんざん偉そうに命令してくれたわね?」
「え、あ、それは…その…なんというか…流れで…ね?」
「死ねハゲ。学者風情がこのあたしに命令するなんて何年かかっても不可能よ。」
「す、すいません…。」
ザンギとミラのコントを見てポカンとする大河たち。
「え、性格変わりすぎじゃね?」
「黙れ豚。」
「こ、こいつ……僕のM心をくすぐってきやがる…!!」
「タイガさんは一回黙ってくれます?」とエウリアが言った。
空気は再び険悪になる。
「さて、遊びは終わりにしましょうか。」
ミラはツインテールをなびかせて言った。
「やあやあミラ。あそこに倒れている女を実験台にしたいから手っ取り早くアレをしてくれないか?」
ザンギのその言葉を聞いてサラキは目をヒクつかせる。
「誰があんたなんかの言うことなんて聞くもんですか。少しぐらいあたしにも楽しませなさいよ。なぁに、ちゃんとしてあげるわよ。その実験、あたしも興味あるしね。」
そう言ってミラは、ペロリと舌舐めずりをした。
「貴女方は随分と勝手な事を言ってくれますね。……エウリアさん、ヒラキとタイガさんを安全なところへ。」
「お……ねぇ……ま……さか…。」
「……分かりました。」とエウリアは言った。
「あらぁ?そんなことさせると思ってんの?」
ミラはそう言って目の前に魔法陣を展開する。
「"黒焔の剣・レーヴァテイン"」
そして魔法陣から飛び出た柄を手に取り、ゆっくりと引き抜いていく。バチバチと激しい音をたてる。それと共に、空が雷を催していた。空気もピリピリと張り詰める。
そしてある程度まで引き抜くと、それを一気に引き抜いた。
引き抜いた衝撃で触れていないのに地面に切れ込みがかかる。その剣の形は先ほどの物より一回り大きくなり、禍々しいオーラを纏っていた。ミラの左目を見てみると、元々緑色だった瞳が、赤黒い色になっていた。
「さあて、まずはそのうっとおしい豚から殺してあげるわ。固有魔法"影炎"」
ミラがそう唱えると、レーヴァテインが黒の炎を纏った。そしてミラはそれを大河に向かって放った。炎の規模は大きく、周りのヒラキやエウリアにまで被害が及ぶほどだった。
しかしその業火を遮るように、サラキは冷やかな言葉を口にした。
「"トリシューラ"」
その瞬間、サラキは左手を炎の方へ突き出した。
その後、炎が消え去った。
「!?」
ミラは驚く。いや、ミラだけではない。大河も驚いていた。
「一体どうなって――」
「タイガさん!ここにいては危険です!早く安全な場所へ行きましょう!!」
エウリアの指示により、サラキ以外の三人は安全な場所へ行くために下山した。
「想像以上に傷が深い…。出血も止まっていないからこれ以上は……死に関わってくる…!」
大河たちはある程度下山すると、岩影にヒラキを横たわらせ、傷を点検していた。
「そんな……な、何か魔法で傷を治すとか出来ねぇのか!?」と大河は言う。
「……貴方が魔法についてどのような認識をしているのかは分かりませんが、魔法は万能ではありません。そんなものは……ありません。」
エウリアにこの世界の現実を伝えられ、激しく失望する大河だった。大河の認識では、空を飛んだり、治癒も用意にできる……そんなおとぎ話のような力だと思っていた。しかしこの世界の魔法は人の為にあるのではなく……戦いの為に、人を傷付けるためにあるのだと言うことに気がついた。
大河はその事に、激しく……
失望した。
「お…ねぇ…を…」
「!…喋ってはいけません!傷口が開いてしまいます!」
ヒラキはエウリアの言葉を無視して、彼女の袖を握った。
「おねぇ…を…救って…あげ…て…」
「やっぱり…あのミラっていうやつは、相当強いのか…!?」
「いえ…確かに、サラキと同等の力を持っています。しかし、個人能力の初期状態の時点では、サラキ一人で充分仕留める事が出来るでしょう。しかし…」
「しかし…?」
「サラキの能力は…精神を蝕むのです。」
「!?…それってどういう…」
大河の問いは、ヒラキによって遮られた。
「はや…く…!おねがい…だからぁ…!」
ヒラキの瞳に涙が溜まる。
「………。」
エウリアは押し黙る。迷っているのだ。ヒラキを救うことができても、サラキのその能力によってサラキが救われない。かといってサラキを救いにいけば、ヒラキは確実に命を落としてしまう。大河に医療所へ連れていってもらうという手もあるが、ブースト無しでは間に合わない。大河はブーストが使えないのだ。
エウリアが迷っていることは、大河にもその雰囲気から察する事が出来た。
(どうすれば……良いってんだよ……!)
また自分の身近な人間が目の前で死ぬのか。
そう考えた瞬間、大河は怒りがこみ上げてきた。それは何にたいしての怒りなのかはわからない。しかし、確かに身体が熱くなるものがあった。
その時、全身に力がみなぎるような感覚に陥った。
「……ヒラキ。本当に申し訳ありません。本当に……。」
エウリアは俯き、そう言う。
「ふふ……あり…がと。お…ねぇを…よろしく……。」
ヒラキはそう言って瞳を閉じた。
「―――待て!!!」
大河が叫んだ。
その声に驚いたエウリアは大河を見る。ヒラキはうっすらと瞳を開いた。
「おいヒラキ。お前、おねぇちゃんを助けたいって言ってたじゃねぇか!……なのに、何で人に押し付けるんだよ!…まず自分が助かって、そのあと助けに行ったら良いじゃねぇか!」
「タイガさん!だからそれは時間が無いから間に合わな――」
「分かってるよ!!……でも、自分を犠牲にすんなよ…。自分を大切にしろよ……死のうと…すんなよ…。」
大河の脳裏によぎったのは、人生で最も親しい友の姿だった。
「だから、僕が…」
大河は目をキッとさせ、決心したように言った。
「助けてやる。」
(アカリ、いけるな?)
『おうともよ!いやあ、かっくいいねぇー。ボクだったら濡れてたよ。』
(どこがだよ!…まぁいいや、いくぞ!)
『あいさ!』
「タイガ…さん…?」とエウリアは言った。
ヒラキはポカンとした顔で大河を見る。
「僕は『僕』を否定する。」
大河のて手錠と足枷が破壊された。
「!?…何でその力が…?」
「……これ…は…?」
「ヒラキ。俺がお前の傷を治してやる。…俺は『ヒラキの傷』を否定する。」
すると、みるみるうちに傷が癒えていった。
「…凄い…!」
「あとは…血が足りないな…俺は『ヒラキの血不足』を否定する。」
大河がそう唱えたことにより、ヒラキの顔色がどんどんと良くなっていった。
「…!なに…これ…?さっきまでの痛みが嘘みたい…。これが…ロードの力…。」
「この世界も俺の嫌いな世界と似ている。俺には…やるべきことがある。」
あの事件のような犠牲者が増えないためにも、悪という悪を消していく。
『――にしてもタイガ。いつのまに否定の限定が出来るようになったんだろうね。』
例えば、『リンゴ』を否定した場合、全てのリンゴの存在が否定されることとなる。しかし、『自分が手に持っているリンゴ』を否定した場合、それのみが否定されることとなる。これが否定の能力の上位技術となる。
「とりあえず、早く頂上へ戻って、サラキを救いに行きましょう!」