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俺と僕  作者: tama
17/26

キサラギの任務 3

「……私は…おねぇを…」

 ヒラキはサラキにもっと近付きたい、守られるだけではなく、守ってあげたい。それは、サラキが過去に自分を殺しかけ、それをもう一度してしまうのを恐れていることを知っていたからだ。自分のことで、サラキの重荷になってしまうのがヒラキは嫌だったのだ。

 大河に踏み出す勇気を与えてもらい、それに応えようと決意を口に出そうとした。

「…!!」

 するとヒラキは、何かを感じとったように外を睨んだ。そして次の瞬間。


 ドゴォォォォォォ!!!


「ぐおっ!?」

 ベランダの策が何者かによって破壊され、大河は反射的に後ろへ倒れこんだ。傷はない。


「…誰!?」

 ヒラキはそう言った。

 少し上を見ると、黒子のような衣装を着た人物が、自らで作り出した魔法陣の上に立っていた。

 黒子は、片手に漆黒の剣を持っていた。

「……アリア…!」

「!!今来たのか!?しかも僕たちの方に…。」

「いや、きっとおねぇたちのところにも来ているはず。」

 そう言ってヒラキは、個人能力(オプション)の初期状態である、武器を召喚した。

「『ブリューナク』」

 召喚されたのは、身の丈よりも少し長い、槍だった。それは白く輝いており、矛先が二股になっていた。

「タイガ!ここじゃ被害が出る!もっと広い所へ移動しよう!!」

 そう言ってヒラキは大河と自分に魔法をかけた。

「気の魔法"脚力強化(ストロング・レッグ)"」

 すると大河とヒラキの足に紋章が浮かび、光った。

「ついてきて!」

 そう言うとヒラキは跳び降りる。それと同時に黒子に炎の呪文、ファイアを詠唱なしで発動し、飛ばした。黒子はそれを片手に持っていた漆黒の剣で切り裂いた。その一瞬の隙を狙ってヒラキは大河に跳び降りるように指示を出した。

 大河はその指示にしたがい、跳び降りた。

「うお、あああああ!!!」

 正直、本当に大丈夫なのか心配していた大河だが、着地してみると脚力強化の恩恵をきっちり受けていることがわかり、安心するのだった。

「いくよっ!」

 黒子が反撃に出る前にヒラキは走り出した。それについていく大河。足枷がはめられているが、間隔は走れないほどでもないので、器用に大河は走るのだった。

「ええええっ!?!?は、はやああああ!!!」

 自分でも信じられないほどのスピードで走り出す二人。脚力強化によって五十メートルを二秒で走れるほど速くなった。

「……。」

 黒子は魔法陣による"ブースト"で大河達を追った。ちなみに、ブーストはいわばロケットを足に着けているようなイメージだ。黒子は地面と平行になるほど体を傾け、足に展開している魔法陣の効果で移動している。

「右!!」

 ヒラキはそう叫び、手前の右へ行く道を曲がる。大河は脚力強化による移動に慣れていないため、かなり大きいカーブを描いて曲がった。

「扱いが難しいっ…!!」

「がんばってついてきてね!」

 そんな会話をしていると、背後から黒子が攻撃をしてきた。

「……。」

 右手を前に差し出し、詠唱なしの魔法を繰り出す。それは黒子の隣に展開された魔法陣からドラゴンのような形をした、水の魔法"ウォータ"が大河たちを迫った。名付けて、"ウォータ・ドラゴン"

「全力で逃げるわよ!!次は左!」

 そう言ってヒラキは、建物の間にある細道を左へ曲がった。

 大河も曲がろうとしたが、まだ慣れていないため、建物に肩をぶつけてしまった。

「ぐあっ!!」

 しかし走りは止めない。かなり鈍い音がしたが打撲で済んでいるだろう。

 魔法はどんどん近づいてくる。ヒラキは斬って魔法を消そうとしたが、ウォータ系列の魔法は物理的な攻撃によって相殺することが出来ないのを知っていたため、思い止まるのだった。

「右のち左!」

 細道の曲がり角を右へ曲がる。地面がぬるぬるしているため、よりいっそう走りにくくなっている。曲がっても細道。

「うわっ!…とと!」

 大河は慣れてきたのか、壁にはぶつからなかった。そのすぐにヒラキは左へ曲がった。正面には木箱があり、その上を跳び越えようと、ヒラキはジャンプした。高さにしておよそ二メートル前後はあったため、大河は少し抵抗があったが、勇気を振り絞って跳んだ。

「うわああああああああ!!」

 大河が着地する前に、ウォータ・ドラゴンは木箱にぶつかり、消えるのだった。


 細道を出ると、すぐに公園の広場へと着いた。一般市民は数人居た。その中に子どもも居た。

「ふぅーーー!!すっげぇ体験した。……死ぬかと思ったぜぃ……。」

「その割には結構楽しそうだったけどね?」

 しばらく留まっていると、細道を作り出していた建物の上空から黒子が移動してきた。声もあげず、やけに冷静に佇んでいた。

「な、なぁ、まさかここでやるのか?」

「そのまさかだけど?」

「マズくないか?他に人が出るし、この任務秘密なんだろ?…何より被害が…。」

「それはね、ちょっと耳かして……。」


「……えっ!?…本当にそれで良いのか?」

「うん。被害については守りながら戦うしかないね。」

 大河はヒラキに言われたことを実行しようと、大きく息を吸い込んだ。

「公園のみなさーーーん!!!只今よりヒーローショーを始めまああああす!!!」

 その声に公園内お及びその周りの人々が振り向いた。

「題名は、『正義の少女と悪の黒子』!!開演ですっ!!」

 その瞬間、黒子は剣の魔法"波動剣(ウェイブ・ソード)"を発動し、黒の剣閃を放った。

「槍の魔法"波動槍(ウェイブ・ランス)"」

 それに対抗するために、ヒラキは同系統の魔法をブリューナクにかけ、槍の波動を放った。

 二つの波動は大きな音をたてて相殺した。

 まるでバトルアニメのような展開に、周りの子供たちは興奮し、声をあげた。

「がんばれせいぎのおねーちゃーーーん!!」

「負けるなあくのくろこーーー!!」

「よし、何とかごまかせそうな雰囲気ね。大人の人たちもまんざらでもない顔だし。」とヒラキは言う。

「僕はどうしたら…」

「出来るだけそれっぽい雰囲気よろしく!!」

「つまりゴミってことだね!」

 そんなやり取りをしていると黒子が直接攻撃にでた。ブーストにより、猛スピードでヒラキに近付く。

 漆黒の剣で斬りつく黒子。その攻撃を槍で受け止めるヒラキ。ヒラキはそのまま後ろへ衝撃を受け流し、器用に槍を持ち直して黒子を斬りつけようとした。しかし黒子も体を仰向け、すんでの所で避ける。そのまま黒子はヒラキの右後ろの地面へ着地。その後互いはすぐに振り向いて再び武器を合わせた。

「正義の少女はとっても強い!!でも黒子も負けていなあああい!!はたしてどうなるこの戦いわああああ!?!?」

 大河は必死に場を盛り上げる。幸いながら、周りも、大人こども関係なく盛り上がってくれていた。

 ヒラキと黒子は、互いに後ろへ退き合い、距離をとった。

固有魔法(インヒアラント・マジック)"我槍(がそう)"」

 ヒラキがそう唱えると、ブリューナクの槍の刃の部分が竜の顎のように変形した。そしてそれが黒子に向かって延びた。

「ギャアアアオオオオアア!!」

 ブリューナクが竜の叫び声をあげる。

 黒子もウォータ・ドラゴンを詠唱なしで発動した。

 二つの竜がぶつかり合う。激しい衝撃と共に、つばぜり合いのようになった。

「はああああ!!」

 ヒラキの叫びに呼応するように、ブリューナクは力を増幅させる。そして遂に、ウォータ・ドラゴンを破壊した。

「……!」

 黒子はすぐにブーストで右へ避ける。しかし、ブリューナクは黒子を追いかけようと左へ曲がった。

「すげぇ…まるで生きてるみたいだ。」

 魔槍・ブリューナク。

 槍自体が、意思を持っているとされ、魔法をかければ標的を殺すまで追い続けると言われている。故に、我をもっている槍…我槍だ。因みに、物理的な攻撃によって相殺出来ないウォータ系列の魔法を破壊できたかというと、ブリューナク自体が魔法で出来た存在のため、物理的な攻撃に見えて、実は物理的では無いのだ。

 ヒラキは、個人能力(オプション)の初期状態にのみ使用することが可能な、固有魔法(インヒアラント・マジック)を使用した。これは、各々で能力が異なり、中にはこの魔法が存在しない個人能力もある。


 尚も黒子を追い続けるブリューナク。

 だが、黒子も只ではやられない。

 なんと、子供たちの方へ向かっていったのだ。

「!!?…卑怯者っ!!」

 ブリューナクの軌道を変え、横から攻撃しようと試みるが、遅い。かといって、そのまま一直線に進めれば、仕留めることは出来るが子どもたちが犠牲になってしまう。ブリューナクを止めてしまっても、恐らく黒子が子ども達を放ってはおかないだろう。


 ――たった数秒で最適な判断を下さなければならなくなったヒラキ。


 その時、視界の端に入ったのは、全力で黒子の向かう子どもたちの元へ走る大河の姿だった。

「ヒラキィィ!!!まかせろおぉぉぉ!!」


 ヒラキは大河に懸けた。そのままブリューナクを黒子に進撃させた。

 大河は三人居た子どもたちに向かって跳んだ。

 間に合うか間に合わないか。微妙な所だったが、恐らくこれが最適な判断だろう。

 ヒラキの頬に汗が伝った。

 大河は子ども三人を抱き抱え、そのまま前へ倒れこんだ。

 黒子は大河たちに向かって剣を振りかぶる。


 その瞬間は、全てがスローモーションに見えた。


「……っ!!」


 ドサッ!!


 それは、大河が子ども達を抱え、地面に倒れこむ音だった。

 黒子は……ブリューナクによって噛まれ、身動きがとれないでいる。


「「「おおおおお!!!」」」


 また、ヒーローショーと勘違いしていた人々は、彼らの心情など露知らず、迫力に圧倒されたのち、パチパチと拍手をするのだった。


 ヒラキは大河と目をあわせ、お互いに親指を立てて微笑み合うのだった。


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