キサラギの任務 1
大河一行はキサラギ山のふとにある、『キサラギ町』についた。
「とりあえずここで宿をとり、『アリア』の居所を掴みましょう。」
エウリアがそう言った。
町は活気が溢れており、雑貨屋や野菜売り等が活発に商売していた。人通りも多く、そこそこの広さを持っているため有名な町でもある。特に、家の形が特徴的で、マンションのように直方体の建物しか並んでいないのだ。
キサラギ山のふもとにある事から、観光業の一環としてツアーのようなものがある。キサラギ山は木がなく、鉱産資源が多くとれるためツアーの途中にはたくさんのジュエルが地に埋まっている。
「なぁ、エウリア。」と大河がエウリアを呼び掛けた。
「はい?」
「なんであの山にアリアが来るんだ?」
「ああ、それはですね、キサラギ山に含まれているジュエルに魔力が込められていて、その魔力を使って何かしようと目論んでいるんです。現に情報調査兵が魔力をジュエルから供給している所を見ているんです。」
その説明は大河にとっては難しい内容だった。何となく相づちをうったが理解はあまり出来ていなかった。
大河がふとサラキとヒラキを見ると、険しい顔で周りを見渡していた。
「?どした?」
「!…あ、いえ。何でもございません。」
「そだよ。あはは。」
明らかに様子がおかしいのを察した大河だったが、敢えて何もつっこまなかった。直感的にそのように感じたのだ。
「さあ、着きましたよ。」
エウリアの言葉を聞き、前を向く大河。その宿屋は割りと大きめで、まだ建ってから新しいようだった。
「ここで夜を美少女三人で過ごすのかぁ…。」
「タイガさんは外で寝てください。」
「ええっ!?ひどい!」
「あはは!」
「くすくす。」
エウリアの毒舌、大河の反応、そしてそれを見て笑うヒラキとサラキ。
その様子を背後から見つめる影があった。
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「おお!結構広いなー!」
「だね!これなら鬼ごっこも出来そうだよ!」
「それは言い過ぎよ、ヒラキ。」
「あ、押し入れに布団がありました。タイガさんにはここで寝てもらいましょう。」
エウリアがそう言うと、すかさず大河がつっこんだ。
「お、おいおい。僕はドラ○もんかよ。」
「なにそれ?」とヒラキが言う。
「Oh!ジェネレーションギャップならぬワールドギャップ!!」
ここは異世界なので彼女たちにはドラ○もんが伝わらないのだ。
四人は部屋の真ん中にあるテーブルを囲む座布団に座り、任務の作戦会議をすることとなった。
「では、これからの任務について討議したいと思います。」とエウリアが司会をする。
「先程、アリアの一員らしき者が接近しておりました。」
サラキが丁寧な口調で言うと大河が驚く。
「えっ!?いつのまに!?」
「さっきなんでアリアがキサラギ山に用があるか聞いたじゃん?そんときに盗み聞きされてたんだよー。」とヒラキが言う。
「まじか…。てか、それって大丈夫なの?」
「はい。もともとこの任務はアリアを捕らえてより深い情報を得るためのものです。私たちとしては、アリアの居所を特定するために、まずは相手から出てきてもらうのが一番手っ取り早いのです。でなければ、アリアの関わっている話なんて、あんな町中ではしません。」
エウリアの説明を聞いてなるほど、と頷く大河。
サラキとヒラキが険しい顔をしていたのも、アリアの気配を察したからだろうと理解した。
「で、その肝心のアリアはいつ出てくるんだ?」
「それは分かりません。何せ、情報が少なすぎるのです。いつ仕掛けられてもおかしくない状況なので、常に周りに神経を研ぎ澄ましておいてください。恐らく……分隊長クラスは何人かいるとは思うので。」とエウリアが言った。
「じゃあまぁそれまでは……昼寝でもしよっかぁ?」と大河が言う。
「な、なに言ってるんですか?」
大河の言葉を聞いて耳を疑うエウリア。
「折角ひとつ屋根の下で美少女三人が居るって言うのにそーゆーラッキーなハプニングの一つや二つ……なぁ?」
「ほんと、タイガって色んな意味で緩い性格してるよね。あはは……。」
呆れたように乾いた笑いをこぼすヒラキ。
「でも、お優しい性格の持ち主でもありますね。」とサラキがニコッと笑い、そう言った。
「な…それは、フラグがたったと認識してもいいぐぼへぁ!!」
「だから、サラキとヒラキに手を出さないでください。」
エウリアが大河を殴り、大河は部屋の壁にのめり込むのだった。
「手……まだ出してないのに…ガク。」
息絶えた(比喩表現)
「――さて、ではそろそろこちらも動きましょうか。」とエウリアが言った。
「何をするんだ?」と大河が問う。
「この町にはキサラギ山の観光ツアーがありまして、それに参加するのです。」
「どうしてそんなのに…はっ、もしかして僕との仲を深めるために…ムフフ。」
「気持ち悪いのでやめてください。」
エウリアがバッサリと切りつける。するとサラキが大河が言った、なぜツアーに参加するのか、という問いにたいしての返答をした。
「ジュエルの魔力を狙うということは、まずはそこに接近することが大事なのです。つまり、一般人に紛れてツアーに参加し、ジュエルに接近しようという旨で動くと予測し、私たちも動くということです。何せ、ツアーは一日に一度しかないので、必ずと言って良いほど現れます。」
丁寧に解説するサラキ。
「まぁ接近するって言っても、私たちはほぼ動けないけどねー。秘密の任務だから、間違ってほんとの一般の人を捕らえちゃったら騒ぎになるからね。」とヒラキが付け加えた。
「とにかく、もうすぐでツアーが始まるので、そろそろ出発しましょう。」
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大河たちはキサラギ山へ行くための門の前に着いた。ツアーに参加しようとする客が他にもたくさんいる。
「これは他の町からの客だよな?」
「はい。ここは観光地としてはかなり有名ですよ。」
大河の問いに答えたエウリア。
しばらくすると、観光業長がやってきた。
「大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、キサラギ山観光ツアーを開催したいと思います。」
三十代後半ぐらいの男がお辞儀をしながらそう言った。
「では、一番の肩から列になって並んでください。」
観光客には番号札を渡されていて、それをもとに順番に並ぶというわけだ。大河たちは三十五番から三十九番までの札を受け取っていた。
列に並べると、男の指示によってツアーが始まった。
町からの門を潜るとすぐにキサラギ山の入り口の門が見えた。そのすぐそばにはいかにも屈強そうなガードマンが何人も待ち構えていた。
「これじゃあアリアも簡単には侵入できそうにないな。」
大河がエウリアに小声で耳打ちをする。
「まぁそのためにこのツアーに参加していると思われるのですが…。」
エウリアも同じように小声で大河に耳打ちをする。すると大河が身体をビクつかせた。
「うあっ!エ、エウリア~。そんな…僕、感じちゃうよ…。なんつって(笑)」
「いっぺん死んでください。」
山の斜面を歩いていく。すると、所々にジュエルが散らばっていた。
「ここは、原石ジュエルが埋まっています。輝きはありませんが、加工すればそれなりの輝きを帯びることができます。これらは主に燃料として扱われることが多いため、宝石として売られることはまず無いですね。」
男がそう解説する。
見学しながら列を進んでいく大河たち。
「色んな色のジュエルがあるねぇ。」
ヒラキが言った。
「ヒラキ。ちゃんと前を向いて歩きなさい。こけてもしらないからね?」
サラキがヒラキに注意をする。ヒラキはそれを聞いて素直に従った。
しばらく山を登っていく。ふと、大河は下を向いてみる。キサラギ町が大分小さくなっているのがわかった。
「さて、ここはダイヤジュエルが埋まっています。この高度の空気は特殊で、何故か酸素が多く含まれているのです。」
男が解説する。それを聞きながら大河は辺りに埋まっているジュエルを眺めた。それらは、先程の原石ジュエルよりも光輝いていて、高価なシメージをもたせた。しかし、数はあまり多くない。
「ジュエルは酸素に反応し、その量に応じて輝きを増すのです。そのため、ここのジュエルは先程の原石ジュエルよりも輝きを増しているのです。」
エウリアはうっとりとした目でダイヤジュエルを眺めた。
「ひあ~。こんなジュエルをプレゼントされてみたいな…。」
「おっ、エウリア、それは遠回しに僕にプレゼントしてほしいと言ってるのかい?」
「貴方にプレゼントされるぐらいなら死んでもいいです。」
「そんなに!?」
そのやり取りを見て笑うヒラキとサラキ。
「でも、こんな宝石をプレゼントされたら一発で落ちるよね、おねぇ。」
「ふふっ、そうね。」
そして、山頂についた。
キサラギ山は、高度が高くないため、準備をしなくても気軽に登れるところが人気の理由でもある。
「皆さん。山頂につきました。あれを見てください。」
男が指差す先に、キサラギ山入り口の門番をしていたガードマンよりも更に屈強そうなガードマンが複数人居た。そのガードマン達はロープによって厳重に囲まれた一つの宝石を囲んでいた。
「あれはこの世界に一つしかないクリスタルジュエルというものです。」
そのジュエルはこれまでの物とは比べ物にならないほどの輝きを帯びていた。その輝きのあまり元々の色が分からないものだった。
「あれは五百年かけてあの輝きを持ったと言われています。更に、魔導士のもつ指輪の鉱石と同じ種類ではないかという説のもと、研究が進んでいます。あれは夜にでも輝きを保つことが出来るため、魔力を持っていると推測されます。」
それを聞いて、観光客はどよめいた。
「恐らくアリアはあれが目当てでしょう。」
エウリアは大河たち以外の人に聞こえないような小声で言った。
「あんなゴリゴリのガードマンが居て本当に盗れるのか?」
大河の言葉を聞いてエウリアとサラキが顎に手をあてうーんと唸る。
「…どうやって対抗すれば良いのでしょうか。」とサラキ。
「一晩中見張るのは無理そうですし…、町長に相談するわけにもいきませんし…。」とエウリアが言った。
なにせ、この任務は極秘なのだ。他のものに知られるわけにはいかない。前者に関してはただ単にキサラギ山に長くとどまることが出来ない。
「ではこれでツアーは終わりとなります。今から下山しますので、ついてきて下さい。」
男がそう言い、列を引き連れた。
その時、大河は見た。
赤いキャップを被った男の視線の先がクリスタルジュエルに向けられていた事を。
そして勘づいた。
その視線が、尋常ではない執念のようなものを帯びていた事を。
それはエウリアたちですら気付くことが出来なかった事だ。
「タイガさん!何してるんですか!?」とエウリアが叫んだ。
大河はその声の元へ掛けるのだった。