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俺と僕  作者: tama
14/26

キサラギの任務 前夜

「失礼します。」

「頭を上げよ、エウリア。」

「はっ。」

 エウリアは北の王国、シャルダンテに来ていた。国王から召集の命を受けたのだ。

「今日集まってもらったのは、『アリア』の活動情報が入ったからじゃ。場所は、『キサラギ山』。」

「それは…我が大陸では…?」

「うむ。じゃから、我が王国の独断調査となる。お主は一番隊とタイガを連れて、調査へと向かってくれ。」

 大河の名前にエウリアは驚く。

「そのような危険な調査に彼を同行させるのですか?」

「ああ。なあに、書物によれば奴は死んでも死なない。あ、他の三銃士には内密に。」


 ―――翌日―――


 エウリアは北の王国最大の兵力である一番隊と、大河を連れて『キサラギ山』へと向かうのだった。エウリアは大河には事情は全て伝えた。

 エウリアと大河、そして一番隊は馬車に乗ってキサラギ山へと向かう途中だ。

「――にしても、一番隊って…」

 大河が頭の後ろに手を組み、口を開いた。

「たったの二人なんだな。」

 そう、一番隊はたったの二人だ。

「はい。そう言えばまだ自己紹介してませんでしたね。」

 エウリアの隣に座る鎧兜を身に纏う騎士が、兜をはずした。

(わたくし)は一番隊のサラキと申します。以後、お見知りおきを。」

 礼儀正しく会釈しながら自己紹介したのは、茶髪のロングヘアーを団子のようにまとめた大人の女性だった。

「やっべぇ…超美女じゃん。」

 大河は鼻の穴を膨らまして言った。それを見てエウリアは

「ちょ、タイガさん!サラキにデレデレしないでください!」

 すると、もう一人の大河のとなりに座る騎士が、同じような鎧兜を外して口を開いた。

「あー!エウリアったらおねぇに嫉妬してるー!」

 その少女はサラキと同じような顔立ちで、茶髪のショートボブだった。

「そ、そんなんじゃありません!!」

 顔を赤くしてエウリアは少女に言った。その必死さを見て更に楽しそうな顔をする少女。

「こら、ヒラキ。エウリアさんをからかってないで早く自己紹介しなさい。」とサラキが言った。

「はぁーい。えっと、私はヒラキ!サラキおねぇとは姉妹なんだ!よろしくね、タイガ!」

 にっこりと元気よく自己紹介するサラキが、大河の興奮に拍車をかけた。

「ぐっはぁ!お姉さまもええけど、妹ちゃんもなかなか…ぐほぁ!!?」

 エウリアがとうとう大河の頭を殴った。

「いい加減にしなさい!」


 一段落つき、会話が変わる。

「一番隊って北の国最強の隊なんだよな?なんで二人だけなんだ?」

 と大河がエウリアに聞いた。

「大勢の兵を任務に出発させるには多大な費用がかかるのと、兵力の損害が無いのです。」

 兵力の損害が無い(・・)とはっきり断定できたことが、大河に二人の強さを思い知らせるのだった。

「私とヒラキはエウリアさんから直々にご使命頂き、命を受けたのです。」とサラキが言う。

「まぁほとんど私とおねぇで任務済ましちゃうから、エウリアの出番は無いけどねー。」とヒラキが言う。

「はい。本当に、二人には感謝しています。」

「へぇ。すっげー信頼してるんだなー。」


 それからしばらくは他愛のない話をしながら、長旅を楽しんだ。時折、誰かが殴られる音が聞こえたりもした。

 キサラギ山へは、王国から出発し、馬車で行って丸一日はかかる。途中で野宿をしなければならなかった。

 日が暮れようとした時、エウリアが野宿のテントを張ろうと提案した。その指示に従い、四人は野宿の準備をする。

「さて、完全に日が暮れてしまう前に、食料を調達しましょう。」とエウリアが言った。

「火は?」と大河がエウリアに問うた。

「それは魔法で処理します。」

 あ、ここは異世界だった。

 そう大河は自覚し、思考を止めた。

「では、私が行きましょう。」

 サラキが立候補した。それに続いてヒラキも立候補した。

「おねぇが行くんなら私も行かなきゃね。」

「じゃあ私と…タイガさんですか。」

「え、なんでそんな怯えた目するの!?」


 そんなこんなで、サラキとヒラキは食料調達、エウリアと大河は現場に残るということになった。

「創造の呪文"ウッド"」

 エウリアがそう唱えると、目の前に魔方陣が浮かび、そこから十メートルはあるであろう大木が出てきた。

「うおっ!?すっげ…。なんでもありだよな、魔法って。」と大河が驚き、言う。

「案外そうでもありませんよ。私、ロードであるタイガさんを探すために三度ほど異世界に行きましたが、ここよりもうんと住みやすそうでした。私からすれば、あの世界の方が魔法のようです。」とエウリアがどこを見ているのか、遠い目をして言う。

「でも、何もないところから木を出すなんて、俺たちにゃ出来ねぇぜ?」

「しかし、それが原因で戦争が起きました。」

 なんか…異世界っつっても、僕の世界と変わらないんだな。

 そう思う大河だった。

 しばらく沈黙が続き、その重い空気に耐えきれなかった大河は話を切り出した。

「そう言えば、魔法についてまだなんもしらないや、僕。"創造の呪文"とかって何?」

「えっとですね――」


 呪文には様々な種類のものがある。

 "創造の呪文" "気の呪文" "錠の呪文" "剣の呪文類"等。

 そもそも、魔法には属性があり、火、水、木、無属性がある。例えば、先程の呪文は木属性の呪文だ。基本的に創造の呪文が攻撃となる。火なら『ファイア』水なら『ウォータ』因みに無属性はどの属性にも属さないもので、創造の呪文以外の呪文を指す。攻撃的な呪文もない。基本的に各属性(無属性以外)に攻撃的な呪文は一つしかなく、威力の大小は使用者の魔力量次第となる。しかし、これらは基本的には使用せず、ほとんどが剣の呪文類を使用することとなる。

 これらは武器を強化するもので、それぞれの"個人能力(オプション)"の初期状態である武器を操り、戦うのが主流だ。

 気の呪文は魔導士を強化するもので、策敵モードや気迫(スピリット)等がその類いだ。

 錠の呪文は主に戦いにおいて有利に進めるための物となる。これを巧みに扱えるかどうかで戦いの有利不利が決まってくる。(チェーン)やブースト等。

 以上の説明をエウリアは大河にした。大河は途中から訳がわからなくなったが、何となく理解したようだ。

「なぁ、個人能力の初期状態ってのは…」

「ああ、これのことですよ。」

 そう言ってエウリアは魔法陣を展開し、そこから剣を引き抜いた。

「これは私の個人能力の初期状態である剣です。」

 つまり、大河で言う『ダインスレイフ』のことだ。

「つまり、それはまだ個人能力の本気ではないと。」

「はい。個人能力には二種類あり、使用者が過去に戦ったことのある魔物に変身する"変身魔法(メタモルフォーゼ)"と剣に宿る偉人を使用者に憑依させる"憑依魔法(ユニオンフォーゼ)"です。それらが個人能力の本質となります。」

 しかし、個人差もあり、強さは異なる。更に、これは修行や修羅場を乗り越えた者が手にすることが出来るものだ。

「じゃあ僕の能力は何の属性に入るんだ?」

「うーん…私たちは書物から読み取れる情報を元に考古学者と魔学者が解析しています。その情報では何の属性かはちょっと…。」

 ふーん。というように大河は何度か頷いた。


 エウリアが魔法で出した大木を切り終え、魔法で炎をつけた頃、サラキとヒラキが魔物を捕らえて帰ってきた。

「たっだいまー!」とヒラキ。

 取ってきたのは木の実等の穀物、小型の魔物に魚類のような見た目の魔物を何匹かだった。

「おかえりなさい。ありがとうございました。」

 エウリアが軽く会釈をして二人に言った。すると大河が食料を見て言った。

「気合い入れて二人で行ったわりには強そうな魔物とかじゃ無いんだな。」

「はい。食料となる魔物は基本的にランク外のものになるのです。ランク内のものは体内に毒を含んでいる魔物が多く、食料とはならないのです。」とサラキが丁寧に解説した。

「とりあえずご飯としましょう。」

 エウリアはそう言い、調理器具を準備した。

 辺りはすっかり暗くなり、焚き火がより明るく見えた。エウリアが木の実をすり、少量の水を加えながらソースを作る。その間にサラキとヒラキは魚類の魔物を串刺しにし、焚き火の近くに寄せて焼き始めた。大河はエウリアが剣で器用に作った木のテーブルに食器を並べる。それぞれが無駄にならないように役割分担し、仕事を全うした。


 そして、食事を作り終えた。

 大河は先に椅子に座る。この椅子も例のごとく、エウリアが作ったものだ。

 エウリアは最後の食事をテーブルに置いた。そして手を合わせる。

「それではいただきましょう!」

 その掛け声と共にいただきますの挨拶が交わされた。

「よーし、折角の機械だから雑談でもしようよ!」と大河が言った。

「おー!いいよ!楽しそうだしねっ。」

 ヒラキも大河に便乗して言った。

「なんの雑談をするんですか?誰が話題を…?」とエウリアが言う。それを聞いて大河が自分から話を振ると言った。

「えー、コホン。それでは最初は質問をしたいと思います。」

 わざとらしく咳き込み、そう言った。

「サラキさんとヒラキ……さん。」

「ヒラキでいいよ!」

「サラキで大丈夫です。」

 サラキ姉妹はそう言った。

「あ、おけ。じゃあ、サラキとヒラキは……」


 少し間を開ける。




「何カップ?」




 刹那、大河の脳天に衝撃が走った。

 エウリアが超高速でぶったのだ。

「ななな、何聞いてるんですかっ!!?み、身の程を知ってください!!」

「う…エ、エウリア、自分が聞いてくれなかったからって嫉妬すんな……ぐっはぁぁ!??!?」

 エウリアが更に追い討ちをかける。

「ちょっ……タンマ、……わ、分かったから!!」


 エウリアがしばらくして落ち着く。再び二人は食事に戻った。

「な、なんか凄い人だね……」とヒラキ。

「そうね。でも悪い人じゃ無さそうね。」とサラキ。

「サラキ!ヒラキ!騙されちゃ駄目ですよ!!この人、本当に危険ですから!!!」

 エウリアは身を乗り出して必死に訴えかける。

「お、おいおいエウリア。いくらなんでもツンツンし過ぎじゃないか?そろそろデレてもいい頃だろ?」と大河が言った。

「うるさいです!貴方にデレたりするわけがありませんっ!!」

 その二人のやり取りを見て、サラキとヒラキは笑う。それを見たエウリアは不可解そうな顔をした。

「な、何ですか?」

「いやー。エウリア、楽しそうだなって。あはは。」とヒラキが言った。その言葉を聞いてエウリアは顔を赤くする。

「ちょっ!!な、なんでそうなるんですか!!」

「おっ!その必死さ!もしかして僕のこと意識し「黙ってください」…はい。」

 あまりにも真剣な顔で言われたため、口をつぐんでしまった大河だった。


 ――――――――――――――――――――――


 長い食事を終え、それぞれが近くの川まで行き、食器を洗おうとした。

「私が洗っときますので渡してください。」

 エウリアがそう言った。

「だ、大丈夫ですか?手伝います。」

 サラキは心配そうにエウリアを見る。

「いえ、大丈夫です。」

 そう言いながら、エウリアは早く食器を渡してと催促する。全員ぶんの食器を、両手を使ってバランスを取りながら積み重ねて持つ。足取りも不安定で、今にも崩れそうだ。川までまだ少し距離があるため、歩かなければならない。それを見かねた大河は口を開いた。

「大丈夫か?本当に手伝うよ。」

 しかしそれでもいいよと拒否をするエウリア。そして川まで向かおうと、最初の一歩を踏み出したその時

「キャッ!!」

 エウリアがバランスを崩した。勿論、手に持っていた食器も地面へ叩きつけられようとしていた。

「危ない――!!」

 そんな分かりきったことをヒラキが言う。そしてエウリアの元へ駆け寄った。しかし、間に合わない。

 その時、誰よりも早くエウリアを支えたのは大河だった。


「っと!」


 それを確認したサラキとヒラキは素早く宙に舞う食器をキャッチする。しかし、いくつかは地面に落ち、割れてしまったものもあった。

「大丈夫か?エウリア。」

 大河はエウリアを抱き抱えるようにして支えた。いつもならば、やましいことばかりを考えている大河に抱き抱えられれば、暴力をふるうところだったが、今は助けられたことへの感謝と、その助けようとした大河の気持ちに、無意識にときめいていたのだ。まぁ、女性としてはやってみたいシチュエーションの一つに入るものなので、自然と顔も赤くなる。

 それを見たヒラキはエウリアにちょっかいを出す。

「わ!エウリア顔真っ赤~!もしかして本当に好きなんじゃ…」

「ヒ、ヒラキぃ~~!!!」

 慌てるエウリアを見て楽しむヒラキ。それを見てあきれる大河とサラキ。任務中とは思えないほど楽しい夜となった。

「か、勘違いだけはしないでくださいね!?タイガさん!!」

 ツンデレのテンプレのような言葉じゃないか。

 そんなことを考えながら、割れた食器を拾う大河だった。(その後、大河だけテントの外で眠らされるのであった)



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