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俺と僕  作者: tama
12/26

親探し

「それで、親ブンブンを探すの?」

 エウリアがライラに聞いた。

「はい。ブンブンはランク外の魔物ですから、いつ他の魔物に襲われてもおかしくはありません。」

「じゃあ手分けして、探す。」とナデシコが提案した。

「じゃあ、ライラはあっち。ナデシコはあっちに行ってください。……あ、タイガさんはどうしましょう?」

 ヒサギ湖は森の中にあるため、大河たちは森の中を探すことになる。距離的にはそう遠くへは行っていないのだ。

「え?僕?別に何処でも良いけど、、」

「そうではなく、誰についていかせるかということです。一人では危険ですので。」

「えー、そんな、困っちゃうなぁ。誰か一人なんて選べないよー。みんなア・イ・シ・テ・ルぜ?(きらん)」と大河がウインクしながら言った。

「…殺して良いですか?」

「おう、ライラちゃん超毒吐くね!興奮するよ!」

 大河は身体をうねらせてそう言った。そしてそれを見てドン引きする美少女たち。すると、ナデシコが口を開いた。

「じゃあ、タイガは私についてくればいい。」

「「えっ!?」」とナデシコの立候補に驚くエウリアとライラ。

「ま、まさかのナデちゃんのご指名!?やだ、僕今日童貞捨てるんだ……ぐへっ!」

 ナデシコは大河の腹を蹴った。

「ナ、ナデちゃん正気!?襲われちゃうよ、冗談抜きで!」

 とライラが必死に説得する。

「ぃや、二人…嫌かなって…だから。」

「そ、それにしては身体を張りすぎです!自分のことをもっと大切にしてください!」とエウリア。

「お、おーい。さっきから僕のことdisり過ぎじゃね?」と大河。

 ライラは胸に手を当て、握りしめた。

「わ、私がっ!この人につきますっ!!」

「ラ、ライラ…!どうして…」とエウリアが言った。

「やっぱり…皆に無理言ってるのに、私がこの人を連れていかないといけないと思うんですっ!…だからっ…!」

「え、なにこれ…僕ってそんなに避けられてるの?」

「ライラ…もっと自分の身体を大切にしなさいっ!」とエウリアが言う。

「い、いいんです。私…怖く…ない、ですから…。」とライラは泣くのを堪えて無理矢理笑顔を作ってそう言った。

「え、え、これじゃあヤクザの集団に放り込まれる一人の女性が孕まれるのを覚悟で行くみたいな展開じゃん。え?僕ってそんなに嫌われてるんだ?」と大河は困惑しながら言った。

「だめっ!ライラ…だめぇぇええ!!」

 エウリアはライラを掴もうとするように手を前に差し出す。

「また…会えたらいいな…。」

 ライラは一筋の涙を残し、大河をつかんで森の奥へ消えていった。

「いやああああああ!!!」

 エウリアは顔を手で覆い、地に膝をついて泣き崩れた。

「なにこれええええええええ!?!?!?」

 大河の叫び声は森の奥へこだまするのだった。



 ――――――――――――――――――――



「ライラちゃんはどんな体位が好き?僕はね――」

「黙ってください。」

 ライラと大河は親ブンブンを見つけるため、森の中を散索した。

 鳥のさえずる声。川のせせらぎ。木々の隙間から差し込む光。それらが一斉に交わって森を神秘的な物にした。

「こんな所に魔物なんて居るんかね?」と大河がライラに聞いた。

「言ってもこの森はそこそこの広さをもっているので魔物は居ますよ。ああ、ブンブンちゃん…どうかご無事で…」とライラは悲願するように言った。

「そんなんで見つかるんかねぇ…。」

 ライラは大河のその呟きを聞いて、納得したように顎に手を当てた。

「うーん…し、仕方がないですね…。索敵モードに入りましょうか。」

「なにそれ?」

「その名の通り、敵を探るために使う物なんです。体の感度を上げて聴覚や嗅覚、極めれば視覚までもを敏感にさせ、広い範囲での物の位置を把握することのできる魔法です。」

「つまり、索敵モードを使ったらイキやすくなるって事だな?」

「死んでくださいっ!!」

 ライラは大河の腹を回し蹴りした。

「なんでっ!!?」

 大河は三メートル程先の木まで吹き飛んだ。

 ライラは顔を赤くして大河を指差し、弱々しい声で言った。

「あ、あの!索敵モードは…ほんとに、ダメ…なんで、一切喋らないで下さい!触れないで下さい!死んでください!」

「最後の関係無いよね!?」

 しかしそれを聞いて黙っている大河ではなかった。

 ほう、敏感になるのか…ちょいとイタズラしちゃおうかな、グヘ、グヘへへ。

 ライラは大河に背を向け、瞳を閉じて精神を集中させた。

「気の呪文"索敵モード"」

 その時、ライラの視覚と聴覚、嗅覚が常人のそれを遥かに超越した。ライラは、索敵モードを極めたのだ。

「フゥー。」

 大河が不意にライラの背後に近づき、耳に息を吹き掛けた。

「っっ!!!!はぁっんっ!!!」

 ライラは索敵モードを極めたため、身体が極限に敏感になったのだ。もちろん、あっち(・・・)の感覚も敏感になっている為、耳に息を吹き掛けられたら、とてつもない快感に襲われる訳だ。

 ライラは地に膝をつき、身体を痙攣させながら悶えた。しかし、皮膚が極限に敏感になっている今、地面に生える草さえもライラにとっては快感となってしまう。膝をくすぐる草に、更にライラは快感を覚え、更に悶えた。

「うぁん!!…ひゃっ…い…ぁん!!ら…めぇえ!!」

 ライラは絶頂を迎える前に、索敵モードを解いた。

「はぁ…はぁ…。」

 大河は予想外の反応に、思わず声を出せずにいた。

 ライラは無言で立ち上がる。そして――大河の頬をはたいた。

「…サイッテー…。」

 その瞳には涙が浮かんでいた。大河は激しい罪悪感に苛まれた。ライラは本気で怒っていた。

 そしてライラは大河を置いて、先へ進んだ。

「ちょっとやり過ぎたかな。」

 大河は呟いた。


 ――いや、これでいいんだ――


 大河はライラの後を追わなかった。





 それから五時間が過ぎた。

 ライラは必死に親ブンブンを探したが、見つからなかった。

 索敵モードも、先程の一件で使うのに抵抗があった。

「…見つからない。…全部…全部あの人のせい。」

 日が暮れて、森の中は薄暗くなった。夜になってしまうと、魔物の危険度が一気に増す。視界が暗い上に夜に凶暴化する夜行型の魔物も多いため、帰らなければなかった。三銃士の原則に、無益な魔物の殺生はしない、とある。それは、自然の秩序を乱しかねないからだ。その為、魔物との戦いを避けるためにも早く帰らなければならないのだ。

「ごめんね、ブンブンちゃん。」

 ライラはそう言って、森を出るのだった。


 あらかじめ約束していた、集合場所である大岩の前にライラは向かった。

「すみません遅れました。」

「あっ、ライラ。どうだった?」

「…いえ、見つかりませんでした…。」

「私も…居なかった。」とナデシコが言った。

 エウリアは辺りを見回して言った。

「あれ…タイガさんは…?」

 ライラはハッとした顔で言った。

「あ、あ、…ど、どうしよう…わ、私…置いていっちゃった…。」

 顔を青ざめた。

「それ、結構危ないんじゃ…」

「この森…夜は、Sランク…出る。夜なら、実力は、それ以上。」

 ナデシコの言葉にライラとエウリアは森の方を見る。

「さ、探さなきゃ…!」

 ライラがそう言って三人は、森の中に入ろうとしたその時。

「うおわっ!!」

 大河の声が聞こえた。

 森の中から出てきたのだ。

「タイガさん!」とエウリアが言った。

「あ…それ。」

 ナデシコが指差したのは、先程のブンブンと…もう一匹のブンブンだった。二匹は大河の顔を覆っていた。

「いやー!見つかったんだよー!苦労したぜ全く…。」

 そう言って大河は二匹を降ろした。二匹は嬉しそうにじゃれあっている。

「よ、良かったねぇ…。本当に…。」

 ライラは涙ぐみながら二匹の頭を撫でた。

「魔物…居なかった?」

 ナデシコが大河に聞いた。

「あー……うん。居なかったよ。はは。」

「嘘。居た。」

 大河は苦笑いしながらばれたか、と言い、後頭部をガシガシと掻いた。

「怪我はない…?」

「あ、まぁ、大丈夫だよ。うん。」

 大河は後ろに手を組んでそう言った。

「……背中、見して。」

 うっ…とした顔でナデシコを見た。素直に大河はナデシコに背を向ける。すると大河の背中には大型の魔物に引っ掛かれたであろう大きな傷跡がついていた。その背中は血で染まっていた。

 それを見たエウリアとライラは口を手で覆った。

「はやく……治療しないと……。」

 ナデシコは顔を赤くして指に手を当てた。それは、フウライ町でのキスをもう一度しなければならないと思ったからだ。しかし大河は

「あー、大丈夫。指輪の能力で止血してあるから。コロナ邸まではもつよ。」

 ナデシコのそんな気持ちを知る由もなく、あっさりといいのけた。

「あっ…そ。」

 ナデシコは少し怒りぎみにそういい放った。

「とにかく、ブンブンの親も見つかったことだし、帰りましょう。」

 とエウリアがそう言った。ナデシコとエウリアが前を歩き出した。

「あの…ライラ。」

 大河はライラに声をかけた。

「は、はい。」

 ライラも控えめに返事をする。

「あ…その、さっきは…ごめん。ほんとに、ごめん。」

 大河の謝罪を聞いて、ライラはさっきまでの怒りが消えていた。根はそんなに悪くないじゃないか……そんな風に考えるライラだった。

「…ほんとに、今回だけですからねっ!」

 そう言ってライラは森の中に帰っていく二匹のブンブンを見送り、エウリアの元へと走っていった。

 大河は空を見た。日は暮れ、もうすっかりと夜だ。この世界にやっと慣れようとしている自分に気が付いていた。そして―――過去の自分に甘えてしまうことも気が付いていた。

「もっと…自重しなきゃな。」

 大河の呟きは誰が聞くこともなく、空へ消えていった。


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