ブンブン取りって何?
「ただいまー!!エウリアに、ライラちゃんは寂しくて泣いてたんじゃないのー!?」
大河が一日ぶりのコロナ邸に帰宅し、元気よく帰りの挨拶をした。
「ナデシコ、えらく遅かったですね。」とエウリアが大河の言葉を無視して言った。
「うん。…色々あってね。」
「昨日は……激しかったねどぅほぉあ!!!」
大河の意味深な発言にナデシコが蹴りをかました。
「……何かされてない?」とエウリアが言う。
「されてないよ。」と呆れたようにナデシコは言った。
ナデシコはキョロキョロと辺りを見渡した。
「ライラは?」
「ブンブン取りに行ってます。」
「ブンブン?」
大河は起き上がり、エウリアに問うた。
「ああ、ブンブンって言うのは比較的安全な魔物で、主にペットとして飼われることが多いんです。ライラは魔物が好きな魔物マニアなんですが、ブンブンが特に大好きで、週に一回取りに行くんですよ。」
「へー。そんなに大好きなのになんで飼わないのかな。」
と大河が何気なく言った。
「実は私、ブンブンが大の苦手でして……」
「うあちゃー……」
「私、ライラのとこに行く。」とナデシコが言った。それを聞いて大河も行くと言った。
「そんなに可愛いなら俺もばっちり見とかないとなぁー!」
「またお留守番ですか……。」とエウリアが言う。
「それなら来る?」とナデシコ。
「え、そ、それは……」
「いいじゃん!この機会に苦手を克服したらいいじゃん!」と大河が言った。
「えっ…でも――きゃっ!」
大河は問答無用でエウリアの手を引いた。
そうして、三人はライラの元へ向かうのだった。
ブンブンは主に水辺に出現する。主食が水で、体の主成分も95%が水分なのだ。
「確かライラは"ヒサギ湖"に行くと言っていました。」
「そのヒサギ湖ってのにどれぐらいかかるんだ?」と大河がエウリアに聞いた。
「えっと…大体15分ぐらいですね。」
「なるほど。つまり15分の間こんな美少女に囲まれてこの草原を歩くことが出来るわけだ。ムフフ…ラッキースケベもあるかな?」
「無い。」
ナデシコがキッパリとそう言った。
「ほんと、ブレないですねータイガさんは。」
呆れたようにエウリアが言った。
「そう言うエウリアこそ、相変わらずけしからんおっぱいしてるよね。」と大河が言うと、エウリアが顔を真っ赤にした。
「なっ!またそう言う事を言って…!!」
エウリアは拳を握りしめた。それを見て大河は
「ま、まて!冗談だよじょーだん!だからそれはやめれ!」と言った。
そんなやり取りをしていたら、大河たちの前に大型の魔物が立ちはだかった。
「うおっ!?なんだこいつ!?」
「Bランク、"キメラ"ですね。この辺では割りと強い方の魔物です。」
キメラと呼ばれる魔物は、鳥のようなくちばしを持ち、熊のような身体をしている。その腕力は凄まじく、一振りすれば、岩石を粉砕してしまう程の威力だ。
「…仕留める。」とナデシコが戦闘態勢に入ろうとした。しかしそれをエウリアは止めた。
「ナデシコ待ってください。」
「?」
「魔物といえど、無益な殺しは良くないです。ここは私に任せてください。」
エウリアがそう言うと、ナデシコはうなずいた。
エウリアは前に出た。キメラはエウリアに向かってその図太くたくましい腕を振り下ろした。ナデシコは魔法を唱えた。
「気の呪文"気迫"」
するとエウリアの周りにどす黒いオーラのようなものが纏われた。それを見て大河は驚いた。
「な、なんだあれ!?」
「あの魔法は、使用者の気迫。強さで、気迫の強さも決まる。」とナデシコが大雑把に解説した。
エウリアの背後にオーラが集約する。やがてそのオーラは生き物のようなものに姿を変えた。
悪魔。
一言でそういった方が早いだろう。
"気迫"という魔法は使用者の総合的な強さによって姿形が異なる。エウリアほどの強さの者であれば、それほど凶悪なものが出来上がるのだ。この魔法は主に野生の魔物に対して、気迫だけで撃退するというものだ。しかしこれは相手よりも自分が強くなければ効果がない。
だがエウリアはSSランクの魔物と対等に渡り合えるほどの強さの持ち主。Bランク程の魔物なら気迫だけで難なく撃退することは可能だ。
エウリアの強さを象徴するオーラは、悪魔のような形相で、キメラを睨み付けた。
キメラはそれを見て、怯えて逃げて行った。
「ど、どっひゃー…。すっげぇなエウリア。」
大河は度肝を抜いた。
「まぁ三銃士にもなればこれくらいは…そうですよね?ナデシコ。」
ナデシコは無言で頷く。
「でもおっぱいはダントツでエウリア…ぐはっ!?」
エウリアが大河の頭をグーで軽く殴った。(今の大河にとっては決して軽くは無いのだが。)
「貴方はまたそう言う事を!!きもいからやめてください!!」
ナデシコは顔を赤らめて言う。
「おっぱいという単語だけで顔を赤くするエウリア、可愛いよ(キラン)。…ごはぁっ!?」
今度は何故かナデシコが大河に蹴りを入れる。
「あ、ありがとうございます…。」
大河に当たろうとしていたエウリアはナデシコの予想外の攻撃に思わずお礼を言った。
「な、なんで…ナデシコが…?」
大河はあまりにも重い攻撃に悶えながらも、全く触れられていなかったナデシコの予想外の攻撃に驚く。
「…ふん。」とナデシコは鼻を鳴らしてそっぽを向き先へ行った。
「…なんなんだ…?」
二人はその後を追った。
「さぁ、着きましたよ!」
「ほぇ~。けっこー綺麗な場所だな。」
大河たちはヒサギ湖に着いた。
大河はその神秘的な湖を見て感心した。木々が辺りを囲み、木漏れ日が湖に差し込む。それが更に神秘的にさせた。
「ここに住むブンブンはヒサギ湖の水を主食としているため、とても綺麗なんですよ。」
「へぇ~。で、肝心のライラちゃんは何処に居るの?」
「さぁ…。きっとこの辺に居ると思うんですが…。」
エウリアが辺りを見回してライラを探すような素振りを見せた。
「きゃっ!」
女性の声が聞こえた。
「この声って…」大河が声のした方を向くと…そこには尻餅をついたライラがいた。
「あれ、エウリアさんにナデちゃん…。」
「おいおいライラちゃん。愛しのユアダーリンを忘れてるぜ?」
「帰ってください。」
「おぅ!?ここの女の子たちはSばっかりで困るね!おかげで僕は興奮しっぱなしだよ!」
「こんなひと放っておきましょう。ライラ、なんで尻餅なんかついて、どうしたの?」とエウリアが大河を無視してライラに聞いた。
「ブンブンちゃんが私を襲ってきたんですぅ…。ほらそこに…。」
ライラが指差す方向にブンブンがいた。
大河はブンブンを始めて見て、まず最初に思い付いたのは某有名RPGの序盤に出てくる青いあのモンスターだった。体はプルプルとしていて、ゼラチンのようだった。大きさは小さく、十五センチほどだった。つぶらな瞳で触覚のような突起があり、手足がなく、口も無い。
ブンブンは何処と無く興奮しているようだった。落ち着きがなく、プルプルと震えていた。
「ピィ!ピィー!」
「うっ…。」
エウリアはその姿を見て気分を悪くした。
「おお!これがブンブンか!はは!スラ○ムみたいだな!」と大河は興味深々にブンブンの元へ近付いていき、手に取ろうとした。するとブンブンは大河の手に噛みついた。
「いでっ!?な、なんだこいつ、口なんかあったんか!?」
ブンブンは普段は隠しているが、口はあるのだ。
「興奮してる…どうして?」とナデシコがライラに聞いた。
「きっとこの子、親とはぐれたんだと思うの。」
「くっ!このっ!」
大河はしつこく噛みつこうとするブンブンと奮闘していた。
ブンブンがその体のどこにそんな力があるのかはわからないが、大河の胸元に飛び付いた。
大河はそれを華麗に避ける。
しかしブンブンが向かったその先には…
「へっ!?」
エウリアが居た。ブンブンは止まることなく進み、エウリアの胸元に飛び付いた。
「ひゃん!!?やめっ!」
ブンブンはエウリアの鎧にある隙間から身体を滑らせ、中に入っていった。
「やっ!!だ…だめっ、そ、そこは…あんっ!」
エウリアは顔を紅潮させ、胸の中で暴れまわるブンブンのその異様な感覚に悶えた。
「な、なんだこれは…すっげぇエロ…げぶぉ!?」
大河はナデシコに目潰しをされる。
「ぎゃあああああ!!!目がああああ!!!」
「見るな、ヘンタイ。」
「エ、エウリアさん!大丈夫ですか!?今助けますっ!」
ライラはそう言ってエウリアの鎧を脱がした。
ブンブンはエウリアの服を、その水分の多い体で濡らし、入っていた。
「すいません!脱がします!」
「は、はやくぅっ…はやくしてぇっ!」
ライラはエウリアのシャツのボタンを一つ一つ外し、中のブンブンを取り出した。
「取った!」とライラ。
「はぁ…はぁ…だから……ブンブンが嫌いなのよ…はぁ。」
エウリアはやっと落ち着きを取り戻した。
「くっ…遅かったか…。」
大河はようやく戻った視界でその状況を把握し、悔やんだ。
「でも、なんでブンブンが嫌いなんだ?」と大河は聞いた。
「何故かはわからないけど、ブンブンが私に近づくと今みたいに服の中に入ってくるのよ…。その感覚が…その、いけないことしてるみたいで、トラウマなのよ。」とエウリアが言う。ライラとナデシコは同情しながら頷く。
「…わかる気がするよブンブン。俺もお前の立場だったらエウリアのおっぱ…ぐべぁっ!?」
ナデシコに顔面を蹴られる大河であった。