異世界
――俺には夢がある。
いつかこのクソみてぇな世界を変えてやる。
――僕には夢がある。
いつかこのクソみたいな自分を……
記憶から消すこと。
『その日』はなんでもないただの日常だった。
夏真っ盛りで、セミの音がやけに鬱陶しく、背中や額から流れる汗を拭いながら相田大河は、近所のコンビニへと向かっていた。
「あっちぃーなー…」と大河は呟いた。
彼は片手にスーパーの袋を持っている。中身はカップラーメンとお茶500ミリリットル一本に、アイスクリームが一つ入っている。
「らっしゃぁい…らっしゃぁい…」
大河はふと横を見る。すると怪しげな占い師のような服を着た老人が、今にも倒れてしまいそうな弱々しい声で客を呼び寄せていた。
大河は特に興味もなかったので、素通りしようとした。が。
「そこのおにぃさぁぁん。」と老人が呼び止めた。
あーあ。面倒なものに捕まってしまった。これが超絶美人のお姉さんだったら喜んで話したんだけどな。
大河はそう思いながら老人の方を見る。
「なんですかい?」と大河は言った。
「このぉ…すいしょぉうかいませぇん?」
老人はそう言いながら淡く紫に光る怪しげな水晶を大河に差し出した。
「いいです。」と大河は拒否する。
「そんなことぉ言わずにぃ。今ならたったのぉ1000円。これは福をよびまぁすよぉ?」
老人はしつこく大河に言い寄る。
「いや、ほんとに大丈夫なんで。」
大河はいい加減面倒になり、少々苛立ちながらもそれを表には出さず、帰ろうとした。
「美女を呼び寄せますよぉ?」
「買います。」
――――――――
「はぁ…とうとう僕も末期だな…。」
大河は帰り道を歩く。ここは人通りが少なく、いつも静香だ。その雰囲気がどことなく好きでいつも通る大河。
大河は野球ボール位の大きさの水晶を上へ投げながら退屈そうに歩く。
「美女を呼び寄せる…ねぇ。それもいいけど願い事をひとつ叶えてくれるドラ○ンボールだったら良いのにな。」
そしたら…この世界を…。
――――ガチャ
「ただいまー。」
大河の声は誰もいないアパートにはよく響いた。
台所にスーパーの袋を置く。中からアイスクリームを取り出すが、すっかり溶けてしまっていた。
「くそー。あのおっさんにさえつかまらなければ…。」
そう悔いながらもゴミ箱へ捨てた。
そのまま着替えずにバッタリとベッドへ倒れこんだ。
「ぐぅ…。」
目をつむる。
まぶたの裏にはいつもあの日の光景が浮かぶ。
そのたびに大河は悔いる。
自分の無力さを。
そのたびに大河は憎む。
この世界を。そして――――
あの日の自分を。
――きて――
なんだ?
――おき――さい――
女の子の声がする。
「起きてください。」
大河はその声に反応し、頭をあげた。
彼はまだ寝惚けており、状況を理解できていなかった。なぜ目の前に…美少女が居るのか。
「え…誰?」
「私はエウリア。タイガさん、来てください。貴方の力が必要なのです。」
「え、なに?なに?外人さん?え?誰?え?」
焦る大河。それを気にすることなくエウリアと呼ばれる美少女に手を引かれる。
「うわっ…」
抵抗することなくエウリアに引かれる大河。まだ寝惚けているが、うっすらと前方に光が見える。よく見てみると、先程買った水晶が光を放っていたのだ。
「ほ、ほんとに美女呼んだじゃん…」と呟く大河。
「なにか言いましたか?」とエウリアは言った。
「あ、いや…」
言葉を言い終える前に、光が彼らを包んだ。
「うわっ――!!」
大河は目を腕で多い、光を防いだ。
そして恐る恐る目を開くとそこには…
「な、なんだこれ…」
「ようこそ、タイガさん。"グランドアース"の世界へ。」
異世界があった。