踏切
電車にはね飛ばされるその刹那、私は自分の一生を振り返っていた。
私は意を決した、というよりは大いなるアキラメに陥っていたのかもしれない。
地面から飛び立つ瞬間、この苦しい世界と別れられることに清清した。
しかし、それは束の間だった。
ホームから足が離れ切らないうちに、安堵は、恐怖と焦燥に変わった。
電車が視界に入ったからではない。
電車のヘッドライトが照らし出した自分自身の影。
その底知れない闇を見たからだ。
次の瞬間、アキラめた自分と生きたい自分が空中で絡み合い、空しくもがいていた。
生きたい自分がまだ生きていたとは、驚きだった。
まだホームに触れていた足に力を込め、重心をもとの位置へと戻そうとした空しい努力が、
そのことを示していた。
しかし、体全体が線路上に打ち出されるのを、もはやどうすることもできない。
それを悟ったとき、私の瞼から一滴切り離されていくものがあった。
それは、底知れぬ恐怖と炎のように燃える後悔で、深く熱い色を帯びていた。
そして、それが私の体のうちで唯一助かった部分であった。
何の衝撃も、何の痛みも、受けることはなかったからだ。
いままでそれを流すことを嫌悪し、忌み嫌っていたものが、今は限りなく愛しい。
それとなり代われたら、私は肉体でさえ失ってもいいと思えた。
その滴は、ホームのコンクリートに吸い込まれ、
その後、助けに来たと言いはる者たちによって、何度も何度も踏みしだかれた。
かつての私達を象徴するかのように。
しかし、もはや私は痛みを感じることはなかった。
その滴が、私の体から切り離されたように、
「私」も、私の体から、私の脳から、私の心からさえ、切り離された。
そこは、2本のバーで閉ざされた、誰も入ることの許されない場所だった。
そして、「私」は、今まで安全に、快適に、
ここまで私を運んできてくれた電車のレールを越えた、その先の、
自分の作った、真っ暗な闇の中へと、消えていった。