いくら待っても順番は来ず
翌日ムロリーの町を出発した一行は三日後無事学園都市アイギスに到着した。
ここは学園都市であるとともに港町でもある。大都市だ。ここに着く前日から街道を歩く人が数多く、また貴族達の馬車も多くなってきた。港もあることもありここは最大の貿易を行っている。表面がでかくなれば裏側もそれに比例して大きくなる。良くも悪くもここは潤っている。そしてここから犯罪が始まることも多いので出入口が一つしかない。国土に不純物が広がるのを防ぐためだ。予断ではあるが今メイドの3人がここに連れられ船に乗り込まれたら完全にアウトだった。
今ルーファス達は関所で順番待ちをしている。入場ゲートは4つあるがどれもいっぱいだ。通りから一番離れている一番左のゲートに並んで順番を待つことにした。
「多分今日中には中に入れると思うのですが。」
「問題ない。気にするな。」
はっきり言って退屈だった。見回してもひと、ヒト、人。それ以外ほぼ何もない。まつこと数十分。飽きた……。退屈で見回すがなにも無く、眠気が襲ってくる。欠伸を噛み殺していると前の奴が話しかけてきた。
「本当に退屈ですね。」
見回してみるがどうやらルーファスに話しかけているようだ。そいつは身形の良い服を着ていて、背は170㎝くらい、髪はグレイの短髪で綺麗に整えている。少し鋭さを感じる目もグレイだ。その鋭い視線から警戒心が湧きあがりながらもお前何者だと尋ねた。
「いえいえ、ただのしがない行商人ですよ。僅かですが塩の取引もさせて貰ってますが。」
この国では塩は国の専売で、国の認めた者にしか販売を認めてなかった。例え僅かでも塩を扱えるのは国の専業、若しくはやり手のどちらかということになる。どちらにしても目をつけられたら碌なことにならない。当然ドルディーの警戒も強くなる。
「いやいやそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。あ、申し送れました、私アントニオ・ドアークと申します。」
ドルディーがドアーク…と呟いている。
「はい、私が会頭のドアークです。」
とにっこりほほ笑んだ。
ドアーク商会は塩の取り扱いなどよりも力を入れている分野があり、その分野において右に出るものはいない商会だ。扱っていいる商品はマジックアイテムで貴族などが金に物を言わせて買おうとしてもこの会頭の眼鏡に適ったものにしか売らないことで有名だ。怒った貴族に斬りかかられたことも儘あり、国が仲裁に乗り出したこともあった。どちらかと言うと国に目をつけられているといっても良い。が、この商会お抱えの作りだすマジックアイテムの価値に黙認しているのが現状だ。
「ふーん、で、そのドアークさんが一体何の用だ?」
「そんな他人行儀なこと言わずにアントニオとお呼びください。」
初対面でこの馴れ馴れしい態度に余計ルーファスは警戒心を強め、アントニオを睨みつける。
「そんな怖い目で睨まないでください。本当に他意はないんです。本当ですよ。……ただ、あなたから金の匂いがした。それだけです。」
その一言でルーファスの警戒心はマックスとなり魔力が身体から漏れ出す。
「ち、ちょ、ちょ、ちょっと待った!言い方が悪かったです。すみません。」
両手を前に出し距離をとりながらもどうにか頭を下げる。アントニオは深呼吸をし息を整えた。
「これは商人としての私の勘ですがあなたとお近付きになれば金儲けができると思ったのです。本当ですよ。お詫びに商品をお見せしますので気にいったものがあれば格安でお譲りします。」
その胡散臭さから警戒心を全部とくことはできないがマジックアイテムには興味がある。なによりドルディーの方が乗り気だ。少しお待ち下さいと、鞄の中から品を出し始めた。宝石の鏤められた腕輪や指輪、更には首に巻くものや脚に巻くものもある。そのどれもが魔力を帯びていた。
「これは商品のほんの一部ですがなかなかの物だと自負している物ばかりです。」
一通り見たがルーファスの目に適うようなものは何もなかった。なので一言、いらんと言い放つ。
「え…。そんなこと言わずこの指輪なんか火魔法に耐性がついてますし、これなんか魔法の威力が少しですが上がる優れものですよ。」
「なんども言わせるな。そんなものこれっポッチも欲しくない。たいだいその程度自分でどうにかできるし。時間の無駄だ。あっち向いてろ。」
邪魔だと言わんばかりに手をシッシッと払った。アントニオはあっけにとられるもすぐに立ち直り鞄の中を探り出した。
指輪や腕輪はダメなのか…、じゃ魔力を抑えるリングもダメだろ、この解析の魔法の籠った眼鏡もダメだな。ん~後は剣か鎧か…。鞄の中をごそごそしてはぶつぶつ言っていたのにルーファスとドルディーが喰いついた。
「いいのがあるじゃねえか。随分勿体ぶるんだな。それだよ、それ。そういうのだよ。」
「全くです。」
二人は嬉しそうにアントニオの両脇でバシバシ肩を叩いた。
「え…。剣が欲しかった」
「誰がそんなもん欲しいって言った?その眼鏡だ。そうそれ。」
「でもこれ…解析の魔法使えれば必要ないとほぼお蔵入りしてる」
「そんな馬鹿どもなんざどうだっていいんだよ!で?いくらだそれ?」
アントニオは訝しみながらも眼鏡を取り出し、金貨1枚でどうかと言い終わる前に金貨を1枚投げ渡された。即座にルーファスは眼鏡をぶんどり、かけてみる。そして懐から何かの石を取り出し解析してみると魔法の効果と変わりない結果がでて満足そうで、満面の笑みを浮かべている。
「私目はその魔力抑制リングを見せて戴きたい。」
「これもただ魔力を抑えるだけですよ。」
「構いません。それで効果のほどは?」
「…ええ、それは魔力を10段階に抑える効果があります。つまり最大で十分の一に抑えることができますね。解除方法は自分で行えますが…、あまり必要はないかと…。」
「十分です。おいくらで?」
アントニオはポカンとあいた口が塞がらない、狐に抓まれた様子だ。どうにか立ち直り金貨1枚で良いと言うなり、ドルディーから1枚渡された。ルーファスもドルディーも満足そうに笑っていた。
「ほ、本当にそんな物が役に立つのですか?」
「あたりまえだろ!じゃなきゃ買わねえよ。だいたい何をもってこれが役にたたんのか逆に教えてもらいたいものだ。」
「でも解析の魔法使えばいらないんじゃ…。」
「それは当たり前だろ。でも大量の物を解析するんじゃそうもいかないだろ?魔力は無限なんかじゃねーからな。」
商人は何かを仕入れる時は大量に仕入れる。例えばトパーズを仕入れるとすると箱単位で買う。そして箱の中はすべて同じものだ。純度などは関係ないのだ。だから箱に解析をかけてもトパーズとしか出てこない。なので態々解析の魔法をマジックアイテム化した高価な物など誰も欲しがらないのだ。どのように使うのか考えても分らなかった。なのでこんどはドルディーにどう使うのか聞いてみた。
「これの使用方法は申し上げられません。」
とりつく島もなかった。
「お前のとこ良い品扱ってるみたいだな。店はここにもあるのか?」
ドアーク商会の本店はこの街にある。大体の大店は人の出入りの激しい所に拠点を置く。ドアーク商会もその例に洩れなかった。
「その通りです。なにかご要望でもありますか?」
「ああ、マジックアイテム作ってる職人に会いたい。」
アントニオは考えてしまった。今までもこのようなことを言ってくる奴は大勢いた。そしてことごとくそれを断っていたからだ。だが、頭の中で警鐘がなり響く。これは断るなと。アントニオが葛藤しているとルーファスがすまんと言ってきた。
「悪かったな変なこと言っちまって。別に他意はないんだけど。ちょっと興味があったからな。悪かったな。」
アントニオは何も言えなかった。どうするか迷ったままだったから。その後も値も無い話しをしながら順番が来るのを待っていた。
学園都市アイギス入場まであと少し。