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夜長

「ふう食った、食った。なかなか美味かったぞ。」

「それはどうも…。」


 満足そうなルーファス。それとは対照的なアレン。半泣きな兵士……。

 あれから3杯おかわりし満足していた。つまり計4杯かつ丼を食べたのだ。なかなかの胃袋と称賛できよう…。そしてそれをその都度買いに行かされた名も無き兵士…。それも毎回ダッシュで…。

 ……ご苦労さん…と彼を誉めてあげたい。

 ルーファスは満足そうに、ご苦労さん、帰っていいぞ。と言い放った。半泣きだった兵士の顔は今にも崩れ落ちそうなくらい苦渋に満ちていた。今にも涙が零れそうだ。

 これ以上自分の部下を虐げられる前にアレンが強制的に退出させた。要は憐れ過ぎて見ていられなかったのだ。


「で、そろそろ本題に入りたいのだがいいか?」

「いいぞ。何でも聞いてくれ。」


 踏ん反り返るように胸を張るこの男に何かを言いたかったが、ぐっと飲み込み仕事をしようと無視することに決めた。

 

「それじゃ始めるぞ。」

「うむ。」


 なんか偉そうだ。


「何故あの場所にいた?」

「謝らせるため。」

「何を?」

「ぶつかってきたのに謝らなかった。」

「…………。」

「ぶつかったら謝る。常識だろ。」

「………。」

 

 そんなことも知らないのか?って顔で言われイラっとする。


「……そうだな…。じゃ次だ。」


 どうにか次の質問を言葉にする。


「死体の方だがあれはお前の仕業か?」

「そうだ。」

「同機はきくまでもないか…。どうせさっきと一緒だろ…。」

「そうだ。どうせあいつらは非合法の裏取引やってる奴らだったんだろ?だったらお前等の手間が省けてよかっただろうが。寄ってたかって証拠隠滅はかろうとしたんだ。十分な正当防衛だろうが。」


 ルーファスは面倒くさそうにそう答える。


「そうなんだが釈然としないものが何故かあるのだが…。まあいいだろ。それよりさっきの奴隷商ワーレンと言うんだが、なかなかな悪党で懸賞金がかかっている。金貨5枚だ。帰るときにでも受け取ってくれ。」


 アレンはそこでそれより…と言葉を濁す。


「これはあまり言いたくないんだがあの場所にいた奴隷落ちしそうだった3人の娘なんだが…。それの所有権もお前に移行した。」

「絶対いらん!」


 完全に拒否の体制を示した。


「そうはいかん。お前が受け取らないとこっちは正規の奴隷商人に引き渡さなくてはならない。それじゃあの娘らも救われんだろ。」


 奴隷の主なしはそれだけで罪になる。主を殺した場合があるからだ。このような非合法の取引現場で保護された場合は保護した者に所有権が移るのだが、ルーファスは拒否した。その場合国の認めている奴隷商人達に引き渡すことになるのだが、今回はまだ未遂の段階で完全な奴隷契約は行われていなかったのだ。そこで態々奴隷に落とすことをアレンが心情で嫌がりルーファスに押しつけようとしたのだ。


「取敢えず見るだけでもどうだ?なかなかな器量の娘ばかりだぞ。」


 少し待ってろ、とルーファスの返事を待たずに娘達を呼びに行ってしまった。本来なら部下にでも頼んで呼んでもらうのだがアレンが全員帰らせてしまったので自分で行くしかなかった。


 程無くアレンが3人の娘を連れてきた。

 

 3人とも時間は深夜にも関わらず目が爛々としている。この娘等にとってここが運命の分かれ道になるので当然のこととも言える。彼女らは何も言わず目でルーファスに訴えている。見かねたアレンが話しを切り出した。


「どうだこんな美人を3人も連れ歩けるんだ。さぞ鼻も高くなるもんだぞ。」


 ルーファスはなにも言わない。いや言えなかった。連れ歩く云々ではなく断った時の娘達の処遇を考えていたからだ。何故ルーファスは娘達を受け入れるという選択肢を選ばないのか…。

 女に全く免疫がなかったのだ。物心ついた時にはドルディーしかいなく、母親のことなどほぼ覚えていない。今まで旅をしていても殆ど接点もなかった。何かあるとドルディーがすべて対処してくれた。たまに街で母子(おやこ)を見て羨ましいと思ったこともあるがそれだけだ。なので零と言っていいくらい女に免疫がなかった。この3人もルーファスの見た目に目を奪われこの人ならいいかな。などと熱光線(しせん)を送っているわけだが…。ルーファスは全く気付かない。奥手などという言葉でさえ今のルーファスにはまだ早かったのだ。ようはまだ子供(ガキ)なのだ。

 しばらくルーファスは考え込んでいた。答えは浮かばないのだが…。その時助け船が来た。


「若!探しましたぞ!」

 

 執事のドルディーだった。彼はルーファスの帰りが遅く今の今まで至るところを走り回りルーファスのことを探していたのだ。現在外は真っ暗。夕飯位までには帰ってくるはずだが、そんな気配は全くない。今までそんなことはなかったのだ。ルーファスの身に何かあったのかとあらゆる所を走り回り探した。そして辿り着いたのが戦闘のあった場所だ。その物々しい雰囲気にこれは事件に巻き込まれたのだと殺意を漲らせながら更に奔走した。数時間至るところを捜索しやっとここに辿り着いたのだ。

 数時間も走り回り、不安と焦りから今のドルディーには近寄りがたいオーラが出ている。その雰囲気にこの場が飲み込まれ誰も声を出せないでいた。


「して件の賊は何処に?」


 ドルディーから発せられるオーラに娘達はガタガタ震えだし、アレンも顔が蒼くなっていくのがわかった。そのくらいドルディーは怒り狂っていた。


「オレが瞬殺したからもういないぞ。」

「…………。」


 褒めて貰おうとドヤ顔でルーファスが言い放つ。だがドルディーの顔はみるみる沈んで行き今にも泣き出しそうなくらいへこんでいく。そしてとうとう泣きだしてしまった。


「若。人を殺すのはもうお止め下さい。」

「どうしてだ?悪を滅したのだぞ?」


 城から逃げ出した当初、ルーファスの命を狙う輩が多く、その時ドルディーは自分以外の命を狙う奴は迷わず殺せと言っていたのだ。何があっても生き延びろと。そうして逃げ延びるうちにルーファスはそれが当たり前のことだと思うようになり今まで生き延びることが出来たのだが、およそ他の同年代とはかけ離れてしまいドルディーにもどう伝えていいのか思い浮かばず、不本意ながら学校へ行けと言わざるを得なかったのだ。当然人殺しの罪の意識などは感じない。ドルディーはそれを嘆いていた。

 涙ながらに訴えるドルディーにルーファスは頷いた。ドルディーの言うことには素直に従うルーファスなのだがこれもドルディーの悩みの種だ。早く自主性を持たせたいのだが……。ドルディーは自分の教育方法の間違いを嘆くのだった。


「…あの……、宜しいですか……?」


 恐る恐るアレンが尋ねる。そう今は娘達の進退を決めていたのだ。


「これは私としたことが、申し訳ありませんでした。」


 そう言い深く頭を下げる。


「…いや構いませんけど…。それでですね、そのルーファス君が奴隷商から保護した娘がいましてですね、それをそちらで引き取って貰えないかと…。」


 ドルディーは考えた。若い女子なら若も少しは華のある生活になるか…。などと考える。


「わかりました。それらの娘達は私が引き受けましょう。」

「本当ですか?いや助かります。」

「いや、こちらこそ。それでお前達の意思はどうなんだ?こちらとしても無理強いはせんぞ?」


 娘達は少し逡巡があったもののよろしくお願いしますとそろって頭を下げた。


「宜しい。ではこれよりルーファス様付のメイドとして働いてもらうからそのつもりでいてくれ。」


 それを聞いて娘達は嬉しそうに頭を下げた。娘達はドルディーが引き取るといったのでどうなるのだと思っていたようだ。それがルーファスのメイドとしてと言われ納得したからだ。それがルーファスの容姿を基準で選んでいたとは言えないが…。


「よし!話しが纏まったな。これが報酬だ。」


 アレンはそう言い小さな包みをルーファスに渡した。中にはちゃんと金貨5枚がはいっていた。


「それじゃ報酬も確信したな。じゃもう帰ってくれ。」


 今日この場にいる奴らは皆一様に長い夜になっていた。アレンが早く帰れと促すものわかる。


「それでは宿へ帰りましょう。」 


 一同は宿に戻り、長い一日の終わりを告げる。

 その時3人の寝どこがなくて揉めたのは別の話し。

 

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