一人で歩いてると何かに巻き込まれるってホントだな
執事のドルディーに置いて行かれたルーファスはいつまでも突っ立ていても仕方がないと、取りあえず観光でもするかと歩きだす。
人の多そうな場所に向かうとそこには屋台が立ち並び、旨そうな匂いがしてきた。
そう言えばまだ昼飯を食べていなかった。
ルーファスの目に止まったのはなんの肉かは分からないが良い匂いが漂う串肉だ。
「親父、それ5本だ。」
「あいよ!一つ銭貨1枚だから……。5Jだ。」
一例であるが一般的な4人家庭が一月過ごすのに銅貨が5つもあれば十分生活できた。銅貨が5枚。500円だ。そう考えると5Jは十分に贅沢な金の使い方と言える。
ルーファスはポケットの中からがま口を取り出し、そこから銭貨5枚出し屋台の親父に渡した。
この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨、銭貨でなっていて、それぞれ10000、1000、100、1となる。単位はJだ。
屋台の親父は金と引き換えに袋に詰めた串肉を渡す。
「まいどぉ!」
左手で抱えた袋から串肉を1本取り出し頬張りながら歩き出した。
(なにして時間潰すかな……。)
何を買うでもなく、珍しいものがあると立ち止まり、また歩き出す。それを繰り返していた。周りには若い娘達が若干頬を赤らめルーファスを見ているのだが、ルーファスは全く意に返さない。
そのうちに一つの店が目に止まった。
楽器を売っている店で店先で窓越しに並んでいる楽器を眺めていた。
ルーファスは実は寂しがり屋だ。子供の時両親を亡くし平気でいられるほうがおかしい。なにかあるたびフルートを吹いて気を紛らわしていた。逆に嬉しいことがあった時も吹くのだ。殆ど嬉しいと思ったことはないのだが……。
(お…。あのフルート総銀製とまではいかないが良さそうだ…。)
店頭のフルートが気になり店に入ろうとしたその時。
どかっ!と何かがルーファスにぶつかった。
「邪魔だ!どけっ!」
ぶつかった男は文句を言いながら走り去った。他にも数人一緒に走っていくのが確認できた。今、ルーファスの怒りはメーターを振り切った。楽器を眺めるのは数少ない癒しだったからだ。
身体の奥底から湧き出る怒りをどうにか静め、男達が走り去ったほうにルーファスも走り出した。
男達は段々と人影が少なくなる路地裏のほうへ進んで行った。このきな臭さを本能で感じとったのか僅かに距離を置き追跡する。相手の動きが止まったのを感じ、そこを影から覗き見ると首輪を嵌められた若い女が3人と、さきほどルーファスにぶつかってきた男達とその仲間で8人。それに胡散臭そうなフードを被った男がいた。状況を鑑みるに奴隷商人だと思われる。
このろくでもない奴らがどこからか攫ってきた女達を鉄格子でできた、牢屋にしか見えない馬車に乗せようとしているところだ。
他の正統派主人公はアジトを突き止めるべくその後をつけたり、この場で行動不能にし官憲につきだすとかするのだろうが……。
己の癒しの時間を邪魔され怒り絶頂のルーファスには関係なかった。
「おいお前!さっきはぶつかっといてごめんなさいもねぇのか?あ?そこらのガキでもわかることだろぉが!それともなにか?そんな難しいことは誰も教えてくれなかったのか?これだからゆとり世代は!人の話しを聞かねぇで図体ばっかでかくなったからって大人になった訳じゃねえぞ?ムカついたから殴っちゃいました(にっこり)なんてのが世の中で通用するとか思ってんの?未成年保護法があればなにやっても許されると思ってるの?だいたい最近の若い者はなんて言ってる大人がしっかりしねえからダメなんだ!つまりはお前等!自分等で世の中腐らせておいて誰かのせいにするなっての!しかもお前なんか臭うんだけど!風呂入ってるの?ああ風呂なんかないのか!それでよく街の中歩けたな!つまりは全部ダメ!おいおいありえねぇぞ!あぁ?それともただの馬鹿なのか?なんとか行ってみろや!」
もはや支離滅裂である。しかも自分で自分の言葉にキレていた。一同は唖然として言葉が出なかった。 涙目のやつもいた。こう言う奴ら、つまり中途半端に腕っ節に自信のある奴ほどあっけないほど悪口に弱いものだ。
だが完全にキレている今のルーファスには関係なく更に追い打ちをかけた。
「言葉も知らねぇただの猿かよ?お前等のごめんなさい聞くのに五万年は進化を待たなくちゃならねぇのか?ったく時間無駄にしたぜ。」
訳の分からないことを捲くし立てたおかげで少し気分が晴れ、もういいか…と先ほどの店に戻ろうと来た道を引き返した。
この場にいる全員が呆然と立ち尽くしていたがルーファスが立ち去ろうとしているのを見て、フードの男がはっと我に返り声を上げた。
「逃がすな追え!」
フードの男の声に皆我に返りルーファスを追いかけようとした。同時にルーファスは面倒くさそうに振り返ると指をパチンと鳴らす。
その瞬間8本の火柱が立ち上がった。
フードの男は腰を抜かしあわあわ言っている。盛大に漏らしたようでズボン処か地面に広大な世界地図を書いていた。
「こっ………こっこっこん…こんなことしておいてっ…。ゆっ許されると思っているのか!」
どうにか声を絞り出したがそれも素気無く返される。
「どの道密売は絞首刑だろ…。関係ないことにオレを巻き込むな。」
そう言い立ち去ろうとする……が、騒ぎを聞きつけた騎士に道を塞がれた。
今日のルーファスはトラブルの神に愛されまくっている。