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ボケとツッコミの社会問題会議

ボケとツッコミの社会問題会議 ・資源枯渇編

 「その昔、人は、お金がない世界で生きていた…… 野山で獣を追い、或いは木の実を集め、魚を釣り… ところが、ある時から人間は、お金… つまり、マネェを手にするようになった。そして、そのマネェで食べ物や衣服などを買って手に入れるうち、いつしか、錯覚を抱くようになってしまった。マネェさえあれば、何でも手に入れられる、と……。

 でも、本当は違う。いくらマネェがあったって、物がなければ、人間は生きていく事ができない。つまり、本当に大切なのは、マネェではなく、物。物なのよ!

 だけど、それを踏まえた上でも、あたしはお金が欲しいわ! 誰か、誰かあたしに、マネェをプリーズ!」

 「どっからツッコミ入れて良いのか、分からない語りからいきなり入るな!」

 と、語りが終わるなり、立石望がそうツッコミを入れた。本来はボケ志向だけど、責任感の強さからツッコミになりがちな女である。語っていたのは、卜部サチ。彼女は、分かり易くボケ。

 「何よ、マネェって」

 と、そこで長谷川沙世がツッコミを追加した。彼女はツッコミ。そのやり取りを半ば無視して、火田が言った。

 「まぁ、言い方は置いておくとして、言っている内容は概ね正しいよ。マネェ… 通貨ってのはとどのつまり、単なる媒介物に過ぎないからな」

 因みに火田は、ボケもツッコミもするけど、解説役になりがち。

 「火田さんまで、マネェ言わない」と、すかさずそれに沙世がツッコミを。火田はまた続けた。

 「ところが、マネェが単なる媒介物に過ぎないって事を分かっていない連中がいる。少し有名な経済のブロガー級でも、これを勘違いしている奴はいて、“日本には借金があるから、高齢者は飢え死にするしかない”なんて、馬鹿な発言をしていたりする。

 ちょっと考えれば分かるが、食糧を生産する能力とそれを消費者に届ける流通さえ確保できているのなら、誰かが餓死するなんて事は起こり得ないんだよ。例え、何千兆円借金があったってな。

 要するに、借金があるかどうかよりも、資源の枯渇の方がより大問題って事だ。資源がなければ、人間は生活できない。だから、このまま資源枯渇を放置し続ければ、その資源の奪い合い… つまりは、第三次世界大戦が起こる。ほぼ確実にな」

 その後で村上アキが言った。

 「でも、マネェが資源と密接な関係にあるのも事実ですよね。資源が枯渇すれば、物価は高くなる訳だし。その対策の為に、マネェが必要でもある」

 アキはボケだけど、解説役になりがち。

 「まぁな。そういう意味じゃ、マネェも重要ってのは否定しない」

 その会話の後で、沙世が言った。

 「だから、マネェ言わない!

 もぅ、ツッコミが追いつかないじゃない! “マネェ”が定着しているし」

 卜部がそれに満足げな表情を浮かべる。

 「フフフ。あたしの影響力も馬鹿にならないわね」

 立石が言った。

 「はい。馬鹿は放っておいて、議論を続けるわよ。資源枯渇で、最も心配なのは、やっぱりエネルギーかしらね?」

 アキがそれに頷く。

 「そうだろうね。他の資源は、まだリサイクルって方法がある訳だけど、エネルギーはリサイクルできない。熱力学第二法則の壁を破った永久機関は存在していないから」

 火田が続けた。

 「それに近いのはあるけどな。プルトニウムの再利用は、使用後に燃料が増えるってな、夢みたいな話が現実味を帯びた例だ」

 「おっ プルトニウムの再利用肯定派… 原発推進派に寝返ったの? 火田さん」

 と、そこで卜部が言う。

 「ねぇよ。何度も言わせるな。リスクが高すぎるんだよ。プルトニウムの再利用は、世界各地で事故が頻発しているんだ。それに、再利用に労働力がかかるんなら、やっぱり高コストだ。将来的には、労働資源が減っていくだろう日本には、やはり不向きだ」

 火田がそう返したところで、久谷かえでが言った。

 「そんなこんなで、今回の議題は、“資源枯渇”です。もぅ、既に議論しちゃっていますが、まぁ、もっと、どんどん議論しちゃってください」

 「今回のタイトルコールは、明らかに手抜きね、久谷」とそれに立石が言う。

 「いえ、卜部さんが冒頭で色々と言ってくれましたし、別に良いのじゃないかと」

 「あれでいいのか、あんたは…」

 「あ、因みに、今回の会場は、趣向を変えて飲み屋です。個室を借りましたー」

 ※注意。キャラ達の年齢は、作者の自由自在なので、未成年は越えている事にしております。だから、アルコール可。

 「あ、わたしはウーロン茶で」

 そこで、そう言ったのは沙世だった。

 「地の文の“アルコール可”の説明を無にするな!」

 そこに立石がツッコミを。

 「だって、わたし、アルコール類苦手なんだもの…」

 そこに卜部が「あ、あたしは、カルアミルクね」と続ける。

 「と言いつつも、卜部が酒飲むのは、ちょっと不安なのよね」

 立石がそう言う。アキが「カルアミルクは、甘くて飲み易いから、つい飲み過ぎちゃう事が多いしね」と、補足した。

 卜部がそれに抗議するように言う。

 「大丈夫よ。カルアミルクくらい… てか、遅いわね、店員」

 そこで火田が言った。

 「なぁ、さっきからお前の後ろに立っているそいつは、店員じゃないのか?」

 火田が指さす先には、作務衣姿の女性が無言で立っていた。しかも、薄暗い場所にいた所為で明確には分からなかったが、何か見覚えがあるような……。卜部が言った。

 「ちょっと、店員!

 来てるのなら、どうして声をかけないのよ!」

 店員は何も言わずに、頭を下げる。声は出さない。それから顔を上げると、少し位置がずれた所為で照明に照らされ、その顔が明らかになった。

 「って、猪俣さんじゃない! 何やってるの?」

 そう言ったのは沙世だった。そう。そこににいたのは、無口を通り越して、全く喋らない女、猪俣種だったのだ。立石がこう続ける。

 「もしかして、アルバイト?

 しかも、よりによって接客業? よく面接通ったわね!」

 猪俣さんはそれを受けると、ガッツポーズを取る。立石が言った。

 「“がんばりました”って、がんばればなんとかなるレベルでもないでしょうよ、あんたの無口は…」

 卜部がそれを聞いて言う。

 「何なの? この女は…」

 久谷が説明した。

 「猪俣さんといいまして、喋らないという特徴を持つ方です。因みに、特技はハグ」

 「ハグゥ?

 つまり、色仕掛けってこと? それで、アルバイトの面接に受かったの? アリなの? それ、アリなの?」

 それに反応して、猪俣さんは首を傾げる。立石が言った。

 「ハグは女性に対してしかしちゃ駄目だって言われているそうよ」

 「どうでもいいけど、どうして立石は猪俣さんの言いたい事が分かるのよ。前回からほぼ通訳よね」

 と、それに沙世がツッコミを。

 「まぁ、とにかく注文しようぜ」

 その後で、火田がそう言うと、銘々が料理や飲み物を注文し始めた。注文し終えると、立石が言う。

 「今回の議題は、“資源枯渇”な訳だけど、やっぱり話の流れからして、どんな資源枯渇問題があって、それらをどう解決すべきかって内容になるのかしら?」

 火田が頷く。

 「まぁ、そうだろうな。ただ、一口に資源って言っても広いから、ある程度は分類していかないと、また掴み所のない議論で終わるぞ」

 アキがそれに続ける。

 「なるほど。でも、そうなると、どういう基準で分けるべきかって問題が出て来ますよね」

 久谷がそこで発言する。

 「それは、こんな感じで良いのじゃないですか?

 一つ目は、消失する資源…

 再利用不可能な資源ですね。代表例は、エネルギー資源ですが、物質資源の一部もこれに含まれるはずです。

 二つ目は、再利用可能な資源…

 コストさえかければ、再利用が可能で、仕組みさえ確立してしまえば、解決できる問題です。

 三つ目は、労働資源…

 人間自身のことで、非常に特殊なので、その他の資源と分けました。

 こんな感じで、どうでしょう?」

 その久谷の言葉に、立石が驚く。

 「おお、久谷。珍しく、積極的に発言しているじゃない」

 「前回、失敗したから、挽回しようとしているのじゃない?」

 と、それに沙世が。久谷は何も返さない。そんな久谷の肩に、そっと手が置かれる。

 「猪俣さん…」

 そう。そこには、いつの間にか再び猪俣さんが姿を見せていたのだった。

 「おお、また、わたしを慰めてくれるのですか…」

 そう久谷は言ったが、猪俣さんは首を横に振る。

 「飲み物と食べ物を届けに来たそうよ」と、そこで立石。そう。彼女は、単に料理や飲み物を運んできただけだった。料理を並べ始める。

 「さっき、久谷が“消失する資源”と言ったが、エネルギー以外での代表格は、やっぱり生物資源だろうな」

 食べ物が並べられるのを見ながら、火田が言う。それに卜部が頷く。

 「ああ、ウナギ、マグロ、タコ… いつまで食べられるのか、不安な食材が確かにいっぱいあるわね…」

 沙世がそれに続けた。

 「でも、養殖にすれば良いのだから、そこは解決の糸口があると言えばあるわよね」

 それを聞いて久谷が言う。

 「おお、長谷川さん、ナイス指摘。ポイントはそこだと思います」

 「どこ?」

 「多くの生物資源は、本来ならば“消失する資源”に分類される訳ですが、養殖などにして生産方法を変える事によって、“消失する資源”から“再利用可能な資源”にシフトさせる事が可能なのです。で、資源問題の解決方法は、基本的にはその作業を行う事なのだと思うのです。つまり、枯渇する資源を、どうにかして、“再利用可能な資源”にシフトさせる。

 もちろん、節約も重要ですがね」

 届けられたビールを飲みつつ、アキがそれにこう言った。

 「確かにその通りだと思う。流石、久谷さん。本気出すと違うねぇ…

 でも、そこで考えなくちゃいけないのが、コスト… つまり、ここでは労働力の問題だよね」

 「あ、アキ君、ビール飲んでる」と、それを見て沙世が言う。

 「飲んでるけど?」

 「なんで、今、そこに注目するのよ、あんたは」と、それに立石がツッコミを。その後で火田が言った。

 「久谷も村上も、資源問題の本質を捉えていると思うぞ。そして、枯渇する資源に対応する為には、労働力が絶対に必要になってくる。まぁ、そこに色濃く経済が絡んで来る訳だが。

 ……逆に言えば、労働力が余っている今という時代は、資源問題を解決するチャンスってことでもあるな」

 言い終えた後で、火田はビールを飲む。

 「なるほど」と、そう言ったのは卜部。彼女はカルアミルクを飲んでいる。こう、続ける。

 「つまり、どういう事?」

 沙世がそれに、「分かってなかったんだ」と、ツッコミを入れた。火田はそれを聞いて淡々と説明をし始めた。

 「エネルギー資源問題を例にすると分かり易いがな、例えば、太陽電池をたくさん造って、設置していったとしようか。国が買っても、個人が買っても何でも良いんだが、そうすると、太陽電池について、“通貨の循環”が発生して、その分だけ経済が発展する」

 「また、太陽電池なのね…」と、それに沙世がツッコミを入れた(※ 火田は太陽電池が好き)。

 「これをやれば、もちろん、社会の資源問題が改善する訳だから、大助かりなんだが、このまま少子化によって、労働力が枯渇していったら、まぁ、実現は不可能だ。どうだ? これでイメージがついたか?

 つまり、資源枯渇問題を解決するのには、労働力が必要になってくるって話だ」

 それを受けて卜部が言う。

 「なるほど」

 カルアミルクを飲んだ。

 「つまり、どういう事?」

 「やっぱり、分からなかったんだ」と、それを聞いて沙世がツッコミを。

 「こいつ、既に酔ってない?」

 そう言ったのは立石だった。立石がそう言い終えるなり、卜部は言う。

 「店員さん、お酒なくなったぁ 今度は梅酒でぇ」

 「こいつに、これ以上飲ませていいのか、不安になってくるわね」

 と、それを聞いて立石が言う。それに沙世が続ける。

 「わたしはアキ君が心配だけど…」

 それに立石が疑問の声を。

 「どうして? 大人しくしているじゃない…」

 と言ったところで立石はアキを見て、固まる。明らかに呆然としているからだ。

 「アキ君… お酒が入ると、いっつも頭が働かなくなるみたいなのよね。多分、お酒に弱いのだと思うけど」

 それに反応して、アキが言う。

 「そんな事ないよ。今だって、ちゃんと労働資源のことを考えていました」

 立石が頭を抱える。

 「明らかに、様子がおかしいわね… 飲み屋で会議って、やっぱ、失敗だったのじゃない?」

 アキが構わず続ける。

 「労働資源の特殊性は、なんと言っても、人そのものである点で、つまりは、資源であると同時に、それを消費する消費者でもある訳で…」

 立石が言う。

 「駄目っぽいわね。いつもと喋り方が違うし、誰に話しているのかも分からない…」

 そこで火田が言う。

 「あ、俺、食いもん欲しい。チーズ餅とじゃがバタがいいかな」

 「カロリー高そう…」

 と、それに卜部。

 「火田さんもやる気ないし。卜部は元から期待してないけど」

 そこに声が聞こえた。

 「何をやっているんだ、お前ら?

 会議じゃなくて、普通に飲み会をやっているみたいだぞ」

 そこには塚原孝枝の姿があった。遅れて会議にやって来たのだ。

 「あ、そんなところに、救援が! 参加してくださいよ、塚原さん」

 と、その姿を認めて、立石が言う。続けて、沙世がこう言った。

 「いえ、さっきまでは、もうちょっと議論ぽい感じになっていたのですけどね。みんな、酒が入り始めちゃって…」

 それを聞くと塚原は笑う。

 「ははは。そりゃ、酒を飲み始めれば、そうなるだろうな。あ、私はビールで」

 「あなたもですかい!」

 と、それに沙世がツッコミを。

 「いや、まぁ、ちゃんと議論もするつもりだぞ。で、今の話題はあれか? なんか、村上が話している労働資源について」

 上着をハンガーにかけ、荷物を置きながら塚原はそう言った。

 「いや、なんか、どうなんでしょうか? 多分、そうだと思いますが…」

 「なら、その話題だと思って話させてもらう。労働資源の枯渇も、この日本では警鐘が鳴らせているな。一つは、人材の流出…。技術者で、海外企業に引き抜かれるケースが、近年になって多くなっている。もう一つは、まぁ、少子化だな。まだ平気ではあるが、こちらの方が、より深刻かもしれない」

 それを聞いて火田が続ける。

 「少子化については、対策がある事はあるな」

 卜部がそこで声を上げた。

 「火田さんのエッチ!」

 「何故、そうなる?」

 「だって、少子化対策ったら、一つしかないじゃない! もう! これから、村上と長谷川を二人きりにさせる計画とか立てるのかしら!」

 「突然、何を言い出すのよ!」

 と、そこで沙世がツッコミを。立石が続けた。

 「卜部、黙って酒飲んでるだけかと思っていたら、ちゃんと話は聞いていたのね… てか、卜部、こいつ、完全に酔ってるわ。しかも、性質悪そうな酔い方じゃない?」

 「沙世ちゃんと僕を二人きりにさせるのは、ナイスな対策案だとは思うけどぉ、やっぱり少子化による労働力不足対策っていったら、大きく分けて二つじゃない?」

 そこで、そう言ったのはアキだった。

 「おぅ、酔っていても言う事は言うわね」と、それに立石。ところが、「二つって?」と、沙世がそう質問すると、アキはこう答えるのだった。

 「子供を産ませるとかぁ他にも…」

 「同じじゃないの!」と、それに沙世がツッコミを。そこで久谷が言った。

 「いえ、長谷川さん。村上さんは、恐らく“労働力を補う”という事が言いたいのだと思いますよ。“大きく分けて二つ”と言っていましたから」

 「労働力を補う?」

 「はい。出産率を上げるのは、その一つですが、その他にも、“女性の社会参加をもっと積極的に促す”、“移民”などの手段が考えられますね」

 それに卜部が言う。

 「移民はなんとなくあたしは反対だなぁ。悪さしそうじゃん! 連中!」

 塚原はそれを聞いて「偏見に満ち満ちた意見だな、おい」と、そう言う。

 「確かに、移民問題は心配だから、移民に対して慎重になる姿勢は重要だが、移民側にばかり責任を押し付けるのはどうかと思うぞ、私は。

 世界的にも、移民側が批判されるケースが多いが、それはやはり移民の方が少数だからだろう。社会に馴染ませる為に、どう相手を受け入れ教育していくのか、それはそういったホスト側の問題でもある」

 火田が続けた。

 「俺もそれには同意見だな。だが、日本人側に問題があるにせよ、相手側に問題があるにせよ、移民が簡単にはいかないって点は確かだ」

 それに立石が言う。

 「なら、取り敢えず、“移民はなし”って方向で話を進めましょうか。なら後は、出産率を上げるか女性の社会参加…」

 「出産率を上げるのは、もう既に手遅れなところまで来ているな。確かに、これから上げなくちゃいけないだろうが」

 と、それに火田が言う。立石はそれを聞くとこう言った。

 「なら、残るは女性の社会参加か… でも、女性が社会参加すると、出生率が更に下がるのじゃない?」

 それには塚原が答えた。

 「いや、それが、そうとばかりは言えないらしい。統計を取ってみると、むしろ共働きの家庭の方が、女性が子供を産む確率は高いそうだ。原因は分からないが、やはり経済的な要因が大きいのかもしれない。収入が増える訳だから、家計に余裕ができる」

 立石が答える。

 「なるほど。じゃ、労働資源問題の一番の解決案は、女性の社会参加と… あ、なんか久しぶりに明確な答えが出た気がするわ。で、確か村上くんは、もう一つ、労働資源問題の解決手段があるって言っていたわよね。どうなの? 村上君」

 ところが何の反応もない。一呼吸の間の後で、「アキくん、寝ているみたいよ」と、そう沙世が答えた。

 「オイ! 起こせ、そいつ!」

 と、それに立石がツッコミを。その後で火田が続ける。

 「まぁ、無理に起こさなくても、村上の言いたかった事なら、大体、予想はつくな。後の一つは、労働資源の節約だろうよ」

 「労働資源の節約って… 具体的には、どんなのよ。酒に例えて言ってごらんなさい」

 と、そこで言ったのは卜部。言い終えると、梅酒を飲み干した。

 「酒にって…」

 と、そう言われて火田は困る。

 「真面目に対応しようとしなくていいから、火田さん」

 それに、沙世がそうツッコミを入れた。

 「まぁ、順当に考えられるのは、ネット販売と予約販売をもっと普及させて、流通及びに在庫管理の効率化を計る事だろうな」

 そのやり取りを、半ば無視しつつ塚原がそう言った。それに卜部が噛みつく。

 「どうして、それで労働力節約になるのよぉ」

 「ネット販売で売れば、店員や中間業者が必要なくなるだろう? すると、その分の労働力が節約できるんだよ。でもって、予約注文にすれば、無駄な在庫をつくらなくて済むから、やはりここでも労働力を節約できる。これは同時にゴミを減らすって事でもあるから、ここでもそれに伴う労働力を節約できる。あ、ゴミを減らせるってのは他の資源節約にもなるな」

 塚原が言い終えると、沙世が言った。

 「この話、前にも聞いたような気がするわね」

 久谷がそれに答える。

 「確か、高齢社会編でも話しましたね。話題的にも被っているので、無理もないかもしれませんが」

 火田がそこで口を開く。

 「この話も被るが、太陽電池、風力発電などの再生可能エネルギーでも、労働力節約になるぞ。

 ただし、労働力が余っている今の内に、できる限り製造しておいて、労働力不足の時代に備えるって方法を執った場合だが。

 これはあれだな、仕込む時には労働力がかかるが、後の熟成期間には人手がかからない、酒のようだと例える事ができるかもしれない」

 「火田さん、がんばってお酒に例えているし…」

 と、そこで沙世がツッコミをする。卜部がその後で続けた。

 「因みに、これは何で?」

 「再生可能エネルギーの多くは、維持費がかからないからだよ。維持するのに労働力が必要ないのだな。当然、労働力の節約になる」

 と、そう答えたのは塚原。塚原が言い終えると、話題転換だとばかりに久谷が言った。

 「先ほども話題になりましたが、労働資源の話は、他の資源問題にも波及していきますね。エネルギー資源問題に対しては、火田さんの言ったような設備投資を、労働力が余っている内に実行するっって対応方法が有効ですが、そういう事が難しい資源もたくさんあるのです」

 それを聞いて、沙世がこう質問した。

 「対応が難しい資源って例えば、どんなのがあるの?」

 「そうですね。取り分け、急務なのは…」

 そう久谷は答えると、サラダに混ざっていたタコ刺しを箸でつまみ、それを両目で見据えつつ顔の前に持って行き、

 「水産物資源の枯渇!」

 と、言ってそのタコを口に入れた。そして、そのタコを食べながら、

 「こんなに美味しいタコ刺しを、いつか食べられなくなるなんて、そんな悲劇は受け入れたくはないですねぇ」

 と、そう言った。それを聞いて、今度は卜部が疑問の声を上げる。

 「ねぇねぇ、どうして水産物資源限定なの? 生物なら、他にも色々あるじゃない」

 「確かに、生物資源は全般的に、危機的状況に陥っていますが、特に水産物資源には、農業や畜産には観られない問題があるからですよ」

 「なによ?」

 と、そう言った卜部に塚原が答える。

 「よく考えてみれば簡単に分かるぞ、卜部。農業や畜産が、基本的には田畑や牧場で人間が育てた生物を利用するのに対し、水産物資源は未だに漁業が主流だ」

 しかし、それを聞いても卜部はその意味を理解できなかった。

 「だから、何よ?」

 すると今度は火田が口を開いた。

 「漁業ってのは、つまりは狩りなんだよ。これを穀物・野菜や家畜に当て嵌めるのなら、自然の中で勝手に生きている生物を狩るのと同じだ。つまり、規模が多きくなったたけで、原始時代と同じ事をやっているのだな」

 久谷が続ける。

 「自然の中で勝手に増えたものを狩っているのだから、当然、数のコントロールなんてできません。だから、獲り過ぎて、資源が枯渇してしまう事も充分に起こり得るのです。だからこそ、マグロなんかは漁獲制限が叫ばれているんですが。最近じゃ、ウナギの方が危ないですね。

 もっとも、これには多くの利益が絡むので、漁師などの反対で、制限の成立は極めて困難なのが普通です」

 それを聞くと、立石が言った。

 「ま、つまりは、だから、養殖にしなくちゃって話でしょう? あ、それが労働力の話に繋がってくるのか」

 「その通りですね。養殖には、労働力がかかりますから。太陽電池や風力発電のように、作ってしまえば後は楽、とはいきません。労働力不足の時代でも、やはり労働力は必要になってきます。

 労働力不足問題の解決案は、先ほど話題になったので言いませんが、やっぱり資源枯渇問題を改善する上で、最重要なのですよ」

 そう久谷が言い終えると、火田が思い付いたように言った。

 「そう言えば、言い忘れていたが、そうやって資源問題解決に労働力を使っていくと、人件費は上がっていくな。労働需要が増えて、労働賃金が増えるからだが」

 それに沙世が言う。

 「でも、それって、経済が成長するって事でしょう?」

 「いや、必ずしも生産性が上がるってしていい訳じゃないから、そうとも言い切れない。まぁ、何をもって経済成長とするかだが。太陽電池を最終的な生産物とするのか、それとも電気を生産物とするかで、観方は大いに変わる。例えば、そういう話だな」

 卜部がそれに文句を言うように、こう言った。

 「なにそれ? 意味が分からない~」

 塚原がそれに説明を加えた。

 「太陽電池それ自体を、生産物とすれば、太陽電池を生産しているのだから、それだけで経済は成長していると言える。ところが、太陽電池が発電する電気を生産物とするのなら、太陽電池は単なる設備になるから、電気を充分に発電して初めて経済成長に貢献しているとなる。

 まぁ、こんなのは何をどう解釈するかの問題に過ぎないよ。それで、労働者が職を得られるって点は変わらないし、通貨の循環量が増えるって事実も変わらない。飽くまで、通貨の循環量が増える事…… GDPの増加を経済成長とするのなら、経済成長になるな」

 そこで今まで眠っていたアキが突然、目覚めた。こう言う。

 「でも、人件費が上がれば、国際競争力を落としますよぉ」

 それを聞いて沙世がビビる。

 「おわっ! ビックリした! アキ君、突然、起きるのだもの」

 それに立石が言った。

 「あの状態でも、ちゃんと話を聞いていたんだ… 大したものというか、何というか……」

 やや呆れている。そして、こう続けた。

 「ところで、人件費が上がるってどうして?」

 それには火田が答える。

 「資源問題解決の為に、労働需要が増えるから、必然的に労働賃金が上がるんだな。で、村上が言った通り、そうすれば人件費が上がって、確かに、日本の国際競争力を落とす要因になる」

 そう火田が言い終えると、沙世が言った。

 「あれ? 前にも似たような話を聞いたような気がするのだけど」

 「ああ、したかもしれない。“自然エネルギー是非編”の時だったかな?」

 そこに久谷が言った。

 「資源問題は、色々と絡みますからね。話しが被る事も多いと思います。まぁ、復習のようなもんだと思って、気にせず行きましょう!」

 「今まで話題にした内容を忘れて被っちゃってるのを、誤魔化しているようにも聞こえるのだけど……」

 と、それに沙世がツッコミを。その後で、仕切り直しをするように塚原が言った。

 「とにかく、話を続けよう。人件費が上がって、国際競争力を下げるってな問題をどう解決するか…」

 それに続けるように火田が言った。

 「まぁ、簡単に思い付くのは、輸入に頼っている資源を、資源リサイクルで賄うようにして、海外に流れるマネェ分で、海外企業と競合する国内企業を助けるってな方法だな。

 ただ、この方法、民間が資源リサイクルをやる場合は、少々、難しくなって来るが。方法は考えなくちゃならない」

 「思い出したように“マネェ”って言ったわよね、今」と、それに沙世がツッコミ入れ、流れるようにして久谷が言葉を重ねる。

 「そんな手段じゃなくても、生活保護編の時に出た案でいけば、似たような効果を得られますよ」

 沙世がそれに「生活保護編の時の案って?」と、そう質問をする。

 「生活保護受給者に、資源リサイクルの仕事をしてもらうって方法ですよ。名目は研修にするべきでしょう。そうすれば、安価な労働力を企業は手にする事ができ、当然、資源リサイクルのコストは安くなります。輸入する資源は、その分減りますから、日本全体で観れば、利益が増えます」

 塚原がそこに「まぁ、真面目に生活保護受給者が働いてくれる前提の話だけどな」と、そう付け加えた。

 そこまでを聞いて、卜部が口を開いた。

 「あのさ、今まで話を聞いていて思ったんだけど。要するに、資源枯渇問題を解決できるかどうかって、労働力をどう確保するかが重要って事じゃないの? その活かし方っていうか」

 火田が頷く。

 「まぁ、そりゃ、そうだろう。資源リサイクルをするのは労働者だ。その為の労働力を確保できなくちゃ何にもできないよ」

 その言葉に、立石が反応する。

 「ちょっと待って、今ので、なんか、まとめっぽくなっちゃってない?」

 久谷がそれに頷く。

 「図らずもそうなっているかもしれません」

 そろそろ議論もネタが尽きかけている。発言のタイミングも良かった… ような気もする。立石は喚いた。

 「ちょっと待って! 冗談じゃないわよ! 卜部がまとめを言うなんて。しかも、こんなに呆気なく幕引き?! なんか、他に誰かなんか言いなさい!」

 そこに酔っ払いモードのアキが口を開いた。

 「なら、資源の節約とか、代替資源の活用とか、そういう方面の話もあるけどぉ?」

 「話が根本から変わり過ぎだぁ! 今までの議論を無にする気か!」

 そう、それを立石は即座に却下する。

 「まぁ、そういう方向だと、具体的な技術とかに話が進んで、ここで議論するのに相応しい内容にならない気もするしな」

 と、そこに火田が。立石がまた言った。

 「他に何かないの? 卜部がまとめを言うなんて、異常な事態は何としても防がなくちゃ」

 「極めて個人的な理由な上に、動機が不純かつ理不尽ね…」

 と、それに沙世がツッコミを入れた。久谷が言った。

 「いえ、立石さん。もう、資源枯渇問題を解決するのには、労働力をいかに確保活用するかが重要って結論で良いのじゃないですか?」

 「駄目よ! あんた、久谷! わたしに逆らうなんて、良い度胸じゃない!」

 塚原がそれを受けて「なんか、立石のキャラが微妙に変わってないか?」とツッコミを。

 「よほど、卜部さんがまとめを言うのが、嫌なのね」

 と、沙世が。

 「ゴミの分別とか……、食べ物は大切にしましょうとか…、そういう話にしても良いのじゃなぁい?」

 そう言ったのはアキだった。

 「だから、その方向性は却下した!」

 と、立石。塚原が頷く。

 「まぁ、確かにゴミの分別とかも大切なのかもしれないが、根本的な解決になるのか?っていったら疑問だしなぁ」

 そこで不意に猪俣さんがやって来た。一同は、それを凝視。間ができる。猪俣さんは立石をつつくと、自分を指差した。

 「なに? もしかして、労働力は重要だから、自分みたいに無口なのが接客業で働くのも奨励しなくちゃって言いたいの?

 何をいっているの?

 駄目よ。人には適材適所ってもんがあるのよ!」

 それに反発するように立石はそう言う。すると、それを聞くなり、猪俣さんは立石のことを抱きしめた。

 ぎゅっ

 「なっ!」

 と、立石は言う。しかし、抵抗をしようと試みたのは初めのうちだけ、徐々に彼女は大人しくなっていったのだった。

 「こ、これは…?」

 とそれを見て、沙世が驚きの声を上げる。久谷がそれに答えるように言った。

 「これこそが、猪俣さんのハグの効果です。荒れた酔っ払いをも大人しくさせるほどの包容力… 恐るべし、猪俣さんのフリーハグ!

 これは、飲み屋で働く適正が、猪俣さんにはあると判断しても良いのでは?」

 塚原が言った。

 「いや、待て。なんか話が、逸れまくってないか?」

少しずつ書いていました。

このシリーズ、相変わらず粗いですが、まぁ、大目に見てください。

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