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終焉の管理者  作者: りくつきあまね
罪の在処
4/5

日常とは儚くも Ⅲ

 一足でベルギットとの間合いを詰め、懐に滑り込むように潜り込むのと同時に剣を振り上げる。

 外套の腹部が裂け飛び、自分と同じ白の制服が姿を見せる。

「私を殺すことに躊躇いはないようですね」

 シヴァの背後に回り込み、シヴァの脇腹にそっと左手を添える。

「ある筈がないでしょう!!」

「『紅弾』」

 赤の閃光が空間を切り裂くように眩き、シヴァはその光に躊躇うことなく振り上げた剣を返し、体を回転させ螺旋状に剣を振るう。

 ベルギットは後方に跳躍。しかし、回避が遅れ胴を一薙ぎ。白を汚す鮮血が飛び散る。

「ほぅ」

「チッ!!」

 シヴァは苦虫を潰したような顔で舌打ちをし、ベルギットは傷を一切気にすることなくそのまま手の平から五つの紅の光を放つ。球体はそれぞれが直線に曲線、螺旋と不規則な軌道を描きながらシヴァを襲う。

「フッ!!」

 シヴァはそれに恐れることなく、ベルギットとの間合いを詰める。

「ハアアアアアアアアアッ!!」

 右手の『罰』を逆手に持ち替え自分を襲う球体に幾度となく剣を振るい、全てを切り伏せる。

「ふむ」

 ベルギットはやや腑に落ちないといった風に小さく肩を落とし、

「なぜ貴方は『偶像』で戦うのですか?」

「…………あなたには関係ないことです」

もう一度『罰』を持ち替え、上段に引き構える。体に流れる理力を刀身に流し、刀身全体から淡い黒い光が煌きたつ。

「っ…………」

 ひとまず、リディアさん達がエデンの所へ避難してくれたからある程度は本気で戦えるけど……。

「…………」

 シヴァは『罰』を構えたまま、ベルギットを見据える。

 この人、痛みを感じていない。最初の一撃目で腕を切り落とした時も、今の胴への一撃も確実に切り裂いた。なのに。

「貴方がここに来た時から思っていたのですが……」

「何をですか?」

 ベルギットは面越しに顎に手を沿え、

「死臭がするのですよ」

「…………」

シヴァが握る『罰』の切っ先が僅かにぶれた。

「それも貴方から」

「他に言い残すことはありませんか?」

 シヴァは両足を開き、膝を沈める。

「この一撃であなたを葬ります」

「まだ話が終わってないのですが……」

「いえ、ここで終わりです」

 刀身から放たれる黒光がシヴァの全身を包み込み、

「『身体強化』」

刹那、粉塵が舞い上がり一足でベルギットの懐へ潜り込む。

 全身を包んでいた黒光を再び刀身に収束させ、

「真理『斬刑』」

地に斬撃を刻みつけながらベルギットへ振り上げる。

 斬撃の軌跡をなぞる様に地が弾け飛び、粉塵が舞う。

「…………」

 手応えは感じない。

 シヴァは即座に体を反転させ、刀身に理力を収束。

「『斬刑・疾風』」

更に体を捻り上げ上空へ剣を薙ぎ払い、黒の衝撃波を放つ。

 放った衝撃波で土煙は晴れ、上空に浮かぶ人影を視界に捕らえる。

「ほぅ」

 真理『配無』で完全に理力を察知できないようにしているはずなのに、私の位置を確実に認識している。

 ふふ、獣の嗅覚でもあるまいに。執念、ですかね。

 ベルギットは迫る衝撃波には目もくれず、

「『転移』」

自身を空間に飲み込ませ、地上に戻る。

「十年前とさほど力は落ちてはいないようですね」

「余裕ぶっている暇は与えません!!」

「むっ」

 空間から姿を現した瞬間にシヴァの斬撃がベルギットの脳天に振り下ろされる。

「『障壁』」

 シヴァの剣をさえぎる様に青の閃光が放たれ、火花を散らしていく。

「ぐぐぐ、ぐうぅぅっ!!」

「…………はやり腑に落ちませんね」

 ベルギットは何の動揺もなく、さもそれが当然というように顔をシヴァに向ける。

「今の一撃、どうしてもっと理力を込めないのですか?私はほんの一瞬だけ回避できるだけの時間が欲しかっただけで、この程度の『障壁』は簡単に切り捨てられると思っていたのですが」

 まるでベルギットの心の変化を表すように周囲の温度が急激に上昇する。

「くぁっ!!」

 シヴァはその瞬間。瞬きをする間もなく後退し、

「つまらない」

 ベルギットを中心に巨大な炎柱が吹き荒れる。

「ハァ……ハァッ、くっ」

 シヴァの息が少しずつ乱れ始め、体にはジワジワと倦怠感が現れ始めていた。

 まずい、今の一撃で勝負を決められなかった。もう、僕には使っていい理力がほとんど残っていないのに……。

「どうやら貴方はこの十年間で無価値な存在に成り下がってしまったようですね……そこに転がっている小娘同様に」

 炎柱が舞い散り、再びベルギットが姿を見せる。

「十年前の貴方は目的の為なら手段も感情もなく全てを糧に目的を果たしていた貴方がここまで堕ちてしまうとは……まったく」

「…………何が言いたいんですか?」

 シヴァは油断なく剣を構え、ベルギットの一切の言動も見逃すまいと睨み付ける。

 ベルギットは今までで一番無機質な表情で言った。

「やはり、あの小娘は十年前に殺しておくべきでしたね。小娘同様無価値だった女王のように」

 その言葉を消し去る様に鋭い轟音が周囲を切り裂き、それと同時にシヴァの足元が放射状に吹き飛ぶ。

「っ!?」

 切り刻む様に自身の体に走る圧倒的なまでの強烈な感情に、ベルギットは思わず一歩後ずさった

 自分を射殺そうと突き刺さる深紅の双眸。

「お前はここでっ!!」

 シヴァの言葉を合図に爆発的に理力が高まり、その反動で大気が揺れ衝撃波となってベルギットを襲う。

「くっ!!」

 ベルギットはそれに耐えられず空へと逃れ、

「死ね!!」

シヴァはそれを追おうとし腰を落として。




 ―――――――ドクンッ!!




「ぐっ!?ぅうっぐっ!!」

 体を内側から破壊されていく感覚に力が抜け、高め体に巡らせていた理力が霧散していく。

 そのまま膝から崩れる様に倒れこみ、四つんばいになる。

「こ、こんな……時に…………ぐっ!?」

 喉の奥から突き上げてくるよなに激しい嘔吐感。シヴァはその感覚に抵抗するだけの気力もなく渦巻いているモノを吐き出す。

「ゴフッカハッ……ゴホゴホッ!!」

 神の塔『エデン』でもあった吐血。体の中の全てを吐き出してしまうようにとめどなく溢れ出すどす黒い血。

 まだ、まだなんだ。あと少しだけ、少しだけでいいから……。

 シヴァは『罰』を血だまりに突き刺し、それを支えにしてなんとか体を起こす。

「吐血とは……何か病にかかっているのですか?」

「あなた、には……関係ない、ことです」

「ふむ」

 ベルギットはシヴァの答えを気にも留めず、口元を押さえシヴァを観察するように視線をはわす。

「まぁ、いいでしょう。貴方には十年前に犯した罪を償って頂かなければいけないのでね」 

 腑に落ちない、といった面持ちで残った左手を翳した。すると、空間が歪みベルギットの姿が消える。

「っ、ど……こに」

「それに貴方に生きていられると今後計画に支障が出ますので」

 それと同時に背後から、耳元で深いな声が体に染み渡る。

「くっ!?」

 その声に背後を振り返ろうと、

「ここで死んで頂きましょうか」

首筋を掴まれる感触に動きが止まる。

「さよなら……『終焉』」

 無情に放たれる紅い閃光。

「っ……ぁ」

 全身を縛るように満ちる倦怠感に動くことすらままならないシヴァの様子に、達成感と軽蔑を織り交ぜた笑顔を浮かべるベルギット。

「終わりです」

 勝利の確信に口元が緩み、

「あぁ、お前がな」

その声と共に右頬、いや頭部全体に凄まじい衝撃が襲い、視界に映る風景が全て流れる線になる。

「がっ!?」

 大地に幾度となく体を打ちつけられ、自分を襲った衝撃に意識がもぎ取られかけ。

「ぐぅっ!!」

 地面を右手で叩き、体を跳ね上げる

「ぐがっ、こ……これは不躾な挨拶ですね」

「間に合ったみたいだな」

「ヤ、ヤヨイさん」

 自分の背後でする安堵の声に、シヴァは振り返り声の主の姿に目を細めた。

「これはこれは」

 少し長めの黒髪で白シャツに赤いネクタイ、黒のブレザーとスラックス姿と学院の制服に身を包んだ背の高い少年。

「ヤヨイ=フランベルジュ……いえ、神理第二節『鬼神』とお呼びした方がよろしいですか?」

「ん?別に、好きな方で呼んでくれ」

 殴られた右頬を押さえながら不気味に笑うベルギットに対し、興味なさそうに呟くヤヨイ。

「ぐぅっ」

 シヴァはふらつく体を『罰』を支えに立ち上がろうとして、

「っ!?」

動くという簡単な動作すら拒絶しているのか両腕から力が抜け、地面へ何の抵抗もできずに倒れ込む寸前、細く見えながらも逞しい感触に包まれた。

「すまん、少し遅れた」

「いえ、気にしないで……下さい」

 ヤヨイ=フランベルジュ、一六歳。自分と同じ『管理者』で十年前に戦争を共に戦い抜いた戦友であり、兄のような人だ。神理第二節『鬼神』の調伏者で自分とは違い正真正銘の『管理者』。

「今日は懐かしい顔を良く合わせる日だ」

「そうなのか?俺は会いたくもなかったけどな」

「会いたくなかったとはつれないですねぇ……それほど思い出したくありませんか?戦争のことを」

 フフッ、とヤヨイを挑発するように笑うベルギット。

「そんなもん、毎日思い出してるさ……んで、単刀直入に聞く」

 ヤヨイはベルギットの相手をせず、瞬間。場を激しい理力の波動が支配する。

 押し潰されそうなまでの圧力。完全に相手を殲滅する為だけの意志が理力を通して体の芯まで伝わってくる。

「お前の目的は『神の器』と神の復活か?」

「さぁ?」

「まっ、素直に答えるとは思って無かったから良いけど」

 こいつ、さっきから理力を感じない。なんか『理』でも使ってんだろうが…………いや、理力を感じようが感じまいが俺には関係ない。

 小さくため息を吐きながらシヴァをゆっくり地面に降ろして立ち上がり、両足を肩幅より少し広めに開き腕を降ろしたまま拳を握理しめる。

 ヤヨイは顔だけを振り向かせ、シヴァに声を掛ける。

「俺が殺るぞ…………良いか?」

「あっ……」

 シヴァはヤヨイの言葉に数瞬言葉が詰まり、

「…………お願い、します」

と顔を俯かせ体を震わせていた。

「あぁ……」

「できるものなら、と言いたい所ですが『鬼神』である貴方相手に何の策も準備も無く挑むのは無謀ですからね」

 ただ楽しんでる、そんな笑顔だった。

「ここは一旦退かせて頂きま」

「……逃がすかよ」

ヤヨイの荒々しい波動を放っていた『理力』が瞬間的に収束。

「これは」

 ベルギットの両目が大きく見開かれ、ヤヨイの双眸から光が消える。

 今ここでこいつを逃がして万が一『最終審判』を台無しにされちゃ、シヴァの十年間が全部無駄になる。それだけは絶対に駄目だ。

 目を閉じ、後ろにいるシヴァに心の中で謝る。

 ごめんな、シヴァ。

「……今ここでこいつを仕留める」

 ヤヨイは右手で顔を覆い静かに目を開き、ベルギットを睨みつける。



「……薙ぎ払え『鬼神』」



 ヤヨイがそう呟いた瞬間。

「ぐっぁ!?」 

 眼前にあるのはヤヨイの感情の感じられない無機質な表情。

「お前はここで果てろ」

 ヤヨイの右腕はベルギットの体を悠々と貫き、赤に染められた右手に握られていたのは拳大の物体。

「ばか……な」

 速いなんて次元じゃない。目で追うどころか接近した事すらわからなかった。だが、これで。

「くたばれ」

 右手に握られていた心臓を握り潰し、

「ハハッ、ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

ベルギットが歓喜に奮える声で笑う。

 こいつ、心臓を潰したってのに意識が途切れない!?

 それに一瞬戸惑った瞬間。ベルギットの攻撃に反応が遅れ、首を倒し回避するも左頬が裂ける。

 頬は裂かれた部位から見慣れた赤い液体が流れ、

「くっ、このヤロー!!」

「クハハハハッハハッハハハハハ!!」

ベルギットの体を振り払い、構え直す。

 ベルギットは自身の状態にさえ平然と笑みを浮かべ、何の躊躇いもなく右手を捻りきった。

「なっ!?」

「『転移』」

 そして捻り切った右手を宙に放り投げ、右手を飲み込むように空間が歪み淡い光となって消える。

 そしてまた、ベルギットの体も足下から灰となって消えていく。

「お前、何企んでやがる?」

「ハハハハハハッハハハハハハハッハハハッハハハハッ!!」

 ベルギットはヤヨイの問いかけに答えることなく満ち足りた嘲笑だけを残し、風にさらわれながら世界から消えた。

「…………」

 あまりにも漠然とした結果にハッキリとした実感が無い。

「あいつ…………」

 本体じゃないな、さっきの。でも、心臓を潰したあの感触は確かに…………『造形』で肉体の代用品を作れるがあそこまでリアルに。

「多分、殺害した女性の心臓と子宮を『代価』に『造形』で肉体を造り出したんだと思います」

 シヴァはヤヨイの思考を読み取ったかのように的を射た言葉を掛ける。

「殺害したって……何の話だ?」

 ヤヨイはシヴァの言葉に表情を曇らせ、

「エデンから何も聞いてないんですか?」

「あぁ、最近はお前とハートライトの『最終審判』の事くらいしか…………」

「そう、ですか」

 そういえば、エデンは『門番』と任務にあたるって言っていたっけ。

「エデンの奴…………まぁいい、それは後でエデンに問い詰めるとして」

 ヤヨイは納得していない表情で顎に手をそえ、ベルギットの最後の行動に疑問を問う。

 肉体の正確さはさっきのシヴァの話で納得がいくとして……何で右手を切って『転移』させた?他に仲間がいるのか?もし、仲間がいるとしたら『神理』の調伏者か?いや、それはないか。十年前の戦争で『神理』保持者はシヴァと俺で粗方倒したし、ベルギットに『神理』を調伏するだけの力はない。けど、肝心の『神理』は取り戻せなかったしなぁ…………調伏できた奴がいるいないに関わらず厄介な事になるのは間違いないか。

「とりあえず、今はエデンの所に行くぞ。お前もハートライトのこと気になってるだろうからな」

「はい」

 ヤヨイは血を払い、シヴァの肩を担ぐ。

 シヴァはヤヨイから顔を逸らし、今にも消えてしまいそうな声で呟き。

「すみません、ヤヨイさん……ホントは僕がやらなければ」

「いいって、結局逃がしちまったみたいだしな」

 そんなシヴァの声を遮るように少しだけ大きな声で言った。

「で、でもっ!!」

 その声に弾かれたように顔を上げるシヴァにヤヨイはただ笑って見せた。

「お互い様だ……お前には俺の分も背負ってもらっちまったからな。ホントなら俺がお前の分も少し背負ってやらなきゃいけなかったんだけどな」

「ヤヨイさん…………」

「余計なこと気にしてないで、お前は『最終審判』の事だけ考えてれば良いんだよ。ベルギットの奴の事とそれ以外のことはお兄さんに任せときな」

 もう一度笑った。今度はどこか何かを押し殺すような笑みで。

 シヴァはその笑みにこれ以上言うまいと一度言葉を飲み込み、

「ありがとう、ございます」

謝罪と罪悪感に満ちた声でありきたりな言葉しか出てこなかった。

「あぁ、任せとけ」

 ヤヨイも、シヴァと同様の感情を込め一言だけ静かに呟いた。




 何もない世界を歩く二人の少年の後ろ姿は……今にも簡単に崩れ壊れてしまいそうだった。

新キャラ登場です…………ちょっとしか出てませんが(汗。次から少しずつ物語の確信や複線をねじ込んでいきます。


えっ!?少しなの!?


と、思って読んでいただいている方(はは、いるかな?)。どうか、脳タリンな作者の足掻きにお付き合い下さい。

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