序章
他のサイトでプロローグを投稿したのですが、すぐにサイトが閉鎖してしまった為未完のまま放置。こちらで新しく連載しようと思います。拙い文章と物語ですがお付き合いいただければ幸いです
辺り一面血の海だった。
鼻を衝く、むせ返るような血の臭い。
右手に握る白の細剣と左手に握る青い柄の軍刀、身を包んでいた『管理者』の白の制服は血で赤く染まり、血のように紅い双眸は虚無感を湛えていた。
深紅の瞳がその色を失い、髪の毛と同じ黒になった。
「…………」
左右に握る剣が重く感じられ、捨ててしまいたいという衝動に駆られたが、なんとか堪えた。
見渡す限り広がる血まみれの死体。
今は戦争の真っ只中。世界中で同様の光景を目にしてきたが、自らの手でこの光景を生み出すことになるとは思わなかった。
黒髪の少年は剣を振るい、血のりを払う。
左手に握られていた軍刀が白いに光に包まれ、その姿を消した。
「…………」
後ろを振り返り、少し離れたところで泣いている黒髪の少女に歩み寄る。
少女は声を上げ、泣いていた。
自分の両親の亡骸に縋りながら。
少年は少女に声を掛けようとしてやめ、代わりに左手を少女の肩にそっとおいた。
「っ!?」
少女は弾かれた様に顔を上げ、おかれた左手を乱暴に払いのける。
「くっ!!」
「…………」
少女は大きな瞳から涙を溢し、絶対の怒りと憎しみの視線を向けた。
少年はその視線を正面から見据え、奥歯を噛み締めた。
「かえしてよ……おかあさんとおとうさん」
少女は殺意の感情を込めた声を発し、少年はその声にビクッと体を奮わせる。
「かえしてよ……ねぇ、かえしてよ」
「…………」
言葉にしても決して叶うことがないとわかっていても少女は叫んだ。
「おかあさんも!!おとうさんも!!村のみんなも!!みんなみんなかえしてよ!!」
「…………」
少年はただ黙って少女の声に、どうしようもない感情に耐えた。
自分は何を言われても反論することは許されていない。自分は目の前で叫ぶ少女の両親とそこに暮らす人々の命を奪ったことに変わりないのだから。
「……ろ……し」
剣を握る手に力がこもる。
「ひと、……し」
少女の心を埋め尽くす感情が次第に明確になり、
「ひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシヒトゴロシッ」
一息でその言葉だけをひたすら言い続け、最後に大きく息を吸い込み。
「人殺しっ!!」
心を蝕んでいく闇を吐き出す。
憎しみをのせた言葉が、怒りに満ちた声が、悲しみで溢れる涙が、絶望を宿した瞳の全てがどうしようもなく自分の心を深く深く切り裂いていく。
「あなたなんか」
そして一番聞きたくなかった言葉を紡ぐ。
「あなたなんか死んじゃえばいいんだ!!」
この日から一ヵ月後。果て無き闘争と思われた争いは終わりを迎えた。
そう、終わったのだ……………………少年の全てを犠牲にして。