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竜と食べ歩き。  作者: コトオト
第3章
44/60

※(騎士の亡霊の独白) 3


 報告を受けてようやく見つけた。街道からだいぶ外れた湖の近くだという。

 三人、目標を確認。現在は馬車の傍で身を寄せ、動きがない、とのこと。



 はぐれたもう一人の居場所は掴めず。崖下に死体の跡がなかった。代わりに狗の死体を確認。回収。

 追っ手を振り切り逃走したと思われる。血の跡は消されている。

 指示を出し、更に深い場所に探索の手を伸ばすようにした。街道入り口を見張る者からは連絡がないことから、山から出ていないことは明白であるため、急ぐことでもないと判断。

 生きた人間そのものが望ましいが、最悪〝死体〟を回収できればいい。なるべく原型を留めたままのものを。


 当面の目標を三人に移行。

 馬車に標的を合わせ、突撃をするか否か。元より山深くに誘い込むのが目的であったため、手間が省けた。



 しかし今回の者たちはこちらの思惑を裏切ってくれる。

 それは舌打ちと同時に高揚感を味わわせてくれた。

 そう、思い通りにならぬ盤面をいかに戻すか。駆け引き。それでいて崩れぬ圧倒的優位の状況。

 さぁ、次は如何様に出るのか。転がせて楽しみたい衝動もある。



 だが、ひとつ懸念材料があった。

 一行の中にいる赤い髪の男。その報告を受けるたび、心の底で警告音が鳴り響いていた。

 あの男は危険すぎる。知らない男のはずだが、危険だ、はやく始末しなければと焦る気持ちがあった。

 気のせいだと割り切るも、この直感は見過ごしてはいけないものだと感じてもいる。

 さて、どうするか。




 三人という微妙な人数。彼らはどう考えるのか?

 任務達成のために馬車を捨てるか? それともこのまま任務を続行するために動くか? 行方不明になったもう一人を探しに行くか?

 二手に別れるのであれば片方は単独行動になるだろう。この状況で考えなしに単独行動をするならば、それは愚者に等しい。おそらく三人は固まって行動するだろう。

 そうであれば、密集している時に奇襲をかければいい。

 湖の傍、東に降りていくと今度は険しい岩肌が覗く崖が見えてくる。そこまで追い詰めれば退路はない。


 さぁ、どう出る?


 手のひらの駒を弄ぶ。目の前に広がる地図。山の配置。

 追い詰められたネズミこそ全力で反撃してくる。ここで油断をしてはならない。

 近接戦闘部隊を向かわせる。混乱に応じて分裂させる。それぞれが相当の実力者と聞き及ぶが、単独になってしまえば消耗戦になり、こちらが優位になるだろう。

 指示を決めたが、その時に火急の報告が入った。


――――ネズミが動いた、とのこと。







 馬車を一人離れた赤い髪の男。手には白銀のハルバード。

 湖の淵に馬車は残り、護衛なのか青い男と黒い女は残っている。焚火の準備を始めているため、野営をするつもりなのだろうか。


 見回りなのか、それとも行方不明者の探索に行くのか。

 武器を手に一人単独で離れた男。戦いぶりを聞くに、四人組の中でも一番秀でた実力者である。戦いの指示も主に出していたし、恐らくリーダーの役割もしている。

 行動を起こす前に話し合いをしていたらしい。赤毛の男は灯篭と地図を片手に離れたという。だが荷物らしい荷物を持っていなかった。口論をしている様子もなかった。


 その意図は、恐らく赤毛の男が単独であってもある程度動ける、という状況証拠である。

 周囲の状況を確認するだけであればすぐ戻るだろうと、まだ動きを潜めるように指示を出した。



 だが己の予想とは裏腹に、赤毛の男は森の奥深くまで入って行くと言う。

 馬車の車輪の跡をたどるように草を切り分けていくらしい。みるみるうちに馬車の場所から離れていく。


 この状況下で味方と離れ単独になるなど、致命的だ。

 判断能力のない愚かな集団だったのだと、いささか落胆した。もう少し頭の良い者たちだと思っていたが、これでは興ざめだ。

 それならば、と思考を切り替える。



 馬鹿の集まりならば用はない。早く始末する。

 斥候に指示を出し、部隊を二つに分けた。人数を少なめにした部隊を馬車の二人へ。もう片方を赤毛の男へ。

 ここにきて好都合だ。赤毛の男をまず先に始末。続けて馬車の方を襲う。今度は馬を殺しても良い。






 息を潜めた奇襲部隊を赤毛の男がたどるであろうルートに配備。同時に、湖の近辺にも部隊を配置。タイミングは任せた。それぞれ夜が深まる頃に奇襲をかけろ。

 あとは報告を待つだけだ。多数配備した斥候たちからくる矢継ぎ早の報告を切り分け、状況を把握すればいい。

 早速ひとつ報告が来た。湖の者たちが戦闘を開始したという。

 思わず舌打ちをする。まだ空は明るさを残している。夜が深まる頃にタイミングを計れと指示を出したはずなのに。

 意志のない雑兵は使えぬ。何も考えず何も思考せず本能のままに動く動物のごとき卑しさ。これだから、これだから使えない。

 だが仕方がない。それに現在は赤い男が目的だ。湖のほうはそのまま様子を見る。うまくいけば黒い女の身柄は拘束できるだろう。遠距離攻撃、および不可思議な術を使うあの女は厄介だ。集中して攻撃しろとも伝えてある。

 もっとも、どこまで命令が行き届いているかは定かではないが。


 赤毛の男はまだ先を進んでいるようだ。

 じっくりタイミングを狙えと言い含めている。空はまだ明るい。まだその時間ではない。

 忌々しい光が消える、視界を隠す瞬間を狙う。












 だが、次の瞬間受けた報告に息を飲んだ。


 赤毛の男が、消えたという。







 そのはずがないと怒鳴る。消えるはずがない。探せ。なにをしている。

 周りを囲んだはず。夜の帳が降り灯篭に火を入れる。だが赤毛の男は草むらに身を潜めたかと思うと忽然と姿を消したという。

 唖然とする。見逃しただけだ。湖の斥候を回すことにする。

 舌打ちした。これだから使えぬ。屑に等しい雑兵どもめ。自らの失態を相手になすりつけるとは。

 部隊に人数を割いている。見つかるのは時間の問題だ。探せ。探せ。指示を出す。







 だが次の瞬間、またも覆された。


 青い男と黒い女が馬車を離れ移動を開始。方向は、赤毛の男が居た場所。

 馬車を捨てたという。至極あっさりと。

 そのまま二人組は馬車を捨て赤毛の男を追いかけるように森を切り分ける。赤毛の男が歩いた先は草が取り払われている。このままいけば青い男と黒い女は赤毛の男が居た場所にたどりつく。同時にそれは赤毛の男のために割いた部隊と衝突する証。

 赤毛の男がたどった道よりも早いスピードで。



 次々と報告される事象に面食らう。

 まだだ。まだ終わりではない。赤毛の男は探せ。それを邪魔するように来るならば二人を始末しろ。

 次々に変更する命令に場は混乱をきたす。もとより指示されたことしか動けない連中だ、咄嗟に動きを変えることはできない。

 赤毛の男を追うと決めた後ろから、別の目標が割り込んでくる。それはその場にいる者たちへ混乱を招く。その一瞬は命取りとなる。

 数はこちらが有利だ。だから命令を出す、半分は赤毛の男を追いかけろ。半分は後ろの部隊と合流し二人組を始末しろ。


 素早い命令を出すには自らも動かなければいけない。舌打ちをする。腰を上げる。

 己も出撃し自ら現場にて指示を出す。でなければ混乱に応じて被害が広がってしまうだろう。

 数としてはこちらが有利だ。うまく使えば奴らより勝ることができる。



 斥候に指示を出し立ち上がる。

 その瞬間だった。















「……――――どこ行こうってんだ?」




 背後から、声と共に白銀の切っ先が喉元へ突き付けられた。




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