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竜と食べ歩き。  作者: コトオト
第3章
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※(砂塵の回想)




「……おかしなことを聞くんだねェ、キミも」


 全身をすっぽり覆う、雪のような真っ白なコート。

 対照的な黒い髪が風に揺れている。

 線の細い身体。常に笑みを絶やさない口元。

 真っ黒な瞳が、細められた。



「キミが言ったんじゃないか。犠牲を出さず、何かを無くすこともせず、勝利するって」


 なだめるような物言いに相槌を返す。我ながら歯切れの悪い返答。


「それが出来るって、あの時キミが信じてくれたんじゃないか」


 肩がすくめられる。


「だから行ったんだよ~、ジャスパーは。誰も犠牲にせず、何かを無くすこともせず、勝利するためにねぇ」




――――ここは、どこだろう。

 砂塵の吹く荒れた大地。風が吹く崖上の場所。



 そうだ、

 たしか、この〝戦場〟で、



「……――――キミがそんなんでどうするのさ」




 目の前の人物は、笑みを浮かべてこう言った。




「ジークはキミの相棒なんでしょ~?」



 こちらを振り返り、笑う。


 そんな場合ではないはずなのに、

 焦燥ひとつ見せず、ただ、いつも通りに。




「ボクらが此処に居るのはね、キミの信じるその道を、一緒に走るために居るんだよ~」



 だから、と。



「ジークハルトも一緒だよ。


キミが此処に居る限り、キミの元に帰ってくるよ。親友ジャスパーを連れて、きっと」




 迷いのない瞳。



「だから、キミはただ信じていればいいんだよ。


ボクの策と、キミの親友の実力と、キミの相棒の力と、キミと共に戦ってる仲間のことをね」























 気が付けば、目の前は森が広がっていた。








 目を、見開いた。





















 冷水を浴びせられたように頭が冷える。




 意識が覚醒する。

 今までの比でなく頭が回転を始めた。目を見開き、けれど視界は周囲を映さない。


――――俺は、


――――何を、


――――しているんだ?



 そう。









 あの時と、


 いや、あの時からずっと、


 何も変わらないではないか。










――――ジークハルトが、アルフィリアの傍に居る。


 その事実だけで十分だ。






 ならばこんなことをしている場合ではない。


 考え込むなら最善の策を。

 立ち止まるなら最良の策を。

 絶望するなら先の思考を。

 後悔するなら行動を。

 憤怒するなら歩みを進めろ。



 考えうるすべての事実を把握し、掌握し、収集し、想像し、構成し、行動しろ。



 時間は無限ではない。刻一刻と時は動く。状況は動いていく。その一瞬が命取りとなる。その瞬間が致命傷となる。その戸惑いが勝敗を分ける。その行動が運命を分ける。


 そのことを何よりも実感していたはずだ。

 そのことを誰よりも教えられたはずだ。




――――――平和ボケしたなユークレース。



 苦笑する。自嘲した。それは己への軽蔑。笑い出しそうになるのをこらえる。おかしかった。おかしすぎた。〝この程度で〟八方塞と、〝この程度で〟絶望していると、言っている自分がおかしすぎた。


 そうだ。




 信用など生ぬるい。

 信頼など当に超えている。

 公然の事実。疑うべきもない結果。

 そうだったはずだ。己と銀竜はいつだってそうであったはずなのだ。



――――ジークハルトは、必ずユークレースの元へ帰ってくる。




 ただそれを信じればいい。

 それを信じて、託して、己のすべきことをすればいい。





 ただ全力で、

 ただ全身で、

 ただ渾身に、

 ただ真っ直ぐに、


 己の出来ることを。己のすべきことを。己がすべての能力を持って。

 周囲にあるものをすべて活用し。使えるものを利用し。





 この状況を覆す。













 ただ、それだけだ。





















――――――――そう。まだ〝絶望〟には生ぬるい。








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