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竜と食べ歩き。  作者: コトオト
第3章
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※(騎士の亡霊の独白)

新章スタート。


 それは盤上で駒を互いに動かすゲームで、戦略を練る駆け引きのさまが戦場のそれと良く似ていたから、好んでよく遊んでいた。

 それぞれの駒が果たす役割を熟知し、先手を読み、相手を追い詰める。単純な遊びとは違い、盤上で戦争をしているように疑似化する。

 本来の戦場はどのようになるのだろう。

 思考の淵で考え付く言葉は、けれど咎であると人は言う。

 この平和な世で、戦争を望むなど。


 学んだ戦略。考え付く議論。持てあます力。

 互いの議論をぶつけ合うように、駒を進めるのは日課になっていた。


 だがあいにく自らと同じ土俵に立つことができる者はわずかな人数しかいなかった。

 それもまた嘆きのひとつ。

 孤独に再現される戦場。覆す者は目の前にいないのか。己にできることは待つことだけだった。


 古来より伝わる聖剣の伝説。

 この世界に〝魔〟をもたらす征服の王が呼ばれたら、世界はどうなるのだろう?

 この盤上を覆す者が現れるのだろうか?

 己は戦場に立つのだろうか?

――――勇者は、己の期待に応えてくれるのだろうか?




 数少ない貴重な相手は、己の心の奥底に溜まる暗い感情に気づいているようだった。

 この世界の嘆きを何気なく口にした時、目の前の相手は目を伏せて静かに問うた。

――――お前は〝戦場〟を望むのか?


 彼は手を伸ばした。音を立てて駒が動く。

――――確かに、お前は有能な戦士だ。頭もいい。しかるべき時代に生まれれば、相応の地位を確立できるだろう。


――――だが、今は、

 かたん。〝駒〟を動かす。

――――それは、必要ないんだ。

 かたん。〝駒〟が動く。

――――お前が、力を持て余すのも分かる。己の腕を誇示したい気持ちもあるだろう。だが耐えろ。その力は〝凶器〟になる。

 かたん。〝駒〟を動かす。


――――〝戦争〟は、悲劇を生む。取り返しのつかない過ちを作る。お前の望みは叶うかもしれない、だがそれよりも失うものは多いだろう。

 かたん。〝駒〟が動く。


――――だから、その軍略を……どうか、守るために使ってくれないか。


 かたん。チェックメイト。







「あぁ、失敗か」


「いえ、成功のようですわ」


「わずかながら意志があるか。……〝意識〟はなさそうだがな」


「やはり素体が良かったか。強い意志を持つ者を使ったのが良かったな」


「では、このままでいけば願いは叶えられますか?」


「そうとも限らぬ。だが、そうでないとも限らぬ」


「素体が限定されるのは痛い」


「だが今までの愚物に比べれば素晴らしい結果だ。時間をかければ自我を持たせることも可能だろう」


「そうしたらいずれ願いに手が届くかもしれぬ」


「それはとても待ち遠しいですわ」


「さぁ、お前の役目は〝防衛〟だ」


「〝搾取〟だ」


「〝攻撃〟だ」


「その頭脳を持ってわたしの力になってくれ」





――――このようなもの、容易いことこの上ない。

 ほんの少し人員を配置するだけ。ほんの少し方法を指示するだけ。

 あまりにも容易い搾取。

 あまりにも容易い攻撃。

 あまりにも容易い防衛。


――――戦え。

――――戦え。

――――戦わせてくれ。

 戦わせてくれ。


 血沸き肉躍る戦術をぶつけ合う戦いをさせてくれ。



「それが望みか?」


「なら今しばらく待つがいい。時は近い。時が満ちればお前の望む世界が現れるかもしれぬ」


「世界は変動を始めている。世界は変わる。お前の望む未来に繋がるかは分からぬ。だが断言しよう、〝世界は終焉に向かっている〟」


「わたしは、」


「その先を見てみたい」


「お前もそうではないのか? 騎士の亡霊よ」



 変わるのなら、それを待つ。


―――――――魔を統べる終焉の王よ。

 この身が朽ち果てる前に、世界を変えてくれ。



 〝魔王〟の復活を、ただ、待つ。










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