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竜と食べ歩き。  作者: コトオト
第2章
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白ご飯のおにぎり 6

――――竜術というんだ。そうユークレースは話した。



「ドラゴンには特性がある。火を使うもの。氷を使うもの。風を使うもの。土を使うもの。様々な種類がある。魔術文字の代わりに、ドラゴンは呼吸をするようにそういった力を操る。

ジークハルトは少し特殊でね。この子は、ある程度すべての力を操れるんだ」


 だから〝マスタードラゴン〟という種族名で呼ばれているのだと、そう語る。


「もちろん本来の特性は別にあるんだけどね」

 聞けば、ボアを燃やした力やジーク自身を浮き上がらせていた力は、その付加価値のようなものなのだという。本来の属性として持つドラゴンに比べれば微々たる力らしい。

「それでもだいぶ弱体化してるよ。前はもっと長くあの力を使えたんだけど、今は一振りで終わっちゃうし、威力も弱くなったし」


 大ボアを仕留めた威力があれば十分ではないか、そう返せば、まぁそうだけどね、とユークは苦笑を浮かべた。

「ジークの属性は〝破魔〟。あらゆるものを跳ね返し、あらゆるものを退ける魔よけの力」

 だけれども、とユークは続ける。

「破魔はある意味、しかるべき力がなければ役に立たないモノだよ」



 そもそも退けるだけの〝魔〟とはなんだ。と問いかければ答えることはできないという。

 剣の刃を受け付けぬということか。――否。

 あらゆる攻撃を受け付けぬということか。――否。

 すべての魔法が効かないということか。――恐らく否。

 それではこの生物は、〝生物〟ではなくなってしまう。

 〝神〟と呼ばれるものになってしまう。

 食べなければ死ぬ。剣を受ければ傷をつけられる。魔法も効かぬはずはない。ジークハルトは〝魔物〟なのだ。


「……まぁ毒とは利かないっぽいんだけど。その程度の力だと考えてもらえればいい」

 ユークはそう言って苦笑する。

 どこかしら誤魔化したのを、アルフィは気付かないふりをした。



「そして竜は、己の主と定めた人間一人だけに、己の力を貸すことができる。それを〝祝福〟と呼んでいる」

 ユークはそう言って、さきほど使って見せた自らの剣を抜いた。鈍く光る刃物は丁寧に手入れをされていて刃こぼれなどないものの、見た目は普通の鉄の剣だ。実際、何の変哲もない剣なのだと言う。

 だがこの普通の剣に力を纏わせると、一時的な〝魔剣〟となる。

 剣に纏わりつかせたジークハルトの力。それを〝竜術〟と呼ぶ。

「ジークの主は俺だからね」

 その力を剣に纏わせることができるのだと、そうユークは締めくくる。



 いろいろと突っ込みどころがある話ではあるけれども。

「……魔法、見たことないって言ってたじゃないか」

 アルフィが微妙な顔で指摘するが、ユークはとんでもない、とでも言うように首を振った。

「だってドラゴンいないのに変な術かかるなんて」

 まぁ、その一言が全てを物語っている。




「……すごいな、そんなことがあるなんて。すごいなドラゴンって」

 アルフィが土の上に座ったジークを見ながら、しみじみとそう言った。言いながら手を伸ばすのだが、その瞬間ジークがささっと手から逃げてしまう。

 三秒ほど沈黙が流れる。

 再びアルフィが手を繰り出した。今度は先ほどより早く。

 ジークがささっと逃げ出した。今度は先ほどより早く。

 五秒ほどにらみ合いになる。


「さっきは触らせてくれたじゃないかッ!」

 アルフィが追いかけて、ジークがいつものように素早く逃げた。狭い森の中、アルフィの声とジークの「グェッ!」という鳴き声が響く。


 先ほどの重い空気とは打って変わり、騒がしい雰囲気となった。

 切り替えについていけずぽかんとしたユークは、目の前のどたばた走り回る一人と一匹を見て、やがて噴出した。そのまま声を上げて笑うユークに、アルフィが一言怒鳴る。

「笑うな!」

 あはは、と笑い声で返事をしたユークが、しばらくして笑いを収める頃。





 ふ、と。遠い目をして、ユークの顔に暗い影が帯びる。



「……アルフィは、」

「ん?」

「……――――何も聞かないんだね」



 木の根元に追い込まれたジークとにらみ合いをしていたアルフィが首だけで振り返った。

「何か言ったか、ユーク?」

「…………ううん、なんでもない」

 ユークは首を振った。首を振って、眉を下げて笑った。













「はい。確かに依頼されたキノコですね」

 カウンター上に転がるキノコの束を見て、冒険者ギルドの受付嬢はにっこりと笑った。

 その鉄壁の笑顔を見て、カウンターに腕をついたアルフィリアが安堵のため息をつく。

「良かった。これで違うなんて言われたら、この努力がなんだったんだと思うところだ」


「大変だったみたいですね」

 薄汚れたアルフィの格好を見て、受付嬢が苦笑を浮かべる。ところどころ土が付き、ブーツには草もこびりついていた。いかにも「森に行ってきました」という格好だ。

 アルフィは疲れたように肩をすくめる。


「大変だったよ。いっぱい歩き回ったし魔物もいたし」

「ボアですね。そういえば、お持ちいただいたボアはギルドで引き取らせていただきます。鑑定結果が出次第、買い取り額をこのカウンターでお渡しいたしますので、頃合いを見てまた来てもらえますか?」

「あぁ、そうするよ」


 アルフィはキノコと同時に、なんとか持ち運べそうな小ボアの方も一緒に持って帰ってきていた。ボアの肉は食べられるし、毛皮も良い加工品になる。冒険者ギルドはそう言ったものも引き取ってくれ、大した金にはならないがちょっとした小遣い稼ぎにはなる。


「最近はボアの目撃情報も多かったんですよ。中には成人したサイズのものもいますから、討伐任務も出そうかとギルドマスターが話していたほどで。大丈夫でしたか?」

「あぁ……うちの護衛が優秀だったからな」

 どこか含みを持たせて笑うアルフィだが、下を向いて依頼書に記入をしていた受付嬢は気付かなかった。「そうですか、すごいですね」などと相槌を打っている。

「先ほど入り口に居た人でしょう? 大人のボアと戦えるなんて、ランクBでもいいくらいですよ」

「……ふぅん、そんなレベルなのか」

「はい、できましたよ。どうぞ」

 受付嬢が、機械を通した冒険者カードを二つ渡してくる。アルフィリアとユークレースのものだ。



 ちなみに冒険者カードの依頼達成の報告は、委任状などがあれば代理人でも受け付けている。今回はユークが最初の時姿を見せたので、アルフィが代理として完了の手続きを引き継いだ。



「そのお連れ様はどちらに?」

「もう一つの依頼をこなしてるところだ。個人的に頼まれたほうの」

 二つを受け取り、懐に仕舞いながらアルフィは肩をすくめた。



 この役割分担を決める際にひと悶着あったのだが、ここで話す内容ではないので言わないでおく。

 キノコ探しが思ったより時間がかかったのだが、幼子の約束も違えるわけにはいかないということで、二手に分かれて行動することになった。結果ジャンケンをして負けたユークがネコ探し担当になったのだが、その際すがるような目で見たことを黙殺したのがおおまかな成り行きだ。

 苦手なものを克服するいいチャンス、と励まして見送ったのが別れる前。

 そっちの方が面白そう、と思ったのは否定しない。



「ところでおねーさんは、この辺でネコを見かけたりしなかったか? 茶色の虎猫らしいんだが」

「ネコですか? ……たくさんいますからね。でも最近は見てないですね」

 突然の質問に首を傾げた受付嬢は、それでも親切に答えてくれる。アルフィも期待していたわけではないので「そうか、ありがとう」と軽く返した。


 そのままなんとなくアルフィは依頼書に目を落とす。あの浮気調査の依頼がまだ誰も受けられていないことを見て「あぁ、やっぱりな」などと思った時だった。

「……ひとつ確認しますが。ボアが居たのは森なんですよね?」

 受付嬢が何かを書きつけながらそう聞き、アルフィは顔を上げた。

「そうだな。キノコを採っているときに突然」

「うーん、そうですか」

 こくりと頷いてまた何かを書き込む受付嬢に、アルフィは身を乗り出す。

「ずいぶん思わせぶりな質問をするんだな。いったいなんの話だ?」

「他の冒険者からも疑問の声が上がっているので、それをまとめているんです。最近魔物の動きが活発化しているみたいですからね。先ほども言いましたが、いくつかの魔物に対してギルドの方で独自に討伐任務を出そうかと検討しているんです」

 そして、受付嬢は困ったようにこう言った。


「本来、ボアは洞窟に巣を持つ、気性の大人しい魔物です。ですから出没するとしても洞窟の近くにいるはずなんです。昼間とはいえ森の中をうろつき、出会いがしらに襲ってくるのは異常なんですよ」




余談ですが、序章6話でユークが魔法を見たとき、彼は他のドラゴンが傍にいないか密かに探していたみたいです。


「だって、ドラゴンいないのに変な術が!」

「分かった分かった」



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