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竜と食べ歩き。  作者: コトオト
第1章
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炭火焼ハンバーグ 1

――――数千年の時を経て、封印されし魔王が、復活するという。

 王宮の占い師がそう告げる。

 勇者を呼べ。勇者を召喚べ。手遅れになる前に。魔王が復活する前に。


 神殿に眠る〝聖剣〟を抜いて見せよ。――魔王の封印をするために。

 神の御使いを世界から探し出し、従え、祈りを、加護を受けよ。――魔王の封印をするために。



 お触れは瞬く間に世界を駆け巡る。

 我こそはという若者が、こぞって〝聖剣〟の眠る聖王都へやってきた。


 勇者になり、英雄になる者に褒美を遣わさん。願いを叶える。世界を救え。世界を救え。


 英雄譚に憧れ、金に酔い、地位を求め、様々な者が〝聖剣〟に手をかけた。

 しかしながら〝聖剣〟は抜けるどころか、その姿に触れることすら、許さないという。







 確かに、近年魔物の動きは活発化している。

 人を襲う魔物も多く、狂暴化しているようだ。

 世界をめぐる商人は言う。早く平和になってくれないモノかね、と。安心して旅もできやしない。


「……――だからそんな時期だからね、お嬢ちゃん。悪いことは言わない。冒険者なんて止めときな」

「ご心配ありがとうございます、主人。だけれど私は大丈夫ですよ」


 にこりと微笑んで、手元の記入済みの書類を渡す細い少女を、冒険者ギルドの亭主は胡散臭い目で見つめた。

「アンタみたいなほそっこいおなごが一人で冒険者なんかになるなんざ、自殺行為もいいとこだと思うがね。はっきり言って無理だろう」

「良く言われます。しかしながら旅を安全かつ円滑に行うのに、冒険者カードは便利です」

 明らかに卑下した言い方をされたはずなのに、少女は淡々と返した。口元の笑みは崩さずに。

「身分証も持たずに山賊扱いされるよりかは、ランクが低いと馬鹿にされようとしっかりとした証明書を持っていた方がいいでしょう」

「証明書扱いのためだけに申請を上げるのかい?」

「もちろん仕事はこなしますとも。職業ですから」



 胡桃色の長い髪をひとつ、三つ編みにして背中にたらす。長い前髪から覗く瞳は新緑のような明るい緑色だ。

 細い体格だが、一般的な女性よりややスレンダーなだけで、体格はそこまで貧相というものではない。被るマントはやや汚れているし、頑丈な手袋や固いブーツは旅慣れたほころびを見せている。荷物も多くなく、持ち運びやすい形状の鞄だ。旅をしてきたのだと一目でわかる。

 ただ、屈強な男性の多い冒険者を見慣れてきたギルド主人だからこそ、より華奢に見えるだけだ。



「毎年いるのさ、そういった冒険に憧れた若者が。すぐに現実を見ることになる。お前さんのできる仕事はせいぜい宅配だ。大手柄の物は無理だろうさ」

「美味しいものが食べられるだけのお金があればそれでいいんですよ。そしてマスター。冒険者カードの受け付けはこれで終了でしょうか? どれくらいでできますか?」


 マスターの言葉にも反応せず流し、少女は首を傾げた。その問いに、マスターはやる気なさそうに書類に目を落とす。

 アルフィリア・ハーゼル。十九歳。女。その他必要事項の書かれた契約書に不備がないことを見つめて、ひとつ、あきらめたような息を吐いた。


「明日の昼にはできあがる。それまで護衛の傭兵でも探してきたらいい」

「あぁ、それは良さそうですね。それではマスター、あとをお願いします」

「来月もアンタの無事な顔を見られることを祈っていよう。ここは荒くれ者の来る場所だ。あまり遅い時間には近寄らないように」


 皮肉を言いながらも最後には心配の言葉を述べるギルドマスターは、顔に大きな傷と髭の生えた顔つきで威圧感もかなりあるが、実は人の良い性格をしているらしい。

 アルフィはにこりと笑いお礼を言う。踵を返そうとしたところで、マスターに話しかけられた。


「アンタは〝勇者選定の儀〟に行かないのかい? 女も子供も関係ないらしいからな」

「いいえ、行きませんよ。私がこの町に来たのは違う目的ですから」


 興味をひかれたらしい。カウンター越しに腕をつき、「そりゃあなんだ」と片眉を上げて問いかけられた言葉に、アルフィは得意そうな顔で答える。


「そりゃあもう、美味しいもの食べに来たに決まってるでしょう」















 先ほど本屋で手に入れた『世界美味いもの漫遊記』と書かれたガイドブックを広げる。地図を広げて聖王都の町を思い浮かべた。

 王都の中心部、天使をかたどった銅像が並ぶ公園。その中心にある大きな噴水の階段に腰かけて、アルフィリアはこれからの予定を組み立てる。


「カードは明日出来上がるそうだから、それまでゆっくり観光できそうだ。宿も取ってあるし。ふむ、それでは早速あそこに行ってみようか」


 冒険者ギルドで話していた口調とは違い、ざっくばらんに話す言葉はやや特徴的。顎に手を当ててふむふむと考え込む姿に、上品な仕草などはない。

 そうして行く先の目星をつけ、ガイドブックを畳むと、アルフィは前を見据えた。



 冒険者の格好をした様々な若者が城へ向かっている。意気揚々とした顔の者、意気消沈した顔の者。

 アルフィが座る噴水の周りにも、買い物中の婦人や物を運ぶ高齢の男性、遊びまわる子供たちと共に、噴水に腰かけて町の風景を見る若者が多い。それは、街の住人らしき姿もあれば、明らかな異邦人の姿が圧倒的に多かった。

 旅人が訪れる目的の大半は、正面にかすんで見える王城へ行くこと。

 そして、勇者である資格を試すためだ。




「……世界を救う勇者、ねぇ」



 ぼんやりと周囲を見渡して、ぽつりとアルフィは呟く。アルフィの周りは少し空いている。多少不謹慎なことを言っても、誰も聞いていないだろう。



「「……くだらない」」




 ……おや?


 重なる声に眉を寄せて視界を彷徨わす。

 すると同じような疑問を感じたのか、きょろきょろと首を回していたフードの者と目が合った。



読んで頂きましてありがとうございます!

思いつくままに書いているので、設定などは割と適当だったりします……。


2/8追記:アルフィリアのメガネ設定をなくしました。

これからの文章で矛盾が合った場合は、ご連絡ください。

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