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始原の音


昔から音が好きだった。


だから自分の声が好きになった。


一番身近にある音だったから。


気付けば音楽が好きだった。


歌うのも、聞くのも、作るのも、全て音を使うものだったから。


音楽は純粋なる音と同じくらい、自分の身体に響いていくから。


身体に響いた音が自分から外へと響くのが楽しかった。


自分の思うままに音が響いていくから。



誰かは自分のことを、


『音が身体に詰まっている』


と言った。


自分はその通りだと思った。


だって、心の奥底から次々と生まれてくる音や旋律は、止まることを知らないように溢れていたから。



ある人は、自分のことを、


『音に愛されている』


と言った。


自分はその通りだと思った。


だって、自分が音を好きでいるように、音も自分を好きでいてくれる。となんとなく感じたから。



違う人は自分のことを、


『音に溺れている』


と言った。


自分はその通りだと思った。


だって、世界には音が溢れかえっている。音の海に自分はいるんだから。





自分は音が好きで、声が好きで、歌が好きで、音楽が好きで、突き詰めれば音というものが存在する世界が好きだった。


綺麗な音も、汚い音も、流麗な音も、醜い音も、美しい音も、歪んだ音も、汚れた音も、空虚な音も、力強い音も、弱々しい音も、荘厳な音も、下卑た音も、麗しい音も、枯れた音も、破れた音も、自然の音も、古い音も、新しい音も、瑞々しい音も、作り物の音も、知らない音も、知っている音も、寂しい音も、温かい音も、悲しい音も、哀しい音も、嬉しい音も、泣いた音も、命の音も、空の音も、海の音も、和音も、不協和音も、すべて関係なく愛すべき音。


慈しみ、愛しむべき音。


音は自分を汚すことはなく、自分も音を汚すことはない。


“自分”という存在そのものが、音のようだった。




彼女は言った。



“わたし”は“音”です。と。



彼は頷いた。



確かに“君”は“音”だよ。と。


君は音無しに生きては行けないだろう。


君の“音”は“呼吸”と同意義だから。


人は呼吸無しに生きては行けない。


ならば君も音無しには生きて行けないだろう。


だから、歌いなさい。


ずっと、その身体の音を溢れさせて生きなさい。



はい。



と彼女は言った。



わたしは、わたしの音を世界に溢れさせて生きましょう。


“わたし”という存在はずっと音を溢れさせて生きましょう。


“音”無しには生きられないのだから。と……―――――――――――




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