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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第83話 死闘

本日2話投稿します(21:00)

「今日もありがとうございました!でも、付き合ってもらってよかったんですか?だって今日は……。」


ひかりが申し訳なさそうに訊ねてくる。

先日、風見がリンドヴルムへの挑戦日を明かした。その指定日が今日。

土曜日はひかりの模擬戦に付き合うのがルーティンになっていたので、たまたま被ったというわけである。


「あぁ、ユキやリヴァイアサンも控えてるし、全員抜かれるようなら俺がいてもどうしようもないしな。」


俺は肩をすくめてみせた。


「皆さんとっても強いですもんね。」


「あぁ。来週は昇級試験本番だろ。最後の調整に俺を使い倒すくらいでちょうどいい。」


「すみません、ありがとうございます!」


「あぁ、それじゃ、俺はそろそろ戻るよ。」


俺たちは駅前で別れて、それぞれの路線へ乗り込んだ。



バスを降りて、見慣れた山道に入る。

今日、ユキは念のためコアの小部屋で守りを固めている。わざわざ迎えに来てもらうのも悪いので、ダンジョン内部の転移陣から戻ることにした。

ダンジョンに足を踏み入れる。


瞬間、ダンジョン内部の情報が脳内に反映された。


「あれ?」


海洋エリアが騒がしい――いや、リンドヴルムが風見の相手をすると言っていたのでそれ自体は問題ない。

波打つように、内部の魔力が暴れている。

リンドヴルム。リヴァイアサン。間違えようがない、2体の魔力がゆらゆらと熱を持っている。


「……なんか激しくないか?」


さらに意識を集中させる。

風見以外にも5~6人ほどいるようだ。あいつが会見で言ってた秘策というのが、これのことだろうか。


ひとまず海洋エリアに飛んで、様子を見るか。



side:リンドヴルム


あやつがダンジョンから出かけて行って、しばらく。


潮の匂いと陽射しが満ちる上空に、わらわは既に竜の出で立ちとなって陣取っておった。

今日の海洋エリアは、死にたくないものは立ち入らないこと、とのお触れが出ておる。


眼下の白い砂浜の上に、若い剣士が一人。


わらわは、ゆっくりと高度を落とす。

2対の翼で風を捉えながら、浅瀬の縁に爪先から下りた。

水面が、わらわの足元で大きく揺れる。


剣が鞘から抜かれ、刃の周りで蒼白い光が螺旋を描く。

風見が大地を蹴った。最短直線で仕掛けてくる。


しかし――


「ふむ。」


火山で会ったころよりは威力を上げたものの、その刃は受け止めるまでもなく、わらわの鱗を貫くことはできない。

風見の体が惰性で流れた。


「多少腕を上げたようじゃが……物足りんのう。」


「そうみたいだね。でも、俺は攻略者だ。力でダメなら、知恵を使う。」


大した自信じゃ。

わらわは喉に溜めた紫炎を吐き出す。

風見が後ろへ大きく飛び退き、着地と同時に周囲を気にするようなそぶりを見せた。


そのときじゃ。


まずは、海から。

長くしなやかな影が、水面下を泳いでわらわの足元に届いた。

見た目はただ錆びただけの鎖が、わらわの全身に無数に絡みついた。


ふむ。これは――。


四肢に纏わりついた鎖に向かってわらわの魔力が吸い上げられておる。

喉の奥で紫炎を溜めようとしても、上手く練れん。

魔封じと地縛を兼ね備えた拘束魔法――これは、巧緻じゃ。


軍服風の女の声が、海の上に響く。


「アタシの【ゼロ・ジェイル】、お気に召した?」


ニヤニヤと不快な笑みを浮かべおって。


そのとき、岩礁の影の方角から、空気を切り裂く一発。

鱗の薄い、わらわの頭部を何かが弾いた。

血が流れるが、位置が掴めん。


そして、空中。

装飾過多のコート。


「ボクの美しい技で、氷像にしてあげるよ。」


両手の指先から、白く極寒の霧がわらわの翼へまっすぐ流れ込んできた。


「【コキュートス】」


翼の表面がピシピシという音とともに凍り始め、一息の間に両の翼が根元から肩の関節まで凍り付いた。


「ボクの美学に君はちょうどよかった。なかなか見ごたえのある作品になりそうだ。」


更に、気付けばふところに入っておった獣のような男。いや、半獣といった方がよいか。

わらわの腹下――。


振りかぶった、右の拳。拳の周囲で空気が捻れる。


「うらああッ!」


ドゴンッ――。


腹に衝撃が走った。

鱗が砕け、血が口の端から滴る。


「クソかてぇな!」


獣の男が首を回しながらこぼした。


そして、いつの間にか接近していた、斧を肩に担いだ大男。

その口元では煙草の先が赤く光っていた。


「ふん、まぁ、こんなもんだろうよ。」


男が煙を吐きながら、ゆっくりこちらに歩み寄ってくる。


「ジェイク!話が違う!」


風見が怒声を上げる。


「こいつの動きを止めるだけ、俺の支援をするだけと言ってたろうがッ!」


ジェイクと呼ばれた男は風見に興味もないと言わんばかりに吐き捨てる。


「甘いんだよ。なめるなクソガキ。」


風見はその圧力にたじろぐ。


「お前は、利用されただけなんだよ。最初っから、そういう腹積もりだ。お前さんは、派手に目立つだけの飾りだ。」


「ねー。とっとと、止めさしちゃいましょ?」


軍服風の女が、肩をすくめた。



「ふむ。」


わらわは、口の端の血を、舌で舐めとった。


「……中々、悪くないの。」


「はぁ?何強がってんだよ、トカゲが。」



「――じゃが。本気で、この程度で、わらわが止められると思っておったのか。」



まずは、鬱陶しいこの鎖。


全身に、膂力を込めた。

鎖が、ギチギチと鳴り始める。


ピシ――、と空気が斜めに裂けた。

鎖が、わらわの体に押し付けられて空間そのものを巻き込んでおる。

中々に練られた鎖じゃ。


「えっ……?は?」


軍服風の女が、初めて、声を漏らした。


岩礁から、また狙撃。

今度はわらわの顎下、鱗の最も薄い場所を射貫いてきた。焦りが見えておるぞ。

鮮血が噴き出す。

構わん。


「冗談でしょッ!?何か月かけて準備したと思ってんのよ!」


軍服風の女が、声を上げた。


「うるさいのう。」


1本、2本と鎖が断裂され、徐々に魔力が戻ってくる。


紫炎が、わらわの全身を纏う。

凍り付いた翼の氷が、ぱりっと音を立てて、内側から解けてポタポタと溶け落ちる。

紫の鱗が再び陽の光を弾く。


「化け物が……ッ!」


斧の男が、ようやく、本気の構えを取った。


「ブルーノ、合わせろッ!完全に解かれる前に殺る!」


獣化の男が拳を握り直して、ふところへ。

ジェイクの大斧が、上段からわらわの首筋へ、振り下ろされる。


鱗が弾ける。

と同時、尻尾を叩きつけ、半獣の男を狙撃手の方向の岩礁へ弾き飛ばす。


「わらわの命まで手を伸ばすにはまだまだ足りんの。」


「――ガハッ!」


「化け物めッ!」


斧の男が、はじめて声に怒気と焦りを混ぜた。


「ここまでなんて聞いてないわ!撤退よ、ジェイクッ!」



そのとき、海面にふと影が落ちた。

その影は次第にサイズを増し、巨大な滝が突然現れたかのような轟音が周囲に響き渡る。


リヴァイアサン。

背中の樹木と廃ビル状の灰色の塊が、空を切り取りながら現れた。


『騒がしいですね、リンドヴルム。』


温かみのある声が、海と空の両方を震わせる。


「ふん、今は貴様のほうがうるさいじゃろうが。」


『それに、随分と愉快な格好ですね。あなたらしくもない。』


「うるさいのじゃ。それに、存外楽しませてくれる奴らでの。」


「クソッ、こんな時に……。」


ジェイクが苦しげにこぼす。


「撤退は無理だ!予定通り、リサとマーカスは鯨を足止め!俺とブルーノ、カイルは竜だ!」


「シミュレーションと状況が違うじゃない!」


「黙れッ!」


『鯨とは不躾ですね。』



5人の動きが切り替わる。

リヴァイアサンの巨体に向けて広範囲の冷却と電撃が走る。


「凍れ!【コキュートス】」


「こんなところで死ぬわけにはいかないのよ!【ヴォルテクス・ノヴァ】!」


『なるほど、ワタシのことも知っているのですね。――ですが。』


海流が荒れ、雷撃も、氷塊も巻き込んだ大波が渦巻く。


『落雷も氷河もワタシの一部です。小さき子らよ。』


リヴァイアサンが、指向性のある歌を唱え始める。


『そろそろ眠りなさい。』


リサ、マーカスの周囲を空間のゆがみが駆け抜け、同時に意識を喪失した。


「な、う、嘘だろ、おい!」


「さて、おぬし等はわらわの相手じゃ。まだ楽しませてくれるのじゃろうな。」


『殺してはなりませんよ。』


「それはこやつら次第じゃの。」


縦に伸びた瞳孔が、ジェイクを捉える。



side:遥


海洋エリアに転移した頃には、リヴァイアサンが介入し、形勢はこちらが圧倒的に有利だった。

リンドヴルムがそれなりに負傷しているところを見るに、なかなかの手練れのようだが。

風見が立ち尽くしているのも気にはなるが。


「なんだ、大丈夫そうだな。」


ひと息ついた瞬間。


「――捕まえた。」


後ろから、声。


俺の体は、既に動こうとしていた。

左手が腰の剣に伸びて、足が床を蹴って――。

しかし、それは間に合わなかった。


視界が歪み、捻じれ、俺の体がそこにたぐり寄せられる。


「うわ――……っ。」


世界が裏返った。



肩から固い岩肌に落ちた。

空気が、熱い。


「……ここは、火山エリア……?」


赤く焼けた岩の天井。噴煙の影。

俺はゆっくり、左手で起き上がって、剣の柄に手をやる。


振り返る。


黒いローブについたフードを深く被り、容姿は窺えない。

が、背丈は150cmほど。小さい。


両手に、細身の双剣。


「お前、何者――」


誰何の声も届かぬうち、フードの人物は動き出していた。しかし、それを目で追うことは出来なかった。


「消えッ――!?」


今までにないほど、けたたましく鳴り響く危機感知。直感に従い、左手の剣を反射で胸の前に立てる。


胸に、二重の斬撃。

左から右、右から左。

左手の剣の腹で、辛うじて、1太刀目を逸らした。

2太刀目は、間に合わない。


バヅッと、皮膚の上で肉と刃が擦れる嫌な音。

熱い。

襟元のすぐ下、左の胸あたりの皮膚が裂けて、血が滲む。


「いってぇ……!」


フードの陰の唇が、わずかに動いた。


「……やっぱり、固い。」


再び踏み込む。

放たれた矢のような軌道を描き迫る。


「【瞬身】」


短い詠唱。輪郭がぶれる。

が、何とか追える。


軌道を予想し迎え撃つ。

が、急制動で停止したかと思うと既に距離を開けられていた。

すさまじく速い。


「目がいい。」


踏み込みの構え。

今度は、双剣を交差させて、両肩の高さに揃えてくる。

胸前で、刃を交差させる。


先ほど以上の速度で踏み込みながら、回転。

身体ごと、独楽のように。


「【双線・回廊】」


そのまま低い軌道で、こちらの懐に入ってくる。

双剣の連撃。左手1本では凌ぎ切れず、裂傷が増える。


「ぐっ……!」


双剣。

複数のスキルを織り込んだ多彩な技に、目で追えないほどの速度。

間違いない、こいつは、ひかりの完成形だ。今の俺では……!



激しい動きの中で、ほんの一瞬。



フードの影。

プラチナブロンドのストレートの髪。青と金、左右で色の違う瞳が、俺を確かに捉える。

人形のように整っていて、それでいて冷たい表情。


女性……?

それも若い……。


彼女が一度距離を取った。


「大体わかった。次で終わり。」


どういうことだ、と思う間もなく、彼女の身体が文字通り消えた。

速いとかそういう類ではない。


「【縮地】」


胸の下あたりから無機質な声が耳に届く。

動け――そう念じるが左手がピクリと反応すると同時、左手から剣を弾き飛ばされる。


「あ――」


彼女の目が、俺を捉える。

青と金のヘテロクロミアが、一度だけ悲し気に伏せられた。


「……ごめんね。」


双剣の片方が、斜め下から跳ね上がる。

軌道は、喉。


致命の一撃が炸裂する。


熱い。

膝が抜け、剣を取り落とす。


その直後だった。


頭上で、空気がばさっと鳴った。

飛竜のものではない。もっと軽くて、もっと速い、翼の音。


「ご主人――――――ッ!!」


俺の体が地面に倒れる前に、横から左腕一本で抱え上げられた。

鋭い金色の瞳が、俺を一度だけ覗き込む。

唇が、引き結ばれている。


火山エリアの奥地の岩塊の間を最短距離で縫うように飛ぶ。


「ご主人、しっかり、しっかりしててほしいっす、ご主人、ご主人――」


ハヤテの声が、断片的に耳に入る。


急降下する感覚、空気が涼やかなものに変わる。

これは、転移陣か。


意識が消えていく――。



「……逃がした。あれは、ブルーノと同じタイプの半獣?すごく速い。」


「でも――最上級のポーションだとしても、あの傷では助からない。」


――――

貯金残高:12,450,000円 / ダンジョン蓄積魔力:7,530

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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