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第3話

命の危機を脱したとはいえ、ボロボロで意識も無い状態の女性(推定)が目の前で倒れている状況に変わりはない。

それに引き続き治療は必要だろう。


「うーん、どうしたものか。」


一応の生活基盤はあるのでダンジョンの外の自宅に連れていく選択肢もあるが、今回のように突然ポーションが必要になったりした時に、

対応できない不安がある。それならば、環境としてはダンジョンの中のほうがよいのではないか。

しかしここにはダンジョンの地面がむき出しになっている、だだっ広い空間しかない。


「ダンジョンに居住エリアを作成するしかないか……。」


先のポーション大放出で貯金は残り300万円ほど。居住エリアを作成して、キッチンやベッド、風呂、空調などを整えると、残金のうち大部分はなくなるだろう。

最低限、2~3か月は耐えられるくらいの資金は残したいところだが・・・。


また、召喚を行ってから気づいたが、殆ど空になったダンジョンの魔力は時間経過とともに徐々に回復しているのが感じられる。

緊急時のポーションはここから捻出することにしよう。


それから貯金の大半を使ってしまうことに対してしばらく葛藤しつつ、ダンジョンの充実は今後の生活のために必要な支出と割り切った俺は、

居住エリアの作成に踏み切った。

エリア作成は、いまのダンジョンを拡張するような形式も可能だが、現状のエリアを変形させることも可能なようだ。物理法則がどうなっているのかは全く分からないが。


ダンジョンコアがむき出しの状態は非常に気になるので、最奥にコアの小部屋を作成し、その小部屋をふさぐように居住エリアを作成することにした。

居住エリアのサイズは10メートル四方ほど、床と壁は磨かれた石材のような材質のみが選べるようだった。

生活のために、ベッドを二つと風呂場を一つ用意する。あとは、テーブルと椅子くらいは必要だろう。


大体の間取りは決めたので、後は念じるだけのようだ。

今俺たちがいる場所は居住エリアとして作り変えられるので、俺は女性を抱き上げて巻き込まれないように移動することにした。


「軽いな……。」


もともと細身の体躯に、足と腕がそれぞれ1本ずつ欠損しているため、想像している半分くらいの力で抱き上げられてしまった。


「さて、やるか。」


居住エリア作成と念じると、ダンジョン内の壁がせり出しエリアの外壁を形作った。

そして、いくつかの光が渦になったかと思うと、家財などに変容する。不思議な光景をしばし眺めていると、当初想定していた通りの居住空間が完成した。


早速、完成したばかりの空間に女性を抱えたまま踏み入れる。家財も新品だし、清潔感もある。普通の一人暮らしなんかよりよっぽど上等だろう。しばらくここを拠点にすることに、なんの不便もなさそうで安心する。

まず女性をベッドに横たえて、それから出来立ての椅子に座って今後のことを考えることにした。


召喚を行ってからというもの、怒涛の展開にあまり考える暇もなく色々決断してしまったからだ。

とは言え後悔はなく、むしろこれから何をしようかと、前向きに考えることができていた。


「まずは、この人?をどうするかだよなぁ。」


そもそも自分のダンジョンマスターとしての天賦を確かめるために行った召喚だったが、まさかこんな事になるとは。ちなみに、召喚された存在は眷属と呼ぶらしい。

まぁ、召喚するだけしておいて、見捨てるようなことをしては寝覚めが悪いし、しばらく面倒を見ながらダンジョンで出来ることを整理してみるか。


幸いにも引っ越して来る際に、1月程度は引き篭もれそうな食料品は確保出来ているため、直近の生活の心配もない。かなり田舎なので、買い溜めしておいてラッキーだった。


もともと女性が着ていた、染み込んだ血が乾いて固まったボロ布はさっさと脱がせてしまい、ポーションを染み込ませた布で女性の患部を中心に拭き清めていった。

と言っても全身患部みたいな状態だし、栄養失調のように痩せ細っている。

それでも、もとは凄く美形だったのだろうと思わせる顔の造形をしていることだけは見て取れた。


ともかく、そんなことを繰り返して3日ほど、女性の様子に変化が見られた。口を少し開き、呻くような音が少し漏れたのである。呼吸も出会った時より格段に力強くなり安定している。


この期間で俺はダンジョンについて色々なことを検索していた。残念ながらダンジョンマスターについては余り詳しい情報がなく手探りな状態だが、一方攻略者については様々な記事が見つかった。

その中でもポーションは一般的なアイテムであり、その使用方法はすぐに分かった。緊急時は怪我をした部位にかける方法も取られるが、直接飲んだ方が効果は高いらしい。

ちなみに俺が現金と引き換えに交換したポーションには、ポーション(低)という表記があった。というかそれしか無かった。

さらに上には、中、高とランクがありその上にはハイポーションやエリクサーなどがあるらしい。残念ながら欠損を治すレベルのポーションはエリクサーだけ、というのが一般的な常識のようである。


ともあれ、今の彼女の状態ならポーションを飲ませた方が効能が高いのではないか。そう思った俺は、ダンジョンに溜まった魔力と交換したポーションの瓶を慎重に彼女の口に近づけ、ゆっくりと傾けた。

彼女の細い首がこくり、こくりと鳴らされながら、ポーションが飲み込まれていく。

その度に彼女の身体が淡く輝き、嚥下するたびにその輝きは強くなっていった。心なしか肌の血色も良くなったように見える。


その日はダンジョンの魔力が空になったため、彼女をベッドに横たえて俺も就寝した。


それから更に1週間ほど、ダンジョンについて調べながら彼女にポーションを飲ませる日々を続けたある日のことだった。人間は1週間は水分だけで生きられると聞いた事があったが、彼女はどうなんだろう、食事とか無理だよなと考えていたそんな時、彼女の身体が放つ輝きが爆発的に強くなり、俺は咄嗟に腕で顔を覆った。


「うお、な、何!」


ーー光が収まったのを感じて目を開けた時、飛び込んできた光景は、手足の欠損が修復され、肌や髪の艶を取り戻し、淡い光に包まれながら少し宙に浮いた状態の、彼女の姿であった。いつの間にか衣服も、シルクのドレスのような艶やかなものに変化していた。


最初は目を閉じていた彼女だったが、髪と同じく白銀の長い睫毛を震わせながら、ゆっくりと瞳を開き、俺の目を真っ直ぐに見つめた。


蒼色の、サファイアの光を閉じ込めたかのような大きな瞳が、白磁の肌をキャンパスにして輝いている。


俺はと言うと、女神と天使が超合体したらこんな感じかな、などと著しく頭の悪い感想を思い浮かべながらその光景をほんやりと眺めていた。美女を前にした男なんてこんなものである。美女なんてレベルでは無いのだが。

ぼーっとしていると、彼女の方が先に口を開いた。


「ーーはじめまして、ご主人様。まずは、ご主人の献身に、感謝いたします。」


鈴が鳴ったのかと思うほど心地良い声だった。


……。


いや、明らかに、人智を越えた存在だよね、これ。


ダンジョンマスターとして目覚めてから一番の衝撃が、そこにあった。


――――

貯金残高:500,000円 / ダンジョン蓄積魔力:0

スキル:なし

眷属:ユキ(エルダーエルフ)

――――

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