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リネアの選択  作者: とたか たか


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06 名前で呼んで

 リネアが図書棟から帰る頃には、空はすっかり夜の色になっていた。


 学生寮の窓の灯りが点々と浮かび、夕食の食欲をそそる香りが漂っていた。

 長い一日だった――そう思いながら、リネアは正面玄関をくぐった。


「――リネアさん!」


 呼び止められて、思わず足を止める。


 玄関脇の柱にもたれていたのは、見覚えのある薄桃色の髪の少女だった。

 顔を上げたて、ぱたぱたと駆け寄ってくる。


 セラフィナ・ロゼ。

 夢の中で白い光に包まれていた聖女。


「やっと帰ってきた!」

「……セラフィナ、さん?」


「待ってたの」


 あっさりと言われて、言葉に詰まる。


「えっと、私を、ですか?何か用が……」

「うん、ある!」


 にこっと笑って、距離を詰める。


「呼び方の相談!」

「……呼び方?」

「そう」


 セラフィナは指を立てる。


「リネアさんって、ちょっと遠いでしょ?」

「……そう、でしょうか」


「うん、だから――」


 一拍置いて。


「リネアって呼んでいい?」


 あまりに自然で、拒む理由が見つからない。


「それとね」


 畳みかけるように続ける。


「私のことも、セラフィナって呼んでほしい」

「……呼び捨て、ですか」

「もちろん!」


 即答だった。


「クロウの星約でしょ?仲良くしたいなって。

 レオニス・ヴァレンティとクロウ・ノクエルは、幼馴染で長い付き合いなの」

「あの、でも、私は男爵家で……」


 学院内では同級生との家格を意識した、へりくだった喋り方や関係性が推奨されないことは教師から告げられていた。

 それでも、王都から離れた東部の田舎にあるフォレスト家と、ロゼ伯爵家ではあまりに違う。

 どこまで許されるのか、リネアは計りかねていた。


「関係ないよ?」


 そんなリネアの戸惑いに気づいたように、セラフィナは首を振った。


「私は、仲良くなりたい人とは仲良くするだけ」


 計算も、遠慮もない真っ直ぐな瞳。


「……じゃあ」


 少しだけ、息を整えて。


「セラフィナ」

「うん!」


 花が開くように笑顔が弾けた。


「じゃあ、リネア!」


 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がふっと緩む。


(……真っ直ぐな人だ)


 聖女になるからでも、侯爵家の後ろ盾があるからでもない。

 ただ、人との距離を迷わず縮められる強さ。


「同じクラスだから、今度の演習も一緒だよね?」

「はい、たぶん」

「楽しみ」


 屈託なく笑う。


「じゃあ、今日はこれで満足!」

「……これが用だったんですか」

「うん!」


 満足そうに頷いてから、くるりと踵を返す。


「おやすみ、リネア。今度はご飯も一緒に食べようね!」

「……はい、おやすみなさい、セラフィナ」


 嵐のように慌ただしく去る背中を見送りながら、リネアはじんわりと温かい気持ちになるのを感じた。

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