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リネアの選択  作者: とたか たか


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19/30

18 実技試験

 一学期最後の実技試験を迎えた当日。

 学院の演習場は、ひりつくような緊張感が漂っていた。


 今日ははっきりと評価がつく。

 それも、単独ではなく星約単位で。


 整列する生徒たちの間を、教官がゆっくりと歩く。


「試験は、複数班同時進行だ。

 指定された区域内で目標を制圧し、被害を最小限に抑えろ」


 簡潔な説明の裏で、視線が交錯する。

 実力の測り合い。

 そして、順位。





 結界の起動を待つ間、生徒たちはそれぞれの位置で最終確認をしていた。


 クロウは弓の弦を張り直し、視線を横にやる。


 リネアは少し離れた位置で、魔術回路の調整に意識を向けていた。背筋は伸びているが、連日の演習の影響か、顔色はそれほどよくない。


「……フォレスト」


 名を呼ぶと、リネアはすぐにこちらを見る。


「大丈夫か」

「うん。今日は、いける」


 声は落ち着いている。

 無理を押している様子はない。


「昨日話した通りだ。

 制圧を優先する。致命傷だけ防げばいい」


 リネアは小さく頷いた。


「……ありがとう」


 その言葉に頷いて、クロウは視線を前に戻す。


 ――そのとき。


 振り返ると、アメリア・ロズウェルが立っていた。

 淡い金の巻き髪が光を受けて揺れ、無邪気な笑みを浮かべている。


「今日の試験、一緒の組になるみたいですね」

「そうだな」


 必要最低限の返答。それでも、アメリアは一歩近づいた。


「最近、お怪我がまた増えているように見えました。

 ……前線は、大変でしょう?」


 気遣うようでいて、探る響き。


「どうか無理をなさらないでくださいね」


 その視線が、一瞬だけクロウの背後――、リネアの立つ位置を捉えた。


 クロウは、それ以上返さなかった。

 アメリアは満足したように微笑み、元の位置へと戻っていく。

 胸の奥に、嫌な引っかかりが残った。





 笛の音とともに、試験が始まった。


 開始早々、クロウが前に出る。

 放たれた矢は迷いなく魔物を射抜き、動きに淀みはない。


 リネアはすぐ後ろで、魔力回路を細く開いた。


(……一気には、流さない)


 深部と痛みだけ。

 必要な箇所に、必要な分だけ。


 連携は順調だった。


 一体、二体。

 けれど、三体目。


 演習場の第三区画にいた人工魔物が、わずかに進路を変えたのを探索魔術が捉える。


(……?)


 本来、こちらへ向かう位置ではない。

 結界の縁をなぞるように移動し、明らかにリネアの立つ位置を目指している。


 ――まずい。


 ここから離れようと体をひるがえらせた、その瞬間。


 別の人型をした巨大な人工魔物が、進路を塞いだ。

 即座に振り下ろされた鋭利な爪を、リネアはギリギリのところで咄嗟にかわす。


「……っ」


 地面を大きく抉る音。

 その異変に気づいたクロウが後方を見やる。


 反射的に矢を放ち、人工魔物の視線を逸らす。

 その一瞬で、次にクロウは地面を強く蹴った。


 距離が、一気に詰まる。


 すぐに人工魔物は体勢を立て直し、再びリネアに爪を振り下ろそうとした。


「リネア――!」


 名前が、咄嗟に口をついた。


 クロウの手が、ぎりぎりでリネアの腕を掴む。

 強く引っ張り、攻撃の軌道から外す。


 そのままクロウの元に引き込まれた状態で、爪が掠める。

 鮮血が、肩から弾けた。


「――クロウ!」

「ぐっ……」


 苦痛に歪むその表情が、夢の中の光景と重なり、リネアは一瞬息を呑んだ。


 ――でも。


 次の瞬間、意識を切り替える。


(全力で……!)


 魔力回路を開放する。

 精度を保つことは意識しつつ、迷わず恩寵を使った。


 血はすぐに止まり、致命傷には至らない。

 クロウはそのまま、腰から引き抜いた短剣で魔物の首を鮮やかに断った。





 試験終了の合図が響いたとき、恩寵の対価を押し殺すようにリネアは呼吸を整えた。

 視界が揺れる。遅れて体の内には、どんどん痛みが広がる。

 それでも、ここまで崩れずに何とか立っていられるのは、試験前半で力をほとんど使わずにいたおかげだ。


「……っ」

「……大丈夫か」


 すぐそばで、クロウの声がした。

 リネアは悟られないように痛みに耐えながら姿勢を正した。


「……うん、でも」


 視線が、クロウの肩に吸い寄せられる。


「怪我……」

「問題ない」


 即座に否定される。

 その言い切りには、いつもより強さがあった。


 リネアは唇を噛んだ。


「……ごめん」

「何がだ」

「さっきの人型の人工魔物……変だった。動きも、出方も」


 思い出しながら、言葉を探す。


「他の魔物の接近があって、魔術感知が遅れた。もっと早く、気づけてたら……」

「……いや。あれは、俺も違和感があった」


 リネアの魔術感知は精度が高い方だ。

 あそこまでの至近距離で簡単にその目をくぐれるものなのか……?


「あとで、確認する必要があるな」


 クロウは疑念を断定はしない。ただ、偶然と結論づけるつもりもなかった。

 その横顔を見て、リネアの胸が少しだけ締めつけられる。


「……クロウ」

「ん」


 自然に、名前が口をついた。

 クロウは足を止め、ちらりとこちらを見る。


「さっき。助けてくれて、ありがとう」


 一瞬の沈黙。


「……当たり前だ」


 そう言って、気にした様子もなく歩き出す。


「リネア。行くぞ」


 はっきりと、名を呼ばれて。

 リネアは思わず顔を上げた。


「……うん」


 笑顔がこぼれた。

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