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リネアの選択  作者: とたか たか


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09 初演習 後編

 リネアたちの初演習は進んでいく。

 次々と魔術盤に映し出される他の組の様子に、生徒たちは食い入るように視線を向ける。

 特に前線配置の者たちは、恩寵の使い方や戦い方にも色濃く個性が出ていた。


「ガイ、前出すぎだって!」

「行ける行ける!」


 エマ・ハルトヴィックの静止を振り切って、ガイ・ベルクマンの恩寵が発動した剛腕が、人工魔物を正面から殴り飛ばした。

 衝撃で地面が揺れ、観覧していた生徒たちから小さなどよめきが上がる。


「うわ、力任せだな」

「ゴリラかよ!でも、あれは止められないだろ」


 ガイは止まらない。

 二体目にも距離を詰め、今度は蹴りで叩き伏せる。


 ――強い。

 だが、動きは一直線だった。


「ガイ、右!」


 後方からエマの声が飛ぶ。

 彼女は魔術感知で、魔物の位置と動きを即座に伝えている。


「……遅い!」


 ガイが振り向いた瞬間、三体目が死角から跳んだ。

 後衛の支援が一拍遅れ、結界が弾く。

 教官が小さく笛を鳴らした。


「減点一。連携不足だ」


 ため息と、苦笑が混じる。

 教官の低い声が響いた。


「前衛、突っ込みすぎだ。支援が追いついていない」


 ガイはちえっと舌打ちしつつも、最後の一体を力でねじ伏せる。


「まあ、ガイはああだよな」

「勢いはあるけど、雑」

「実戦なら即フォローが必要だな」





「……野蛮ね」


 少し離れた位置で、その様子を見て眉をひそめたのは――イリス・アーヴェルだった。


 扇を広げて口元を覆う姿は優雅で、演習地には似つかわしくない。

 隣には、星約相手のエドガル・ルモワンが控えめに立っていた。


「支援役が追いついていないわ」


 彼女の足元には、すでに制圧を終えた三体分の痕跡。

 人工魔物はいずれも、外傷らしい外傷を残さず、内部から爆ぜるように消えていた。


「は、はい。でも、ベルクマンは前線向きですし……」

「前線向きと、扱いづらいは別」


 イリスは視線を切らずに続けた。


「エドガル、あなたも次はもう少し出力を落としさい。美しくないわ」

「え?あ、はい!」


エドガルは慌てて返事をした。

 正直なところ、自分では何が起こったかわかっていない。

 彼は指示通り、増幅の恩寵を使っただけで、主導権は最初から最後までイリスにあった。


「回復は“治す”ためのもの、って思われがちだけど」


 淡々と続く声。


「量と流れを誤れば、組織は耐えきれない」

「……それって」

「薬は毒になる、という話よ」


イリスの超然とした微笑みに、エドガルは陶酔するように見惚れた。





 その後も演習続き、最後の班の演習が終わると、魔術盤はゆっくりと暗転した。


 演習地では教官が短く講評を述べ、生徒たちは各々の反省点を小声で確認し合っている。初演習の緊張が少し緩んだあと、生徒たちはそれぞれ武器を下ろし、散っていく。


「……どうだった?」


 並んで歩きながら、レオニスが何気なく聞いた。


「お前のところ」


 クロウは少し考え、それから答えた。


「問題ない」

「短いな」

「初回としては十分だ」


 レオニスは軽く笑った。


「減点なし。初回から恩寵温存は珍しい」

「回復を必要とする場面がなかった」


「まあ、使わずに回るなら、それが一番いい」

「同感だ」


 しばらく、足音だけが続く。


「……リネア・フォレストは?」


 今度は、レオニスが言葉を選ぶように声を落とした。


「どういう意味だ」

「印象。星約相手として」


 クロウは、すぐには答えなかった。


 演習地の端。

 次の準備をする生徒たちの向こうに、彼女の姿が見える。


「……変だな」

「ほう」

「距離を計っている」

「警戒されてるのか?」

「違う」


 首を振る。


「踏み込まない。だが、離れもしない」

「そうか」


 レオニスは、少し意外そうに眉を上げた。


「やりにくくはない」

「“悪くない”か」

「……そうなる」

「それは珍しい」


 クロウは肩をすくめる。


「少なくとも、他派の差し金で来た“駒”ってわけじゃそうだな」

「ああ。今のところは」


 レオニスは、ふっと息を吐いた。


「なら、安泰だな」

「半年だ」

「まずは見直しまで様子見、か」


 クロウは答えず、前を向いた。


 評価がどう転ぶか。

 この組み合わせが、何を意味するのか。


 それを考えるのは、まだ早い。

 少なくとも今日の演習では、崩れる要素はなかった。


「お前の“悪くない”は、久しぶりだな?」

「そうか?」

「そうだよ」


 からかうような声に、クロウは答えなかった。


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