09 初演習 後編
リネアたちの初演習は進んでいく。
次々と魔術盤に映し出される他の組の様子に、生徒たちは食い入るように視線を向ける。
特に前線配置の者たちは、恩寵の使い方や戦い方にも色濃く個性が出ていた。
「ガイ、前出すぎだって!」
「行ける行ける!」
エマ・ハルトヴィックの静止を振り切って、ガイ・ベルクマンの恩寵が発動した剛腕が、人工魔物を正面から殴り飛ばした。
衝撃で地面が揺れ、観覧していた生徒たちから小さなどよめきが上がる。
「うわ、力任せだな」
「ゴリラかよ!でも、あれは止められないだろ」
ガイは止まらない。
二体目にも距離を詰め、今度は蹴りで叩き伏せる。
――強い。
だが、動きは一直線だった。
「ガイ、右!」
後方からエマの声が飛ぶ。
彼女は魔術感知で、魔物の位置と動きを即座に伝えている。
「……遅い!」
ガイが振り向いた瞬間、三体目が死角から跳んだ。
後衛の支援が一拍遅れ、結界が弾く。
教官が小さく笛を鳴らした。
「減点一。連携不足だ」
ため息と、苦笑が混じる。
教官の低い声が響いた。
「前衛、突っ込みすぎだ。支援が追いついていない」
ガイはちえっと舌打ちしつつも、最後の一体を力でねじ伏せる。
「まあ、ガイはああだよな」
「勢いはあるけど、雑」
「実戦なら即フォローが必要だな」
◇
「……野蛮ね」
少し離れた位置で、その様子を見て眉をひそめたのは――イリス・アーヴェルだった。
扇を広げて口元を覆う姿は優雅で、演習地には似つかわしくない。
隣には、星約相手のエドガル・ルモワンが控えめに立っていた。
「支援役が追いついていないわ」
彼女の足元には、すでに制圧を終えた三体分の痕跡。
人工魔物はいずれも、外傷らしい外傷を残さず、内部から爆ぜるように消えていた。
「は、はい。でも、ベルクマンは前線向きですし……」
「前線向きと、扱いづらいは別」
イリスは視線を切らずに続けた。
「エドガル、あなたも次はもう少し出力を落としさい。美しくないわ」
「え?あ、はい!」
エドガルは慌てて返事をした。
正直なところ、自分では何が起こったかわかっていない。
彼は指示通り、増幅の恩寵を使っただけで、主導権は最初から最後までイリスにあった。
「回復は“治す”ためのもの、って思われがちだけど」
淡々と続く声。
「量と流れを誤れば、組織は耐えきれない」
「……それって」
「薬は毒になる、という話よ」
イリスの超然とした微笑みに、エドガルは陶酔するように見惚れた。
◇
その後も演習続き、最後の班の演習が終わると、魔術盤はゆっくりと暗転した。
演習地では教官が短く講評を述べ、生徒たちは各々の反省点を小声で確認し合っている。初演習の緊張が少し緩んだあと、生徒たちはそれぞれ武器を下ろし、散っていく。
「……どうだった?」
並んで歩きながら、レオニスが何気なく聞いた。
「お前のところ」
クロウは少し考え、それから答えた。
「問題ない」
「短いな」
「初回としては十分だ」
レオニスは軽く笑った。
「減点なし。初回から恩寵温存は珍しい」
「回復を必要とする場面がなかった」
「まあ、使わずに回るなら、それが一番いい」
「同感だ」
しばらく、足音だけが続く。
「……リネア・フォレストは?」
今度は、レオニスが言葉を選ぶように声を落とした。
「どういう意味だ」
「印象。星約相手として」
クロウは、すぐには答えなかった。
演習地の端。
次の準備をする生徒たちの向こうに、彼女の姿が見える。
「……変だな」
「ほう」
「距離を計っている」
「警戒されてるのか?」
「違う」
首を振る。
「踏み込まない。だが、離れもしない」
「そうか」
レオニスは、少し意外そうに眉を上げた。
「やりにくくはない」
「“悪くない”か」
「……そうなる」
「それは珍しい」
クロウは肩をすくめる。
「少なくとも、他派の差し金で来た“駒”ってわけじゃそうだな」
「ああ。今のところは」
レオニスは、ふっと息を吐いた。
「なら、安泰だな」
「半年だ」
「まずは見直しまで様子見、か」
クロウは答えず、前を向いた。
評価がどう転ぶか。
この組み合わせが、何を意味するのか。
それを考えるのは、まだ早い。
少なくとも今日の演習では、崩れる要素はなかった。
「お前の“悪くない”は、久しぶりだな?」
「そうか?」
「そうだよ」
からかうような声に、クロウは答えなかった。




