第4話 裁かれる前に
ギルドからの呼び出しは、唐突だった。
夕暮れが夜に沈みきる前、受付の職員が無表情で告げたのは「幹部会への出席要請」。要請という言葉とは裏腹に、拒否権はない。
レインは革袋を肩にかけ、指定された部屋へ向かった。
石造りの廊下は静まり返っている。昼間の喧騒が嘘のようだ。壁にかけられた魔灯が、一定の間隔で淡く光り、足元に長い影を落とす。
幹部会議室の扉は重かった。押し開けると、長い机と、その向こうに並ぶ数人の影が見えた。
中央に座っているのは、ドラン・エイムズ。
その左右には、数名のギルド幹部。
そして、少し離れた位置に――ガルド、リーナ、ヴォルフ。
全員が揃っている。
その事実だけで、何が始まるのかは分かった。
「入れ」
ドランの低い声が響く。
レインは一礼し、指定された位置に立った。椅子はない。立ったまま話を聞く形式だ。
「本日の訓練について、報告が上がっている」
ドランは手元の書類をめくりながら言った。
「ヴォルフ・グランツ殿が負傷寸前の事態に陥った件だ」
「模擬戦です。怪我は——」
「結果ではない」
遮るように、ドランが言う。
「問題は、起こり得た事態だ。王都直轄依頼において、同様の事が起これば、失敗は許されない」
視線が、ゆっくりとレインに向けられる。
「鑑定士レイン・アルクス。君の判断と指示について、説明してもらおう」
部屋の空気が張り詰める。
「指示は出した。前に出すぎるな、と」
「だが、結果として防げていない」
「遮られた」
「それは、君の主観だ」
淡々とした否定。ドランの口調には、最初から結論が含まれている。
「鑑定士という職は、戦場の目だ。その目が曇れば、全体が危険に晒される」
幹部の一人が頷いた。
「数値が低い以上、なおさら慎重であるべきだな」
レインは、胸の奥で何かが冷えていくのを感じた。
「数値は、鑑定能力を示していない」
静かに言う。
「俺の鑑定は、水晶に表示されないだけだ」
「表示されない能力は、証明できない」
ドランは即座に切り捨てた。
「ギルドは、証明できない力を信用しない。特に、王都が絡む依頼ではな」
ガルドが、耐えきれずに口を開いた。
「ドラン、待ってくれ。レインの鑑定は、これまで何度も——」
「実績は、数字で示されていない」
ドランはガルドを見ずに言った。
「成功は、パーティ全体の功績だ。失敗の芽があるなら、そこを正すのが組織の役割だろう?」
ヴォルフが一歩前に出た。
「私からも、意見を述べてよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「私は数値で評価されてきました。だからこそ分かる。数値は嘘をつかない」
ヴォルフはレインを見た。
「しかし、彼の鑑定は不安定だ。戦場での即応性に欠ける。王都直轄依頼に同行させるのは、リスクが高い」
その言葉に、リーナが俯いた。
ガルドの拳が、わずかに震える。
「……それで、結論は?」
レインが問うた。
ドランは書類を閉じ、ゆっくりと告げた。
「王都直轄依頼において、鑑定士レイン・アルクスは参加対象外とする」
短い宣告。
部屋の空気が、凍りついた。
「これは追放ではない」
ドランは続ける。
「一時的な配置転換だ。君は、後方支援要員として待機してもらう。戦闘・判断への関与は禁止する」
――役割の剥奪。
レインは、何も言わなかった。
「異議は?」
ドランが問う。
沈黙。
ガルドは歯を食いしばり、リーナは唇を噛む。誰も、はっきりと反対しない。
「ないようだな」
ドランは立ち上がった。
「以上だ。解散」
幹部たちが席を立つ。会議は、それで終わりだった。
部屋を出るとき、ガルドがレインの肩を掴んだ。
「……悪い」
それだけだった。
「仕方ない」
レインは静かに言った。
「決まったことだ」
リーナが何か言いかけたが、言葉にならなかった。
レインは廊下を歩き、ギルドの外へ出た。夜風が冷たい。
一時的な配置転換。
関与禁止。
参加対象外。
それは追放ではない。
だが、追放に至るための準備だった。
レインは夜空を見上げる。
星は、何も語らない。
――裁きは、もう始まっている。




