表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された【鑑定士】、王国最強の軍師になる 〜見えない才能を切り捨てた者たちの末路〜  作者: 水無月レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/18

第3話 責任の押し付け方

 王都直轄依頼の準備は、想像以上に慌ただしく進んだ。


 ギルドの訓練場では、連日、模擬戦と装備点検が行われている。普段なら見慣れた光景だが、今回は空気が違った。視線の端々に、計算と選別の色が混じっている。


 レインは壁際に立ち、黙ってそれを見ていた。


 ヴォルフ・グランツは、やはり目立っていた。剣の振りは正確で、魔力の流れも安定している。数値通りの優秀さだ。周囲の冒険者が感嘆の声を上げるのも無理はない。


「さすがSランクだな」

「王都基準ってやつか」


 ガルドも、内心では安堵しているのだろう。ヴォルフの剣筋を見ながら、満足そうに腕を組んでいる。パーティの“格”が上がる。それ自体は、間違いではない。


 ただし――。


「ガルド、三歩前に出るな」


 レインは、低い声で言った。


「今の動きだと、前衛の間隔が開きすぎる。突進型が来たら——」


「わかってる!」


 ガルドは苛立たしげに叫び、剣を振り下ろした。


「訓練だぞ、これは。本番じゃねえ」


「訓練だから言っている」


「もういい。今日はヴォルフが前に出る。お前は下がってろ」


 その言葉で、周囲の視線が一斉にレインに集まった。気まずさ。あるいは、納得。どちらにしても、彼の存在は“調整対象”になりつつある。


 レインは何も言わず、一歩下がった。


 模擬戦が再開される。ヴォルフが前に出て、豪快に斬り込む。数値通りの火力。だが、連携は荒い。盾役との呼吸が合わず、隙が生まれる。


 レインはその隙を見逃さなかった。


「右後方、死角——」


 言い終える前に、模擬用の魔法弾が飛んだ。盾役の肩をかすめ、鎧に焦げ跡を残す。


「チッ……!」


 盾役が舌打ちする。


「今のは俺のミスだ」


 ヴォルフが即座に言った。潔い。しかし、その次の言葉が、場の空気を変えた。


「だが、支援の指示が遅かった。鑑定士が状況を見ていれば、防げたはずだ」


 一瞬、訓練場が静まった。


 視線が、再びレインに集まる。


「……今、指示を出そうとした」


 レインは事実を述べた。


「だが、遮られた」


「言い訳に聞こえるな」


 ヴォルフは肩をすくめた。


「戦場では、一瞬の遅れが命取りだ。数値が低いなら、なおさら慎重であるべきじゃないか?」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 ガルドが口を開く。


「……次、気をつけろ」


 それだけだった。レインに向けられた言葉。だが、そこに“フォロー”はない。


 訓練は続いた。小さなミス。連携のズレ。疲労。そうしたものが積み重なるたび、視線は自然とレインに向けられる。


 ――鑑定が遅い。

 ――指示が足りない。

 ――判断が曖昧だ。


 誰も明確に責めてはいない。だが、空気がそう語っていた。


 昼休憩の時間、レインは一人で水を飲んでいた。石の縁に腰掛け、喉を潤す。耳元で、ひそひそと声が交わされるのが聞こえた。


「王都の依頼、失敗できねえしな」

「支援が不安定なのは……」

「数値ゼロってのが、やっぱり……」


 レインは聞こえないふりをした。慣れている。だが、慣れは痛みを消してはくれない。


 午後の訓練で、決定的な出来事が起きた。


 複数体を想定した模擬戦。ヴォルフが前に出て、魔物役の人形を一体、二体と倒す。だが、三体目で踏み込みすぎた。


「戻れ!」


 レインの声が飛ぶ。


 しかし、ヴォルフは止まらなかった。次の瞬間、死角からの打撃が入る。人形とはいえ、勢いは本物だ。ヴォルフの体が大きく揺れ、地面に膝をついた。


 ざわめき。


「今のは危険だ」


 ドラン・エイムズが、いつの間にか訓練場を見下ろしていた。幹部席からの視線は冷たい。


「支援体制に問題があるのではないか?」


「……鑑定士の指示が遅れました」


 ヴォルフが、はっきりと言った。


 その瞬間、空気が固まった。


 ガルドが口を開こうとしたが、ドランはそれを制する。


「事実か?」


 全員の視線が、レインに向いた。


「指示は出した」


「だが、結果はこれだ」


 ドランは淡々と告げる。


「王都直轄依頼において、支援の不備は致命的だ。特に、能力証明が不十分な者については——」


 言葉の先は、言わずとも分かった。


 レインは、ゆっくりと息を吐いた。


 責任は、流れ始めている。

 自分の足元に。


「……今日は、ここまでだ」


 ドランの一言で、訓練は打ち切られた。


 人々が散っていく中、レインはその場に残った。誰も声をかけない。ガルドでさえ、目を合わせなかった。


 夕方、ギルドの廊下を歩く。石壁に反響する足音が、やけに大きく聞こえる。


 背後から、リーナが追いついてきた。


「レイン……あの、今日のこと」


「気にするな」


 レインは立ち止まらずに言った。


「よくあることだ」


「でも……」


 リーナは言葉を探し、結局、何も言えなかった。


 レインはギルドの外へ出た。空は赤く染まり、風が冷たい。


 失敗はしていない。

 判断も間違っていない。

 それでも、責任は集まる。


 ――そういう役割に、なりつつある。


 レインは空を見上げ、目を細めた。


 これはまだ、始まりに過ぎない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ