第17話 引き受ける覚悟
夜の野営地は、静まり返っていた。
焚き火は最小限に抑えられ、周囲には警戒の気配だけが漂っている。昼間の緊張が抜けた分、空気は重く、言葉少なだった。
レインは一人、少し離れた岩に腰を下ろしていた。
剣も、地図も、帳面も広げていない。
ただ、考えていた。
――自分は、何を間違えたのか。
判断の内容ではない。
作戦自体は成功した。被害も最小限だ。
間違えたのは、**判断の置きどころ**だ。
「……眠らないのか」
声をかけてきたのは、セレスだった。
夜目用の魔導具を外し、隣に立つ。
「眠る気になれない」
「それでいい」
セレスは、あっさりと言った。
「今日の件は、寝て忘れていい類のものじゃない」
レインは、わずかに眉をひそめる。
「慰めじゃないのか」
「逆だ」
セレスは、岩にもたれて腕を組んだ。
「私は、あなたを評価している。だから言う」
しばらく沈黙が落ちる。
風が焚き火の火の粉を揺らした。
「あなたは、判断を“当てよう”とした」
セレスの声は、低く、しかしはっきりしていた。
「最善を引きたい。全員を救いたい。正解を引き当てたい。――それは、理解できる」
レインは、否定しなかった。
「だが、判断者に必要なのは、それじゃない」
セレスは視線を遠くへ向ける。
「**引き当てることじゃない。引き受けることだ**」
その言葉が、静かに胸に落ちる。
「軍で、多くの参謀を見てきた」
セレスは続ける。
「彼らは皆、優秀だった。計算も早く、理屈も通っていた。だが――」
一度、言葉を切る。
「自分の判断で人が死ぬ瞬間に、耐えられなかった」
レインの喉が、わずかに鳴った。
「あなたは、耐えられなかったわけじゃない」
セレスは、こちらを見た。
「受け取る前に、避けようとした」
それが、遅れにつながった。
レインは、はっきりと理解した。
「……俺は」
言葉を探す。
「救えない命を、最初から計算に入れるのが、怖かった」
「当然だ」
セレスは即答した。
「それを平然とできる人間は、壊れている」
だが、と付け加える。
「それでも、判断者はやらなければならない」
静かな断定だった。
「救えない命があると分かっていて、なお選ぶ。その結果を、誰のせいにもせず、自分で背負う」
セレスの視線が、鋭くなる。
「それができないなら、判断する立場に立つべきじゃない」
重い言葉。
だが、拒否する気は起きなかった。
レインは、ゆっくりと息を吸った。
「……次は、最初に言う」
「何を?」
「この作戦では、救えない命が出る可能性がある、と」
セレスは、わずかに目を細めた。
「それで、仲間が迷ったら?」
「それでも、判断は下す」
レインは、はっきりと言った。
「迷わせた責任も、俺が引き受ける」
しばらく、セレスは黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「合格だ」
「……何のだ」
「判断者としての、最低ライン」
そう言って、踵を返した。
「明日、次の依頼が来る。今度は、今日より難しい」
「分かっている」
「逃げるか?」
レインは首を振った。
「もう、逃げない」
セレスは、満足そうに微笑んだ。
「なら、見届けよう」
焚き火の明かりが揺れる。
夜は、まだ長い。
だが、レインの中で、何かが確かに変わった。
正しい判断を探す者から、
**判断の結果を背負う者へ**。
その覚悟が、静かに、しかし確実に根を張り始めていた。
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