第12話 再現される結果
任務の内容は単純だった。
街道沿いの廃村を根城にしている小規模盗賊団の排除。被害は軽微だが、放置すれば交易路に影響が出る。傭兵団にとっては、腕慣らしにも実績作りにも丁度いい依頼だ。
――ただし。
「……妙だな」
廃村を見下ろす丘の上で、レインは小さく呟いた。
瓦礫に埋もれた家屋、崩れた柵、踏み荒らされた地面。どれもよくある光景だが、違和感がある。人の気配が、薄すぎる。
「どうした?」
カイルが隣で双眼鏡を下ろす。
「盗賊が十数人いるはずだ。だが、生活の痕跡が少ない」
「逃げたってことか?」
「半分だけな」
レインは視線を村の外れへ向けた。
「ここは仮の拠点だ。本隊は別にいる。残っているのは、見張りと囮」
セレスが、すっと一歩前に出た。
「根拠は?」
「足跡の深さ。重装の人間が長期滞在していない。食料の残骸も少ない」
セレスは頷き、魔導具に何かを書き込む。
「……合理的だ」
カイルが舌を鳴らした。
「正面から突っ込んでたら、空振りだったな」
「あるいは、別働隊に背後を突かれていた」
レインは淡々と言った。
「ここを叩くなら、夜だ。だが、全員は来ない」
「来ない?」
「三人だけ残る。役目は、時間稼ぎ」
カイルは眉をひそめた。
「三人で?」
「十分だ。地形がそうさせる」
レインは地面に簡単な図を描いた。崩れた家屋、狭い路地、死角になる瓦礫。
「ここに誘導される。正面戦闘は避けろ。遠距離で削り、逃げ道を潰す」
「殺さずに?」
「可能ならな」
カイルが少し驚いた顔をした。
「盗賊だぞ」
「情報を持っている。殺すのは、その後でもできる」
一瞬の沈黙。
だが、誰も反対しなかった。
夜。
廃村は、想像以上に静かだった。風の音すら、瓦礫に吸い込まれていく。
レインは、少し離れた高所で耳を澄ませていた。呼吸、足音、衣擦れ。予想どおり、三人分の気配がある。
「……今」
低く告げる。
弓が鳴り、短い悲鳴が一つ。
残り二人が動いたが、退路はすでに塞がれている。
混乱は短かった。
数分も経たず、盗賊は拘束された。
「終わったな」
カイルが息を吐く。
「被害ゼロ。完璧だ」
完璧。
その言葉に、レインは小さく首を振った。
「完璧じゃない」
「何だ?」
「本隊は、別の場所にいる。ここは通過点だ」
セレスが顔を上げる。
「どこだと思う?」
「南。街道を外れた渓谷」
「……理由は?」
「水の消費量が合わない。ここにいた人数と、補給の量が違う」
セレスは一瞬、言葉を失ったように見えた。
「そこまで……見ているのか」
「見ていないと、当たらない」
カイルは苦笑した。
「全部、こうやって再現できるのか?」
「条件が同じならな」
その言葉を、セレスはじっと見つめた。
――再現性。
彼女が最も気にしている点だ。
「一つ、確認したい」
セレスが言う。
「今の判断。迷いはなかったか?」
レインは、ほんの一瞬だけ、答えに詰まった。
「……なかった、と言えば嘘になる」
カイルが意外そうに見る。
「でも、結果は正しかった」
「結果が正しいことと、判断が正しいことは別だ」
セレスは静かに言った。
「今回は、あなたの経験が勝った。だが、次も同じとは限らない」
レインは否定しなかった。
「だから、使いどころを選ぶ」
同じ言葉を、再び口にする。
夜明け前、捕らえた盗賊から情報を引き出し、本隊の位置が判明した。予測どおり、南の渓谷だ。
傭兵たちの間に、ざわめきが広がる。
「……全部、当たってる」
「これ、偶然じゃねえな」
評価の声。
だが、それはまだ、熱に浮かされたものに近い。
セレスだけが、冷静だった。
「これは“成功例”だ」
彼女は、レインにだけ聞こえる声で言った。
「だが、成功は人を酔わせる。次に来るのは――失敗だ」
レインは、何も言わなかった。
ただ、渓谷の方角を見つめる。
当たった。
再現された。
評価された。
それでも胸の奥に、わずかな重さが残っている。
――次も、同じように判断できるのか。
その問いが、静かに芽生え始めていた。
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