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無能と追放された【鑑定士】、王国最強の軍師になる 〜見えない才能を切り捨てた者たちの末路〜  作者: 水無月レイ


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10/22

第10話 最初の評価

 その日の午後、街外れの空気はざらついていた。


 乾いた風が砂を巻き上げ、簡易の野営地を叩く。布張りの天幕はところどころ擦り切れ、補修の跡が目立つ。明らかに正規の冒険者パーティではない。傭兵、流れ者、訳ありの連中――そんな面子が集まっていた。


 レインは、その端に立っていた。


 「助言役」として。


 朝に声をかけてきた若い傭兵――カイルと名乗った男が、仲間たちを集めている。


「昨日の件で、こいつが言ってたことは全部当たった」


 ざわつき。


「魔力過負荷だってよ。医者に見せたら、その通りだった」


「本当に動けるようになったしな……」


 疑いと期待が混じった視線が、レインに集まる。


「……で、兄ちゃんは何者なんだ?」


 率直な問いだった。


 レインは一瞬だけ考え、答えた。


「ただの鑑定士だ」


「ただの?」


「ああ。ただし、ギルドにはいない」


 それだけで、何人かが納得した顔をした。

 ギルドにいない理由など、この手の連中には説明不要だ。


「で、頼みたいことがある」


 カイルが続ける。


「今夜、魔物の巣を潰す。正面から行けば死人が出る。……見てほしい」


 レインは、即答しなかった。

 だが、頭の中ではすでに地形と条件を組み立てている。


「場所は?」


「東の廃採掘坑だ」


 聞いた瞬間、嫌な予感が走った。


「……坑道の奥に分岐が三つあるはずだ」


「ある。なんで分かる?」


「二つは行き止まり。一つは地下水脈に繋がっている」


 カイルの目が見開かれる。


「そこに、親個体がいる」


「……」


「正面から突っ込めば、音で一斉に出てくる。逃げ場はない」


 レインは地面に棒で簡単な図を描いた。


「ここを使え。水脈側の坑道。湿っているから足音が消える。先行は一人だけ。残りは、合図があるまで動くな」


「合図?」


「魔物が、呼吸を止める瞬間がある。そのときだ」


 傭兵たちは顔を見合わせた。

 理屈は分からない。

 だが、朝の件で「当たる」ことは理解している。


「……やってみるか」


 カイルが決断した。


 夜。


 廃採掘坑の入り口は、想像以上に不気味だった。冷たい空気が流れ出し、内部は闇に沈んでいる。


 レインは坑道の外に立ち、耳を澄ませていた。

 音。

 湿度。

 空気の流れ。


「……今だ」


 小さく、しかし確信を持って告げる。


 中で動きがあった。

 剣が振るわれ、低い咆哮が響く。


 だが、混乱はない。

 悲鳴もない。


 やがて、合図の松明が揺れた。


「成功だ!」


 戻ってきたカイルの顔は、汗と興奮で輝いていた。


「一体も取り逃がさなかった。怪我人もなし!」


 その言葉に、周囲がどよめく。


 レインは、静かに息を吐いた。

 予測どおりだ。


「……すげえな」


 誰かが呟く。


「ギルドの鑑定より、よっぽど役に立つじゃねえか」


 その一言で、空気が変わった。


 評価。

 それは、数値でも水晶でもなく、結果だった。


「次も、頼めるか?」


 カイルが真っ直ぐに言う。


「報酬は多く出せねえ。でも、あんたの言葉は信じる」


 レインは、少しだけ考え、頷いた。


「ああ。条件がある」


「何だ?」


「俺の判断には、最後まで従え」


 カイルは迷わず頷いた。


「もちろんだ」


 その即答に、レインはわずかに目を細めた。


 ――ここだ。


 ここが、始まりだ。


 同じ頃。


 王都へ向かったはずのAランクパーティは、予定を大きく遅らせていた。


 補給路でのトラブル。

 連携不足。

 想定外の損耗。


 小さな歪みが、確実に積み重なっている。


 だが、まだ誰も気づいていない。


 切り捨てたものが、何だったのかを。


 夜空に、雲が流れる。


 レインは、焚き火の明かりの中で、静かに立っていた。


 ――評価される場所は、確かに存在する。


 それを、自分で選ぶだけだ。


 第1章は、ここで終わる。


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