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第一章:威力は初級、魔力量は無限。最弱設定のはずが世界から頼られています  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第四十六話:時を操りし者

修行場に満ちる空気は、いつもより静かだった。

しかし、その静寂は決して停滞のものではない。確かな前進の予兆として、周囲の魔力の粒子が張り詰めているのが感じられた。

俺が呼吸を整えて立つその対面で、ルナは淡い青光をまといながら、ついに最終段階の訓練を宣言した。

「今日の訓練は、あなたが最も避けてきた領域よ。無意識で暴走していた《デセレーション》と《アクセラレーション》――“あの時”あなたを縛っていた恐怖そのものを、意識で突破するの」

その言葉に、俺の胸がかすかに締めつけられた。

自分の意思とは無関係に仲間を巻き込み、ただの衝動で時を歪めてしまったあの瞬間。あの日植え付けられた、力の制御不能への恐怖は、長い間俺に重い影を落としていた。

だが、今は違う。

俺はもう、《予知エピタフ》を獲得し、複合未来予知までを会得した。未来の揺らぎが見え、自然の流れを感じ取る感覚がある。暴走の危険性は、もはや過去の概念でしかないと、頭では理解していた。

ルナは手のひらを広げ、そこに小さな魔力光を生んだ。淡い光球がふわりと浮かび、ゆっくりと落下を始める。

「まずは……“時が流れる速さ”を見つめなさい。《エピタフ》で掴んだ未来の触感を、そのままあなた自身の魔力に繋げるのよ」

俺は目の前の光球に集中した。

ゆっくりと落ちる軌跡。その延長線上に存在する、これからの未来の軌道。未来の像が波紋のように意識へ届き、それはまるで時間という名の川の流れを、直接触っているかのようだった。

(……わかる。この光球はこのまま落ちる。けれどもし、時間に“重ねる”ように魔力を流せば――流れそのものを押し出せる)

次の瞬間、俺の右手がわずかに震えた。

心の微光が手の甲に宿り、焦燥の感情が増幅器となって力を押し上げる。だが、呼吸は乱さない。俺の意志が、その流れを制御する。

「《アクセラレーション》!」

空気が一瞬だけ震え、光球はまるで重力の概念が書き換えられたかのように、高速で落下した。床に当たった瞬間、小さな音が澄んだ修行場に響く。

俺は自分の手を見た。熱くも痛くもない。ただ静かで、何も暴れていない。

(……本当に、できたんだ。俺の意思で――この力が、この加速が、俺のコントロール下にある!)

ルナが満足げに微笑んだ。

「いいわ、アルト。あなたの加速は、もう暴走じゃない。意識が“時間の流れ”を完全に掴めている証拠よ」

次に、ルナは床に黒い鉄球を転がした。鈍い音を立てて転がるその軌跡に、俺は意識の焦点を合わせる。

「次は《デセレーション》。時間を重くする。未来の動きを、沈ませるのよ」

鉄球が前へ進む未来が見える。その未来の速度が、ゆっくりと押し潰されていく幻影が俺に迫る。未来が重く沈む触感――まさしく《エピタフ》で掴んだ“時間の摩擦”。

俺はためらいなく詠唱した。

「《デセレーション》!」

空気が微かに沈み込み、鉄球の動きは急激に鈍り、まるで地面に吸い付くように停止した。

俺の胸に、奇妙な静けさが広がる。

(……怖くない。時間が歪むあの嫌な鼓動も、震えもない。俺の魔力は、俺の意志のままに動いている)

ルナは静かに頷いた。

「そうよ。時魔法は恐ろしいものじゃない。本来は精密で繊細で……“操る者の心”を映す力。あなたが暴走したのは、あなたが未熟だったからじゃない。ただ、使い方を知らなかっただけよ」

俺は胸の奥で、何かがすとんと落ちる音を聞いた気がした。長年の呪縛が解けた感覚だ。

しかし、訓練はまだ終わらない。

ルナが剣を引き抜き、構えた。刃が風を震わせる。

「では――実戦想定よ。私の攻撃を複合未来予知コンポジット・エピタフで読み、必要なときに必要なだけ時を操作する。逃げてもいいし、加速して攻めてもいい。あなたの判断で使い分けてみせなさい」

そしてルナが地を蹴った。白い残像を引く速度で迫る、師匠の本気の剣閃。

俺は瞬時に《エピタフ》を展開し、一瞬先の未来を視た。

(この角度、この速度……斬撃が来る位置は――ここだ! 予知の線は明確だ!)

「アクセラレーション!」

自分の時間が加速し、世界の動きがわずかに遅く見える。加速した時間の中で、ルナの刃の軌跡をすり抜け、態勢を整える。以前なら、この加速の反動で次に体勢が崩れていたはずだが、それがない。

だが、ルナの攻撃は止まらない。次の瞬間、彼女の掌から魔力衝撃が放たれた。

(この衝撃波を回避するには、加速では間に合わない。加速すれば予知した回避の未来を通り過ぎる。いや、衝撃波そのものを鈍らせれば!)

「デセレーション!」

広がる衝撃波が、途中で急激に重さを帯びる。空気の中で溜まるように速度を落とし、まるでスローモーションのように俺の目の前で力を失い、煙を残して霧散する。魔力消耗は、やはり最小限だ。

ルナが剣を収め、深い満足を込めた声で告げた。

「アルト。あなたはもう……時を恐れていない。意識で加速を操り、減速を制御し、未来を読みながら最適解を選んでいる。これなら実戦でも問題ないわ」

俺はゆっくりと拳を握った。

かつては理解不能で、自分を脅かすだけだった時魔法が――今はまるで身体の一部のように、自然に動く。

「……やっと掴んだ。俺はもう、自分の力に怯えない」

俺の胸から、長年の重しが取れたように軽くなる。

「これは暴走なんかじゃない。俺の意志で扱える“戦う力”だ」

その瞳には迷いの影は一つもなかった。

アルトは確実に、時属性の能力を完全に掌握し、“時を操る者”としての第一歩を踏み出していた。

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