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第一章:威力は初級、魔力量は無限。最弱設定のはずが世界から頼られています  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十三話 思考加速の真相と激励

戦いの終わった森は、まるで世界から音が消えたみたいに静かだった。


 焦げた匂いと湿った土の匂いが混ざり、蒸気が地表にゆらゆら漂っている。その中で、俺は膝から崩れるように座り込んだ。


 全身に疲労がまとわりついているのに、頭だけは妙に冴えている。さっき放った《蒸気の破滅アルゴナス・イグニション》の余韻がまだ抜けていない。


 ――そして、あの奇妙な感覚。


 世界の動きだけが遅くなるのに、俺の思考だけがとんでもない速度で回転していた、あの瞬間。


 まるで時間の流れが伸びたようだった。


「……アルト」


 肩に触れる手があって、顔を上げる。そこには、息を少しだけ乱したルナが立っていた。


「無事でよかった。本当に……」


 その声を聞いた瞬間、さっきまで張り詰めていた神経がふっと緩んだ。


 ルナは俺の様子を確かめるみたいにしゃがみ込み、ゆっくりと目線を合わせてくる。


「あなたがいなければ、街は確実に被害を受けていたわ。胸を張りなさい」


「そんな……俺はただ必死で……」


「必死だからこそ、結果が出たのよ」


 そう言って、ルナは微笑んだ。その柔らかな笑みだけで、胸に重く沈んでいた不安が少し溶ける。


 けれど――どうしても聞きたいことがあった。


「ルナさん……俺、戦ってる最中、変な感覚があって。世界がスローモーションみたいに見えて……」


 言葉にすると、急に現実味が増す。


 ルナの瞳がゆっくりと揺れた。


 驚きじゃない。


 迷いでもない。


 “知っている人間の目”だ。


「……気づいてしまったのね。アルト」


「気づいた、というか……勝手に、体が……」


「ええ。説明するわね」


 ルナは少しだけ息を吸い、いつもの穏やかな声で続けた。


「あなたが感じた現象は、《思考加速アクセラレーション》と呼ばれるものよ」


「アクセラ……?」


「時属性……といっても、正式な魔法じゃないわ。“時属性の適性を持つ人間だけが、ごく稀に発現させる初期現象”よ」


 初期現象。


 魔法というより、本能的な反応に近いのだろうか。


 ルナは指を立て、淡々と説明していく。


「《思考加速》は、周囲の時間を操作するわけじゃない。あなた自身の“思考速度だけ”を一時的に上昇させるものなの。だから、外から見れば何も起きていないように見える」


「でも、俺には……」


「世界がゆっくりに見えたでしょう? あなたの思考が速くなったからよ。図書館で高速でページをめくると、内容が一瞬で頭に入るでしょう? あれと同じよ」


 言われてみれば、確かにそんな感じだった。


 けれど。


「……俺、時属性なんですか?」


 尋ねた俺に、ルナははっきりと首を振った。


「今の段階では“まだ断定できない”わ」


「そうなんですか?」


「ええ。時属性は特別で、不完全な発現が多いの。今回の現象は、あなたの生命の危機と極度の集中が偶発的に引き出した“片鱗”にすぎないわ」


 つまり――


 本当の意味で時属性を扱えるのか、まだ判断できないということだ。


 ルナはそっと俺の手を取った。彼女の手は温かくて、少しだけ震えているようにも感じた。


「けれどね、アルト。あなたにはその素質がある。だからこそ……私はあなたを放っておけない」


 その言葉は、胸の奥にまっすぐ響いた。


「俺……そんな大層な人間じゃ……」


「あなたがどう思おうと、事実は変わらないわ」


 ルナは優しく微笑みながらも、どこか悲しげに目を伏せる。


「時に選ばれるということは、同時に“試される”ということでもあるの。……これは、私もよく知っていることなのだけれど」


 その一言には、言外に多くの意味が詰まっていた。


 追及しようと思ったが、やめた。


 まだ、聞いてはいけない気がしたからだ。


 森の木々の隙間から、夕陽が差し込んできた。赤い光がルナの横顔を照らし、まるで炎のように輝いている。


 不思議と心が軽い。


 あの恐ろしい魔族の影も、街を覆った恐怖も、今は少し遠く感じた。


 ルナがいるなら――きっと大丈夫だ。


「ルナさん。……ありがとう。俺、もっと強くなりたい」


「ええ。あなたならできるわ。ゆっくりでいいから、自分を信じて」


 彼女はそう言って立ち上がり、俺に手を差し伸べた。


 その手を握り返すだけで、胸の奥に小さな灯が灯るような気がした。


 俺は立ち上がり、深く息を吐いた。


 ――時が伸びるあの感覚。


 あれが何であれ、逃げずに向き合おう。


 未来を変えるために。


 そして、守るために。


 俺は、また一歩を踏み出した。

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