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第一章:威力は初級、魔力量は無限。最弱設定のはずが世界から頼られています  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十一話:少年の覚悟と相反の力

森の戦場は、もう「森」と呼んでいいのか分からないほど荒れ果てていた。焦げた匂い、泥と血の混ざった湿った土、ところどころで上がる蒸気……さっきの戦闘で援軍が加わり、魔物の群れは一時的に押し返されていたけれど、それでも安心できる状態じゃなかった。


 その一瞬の静寂は、ほんの猶予にすぎない。


 俺は膝をついて、泥だらけになった手を地面に押し当てる。肺が焼けるみたいに苦しくて、呼吸をするだけで胸が痛い。鼓動はドクンドクンと暴れ続け、耳の奥で響いている。魔力は無限にあっても、身体と頭が無限じゃないことは、もうよく知っていた。


(だけど……ここで引けるわけにはいかない)


 援軍が来てくれたとはいえ、森の奥ではまだ魔物の気配が渦巻いている。さっきまでシエラさんと二人で必死に足止めしていた群れが、もう一度押し寄せてくるのは確実だ。


 時間稼ぎだけじゃ、いつか押し潰される。


 俺はずっと「防御と妨害に徹する」って決めてた。攻撃力は初級魔法レベルだし、それ以上の威力を出すには複合魔法で属性をぶつけるしかない。でも、それは暴走の危険が大きすぎた。


 昔、一度だけ失敗して、自分の腕を火傷したことがある。あの痛みと恐怖は、いまだに忘れられない。


 でも――。


 ふらつく手を持ち上げ、震えながらも右掌に“火”を、左掌に“水”を呼び出す。


 ゴウッ……と熱が生まれ、シュル……と冷気が収束する。


 火と水。もっとも相性が悪い属性。


 触れれば打ち消し合い、制御を失えば大爆発。


 俺はこれを避けてきた。でも――今は逃げていられない。


(守るために……やるんだ)


 ゆっくり息を吐いて、極限まで集中する。魔力の流れを整え、二つの属性の境界を細かく調整する。火が暴走しないように、水が押しつぶさないように。


 掌が痺れるほどの衝撃が走る。


 身体の奥で神経が悲鳴を上げる。


 でも、もう止めなかった。


(相反する力……統合するんだ!)


 ふたつの力が、掌の中で混ざり、ねじれ、爆ぜ――そして一つの“圧力”へと姿を変えた。


 その瞬間。


 森の空気が震えた。蒸気が一気に立ち上り、熱と冷気が混ざり合って爆発的な圧力を生む。


「――《蒸気の破滅アルゴナス・イグニション》ッ!」


 轟音と共に蒸気爆発が前方へと解き放たれた。炎でも水でもない、ただの「熱と圧力の塊」。それが森を切り裂き、押し寄せていた魔物の群れをまとめて吹き飛ばす。


 魔物たちは悲鳴を上げ、圧力で転がされ、炎で焼かれ、水蒸気で視界を奪われながら、後退していった。


「……はぁ、はぁっ……!」


 俺はそのまま地面に手をつき、荒い息を吐き出した。


 だけど、胸の奥で何かが弾けたみたいに熱い。


(できた……ちゃんと制御できた……!)


 恐怖は、もう薄れていた。


 俺でも……みんなを守るための攻撃ができる。


 ふと後ろを見れば、シエラさんが目を丸くしていた。でもすぐに赤い髪を揺らして笑い、剣を構え直す。


「やるじゃないか、坊主!」


 その声に少しだけ救われたような気がした。


 ……が、安堵する暇はない。


 蒸気の中、森の奥で“黒い影”が揺れた。


 さっきまでの群れとは違う、重い……圧のある気配。


 援軍の冒険者たちも、その存在を感じたのかざわつき始める。


「……まだ来るのかよ……」


 思わず呟いた。でも、もう怯えてはいない。


 俺は再び両手に魔力を集める。


 火と水を同時に扱う怖さは……もう越えた。


 なら、次もやるだけだ。


「シエラさん、援軍のみんな! 次の波……止めます!」


 シエラさんは剣を担いで笑った。


「おう、あんたが止めてくれるなら、私が全部斬り捨ててやるよ!」


 夕闇に染まりはじめた空の下で、蒸気が薄れ、森の奥から“それ”が歩み出てくる。


 黒く巨大な影。殺気と魔力を纏った未知の魔物。


 仲間の息が止まる気配がする。


 でも――俺はもう、怖くなかった。


(来るなら来い……! 守る力は、もうここにある!)


 俺は両手を前に突き出し、次の複合魔法の構築を始める。


 蒸気が揺れ、熱が走り、水流が収束し――戦いは、さらに苛烈な局面へと突入しようとしていた。

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